2ntブログ



Fashion ファッション (16:終) 

「これからどうするつもり?」 マーサは困惑しきった顔で訊いた。

僕はうなだれた。 「フェイスはすごく怒っていた。もう、彼女は僕のところに戻ってこないと思う」

マーサは返事をしなかった。僕は顔を上げて彼女を見た。

マーサの目には、何か決意したような不思議な表情が浮かんでいた。僕をじっと見つめていた。しばらくそうした後、彼女は低い声で言った。

「出て行って」

「え?」

「今すぐ、出て行って」

マーサが怒りをこみ上げてきてるのが見て取れた。僕は、事態が理解できなかった。

「出て行って! 今すぐに!」 マーサは僕に怒鳴りつけるようにして言った。

僕は立ち上がり、出て行くことにした。マーサは、ずっと僕を怒鳴り続け、僕が家を出ると、バタンと音を立ててドアを閉めた。

僕は車に戻り、運転席に座った。いったい何が起きたのか、まったく理解できなかった。いとも簡単に、そして急速に、僕の人生が崩れていくのを感じた。

しばらく呆然としていた後、車のエンジンを掛け、運転を始めた。しばらく、ただあてどなく車を走らせていた。これからどうするかを考えながら。

結局、とりあえず生きていかなければと本能が働き、モーテルにチェックインした。それから、衣類を取りに家へ車を走らせた。フェイスは家にはいなかった。僕は、衣類をかき集め、フェイスに会わずに家を出た。

スーツケース一つだけの持ち物で、月曜の朝を迎えた。職場では、一日中、マーサはほぼ完璧に僕を避け続けた。

夕方、モーテルに戻り、それから夕食のことを考えた。通りの反対側に、よく食事をするレストランのチェーン店があったので、そこに歩いて行った。

食事を終えようとした時だった。顔を上げると、僕の前に、彼女が立っていた。フェイスだった。フェイスは一言も言わず、僕の前に腰を降ろした。

「マーサと話しをしたわ」

フェイスは怒っている様子はなかったが、気持ちはよくつかめなかった。

「あなたが、あんなことをしたなんて信じられないわ」

「君を傷つけるつもりはなかったんだ」

そうは言ったものの、かえって罪悪感が増した。マーサのためにフェイスを裏切ることを始めたのは、部分的であったにせよ、僕自身だったではないか? だが、心のどこかで、僕はこんなことをしたいとは思ってなかったと感じていた。

フェイスは僕を見つめたまま、ただ座っていた。食事が終わり、支払いを済ませた。フェイスは僕についてモーテルに来た。ドアを開けると、フェイスが言った。

「マーサが言ったわ」

「何て?」

「あなたは、私に追い出された後、彼女のところに行かなかったと。ねえ、私、あなたがこんなところにいるのを見たくないわ。我慢できない。なんなら帰ってきてもいいのよ・・・」

ああ、これで問題から抜け出せる。僕はフェイスを見つめた。フェイスが、ばれてしまった日から、こんなにも早く僕を、ある程度、許す気持ちになってくれたなんて、ほとんど信じられなかった。これで、元通り、すべてが良くなるはず。

でも、僕は返事をしなかった。フェイスは困惑した顔をした。

「戻ってきて」 前より小さな声で、フェイスは繰り返した。

だが、僕はまだ返事ができなかった。

突然、フェイスの表情が変わった。いきなり僕をベッドへ引っ張った。

「私に会いたかったんじゃないの?」 

低い声で言い、ベッドに仰向けになった。そして、自分でブラウスのボタンを外し始めた。

僕は横たわるフェイスを見ていた。彼女は、本当に、僕が知っている中で一番ゴージャスな女性だ。ハワイのことを思い出した。ブラウスのボタンを全部外し終えたフェイスは、いたずらっぽく微笑んだ。

僕は部屋を出た。ドアを出て、閉めた。それから1分ほどドアの隣の壁に背を預け、寄りかかっていた。その後、考え直して、歩き始めた。ハイウェイをただ歩き続けた。1時間ほど歩いた後、モーテルに戻った。フェイスはいなくなっていた。

その夜、かなり遅くなって、ドアをノックする音で目を覚ました。強く叩く音ではなかったが、執拗にノックしていた。5回ノックして、静寂、5回ノックして、静寂と。ドアを少しだけ開けた。そこにはマーサがいた。僕はドア・チェーンを外し、マーサを中に入れた。マーサは、怖がっているような顔で僕を見た。

「さっき、フェイスから電話があったの・・・大丈夫?」

僕はマーサを見下ろした。彼女は何を考えているのだろう。そして僕は急に不安を感じた。説明できない感覚だった。

「ああ、大丈夫だ」

マーサは急に笑顔になった。両腕を広げ僕の首に抱きつき、そして唇を重ねてきた。

おわり


[2009/09/04] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する