僕の腕にすがり付いているドニーが身体を強張らせるのを感じた。少し、僕から距離を置くようにして離れた。
「ドニー、どうしたの?」
またも、今にも目から涙を溢れさせそうにしている。
「私がディ・ディでないと分かるんだったら、どうして私を愛せるの? 私のことを知りすらしてないのに」
僕は、笑い出したくなってたまらなかった。「もう、君のことなら並外れて知っているよ!」
僕の言葉にドニーはちょっと笑いを誘われ、腕を軽く叩かれた。
「アンドリュー、真面目に言ってるのよ。ふざけないで」
「どうして君のことを愛せるのか、自分でも分からないよ。1週間前までは、誰も愛していなかった。そうしたら、ディ・ディが天使のように現れて、突然、僕は気が狂ったように恋に落ちた。僕の持っている愛情に関するすべての衝動が一気にフル稼働を始めたようだった。そして、今度は君が現れた。君はディ・ディではないのは知っている。でも、どうしても堪えられないんだ。僕は、君のことも、気が狂ったように愛しているんだ。いつの日か、君も僕と同じように感じられるようになってくれたらいいのに」
ドニーは僕に顔を寄せてキスをした。頭がくらくらするような、つま先がキューっと内側に曲がり込むような、心臓が止まってしまうようなキスだった。それから彼女は体を元に戻し、優しい声で言った。
「今日が、その『いつの日か』」
僕は彼女の頬にキスをして、「ありがとう」と言った。
また、あの小さな手が僕の股間を触れるのを感じた。愛しそうに握ってくる。
「ディ・ディ? 僕は、いつか、君のその癖を直してあげなければいけないね。多分、これから30年以内には、きっと」
ディ・ディは笑顔になった。
「ごめんなさい、アンドリュー。どうしても我慢できないの。あなたとドニーがとっても幸せで、心から愛し合っているように見えたので、私も仲間に入りたいと思っただけ」
僕はディ・ディに顔を寄せ、短く、愛のこもったキスをした。ディ・ディの唇は、どこをとっても、ドニーの唇と同じく柔らかで、魅力的だった。でも、やっぱり違う。どうしてか分からない。でも、違う。
少し考えた後、僕はようやく言葉を発した。
「君たち二人とも、ちょっとおしゃべりをやめて、自分のサーモンを食べたらどうかな? 僕の27ドルのラム肉が冷めかかってきているよ」
彼女たちは互いの顔を見合わせ、立ち上がり、再び席を替えた。ディ・ディが言った。
「本当のところ、私はドニーの食べたものを食べることに興味はないの。分かると思うけど」
「そう。でも、だったらどうして君たちはさっき席を交換したんだい?」 僕は、二人が反則すれすれの遊びをしたことに戸惑っていた。
ドニーが、二人を代表して答えた。
「今夜、ホテルでディ・ディがバスルームから出てきたときのことよ。ディ・ディはあなたに私たちが双子だということを一度も言っていなかった。それにも関わらず、あなたは私たちが二人いると知ってたと言ったわ。ところで、アンドリュー? 今夜のことを計画したのは私じゃないわ。でも、今夜のことであなたにありがとうと言いたいの。あれは、これまでで最高に素敵な性経験だったわ。ベッドの中のあなた、ものすごかった」
多分、僕はちょっと顔を赤くしたと思う。
「ありがとう、ドニー。僕は自分ひとりで練習を積み重ねているからね」
ドニーも、ディ・ディもけらけらと笑い出し、二人とも僕の肩を叩いた。
ドニーは話しを続けた。
「とにかく、あなたがそう言ったとき、私たち二人とも驚いたの。どうして、ああ言えたの?」
「分からない。君にキスしたとき、それから、君に・・・その・・君の中に入ったとき、ちょっと違うように感じたんだ。その時は、君たちが二人いるとは知らなかった。ディ・ディが激しく興奮していて、官能的で魅力的なもう一人の自分になっているのだろうくらいに思っていた。もう、何から何まで女そのものになっているようだった。美しい女神のようだと。僕は、これは別の仮面をかぶったディ・ディなのだろうとみなした。よく分からない。でも、君たちは違うんだ。だから、本物のディ・ディがバスルームから出てくるのを見たとき、本当に安心した。僕はどこかおかしくなってしまったのかなって思っていたから」