翌日、マーサは、真っ先に僕のオフィスに入ってきて、ドアを閉めた。
「いい人が見つかったわ」
僕は、マーサが何を言ってるのか分からず、何秒か、座ったまま無反応でいた。マーサはせっかちそうに付け加えた。「私たちの3Pのための相手よ」
「仕事が速いなあ。それで、その女性に会ったことがあるのかい?」
「ええ。それに、あなたも会ったことがあるわよ」
これは興味をそそられる。 「誰なんだ?」
「ジョイスよ!」 マーサはにやりと笑った。
僕はマーサを見つめるだけだった。僕が知る限り、ジョイスは誰か女の人と暮らしていたはずだ。
「ジョイス自身が、してみたいと言ったのか?」
「そう!」
「じゃあ、彼女、男にも興味があるんだ!」
「それはないと思うわ」
僕は唖然としてマーサを見た。ということは、マーサは、ジョイスがマーサ自身に興味があると察知したというわけか。
「僕が思うに、あの手の女たちは、他の女に手を出せるチャンスがあったらいつでも飛びつくんじゃないかな」
マーサはショックを受けたような顔をしていた。その顔がみるみる怒りの表情に変わっていった。
「本気で言ってるの?」 わざと可愛らしい声で皮肉っぽく言う。
「でも・・・」 僕は言葉を捜した。マーサは、フェイスに浮気をしている僕自身が、まさに同じことをしているのじゃないかと言おうとしていたに違いない。
「・・・何と言うか、多分、レスビアンの人たちも、僕たちのようなストレートな人間同様、時々、自分から進んでややこしい人間関係に関わってしまうこともあるんじゃないかと・・・」
「いいこと? 私、そんなこと言っていないからね!」 マーサは、そう言って出て行った。まだ、怒ったままだった。
昼休みになり、マーサは戻ってきたが、僕と一緒に歩きながらも、不機嫌なままだった(実際、その日は、二人でランチを食べに一緒に外に出たのである)。それでも、ランチを食べながらお喋りしているうちに、彼女の態度は軟化し始めた。
彼女は、もう、さっきのような言葉は二度と僕から聞きたくないとはっきり断った後、嬉しそうに、例の3Pをいつ行うかという話題に移った。僕は、フェイスに残業ができたと言うか、あるいは、フェイスがこの次に妹と何か用事ができる時まで待つかの二つの選択肢を考えた。話し合った後、僕たちは多分、前者の選択肢の方が良いだろうと決めた。ジョイスも交えるわけだから、彼女にとって都合の良い夜を選ばなければならないかもしれないからだ。オフィスに戻った後、マーサは早速ジョイスに電話を入れ、暫定的な日時を設定した。
実際、僕は、フェイスに、そのデートの前の晩に、仕事で遅くなるので、夕食は外で食べることになりそうだと言うつもりでいた。その3Pデートは、マーサのアパートでの、割と早い時間からのデートになる予定だったから、8時半か9時には家に帰れるはずだった。
そのデートのことを考えながら、僕は一日中、仕事に集中できなかった。ジョイスは、上品な美貌の女性だ。それにマーサよりも魅力のある体つきをしている。まあ、確かに、髪の毛はかなりショートにしているのは事実だが。
そもそも、ジョイスは僕の方にはいくらかでも興味があるのだろうか? 多少なりとも、男に興味がある女性との方が、ずっと楽しいだろうというのは確かだ。それに、もし、マーサが正直なところ女性にまったく興味がないとしたら、いったい、どういう風に進むことなるのだろう? だが、そういう懸念があったものの、僕はこのデートにかなり期待していたのも事実だった。
デートの前夜、僕はフェイスに、翌日の夜は残業で遅くなると伝えた。普段よりもかなりナーバスになっていたと思う。多分、家に帰らないために嘘をついたのは、この時が初めてだったからだと思う。普段は、マーサと僕は、フェイスが夜に出かけるチャンスを待っていたから。