「よろしい」 ヒューストン氏はそう言って、二人を嬉しそうに眺めた。
「さて、それでは、今夜は何について話し合いましょうかね?・・・お二人の気持ちの上で、まだ答えが出されていないと感じられる疑問は残っていませんか?」
スティーブは、居心地が悪そうな様子で口を濁した。「僕は・・・いや別に、何も・・・」
「ダメよ!」 バーバラが力を込めて言った。
「どんなことでもオープンにしましょう。全部、今ここで話して、スティーブ! 今、ボートを揺らしてしまうのはイヤだとためらったばかりに、10年後にいきなり何か問題が私たちの間に持ち上がるなんて、いやだもの」
そこまで言ってバーバラは顔の表情を和らげた。「あなたが知りたいこと、どんなことでもいいの・・・」
「ああ、分かったよ・・・」 スティーブはゆっくりと語り始めた。
「・・・たいていのことについては、僕も、もう対処できるようになっている。君が、これまでの人生で何度か情緒不安定になっていたこととか、すべて、理解しているつもりだ。それに、君の感じていた迷いなどについて僕に相談できなかったと感じていることも・・・これには未だに傷ついているし、完全には理解していないんだが・・・それでも、そのことを受け入れたと思っている。その件については、みんなの同意が得られたら、これからもっと話し合う必要があるとは思っているけどね・・・」
バーバラは頷いた。
「・・・でも、今も、一番、僕を悩ませていることと言うと・・・あの・・・僕たちが結婚した後も君があの二人の男たちと関係を持ったというショックの後でも・・・今だに一番悩みとなっていることは、君がそういうことをしても構わないと思うようになったのは、いつのことだったのかなんだよ、バーバラ。以前は完全に悪いことと分かっていたようなことが、いつの時点で、しても構わないことに変わってしまったのか? その変化が、どうして生じたのか? その点だけ、理解できないでいるんだ、バーバラ」
「サッド・ブラウンのことを忘れたの・・・結婚する前の・・・?」 とバーバラは訊いた。
この質問にスティーブは驚かされた。何かを考えているのだろう、彼は眼を泳がせた。
「あ、いや・・・忘れちゃいない・・・」 しばらく間をおいた後、ようやくスティーブは返事をした。
「・・・あれは、僕たちが結婚する前のことだった。君は言ったよね・・・何週間か前、君は、彼に別れを告げるところだったと言ったはず。君は僕とのデートの約束を破って、何をするつもりか、どこに行くつもりかについて嘘をついた。でも、その時は、僕たちはまだ誓いを交し合った間柄にはなっていなかったんだ。ともかく、あの時、僕は君を捨ててた。半年間、会わなかった。でも、それで充分だったはず。あれは終わったことになっていた。僕は、サッド・ブラウンを、ジミー・ロバーツやラファエル・ポーターとは同じグループには含めない。あの時の話し合いで、サッド・ブラウンの名前を出したのは、当時の僕の・・・僕の不満とでも君なら言うのかな?・・・その僕の不満を述べあげるために出しただけだ」
バーバラは、その通りと頷いた。「ありがとう」 そう言って、大きく息を吐き、ためらいがちにスティーブに微笑みかけた。
「私も、サッドはこの件には含まれていないはずと思っていたわ。あなたの悩みとなっているのは、ジミーとレイフということははっきり分かっている」
バーバラは、そこで、考えをまとめるために、ちょっと間を置いた。