それにしても、どうして僕はこんなふうに反応しているのだろう? 背徳的なことだから? こんなに冷静にフェイスを裏切って浮気をするのを考えられるなんて、誰が思っただろう? でも、僕が興奮してしまう、何か他の要因があった。マーサを利用しようとしていることか? 彼女の弱みにつけ込もうとしていることか? いや、違う。でも、それに近い何かがあった。それに近すぎて危険なほどの何かが。多分、僕は、完全には石器時代の男のような野蛮性を振り払うことができていないからだろう。
ふと、マーサが微笑んだのを思い出し、もう一度、考えてみた。ひょっとすると、彼女こそ僕を利用しようとしているのかもしれない。僕の弱みにつけ込もうとしているのかも。でも、僕はそれは構わない・・・マーサは、自尊心を持って当然だし、それに値する女性なのだから。僕自身、マーサにとって最も良いことになるのを望んでいたから。
明かりを消して、二人で彼女の寝室に入った。マーサは恥ずかしがっているようだった。二人でベッドに腰を降ろし、僕は彼女にキスをした。マーサは嬉しそうにしていた。かなり長い時間、キスを続けた。
暗闇に目が慣れてきて、マーサの顔が良く見えるようになった。
僕は、彼女のブラウスを脱がし始めた。マーサが緊張するのを感じた。だが、その後、彼女は急に自分からボタンを外し始めた。
今は上半身、ブラジャーだけになって座っている。僕は彼女の背中に手を回し、ブラのホックを外すことにした。
「準備はいい?」と訊くと、「ええ」とマーサは答えた。僕の目を見つめている。
彼女の声の調子から、大丈夫だと判断し、僕はブラのホックを外した。僕がホックを外す動きをしてる間、マーサはずっと僕の視線を追っていた。ずっと僕の目を見つめている。僕は彼女の胸に目を落とした。
「うふふ、男の子みたいでしょ!」
片腕を彼女の背中に回し、抱き寄せて、もう一方の手を彼女のお腹に当てた。ゆっくりと手を這わせて、胸へと上げていく。薄暗い明かりの中でも、彼女の裸の肌がはっきりと意識できていた。
マーサは、身動きせず、座ったままでいた。依然として、顔を上げて、僕の目を追っていた。不思議と言って良いほど落ち着いた表情をしていた。雰囲気がどんどん真剣さを増していくのを感じた。
僕の手が彼女の右の乳首にたどり着いた。愛撫を始めた。擦ったり、円を描くように撫でたり、つまんだり・・・。マーサを見ると、深く呼吸をしていて、大きく息を吸っては、吐きだしていた。
「感じる?」 そう訊いて、沈黙を破った。
「ええ!」 小さな声で、喘いでいるような息づかいも混じっていた。
僕は、乳首への愛撫をやめることなく、もう一方の乳首に素早く移った。それから、依然として、指で愛撫を続けながら、頭を下げて、唇を重ね、キスを再開した。間もなく、マーサは、キスされながらも、うめき声のような声を上げ始めた。キスを解くと、はあはあと息を荒げて呼吸している。
僕は、優しく彼女の背中を傾け、ベッドに仰向けにさせた。そして、彼女に覆いかぶさり、乳首にキスを始めた。
マーサは、僕の唇がそこに触れ、舌で弾いたり、吸ったりすると途端に喘ぎ声を漏らし始めた。マーサは興奮を高めている。それでも、僕は愛撫を続けた。・・・そして、それほど時間が経っていなかったが、マーサがいきそうになっているのが分かった。急に息づかいが速くなり、激しくなる。そして、突然、彼女は息を止め、ちょっと小さく泣くような声を上げたのだった。
僕は、それでも愛撫をやめず、マーサがまた普通の息づかいを取り戻すまで続けた。彼女が落ち着いたのを見計らって、指で優しく乳首を擦りながら、僕も彼女の横に並んで横たわった。その時になって、マーサが、さっき達した時、ジーンズの上から自分で股間に触っていたことに気がついた。僕は彼女の耳に、「きれいだよ」と囁きかけた。
言ってすぐに、間違ったことを言ってしまったかもしれないと思った。マーサは、僕が単に誘惑のために、こんなことを言ったのだと思ったんじゃないだろうか? あるいは、単に、気を使って言っただけと思ったのでは? 正直、このときの僕は、一般社会の基準で言うと女性的美しさには当てはまらない人と一緒にいるという事実を忘れてしまっていた。僕は、マーサと愛し合うという経験に、単純に反応していただけだったのである。
でも、マーサは、何も言わず、横たわっていた。普通の呼吸状態に戻ろうと休んでいる様子だった。しばらく経ち、ようやく彼女は僕の方を向いた。薄暗い中ではあったが、マーサが微笑んでいるのが見えた。
「ありがとう。たとえ、あなたにとっては、何の意味もない言葉だとしても嬉しいわ」