レストランに入り、他の人に話しが聞かれないように、ひとつブースを開けて、席についた。早速、マークがトレーシーに訊いた。
「今日、写真撮影をしたって聞いたけど、どんな具合だった?」
「うまくいったわ。もっと言えば、最高だったわよ」
「ステフィにどんなことをするか話して欲しいと言ったときは、別に、写真撮影をしてみようとまでは意味していなかったんだけどなあ」
そうマークが言うと、トレーシーはくすくす笑った。
「でも、写真撮影をしちゃダメとも言わなかったでしょう? それに、彼女にこの仕事がどんな世界かを教えるのに、実際に体験させることより良い方法はないと思うし。もし、ステフィが怖がったり、身を引きたいと思ったなら、その場合は、ちゃんと止めるつもりでいたわ。撮影の間、ずっと現場で彼女を見守っていたの」
「オーケー、分かった。でも、ステフィに出版許可のサインはもらった? マイクが、ステフィに許可書にサインしてもらっていないって、大騒ぎしていたんだ」
トレーシーはマイクにちょっと腹を立てているように見えた。「マイクは、いつも、何かについて大騒ぎしているのよ。大丈夫、ステフィはちゃんと許可書にサインするから。たとえ、彼女がサインしないとしても、写真を削除すればすむことだし。たいした問題じゃないと思うわ」
今度はマークがくすくす笑った。「まあ、確かにそうだな。でも、マイクのおかげで僕たちが法的な問題を抱えずにすんでいるのも事実だよ」
マークは私に顔を向けた。「それで、ステフィ? どうだったかな?」
私はにっこり笑って答えた。「とても楽しかったわ。明日もできるかしら?」
「アハハ、明日は無理だよ。明日は、君には待機していて欲しいんだ。あさっては、カメラの前に出てもらうよ。6人、他の女の子たちがホテルに来てチェックインするから、その子たちと一緒に演じてもらいたいんだ。あさっての午後に、君にセックス・シーンを試してみるつもりだ。すべて順調に進んだらの話だけど」
食事の間、トレーシーは、マークばかりでなく、ヘレンやマリアにも、私の写真撮影の間にあったことを話していた。特に、クリスにわざと嫉妬で乱暴に振舞う演技をさせ、私を驚かせたところを話し、笑っていた。私が驚いた表情を顔に浮かべるようにさせたかったからと言っていた。トレーシーは、望んでいた私の表情を確かに撮ることができたと言っていた。
食事を終え、みんなでホテルに戻った。
マークは、その日に撮影したものを検討する仕事が残っていた。トレーシーもマークに付き合って、仕事場へと付いて行った。多分、マークは私が映った写真も見ることになるだろうと思った。私とマリア、そしてヘレンは、部屋に直行せずに、バーに寄ることにした。音楽が鳴っていて、ダンスができるかもしれないと思ったから。
カウンターで飲み物を受け取り、3人でテーブルに腰を降ろした。バーには30人くらい人がいた。クルーが何人かいて、残りは役者やエキストラの人たちだった。そのバーは、基本的にはピアノ・バーのようなところだったけど、ピアノは置いてなく、代わりにスピーカーから音楽が流れていた。スローでソフトな曲で、何人かダンスフロアで踊っている人もいた。
バーに入ってすぐに、クリスが私たちのところに来て、私をダンスに誘った。私は、最初、断ろうと思ったけれど、ちょっと考え直して、一緒にダンスすることにした。
クリスはダンスは上手だったけれど、踊りながら手で私の身体をまさぐり続けた。彼と踊るのは一曲だけにし、私はすぐに席に戻った。ベッドの中や撮影の間に、身体をまさぐられるのはアリだろうけど、ダンスフロアでそれをされる理由はない。
クリストのダンスはやめたけれど、ダンスをまったくしなかったわけではない。実際、電気関係のクルーの一人、それに音響関係の人ともダンスをした。だけれども、大半は、ヘレンかマリアと踊っていた。私たちは、ダンスをしたり、おしゃべりをしたりして10時あたりまで過ごし、そこでお開きにすることにした。マリアは、翌日、早くから仕事が入っていた。
バーを出ようと私たちが腰を上げたとき、ちょうど、ビルがバーに入ってきた。前にビルと私たちが遊びに出たときは、彼はバギーパンツを履いていたけれど、今は、別の服に着替えているのに気がついた。それに、今日、仕事中に着ていた服とも違う。
今日の仕事中には、彼は、ぴっちりとしたジーンズとポロシャツの格好だった。今は、ファッショナブルなスラックスと、ボタンダウンのシルク・シャツを着ていた。もはや、私はビルのことなんか気にしないつもりでいたけれど、とても似合っていて、素敵だと思わざるを得なかった。