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バースデイ・プレゼント 最終章 (7) 


僕は電話を置き、その後は、できるだけ普通に見えるよう振舞った。それでも、早く仕事時間が終わらないかと待ち遠しかった。仕事が終われば、再び、黒髪のミス・ビッキーに戻ることができる。

もう一度、洗面所に行き、そこの引き出しを覗きこんだ。化粧道具が完璧に揃っている。引き出しを閉じ、クローゼットに向かった。クローゼットの中、ラックには、美しい黒いドレスが吊るされていた。袖と首回りはレースの生地で、さらにドレス全体を覆うようにレース飾りがついている。裾は僕の膝上20センチくらいまでしかなかった。一体、僕に、こんなドレスを着ることができるだろうか?

ドレスを取り、自分の体の前に掲げ、鏡の方へ行った。本当に綺麗な服だ。どうしても、試しに着てみたくなってしまった。僕はドアのところに行き、そこから顔を出してみた。オフィスには、まだ誰も客はいない。

「ゲイル? もうちょっとだけ、お客さんが来ても、待たせておいてくれないか?」

「分かったわ、ミス・ビッキー! さあ、試着してみると良いわよ」

またも、ゲイルがウェブ・カムで僕のことを見ていたのに気づいた。

僕は、完全に化粧をしてから、ドレスを着たいと思っていた。まず、洗面所に行き、化粧セットを取り出し、自分のデスクへ戻った。椅子に座って、セットのふたを開ける。鏡の位置を整え、目の回りから化粧を始めた。

濃い目のアイ・ラインやアイ・シャドウを使って、ページ・ボーイスタイルのかつらと黒ドレスにマッチさせるようにした。目を整えた後、顔にとても軽めのパウダーを当て、頬骨には明るい赤の色をつけて肌の色を強調させた。何となく、これで、黒皮の首輪と乗馬ムチがあったら、ぴったりになるのではないかと感じた。

鏡の中の自分に、艶かしい顔を見せ、それから、ゲイルが見ているのを知りつつ、わざとウェブ・カムの前に立ち、シャツとスラックスを脱いで、脇に置いた。ハイヒールと女性用の下着だけを着けた格好で立ちながら、繊細な生地の黒ドレスを手にし、背中のジッパーを降ろし、足を踏み入れる。ドレスを手繰り上げ、腰を包み、両腕を優美な袖に通し、身体全体にフィットさせた。

しかし、背中に手を回したが、ジッパーに手が届かないことに気が着いた。

すると即座にゲイルがドアから入ってきて、僕に歩み寄った。

「お手伝いが必要のようね?」

僕はゲイルに背中を向け、ジッパーをあげてもらった。その後、彼女は僕を前向きにさせ、上から下へと全身に視線を走らせた。

「すごく綺麗よ、ミス・ビッキー!! さあ、見てみて!」

僕は鏡の前に戻った。無意識的に溜息をついていた。ひとりでに僕の両手は、身体全体を撫で始め、セクシーなドレスの、滑らかであると同時にしなやかな生地を撫でまわっていた。

僕の脚は、脚フェチの男が見たら喜ぶような形をしているし、ハイヒールのおかげで、ふくらはぎとヒップは挑発的とすら言えるような姿を見せていた。

僕の後ろにいたゲイルは、背後から僕に擦り寄ってきて、両腕で僕に抱きついた。片手で僕の胸を触り、もう片手をドレスの裾から中に入れ、股間へと這わせてくる。うっとりとした顔をして、僕の首もとにうなだれかかってくる。

その時、突然、オフィスのドアの方で、ハッと息を飲む声が聞こえた。鏡の中、ゲイルの向こう側に映る人影に目をやる。そこには、僕の顧客の一人である、女性が驚いた表情で立っていた。片手で口を覆っている。

「ほんとうにごめんなさい。外のデスクに誰もいなかったものだから、ひょっとして、アルアさんがここにいると思ったの。本当に、邪魔をする気はなかったのよ」

ゲイルは、素早く、平然とした表情に戻りながら、この女性が言ったことを理解し、答えた。

「こちらこそ、申し訳ございません。誰もいないと思っていたので。アルア氏は、ちょっと席を外しているところなのです。こちらは、私のルームメイトのビクトリアです。ご用件は何でしょうか。私にできることでしたら、お教えください。それとも、特に、アルア氏にご用事がおありだったのでしょうか?」

女性は、驚いた状態から少し回復したようだった。

「いいえ、この次の時まで待つことにしますわ。それに、あんなふうに割り込んでしまって、本当にごめんなさいね。ビクトリアさん? あなた、本当に素敵な人ね。私でも、ゲイルがあなたを愛しても、ゲイルのことを咎めることはできないわ。もっとも、私には、そういうタイプの関係は信じられないのですけどね。まあ、でも、こういうことは、その人それぞれのことですものね。ゲイル? アルアさんに私が立ち寄ったことを伝えてくださいね。電話してくれると助かるわ。ビクトリアさん、あなたに会えて良かったわ。本当に素敵よ、あなた。それに、そのドレスも素敵。じゃあ、また、ゲイル」

彼女はそう言って出て行き、僕たちは外のドアが閉まる音を聞いた。僕ははあっと息を吐いた。その時になって、ずっと息を止めていたし、わずかに震えていたことに気がついた。一気に疲れて、デスクに座り込んだ。あの女性が僕のことに気がつかなかったことが信じられなかった。

ほっとする間もなく、デスクの電話が鳴った。取ると、相手はドナだった。


[2009/05/12] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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