スティーブがカウンセラーの訊いたことについて考える間、部屋には長い沈黙が続いた。スティーブは、頭の中でヒューストン氏の言葉を反芻した。その間、彼の視線は焦点を失っていた。
ようやく、彼はためらいがちに言葉を発した。
「バーバラ、君の妹に対して持っていたイメージを台無しにしてしまって、済まなく思っている・・・そうする必要があったとは思っているんだ・・・キムは、彼女自身を破滅させることをしていると思ったし、そうなるのは時間の問題だと思ったから・・・でも、あのような方法で暴露する必要はなかったと思っている。・・・僕は、君に知って欲しかったんだよ。何か美しいものが破壊されるということがどういう感情をもたらすかを分かって欲しかったんだ・・・でも、それは意地の悪いことだったね。キンバリーがしていることをご両親に知らせるにしても、もっと良い方法を探すべきだった」
その後、スティーブは再び長い間、黙りこくった。彼の顔には、心の中の苦悩が滲み出ていた。バーバラが何か言いかけようとしたとき、彼は手を掲げて、彼女を制止した。
「それに、彼女とセックスしたことについても申し訳ないと思っているよ、バーバラ。死ぬまで済まなかったと思い続けるだろう・・・」 スティーブの声は落ち着き、静かだった。「僕が感じたのと同じ喪失感を君にも感じて欲しかったという気持ちもあったからだけど、そんなことをすべきじゃなかったと思う・・・」
スティーブはバーバラに顔を向けた。話しを始めてから、彼がバーバラを見たのは、この時が初めてだった。
「・・・僕たちが、このように互いに話し合うことになるとは、そのときは、まったく思っていなかったんだ。キンバリーとセックスすることは、ある種、僕の人生から君を最終的に追放する方法だと思ったから・・・」
「・・・それに僕自身の人生を終わらせる方法でもあったかな・・・本当に、それを行うことが僕の目的だったのか、それとも僕は単にひとつの可能性を受け入れて、その結果がどうなろうが気にしなかっただけなのか、今となっては、僕には、はっきり分からない。ともかく、ひどく落ち込んでいて、どうなってもいいと思っていたんだ・・・」
スティーブは再び深呼吸をし、息をゆっくり吐き出した。
「・・・彼女とセックスしたことは正しいことではなかったと思っているよ。たとえ、僕が僕たちの結婚生活は終わったと感じていたとしても、あのようなことを行う正当な権利はなかったし、今では、行わなければ良かったと後悔している」
スティーブは、何か他の表現の仕方がないかと言葉を捜し、苦しんだ。
「そのすべてを許すわ」 バーバラは落ち着いた声で答えた。「・・・あなたは、私の心をすでに知っていたと思っていたけど・・・あの件について私が知った後の最初のカウンセリングが始まる前に、私はあなたを許していたの。あなたは、ひどく落ち込み、その状態から抜け出る方法が分からなくなったために、キンバリーとセックスした。私は、その事実を受け入れ、あなたを許したの。実家から家に戻ったあの夜に。その後は、考えることすらしていなかったわ」
スティーブはバーバラの顔をじっと見つめた。二人は、彼とキンバリーの関係に関することを、それまで一度も話し合っていなかったのだった。
「変だと思わなかったの?」
「いや・・・まあ、少しは・・・だけど、あの件に関して君が僕を嫌悪していない様子なのはどうしてかなど、僕にはずいぶん長い間どうでもよくなっていたんだ」 スティーブは鼻を鳴らした。「・・・もっと言えば、君が僕を嫌悪してくれたら、直ちに離婚できるのに、そうならないことで、腹を立ててすらいた」
スティーブはバーバラとしっかり視線を合わせた。
「今は、そういうふうには思っていないよ。それに僕も馬鹿だった。僕は君が行ったことをそのまま繰り返していた。だが、そういう形で対等になれると思った僕が馬鹿だったよ」
「もう過ぎたことで、片付いたことなの」 バーバラはそれしか言わなかったが、少しだけ、ためらっている素振りを示した。
スティーブはバーバラを見つめたままだった。彼は、バーバラが言おうとしたことを理解した。その言葉が出てくる背後の心を理解した。そして彼は彼女から視線を外した。
「いつの日か・・・僕も同じことが言えるようになれたらと思っている」
バーバラは、うなずき、軽く笑顔を見せて、心の中の失望感を隠した。彼女も、そうなってくれたらと希望を持っていた。だが、スティーブが心地よいと感じるよりも先の段階へと急速に彼に迫ることで、ここ何日かの間に彼との関係に関して達成してきたと思っている進展を台無しにしたくないと思っていたのである。
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