「お前さんはね、たくさん学ばなければいけないことがあるんだよ。しかも、あんまり時間がないんだ。さあ、すぐに、ここにあるビデオを家に持ち帰って、じっくり見ることだね。いくらか、良いアイデアが浮かぶだろうよ・・・あんまり多くはないだろうが、ゼロと言うわけでもない。ここのビデオは全部、いろんなアングルで映してくれてるし、変な体位のも多い。これじゃあ誰も興奮しないし、気持ち良いセックスなんかできないと思うような体位も映ってる・・・でもね、これを見れば、どんな男もその気になるし、多分、お前もその気になるはずだよ。わたしに効き目があったのは確か」
「ノニー・・・」 バーバラの声は前より弱くなっていた。
彼女は、神経質に笑ってごまかすべきか、DVDやビデオカセットの表紙に描かれた卑猥なイラストを見ないように目を塞ぐべきか、迷った。バイブレーターやディルドを見て、何に用いるものかは、認識していた。望みもしないのに、自分の祖母がそれを使っている光景が、勝手に頭に浮かんでしまう。様々なことが頭の中を駆け巡った。速く自分をコントロールして落ち着かないと、顔に浮かんだ赤みが永遠に消えなくなってしまいそうだった。
心の乱れを隠そうと、バーバラは、とりあえず、奇妙な形をした青い透明プラスチック製のものを手にした。
「これは何?」
「そいつは、尻栓(
参考)だよ」 リディアは、引き出しから玩具やら道具やらを取り出す手を休めることなく答えた。
バーバラは、その、不快とは思えなそうなプラスチックの玩具を祖母のベッドにポイっと投げるようにして置いた。リディアは、そんなバーバラを哀れみを浮かべた目で見た。
「お前さん? 試してもいないのに、馬鹿にするのは良くないよ。実際、アナルセックスは、正しい行い方さえ心得れば、かなり気持ち良いことなんだ」
「ノニー・・・」 バーバラは弱々しく答えた。
リディアは引き出しを漁るのをやめ、孫娘の顔を見上げた。
「本当のことだよ、バービー。・・・実際、例のお前の妹が出ているビデオを見て分かったことを踏まえると、どうやら、時々、アナルをする楽しみを知らない女は、家の身内では、お前だけのようだね」
「まあ、なんてこと・・・!」
リディアが言った言葉の背後の意味を理解し、バーバラは小声で呟いた。
「お母さんもノニーに言ったの・・・?」
リディアはただバーバラを見つめるだけだった。
バーバラはベッドに腰を降ろした。座ったというより、膝から力が抜けて崩れ落ちたといった方が正しいかもしれない。ベッドがへこんだのに合わせて、透明ブルーの尻栓と、リアリスティックな形のディルドがバーバラの方に転がってきた。バーバラは、それが床に転がり落ちそうになるのを見て、反射的に手に取った。
「ほお・・・お前はそれがお好みなのかい?」 リディアは満足げに言った。
バーバラは、素早く、転がらないようなところにそれらを置いた。彼女には、それらが突然、手にするには危険なほど猥雑な物に変わったように思えたからだった。
そんなバーバラの表情を見てリディアは笑みを浮かべた。この娘は、こういう物に興味がない、清純な女でいようと努めているようだ。だけど、どうしても好奇心をそそられてしまうと・・・
突然、リディアの表情が変わった。
「なんだろうねえ・・・」 リディアは、うまい言葉が見つからず、苛立った。「・・・これじゃあ、後ろ向きにしか進まないようだねえ。後ろ向きというより、わたしのお父さんの口癖を真似れば、くそ向きにしか進まないというか・・・どうやら、直接、入手先に行くべきなようだね・・・」
そう言ってリディアは、散らかった玩具や道具を引き出しに、あわただしくしまい始めた。
「お前、車で来たんだよね? クレジットカードも持っているだろ?」 そう言いながら、立ち上がり、ドアへ歩きだした。速い動きで、もうすでに階段を降り始めている。
「ええ・・・」 バーバラはあわてて立ち上がり、祖母について寝室から出て、階段の降り口に立った。「でも、どこに行くの?」
「繁華街のはずれにあるアダルト・ブックストアさ。急ぐんだよ・・・もう日が暮れてしまう。お前が運転するんだよ」
バーバラは軽くめまいを感じたが、それでも祖母の後につづいて歩き出した。そして、すぐに、自分が祖母に追いつこうと足取り軽く階段を駆け下りているのを知って、我がことながら驚いてもいた。