マークは私を抱き寄せた。
「ビルもほとんど同じことを言っていたよ。君とビルの間に何が起きたかは分からない。だが、これだけは覚えておくように。つまり、男というのは、時々、言うべきだとは思っていないことを言ってしまうことがあるものなんだ。それに、自分でも怖くなってしまうようなことをしてしまい、他の人がどう思うだろうって悩んでしまうこともあるんだ。君たちの場合、事情が何であれ、君はビルにもう一度チャンスをあげるべきじゃないかと思うよ。ビルは、あの夜から、ほとんど毎日のように君に連絡を取ろうとしてきた。彼は、気にしているのは確かだよ」
マークが言っていることは正しいのは分かっていた。でも、私には、ビルに拒絶されたという感情を拭い去ることができなかった。マークは、そのまま1分ほど私を抱き続けてくれた。ありがたかった。私はマークが仕事をたくさん抱えているのを知っていたので、身体を離して、こう伝えた。
「何か私にお手伝いできることがあったら、何でも言ってください」
「演技ができるTガールがもっと欲しいのが実情なんだ。それ以外はすべて整ったんだが・・・」
マークは、再び、新企画のことを思い浮かべているのが分かった。
マークの書斎を出ながら、私は、どうしてマークは私に演技者として映画に出て欲しいと誘ってくれないのだろうと思った。自惚れかも知れないけれど、私はルックスは良いほうだと思う。それに、私はもう何回もカメラの前でセックスをしてきた。マリアばかりでなく、マークもトレーシーも、カメラの前で演じることにかけては、私は天性のものがあると言ってくれていた。
そのことを考えて没頭していたせいか、気がついたらマリアの真ん前に来て、ぶつかりそうになっていた。マリアは私の表情を見て、尋ねた。
「あらあら、どうしたの? 何かあったの? マークとの話しのことで」
「いえ、大丈夫。マークは、撮影のときにビルが一緒で私が困るかもと心配してくれただけ。マークには、ビルが礼儀正しく振舞う限り、私も礼儀正しくするつもりと答えたわ」
マリアにはそう答えたけど、まだ心の中ではさっきの問題がくすぶっていた。
マリアは優しく私を抱いて、言った。「それじゃ、どうして、そんな悩んだ顔をしているの?」
私はマリアの腰に両腕を回した。「悩んでいるというわけじゃないの。ちょっと考え事をしていて・・・ちょっと訊いてもいい?」
「もちろん、訊きたいこと、何でも訊いていいのよ。答えられるかどうかは別だけど」
マリアはそう言って私から離れて、キッチンテーブルの椅子に腰を降ろした。
私もマリアの隣に腰掛けた。
「ポルノ映画に出るって、どんな感じなのかしら?」
「ポルノ女優になるのがどういう感じかということよね? ・・・まあ、実際のところ、他の人とそんなに違うってわけではないわ。仕事に行って、演技をして、そして帰ってくる。これについては、あなたもすべて知ってるはずよ。本当に訊きたいことは?」
話し出す前に、顔が火照ってくるのを感じた。
「街で、顔がばれたりすることがあった? それに、カメラの前でセックスするのは、カメラがないところでするのと同じ感じなのかしら?」
「顔バレについては、記憶にあるのは2回だけだったかな。でも、回数が少ないのは、私が出ているような映画を見る男たちは、たいてい、そんな映画を見ることを隠そうとするのが普通だからというのが大きな理由ね。トレーシーとマークの場合は、もっと頻繁に顔バレしてるわ。セックスの件については、カメラの前の方はあんまり満足できないわね。気持ちよくなるためじゃなくって、映画を撮るためにしてることというのを忘れてはいけないの。確かに、相手の人が一緒に楽しい人で、気持ちよくなるときもあるわよ。でも、大半は、ただの仕事。・・・でも、どうしてそういうこと訊くの? マークに、ただのエキストラじゃなくって、演技者として映画に出てくれって誘われた?」
「いいえ。マークは誘ってくれなかったわ」
私が気落ちしているのが声に出ていたと思う。マリアはそれに気がついたようだった。