Usenetからウェブへの移行
では、セックス小説の投稿にいったい何が起きたのだろうか? その流れは枯れ果ててしまったのだろうか? そうではない。alt.sex階層の参加者が減ったことは、書き手たちがUsenetを捨ててウェブに乗り換えたことを示している。
第一に、過去10年にインターネットに接続するようになった人々の多くは、ウェブ・ブラウザでしか活動せず、Usenetのことを知らないことがあげられる。第二に、インターネット接続プロバイダは提供するUsenetグループを取捨選択できるため、多くのプロバイダが、例えば、性的な話題が中心のニューズグループへの接続を拒否してしまったことも指摘できる。最大手のプロバイダであるAOLは2004年にUsenetへの接続を一切停止することに決定してしまった。確かに、現在は、Usenetは、グーグル・グループなどのサービスを利用して、閲読も投稿もウェブを経由してアクセスするとこができる。だが、ニューズグループが、ウェブを基盤とした掲示板、インスタント・メッセージ、Eメールを基盤とした議論グループ、ブログなどからの厳しい挑戦に直面していることは事実である。
セックス小説についての最大のウェブ基盤のサイトは、
ASSTRであると言える。1997年に立ち上げられたこのサイトは、安定して成長を続け、現在は、作家たちの作品アーカイブ用のサイト、他のニューズグループのアーカイブ・サイト、いくつかのウェブ上の作品サイトの本拠地となっており、同時に、他のアーカイブ・サイトのミラーサイトにもなっている。ASSTRは合衆国から免税処置を受けた組織であり、広告は一切受け付けず、完全に寄付金によって賄われている。alt.sex.stories.moderatedはアーカイブに53,000作品の投稿数を持っているが、ASSTRには、その検索エンジンを使うと、現在363、000以上の作品が登録されていることが分かる。
ああ、確かに、この数値は、作品をすべて唯一的にカウントして得られた数値ではない。複数のサイトから再投稿された作品や、非常に長い小説の各章を分けてカウントした場合や、作家自身によって再投稿されたり修正された作品も含んでいるからだ。大半の小説サイトは非営利的であり、著作権は著者個人が管理している状態なので、個々の作品が複数のサイトに投稿されたり蓄えられたりすることも考えられる。ともあれ、ASSTRのアーカイブに登録される作品数は、発足当初は一日平均30作であり、最近は60作から200作となっている。
ASSTRは、さらに、作家たちが自由に作品を保管する場所も提供している。彼らは、ASSTR内のFTPサイトや個人のウェブ・ページに自分の作品を保管できるようになっている。ASSTRは、作家部門に「1000人以上」の作家を擁していると述べているが、その数は非常に古いものになっているようだ。FTPサイトで作家のフォルダを数えてみると、2,100以上もの作家名が並んでいるのが分かる。
次に大きなセックス小説のウェブサイトであり、特定のニューズグループと結びつきがないもので言ったら、恐らく最大と思われるサイトは、
Literoticaであろう。ここは75,000作以上の作品を有していると述べているが、この数も古いものとなっているようだ。Literoticaは、ASSTRと異なり、受け付ける作品に制限を掛けており、(恐らくカナダの法律の理由からか)18歳以下の人物とのセックスを描いた小説や獣姦小説を拒否している。ではあるが、それでも毎週、おおよそ500作、年間25,000作は投稿がある。Literoticaは明示的に国際志向となっており、6ヶ国語で作品を読めるようになっている。
ウェブにおける小説サイトの成長を示す3つ目の例は、
StoriesOnLineである。このサイトは1999年中ごろに立ち上がった。2000年から2007年にかけて、投稿数は年間542から3,200へと増えた。この数は、alt.sex.stories.moderatedへの投稿数を遥かに凌駕する。2007年末までで、そのアーカイブには19,000以上の作品がある。この数値は、投稿数よりも遥かに少ない。StoriesOnLineでは複数章を別投稿とはカウントせず、単一作として数えているからである。
これらに加えて、他に、定期購読者を募る有料のネット雑誌(E-zine)も増えている。これらネット雑誌は、セックス小説により専心する作家たちを求めて競い合っており、読みやすいフォーマットやイラストを加えて作品を提供している。ただし、これらネット雑誌に出される作品は、フリーの小説サイトに比べて小数である。ネット雑誌には、一定期間、作品掲載の権利を独占的に保持し、その期間の後は作家が自由に他に投稿しても良いとするところが多い。