ドニーの話
月曜日の夜、ディ・ディから電話があった。姉はクリーブランドで新しい職務についている。アクロンに本社がある何とかという企業の支社だ。
私と姉は同じ会社に勤めている。仕事の内容も同じだし、サラリーも同じ。二人で家を共有して暮らしている。姉とはこれまでずっと一緒だったし、それはこれからもずっと同じだろう。永遠に。
私たちはただの姉妹ではない。私たちは双子だ。一卵性双生児。あらゆる点で二人は同じだ。成長した後も、誰も私と姉との区別ができない。ママは、よく、私たちに同じ服を着せていた。なので誰も私たちの区別ができなかった。少し分別がつくようになってからは、姉と私は別々の服を着せてくれるよう言い張った。おかげでようやく他の人も私たちの区別ができるようになってくれた。
まあ、でも、言い換えれば、他の人が私たちを区別できるのは、服装の点でだけとも言える。私と姉はしょっちゅうお互いの服を交換して、互いに相手に成り代わった。これは、一度もバレたことがない。私たちは本当に同一だから。でも今は、他の人は服装で私たちを区別するのが普通。私はパンツとドレスの姿が普通で、ディ・ディはスカートとブラウスが普通。
ただ、一日ほど、ディ・ディが私になりたくなったり、私がディ・ディになりたくなったときは別。そういう時は、互いに服を入れ替えて、お互いの教室に行ったり、お互いのボーイフレンドとデートしたりした。誰も気づいたことがない。誰一人、一度も。
ママも私たちを区別できなかった。姉と服を交換して着ていても、一度もママに指摘されたことがなかった。ちょっとは疑っていたかもしれないけれど、口に出して言われたことはなかった。他の人は、疑いすらしなかった。パパは絶望的で、私たちのことをDと呼んでいた。「やあ、D! こっちに来てパパを抱きしめておくれ!」 パパはよくそう言っていた。パパは、どっちのDが抱きついていたのかさっぱり分からなかったと思う。
私の名前はドナ。でも家族は私をドニーと呼んでいる。うちの家系にはこの奇妙な性質が付きまとっている。遺伝じゃないかと私は思っている。遺伝子の中の何かに違いない。遺伝子のせいでないとしたら、トワイライト・ゾーンの中のなにかのせいだわ。と言うのは、うちの家系では女の子しか生まれないから。しかも、双子の女の子だけ。
ママも双子だった。ママの双子の妹は、たった5歳の時に死んでしまった。三輪車に乗っているときに車にはねられたのだ。ママは、いつも、毎日と言ってよいほど、自分には何かが欠けているような気がすると言っている。ママは、それが何か知っているはず。それはママの妹だ。
ママのママも双子だった。それに、そのママのママのママも、やっぱり双子だった。うちの家系を古くまでさかのぼるのは難しい。というのも、みんな、時々、うちの家系に何が起きたかを隠すような雰囲気になることがあるから。それに加えて、さかのぼろうにも、苗字が次々に変わるのでたどりきれないこともある。この血統は母方の血統だけど、社会は父系社会なのだ。
うちの家系の伝統として、双子の姉妹は一緒にいることになるという伝統がある。結婚した後でも一緒に暮らす。どうしても、そうなってしまう。私たちは、姉妹と一緒にいないといつも不完全な状態にいる気持ちになってしまうからだと思う。それ以外に、私には、この伝統を説明できない。
月曜日、ディ・ディは、とてもハンサムな若い男性と一緒に仕事をしていると言った。彼ほどセクシーな人は見たことがないとも言っていた。電話だけだったけれど、ディ・ディがその人にのぼせ上がっているのが分かった。
火曜日の夜の電話では、ディ・ディは、その人のことが頭から離れなくなってきていると言っていた。彼があまりにセクシーで、もう我慢ができなくなってきていると。その人は、いつも、「雄々しい反応」を見せ続けているとも言っていた。これは、私たちが高校生の頃、クラスの男子が勃起をしたときに私たちが使っていた言葉。
私も姉も、今はあまり性生活がかんばしくない。今の会社に入り、今の職務につくことを受け入れたとき、私も姉も、男女交際関係の人生は終わりに近づいたと思った。
というか、そもそも、最初から私たちの男女交際に関してのカレンダーは、予定びっしりというわけではなかった。私たちは、もう35歳で、公式的に「婚期を逃した女性」と自認してもよいと思っている。将来的な展望に関しては、私も姉も現実的だ。生物としての時計では、私たちはもうピークを過ぎていることを示している。ひょっとすると、うちの奇妙な双子の血統は、私たちで終わりを迎えることになるのかも。そうなりかかっているのは事実だった。
ディ・ディは、彼をベッドに誘ったら気にするかと訊いた。私たちは、こういう話し合いをする。セックスの相手になりそうな男性について二人で話し合うのだ。そうしなければいけないから。これまでも、すべてのものを共有してきたし、今も共有している。もし、事態がどんどん進行するとしたら、最終的には、その件についても共有しなければいけないことになるかもしれないのだ。
この年齢で、二人とも適切な夫を見つける可能性があるのでは? と思うかもしれない。でも、それはない。私たちは、もし片方が素敵な男性を見つけたら、その男性は私たち二人の面倒を見なければいけないだろうと、ほぼ心に決めていた。そんなの変だ、というか変態じみていると思われるのは知っている。でも、それは違う。変態ではないという点でだ。ディ・ディと私は互いに愛し合っている。けれども、それは、世にいるとても仲の良い姉妹の関係と同じ。現実の男性であれ、想像上の未来の花婿となる男性であれ、その人を姉と共有するといっても、男女一対一の関係に限られる。私が言っていることの意味を分かってもらえると思うけれど。
ディ・ディは、その若い男を誘惑したいと思っている。まあ、私としては、それは問題ないわ。姉の幸運にちょっとやきもちを感じたのは事実。でも、よく考えれば、姉にとっての幸運は、最終的には私自身の幸運にもつながるのだから、嫉妬をするのも理不尽だった。
水曜日の夜中、ディ・ディから電話がきた。姉は、そんな夜遅くに電話をすることは滅多にない。私も眠たくなっていた。でも、ディ・ディがきっと電話をしてくると分かっていたので、レターマンの番組(
参考)を見ながら、ずっと起きて待っていたのだった。