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ネットにおけるセックス小説 (9:終) 

コミュニティの重視

小説の投稿者たちは、匿名性の確保の他に、様々な形のコミュニティを形成することで、非難されがちな自分たちの行いを擁護している。個人的な知り合いの集まりとか、作家としての集まりなどの形で、書き手たちの「コミュニティ」ができ、それについてのやり取りが多くなされている。

互いに、実名や住所を教えあっている者はほとんどいないだろうし、互いの性別すら知らない場合もあるが、それでも、投稿者たちは、一緒にいて居心地の良い顔見知りになっていき、個人的な事柄を教えあうようになるものである。投稿者が、少なくともメールなどで、知り合いに匿名性の鎧を捨てて交流する場合もある。ネット上の人となりが、日常生活での人となりと非常にかけ離れたものである場合があっても、恐らく、あまり驚きはしないだろう。

セックス小説のニューズグループや、セックス小説関係のウェブサイトでの議論コーナーなどでは、誕生日、病気、結婚、離婚、あるいは死亡などがよくアナウンスされるし、軽い冗談もよく行われる。

私自身の経験では、そういう場での会話は、ほとんど例外なく、お色気話になることはない。そのような場では、人々は、アメリカに住むセックス小説の作家は政府による閉鎖を心配する必要があるかどうかとか、レスビアンの経験がある女性が多くなっていることを示す研究の持つ意味とかについて議論するのが通例だ。また、ハンドル名でコミュニケーションを行う人の場合、非常に突然に姿を消してしまうことが多いので、Xさんはどうしたのか知ってる人がいないかを尋ねる投稿がなされることも多い。このような交流は、セックスが関係ないサイトの場合の交流と、質的な違いはまったくない。時に、激しい口論で炎上してしまうところも同じである。

ただ、私たちの話し合いを特徴付けるテーマがあるとすれば、それは、物語を書くという点に焦点を当てていることと言える。ここでは、人々は、好きな作家や小説のリストを見せ合うことが多い。セックス小説も「一般の」小説も含めてのリストである。

また、最近、投稿された小説についてのレビューも行われる。最も有名なレビューアーはCelesteで、1995年から2000年にかけて、何千もの作品を批評し、評価を与えた。だが、彼女は、2000年に、作家があまりに批判に敏感すぎで、険悪であると不満を述べた後、姿を消してしまった。

また、様々なテーマで小説のお祭りも開かれる。alt.sex.stories.dには、非公式的ながら、「名誉の殿堂 (Hall of Fame)」という有名作家を称えるサイトがある。物を書くことの本質に関する議論もあれば、作家のコミュニティとして真剣に考慮されることに伴う約束事についての議論もある。

それに賞も設定されている。alt.sex.stories.dには、月間、および年間の優秀賞が設けられている(現在はStoriesOnLineに移行している)。これには様々な部門に分かれて、賞が設定されており、月間の方はSilver Clitorides、年間の方はGolden Clitorides(ここ、またはここ)という名前がつけられている。

また、alt.sex.stories.dには、The Fish Tankと呼ばれている組織化されたフォーラムもあり、そこでは小説のレビューを行ったり、さらに洗練されたものに書き換えていく試みがなされている。そこの設立者で、運営管理者であるDesdemonaは、そのフォーラムをウェブに移行した(訳者注:そのフォーラムでのflash storiesの翻訳があります)。フランシス・フォード・コッポラが作ったZoetrope: All-Storyのような「一般」小説のレビュー・サイトをモデルに運営が行われている。レビューサイトは他にもある。

セックス小説を個人的に執筆し、投稿することには、様々な危険性が付きまとっている。ではあるが、この営みは、広範なサイバースペースで大きく花を開かせているのは事実だ。人が妄想したことを書き、投稿して人に読んでもらう。それが可能になった瞬間から、非常に多くの人々が殺到して、その営みをするようになった。この洪水のような大波は、毎年のように大きくなってきている。オンラインに投稿されるのは、なにもセックス小説ばかりではない。どのジャンルの小説もサイバースペースに現れている(もっとも、どのジャンルにも多量の粗雑作品が含まれているようだが)。

多分、こういうことに違いない。つまり、すでにもともと巨大な貯水池があったのだ。必要だったのは、そこから水を汲み出す蛇口だけだったということ。それは、一旦、流れ出したら、止めることが難しい、いや、不可能なのかもしれない。そして、私たちは、今まさに、その大波に乗っているところなのである。

おわり


[2009/11/10] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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