ようやく僕は動いた。
マーサの後ろに這って行き、ゼリーで指に潤滑を与えた。それから、指を1本、彼女のお尻の割れ目にあてがい、ゆっくりと入れ始めた。
その間、誰も、音一つ立てなかった。
マーサはただ横になっているだけ。前に組んだ両腕に頭を乗せ、顔を横に向けている。目は閉じたままだった。
指を1本入れた後、少しだけ動かし、2本目に取り掛かった。
ジョイスは、その場に彫像のように立って見ていた。服を着て、いつでも出て行けるようになっているが、立ち去ろうとはしていなかった。
僕は2本目の指も差し込んだ。そこの入り口を広げていく。マーサが少しだけ僕の指に対して押し返す動きを示した。多分、大丈夫なのだろう。
僕は、指を抜き、彼女に覆いかぶさるような体勢になった。ペニスを握り、狙いを定める。
依然として、みんな黙ったままだった。
身体を押し付けた。できるだけ優しく入れていこうとした。身体を押し付け、奥へ奥へと進んでいく。
ちらりとジョイスの方を見た。・・・まだ服を着たまま。だが、右手を左の胸に当てて動かしていた。
僕はマーサに体重を掛けた。・・・とうとう、根元まで入った。
それからゆっくりと少しずつ動き始めた。マーサが、小さく、「ああ!」と言うのが聞こえた。だが、その一言だけで、後は、また何も言わなくなった。
僕は動き続けた。徐々にテンポを上げていく。マーサは、まったく声を上げなかった。だが、僕の動きに合わせてお尻を突き上げていたのは事実だった。
僕たちの身体の動きに合わせて、肌がぶつかり合う音が響いていた。その他には、ベッドがきしむ音しか聞こえなかった。
そして、僕は達した。マーサの中に射精し、力尽き、彼女の上に覆いかぶさった。マーサは僕の下でうつぶせになっていた。依然として、黙ったままだった。ドアが開く音が聞こえ、ジョイスが出て行ったのを知った。
僕は身体を反転させてマーサから降り、隣に仰向けになった。そして片腕を彼女に回し、引き寄せた。横寝になりマーサを後ろから抱いた。2本の重なり合ったスプーンのような形だった。
「想像してたのとは違ったんじゃない? きっとそうね」 マーサはそう言って、くすくす笑った。
「ああ、多分。・・・彼女、また一緒にする気分になると思う?」
それを聞いてマーサは笑い出した。「それを心配するのは私の仕事よ」
「もう変なことには誘わないって約束するのかな?」
マーサは、また、くすくす笑った。
その日の後、しばらくの間、僕はジョイスの姿を見なかった。だが、マーサによると、彼女はジョイスと話す機会を持ち、二人の仲は大丈夫だとのことだった。
ともかく、あの夜のアナル・セックスは、マーサと僕との間で行ったうちでも、最も興奮した行為だったのは確かだった。もっとも、マーサはまだまだ考えていることがあるらしく、僕に、もっとその手の雑誌を買ってくれと求めるのだった。
ある金曜の夜のことだった。その日もマーサのところに寄り、それから家に帰った。すると、その夜はフェイスがすでに帰っていたのである。リビングで独り座っていた。
フェイスは妹と一緒に外出していたはずで、少なくとも、もう1時間は帰ってこない予定だった。
その夜、フェイスは、僕が遅くなったことや、彼女が早く帰った理由について何もしゃべらなかった。
だが、翌朝になってフェイスは僕に訊いてきた。
「それで? 昨日の夜はどこに行っていたの?」
実に何気ない口調で訊いてきたので、僕は、フェイスが何も疑っていないと思った。
「ああ、ちょっとモールに行って、ぶらぶらしてきたんだ」
「何か買ったの?」
「いや」
フェイスは僕の方を見て、何か考えているような表情になった。
「え? 何?」
そう訊くと、フェイスはにっこり微笑んだ。
「陰で何か進行中?」
「うわっ、何だよ、その質問?」
「うふふっ。ただの冗談よ! でも、どうしてそんなに後ろめたそうな顔をするの?」
僕はちょっとフェイスの顔を見つめた。そして、適切な返事を求めて、頭の中を高速で回転させた。フェイスは僕の顔をじっと見ていた。
突然、フェイスは立ち上がった。
「嘘つき!」
そう言って、部屋から駆け出していった。
僕はフェイスを追って寝室に入った。
「フェイス! 何を考えているんだ!」
彼女はベッドにうつぶせになっていた。僕の呼びかけに、頭を上げ、振り返った。
「誰なの?」
「フェイス! どこで、そんなことを?」
「私もバカじゃないのよ。いや、バカかもしれない。相手が誰なのか言ってよ!」
彼女の顔には決意を固めたような表情が浮かんでいた。
「フェイス・・・」
僕は弱々しい声を出した。フェイスは僕を見つめたままだった。射抜くような視線を向けている。
「言って!!」
僕は深呼吸をした。「・・・マーサだよ」
彼女は暗い声で笑い出した。
「ふざけないで!」
僕はフェイスが次にどうするのだろうと思いながら、ただ彼女の顔を見つめるだけだった。フェイスはじっと僕の目を見据えていた。
「そういうこと!!」
突然、彼女は叫んだ。そして、激怒を爆発させ、僕がマーサを利用したとか、もう彼女には会うなとかとまくし立てた。そして、最後には、僕に、家から出て、二度と帰って来ないでと叫んだ。
僕は、後先も考えず、家を出た。車に乗り、マーサのところに走った。マーサは、心配そうな顔で、玄関口に立つ僕を迎えた。
「フェイスにばれてしまった」 そう言ってから中に入った。
「まあ・・・」と言って立ち尽くすマーサの前を通り過ぎてリビングに入り、カウチに座った。すぐにマーサも僕のところに追いついた。
「何てこと・・・何てことに・・・」 彼女は弱い声で繰り返すだけだった。
「追い出されたんだ」彼女を見上げながら言った。
マーサは依然として恐怖に引きつった顔をしていた。