明け方、寒々とした灰色の光の中、スティーブには、夜に妻と愛しあったことが、夜に思ったほどは、良いことだったように思われなくなっていた。確かに素晴らしいセックスだったし、前のように夜の間ずっとバーバラを抱き続けるのも良かったけれど、依然として、バーバラの不倫については、まだ彼が理解していない問題や、解決しているとは思えない問題がたくさんあった。
例えば、いまだ彼はバーバラのことを信頼していないし、今後も再び信頼できるようになるのか分からなかった。夫婦関係を裏切ったことをバーバラが悔やんでいることは受け入れたものの、それで何が変わるかというのもはっきりしていない。最も大切なこととして、スティーブは、そもそも何故バーバラが不倫をしたのか、その理由が理解できていなかった。
だが、スティーブは、そのような問題は残っているし、二人が合意した時に限りセックスをするという約束をバーバラが破ったことに、表面的には腹を立てている振りを見せはするものの、以前のように彼女の間に境界を設けたり、一緒に暮らす際の条件を立てたりすることを重要視しなくなってきていた。もっとも、依然として、家庭内別居の状態は続いているとは考えていた。
バーバラとの境界とか条件とかを考えると、いつの間にか、そのようなことは、彼にとって影が薄いことになっているように思えた。再び一緒に暮らし始めて、いつの間にか、知らず知らずの内に、和解を求めなかったり、和解が可能であるのを信じないという状態から、和解が可能かもしれないと期待する状態へと、踏切を超えてしまったようだった。スティーブは、そのことに気づき、気落ちした。再び、以前のように、自分の将来を自分でコンロトールできない感覚をもたらされた感じがしたからだ。
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「では、今夜も、『許し』について話し合うことにしましょう・・・お二人が昨夜、愛しあったということを踏まえて・・・」 ヴェルン・ヒューストン氏が話題を提案した。
スティーブは、カウンセリングが、何か別の方向へ向かってくれれば良いと期待していた。彼は、この日一日中、自分とバーバラが行ったことの影響について考えていた。そして、あのセックスと、その出来事を取り巻くあらゆることを考えれば考えるほど、自分は、バーバラの不倫とそれに対する自分の反応について理解しているという自信が薄れていくのを感じていた。
「いかがですか、奥さん?」 ヒューストン氏は促した。
バーバラは、意思を決めかねているように長い間、ヒューストン氏を見つめた。
「そうですね。それについて前に話したように・・・」バーバラはゆっくりと語り始めた。「許しとは、善良な人も何か悪いことをしてしまうことがあるということを認めることだと・・・心から悔やんでいるならとか・・・そういうことではないかと・・・」
「ええ、そうですね。その定義についてはずいぶん話し合って了解しあいました・・・そうですよね? ご主人?」
スティーブは頷いた。「ただ、僕は、誰かを許すことに関係するいくつかについて、まだ疑問を持っていることは言いましたよ」
「分かっています」ヒューストン氏は素早く答えた。「それについては、追って考えることにします。ですが、今は、一つの問題に限定して、お二人の話し合いを聞きたいと思っているのです」
スティーブは、ちょっと躊躇いを見せた後、頷いた。