「だからこそ、私たち、こんなことをしたのよ」 とディ・ディが答えた。「だからこそ、同じ服装になったり、同じ料理を注文したの。まあ、私たち二人ともサーモンが好きなのは事実だから、いずれにしても同じものを注文しただろうとは思うけど。でも、あなたが私にラム肉を食べてみないかって差し出したとき、私の名前を呼んだでしょ? そのとき、私もドニーも、二人とも本当にびっくりしたの。ショックだったわ。・・・」
「・・・ドニーと二人でトイレに入って、そのことについて話し合ったわ。それから、戻ってきて、お互いに席を入れ替わった。アンドリュー? あなたをテストしてたのよ。あなたはそのテストに合格しないだろうと思っていた。これまで、誰もこのテストを通った人がいなかったもの。それでも、ちょっと、期待していたところはあったわ・・・」
まさに僕の理論の出番だった。
「それこそ、まさに、例の化学的なもの、電気的なもの、何かその類のものだよ。ドニー? 僕は前からこの理論を考えていたんだ。素晴らしい理論だよ。ますます信憑性が高い理論だと確信できてきている・・・」
「・・・つまり、僕たちは化学的誘引子になっているということなんだ。僕が初めてディ・ディの手に触れた瞬間に、それを感じた。少なくともディ・ディは僕にとって化学的誘引子になっているんだ。ディ・ディの身体の化学的構成か、彼女のフェロモンか、ともかく、彼女の何かが僕のレセプターにぴったりと嵌まるんだと思う・・・」
「・・・こんな素晴らしい理論を考え付くなんて、僕はいったい誰なんだ? ライナス・ポーリング(
参考)に似ているかなあ? その化学的誘引子の正体は分からない。物理的親和性については聞いたことがある。でも、僕たちは、本当に、身体的にぴったり嵌まっているんだ。たとえディ・ディが70歳で、歯が1本もなくっても、僕は彼女に惹かれてどうしようもなくなっていると思う・・・」
「・・・でも、本当の彼女は70歳ではなく、こんなにしなやかで、セクシーで、美しい人だ。もし、ポール・ニューマンがディ・ディを一目見たら、ジョアン・ウッドワード(
参考)を横に押しのけて、ディ・ディに『ただいま、今、家に帰ったよ』って言うと思う・・・」
「・・・そして、君も同じなんだよ、ドニー。同じ、でも違う点もある。君も僕にぴったりと嵌まる。なんと言うか、同じように感じるんだけど、感じ方がどこか違うんだ。君の身体の化学的構成もディ・ディとまったく同一であるのは明らかだ。だからこそ、ディ・ディと同じように、僕は君に惹かれてしまう。多分、これまでの人生経験とかで違いが出てきているんだろうな。よく分からないけど。君たち二人は同じなんだけど、やっぱり違うんだ」
二人とも目を輝かせていた。もっと言えば、目に少し涙を浮かべていたように思う。ディ・ディが尋ねた。
「どうして、そのポール・ニューマンの話が出てくるの?」
僕は笑い出した。
「どうしてって・・・君はお世辞を言ってもらいたがっているんだね? 君たち二人とも、ジョアン・ウッドワードの生き写しだって、ただ30歳若いだけだって、完全に分かっていると思うけど。誰でもそう言ってきたはずだよ」
ドニーが言った。「誰にも言われなかったわ。まあ、確かに、時々、彼女にちょっとだけ似ているかもとは思ったけれど、これまで、誰も似ていると気づいた人は、いなかったわよ」
「じゃあ、ぜひとも『熱く長い夜』や『新しい愛』を見てもらわないと。二つともDVDで持っているよ。それを見たら、君たち二人とも、どんなふうに見えているか映画スターの形で分かると思う」