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寝取られの輪 1 (10) 


玄関ロビーは、暗い照明になっていたが、ろうそくが数本立てられていて、雰囲気が出されていた。ソフトな音楽が流れていて、別の部屋から人が話す声が聞こえていた。

レイチェルがリンダに話しかけた。

「リンダ? あなた、マリイが言っていたとおりの素敵な人ね。あなた、みんなに大歓迎されると思うわ。この小さなグループに新しく加わった仲間として一番歓迎されるはずよ」

ブルースはレイチェルが自分のことではなく、妻のことばかりを褒めていることに気がついた。

「・・・さあ、これが、あなたの輪のネックレスと錠のカギ」

ブルースは、リンダが鎖状のネックレスをハンドバックに入れ、カギがついたプラスチック製のブレスレットを手首に嵌めるのを見て、不快そうに目をそらした。

「そのネックレス、あなたのハンドバックの中にしまわれている時間は、そんなにないと思うわ。私の言っている意味が分かればの話しだけど・・・」

レイチェルはそう言って笑い出した。リンダも一緒になって笑い出す。ブルースはまたも目を背けた。この、自分をバカにすることにつながるようなジョークにどう反応してよいか分からなかったからだった。

「一緒に来て。バーを案内してあげる。すでにマリイはここに来ていて、あなたに会うのを楽しみにして待ってるはず」

「そう、良かった!」 リンダはそう言って、ブルースと一緒にレイチェルの後ろをついて行った。連れて行かれた場所は、暗い色のパネルで仕切られた大きな部屋だった。もっと言えば、巨大な書斎のような場所で、床から天井まで延びた本棚があり、暖炉もあった。その片隅にカウンター・バーが設置されていた。そこのバーテンダーは、40代中頃の男だった。ブルースは、その男が、リンダが渡されたのと同じネックレスをつけていることに気がついた。レイチェルは、ブルースが不思議そうな顔をしているのに気づいたらしい。

「彼も例の旦那の一人なの。だから、あのネックレスをつけているのよ。輪に送り込まれた男たちは、パーティの間、順番にバーテンの役をしたり、他の雑用をすることになっているの」

「なるほど」 とブルースは答えた。

バーテンダーの前には、20代と思われる黒人男が立っていた。彼は魅力的な30代のブロンド女と一緒だった。

「奥様、シャンパンでございます」 とバーテンは、フルートグラスに注いだシャンパンを差し出した。「そして、殿方にはこちらのスコッチを」

ブルースはバーテンが異様なほど丁寧な物腰であることに注意を引かれた。

ブルースとリンダは、白ワインを注文した。見事な手さばきでワインが注がれていく。

「奥様、どうぞ」 とバーテンはリンダの前のナプキンにグラスを置いた。

「で、これは仲間にどうぞ」

仲間って?? とブルースは思った。どういうことだ?

「実に腰の低い男ですね」と、書斎兼バーの部屋の出口に向かいながらブルースはレイチェルに言った。

「もちろん。私たちが薦めている、こういう集まりをするときに守るべきマナーとか礼儀作法の一つね。夫たちは黒人の来客を「様」をつけて呼ぶのが普通だし、女性はすべて「奥様」とか「ご婦人」と呼ぶ。特にバーでお酒を出すときには、そういうしきたりなの・・・さっき、シャンパンを注いでもらった女性にバーテンが何と言ったか見てたでしょ?」

「ええ・・・でも、あの女性は?」 

「あのバーテンの奥さん」

「冗談でしょう!」 ブルースは驚きを隠せなかった。

「いいえ。いたって本気。彼女は私たちのスペシャルゲストの一人なの。黒人のお客様の気持ちになって考えてみることね。自分が連れてる女性とバーテンがため口をきいていたら、どう思う? そんなのダメに決まってるでしょう? そういうわけで、夫婦であっても、それなりの敬意を払った応対が求められているわけ。分かる?」

「あら、それっていいわね!」 リンダが口を挟んだ。

「じゃあ・・・」と言いながら、レイチェルはリンダの腕をつかんで、ドア先へと進んだ。「・・・ここが、あなたが来るべき場所よ」



[2009/12/26] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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