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報復 第9章 (3) 


「確かに、悪性のインフルエンザにかかったし、その後、ある秘書の子供からうつされた腹痛が続いたし、続く1週間は昼食も取れないハード・ワークの連続だったよ。でも、それよりも深刻な体調にはなっていないんだ・・・」

スティーブは、そこまで言って、少し考え込んだ。

「・・・しばらく食欲もなく、痩せてしまった。まるで、カカシか骸骨か、そんな感じに見えていたと思う。でも、今は大丈夫だ。今日だって夕食時はもりもり食べたし、家に帰った後も、まだお腹がすいてる状態だったんだよ」 スティーブはもう一度バーバラを抱きしめた。 「もっとも、これからはポテトチップスを食べるのはほどほどにしようとは思ってるけどね」

バーバラはすでに体の震えを止めていた。夫が語る言葉をすべて聞きとり理解したが、それでも、まだ迷いが消えない。急にベッドが揺れた。スティーブが掛け布から脚を出し、立ち上がったからだった。

「すぐに戻ってくるよ」

スティーブは足早に寝室から出て行った。バーバラはベッドに横たわったまま、彼がリビングの電気をつける音を聞いていた。パチンと何かを弾く音が2回、そして紙をめくる音・・・その後、何かをパタンと閉じる音と、電気のスイッチを切る音がした。

そのすぐ後に、スティーブは、ベッドの上、バーバラのそばに腰を降ろし、ベッドサイドの明かりをつけた。バーバラは、まぶしさに目が眩んだ。目が明るさに慣れるまで、何度かまばたきをする。目が慣れた後、うつ伏せになり、両肘をついて上半身を起こした。

「バーバラ、今夜、このことについて話しをしようと思っていたんだ・・・でも今夜は、君がリディアのところに行く日になっていたから」 そう言いながらスティーブは、何か公式文書のように見えるものを彼女に振って見せた。

「いいかい?・・・」 真面目な口調だった。「僕はHIV陽性ではないんだよ。もう3ヶ月以上経っているんだ。あの・・・ああ、何と言うか・・・その危険性に晒されてからね。ともかく、抗体変化の兆候がまったくないんだ。今日の午後、マクミラン先生から、そのお言葉を頂いたばかりなんだ」

スティーブは、バーバラが何を考えているか、ヒントを得ようと彼女の顔をまじまじと見た。

「先生は、HIVは、96か97パーセントの確率で、・・・確か、接触してから2週目から12週目の間に発症すると言っていた・・・そして、僕はもうその期間をすぎているんだよ、バーバラ。本当にまれなケースでは半年後まで発症しないこともある。それについては、僕は心配したけど、先生はまったく気にしていなかった。今の時期以降に陽性であると診断される確率は、隕石に当たる確率と同じようなものだと言うんだ。分かるかい? 僕はエイズになっていないんだよ・・・それに君も僕からエイズをうつされることもないんだよ」

バーバラは仰向けになり、枕に頭を乗せ、天井を見上げた。

「もっと早く言ってくれてもいいのに」 声には咎めるようなところがあった。

「眠っていたからね」 とスティーブは素早く言い返した。「朝まで待てないというのも知らなかったから」 なだめるような声の調子だった。彼が言う理由は、確かに明瞭で、バーバラには反論することはできなかった。

「それに、僕をペニシリンに無反応にする注射をした後、他のすべての性感染症の病原菌を退治してくれて、今はすっかりきれいな身体になっているんだ。ああ、そうだ! 郡の保健局の人たちが、キムとやった・・・いや、キムのパートナーたち全員に接触をしてくれて、その全員がHIV陰性だと分かったんだよ。全員、あの小さなサークルにいる人以外の人とセックスをしてから半年すぎていた。連中は、仲間同士で様々な性感染症をうつしあっていたんだが、幸い、エイズはその中になかったんだ」

そこまで説明した後、スティーブは、バーバラが、いま話したことを理解し吸収するのを待った。

「私たち、死なないのね?」 彼女はつぶやいた。

「すぐには」

「ああ、どうしよう・・・あなた、私のこと、とんでもない馬鹿だと思ってるに違いないわ」 バーバラは、悲嘆に満ちた声をあげ、夫に見られないようにと右腕を顔に当てて隠した。

スティーブは、はあーっと息を吐いた。バーバラの反応を待つ間、ずっと息を止めていたのだった。

「いや・・・いや、そんなふうには思ってないよ」 スティーブは明かりを消し、ベッドに潜り込んだ。「でも、話し合わなければならないことはある」 静かな口調だった。

「どんなこと?」 バーバラは夫の腕に抱かれて、心地よく感じていた。この腕をどれだけ求めていたことか。

「二人で合意したよね? 再びセックスを始めるとしたら、話し合いをして、合意したことに従うと・・・覚えている?」

「ええ・・・まあ・・・」 バーバラは気が進まない様子で返事した。「でも・・・」

「『でも』は、なしだよ」 スティーブはきっぱりと言い放った。「僕は君を懲らしめなくてはいけないと思ってる」

「何をするつもりなの?」 バーバラは心配そうに尋ねた。確かに、そういう合意はしたが、いまは、二人の関係を後退させる段階ではないはず。去年の秋から、二人の関係はずいぶん好転してきてるのだから。

「そうだなあ・・・まず手始めとして・・・君には、今夜、濡れたスポットで寝てもらうことにする」

彼の腕の中、バーバラの体の緊張がほぐれた。手をシーツにさっと滑らせ、「濡れたところなんてないみたいよ」 と甘い声で答えた。

「ああ、そうか・・・確かに、その通りだ。さっきのは、大半、僕のトランクスが吸い取ってしまったからなあ。でも、シーツに濡れたスポットを作る方法は、確実に覚えているんだ」

スティーブは優しく、そう答え、バーバラのないとガウンの裾に手をやり、その中に入れ、滑らかな太腿を撫で上げた。

バーバラは嬉しそうにくすくす笑った。

「分かったわ」 と彼女は夫に同意した。

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[2009/04/03] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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