僕は、ちょっと前から、嫌らしい笑い顔をしていたに違いない。この話しは、どんなことよりも夢のような話しだった。このような状況で予想しがちな、「ひとつのベッドで二人の女と」ということではない。僕にとっては、そういうことより、ディ・ディとドニーといつも一緒にいられるという夢のような話なのだ。あの柔らかで丸みを帯びた二人の身体。あの青緑の瞳。そして、柔和な南部訛りの声。ああ、何てたまらない甘美な世界になるだろう。僕は、なかば、心を決めていた。
「ねえ、僕たち知り合ってからまだ1週間も経っていないんだ。ドニー? 君とはたった数時間だよ。僕はもっと僕たちの関係を深めたい。だけど、もっと真面目に深めて行きたいとも思っているんだ。ともかく、僕のことをもっと知って欲しい。さっきから分かるように、僕は時々おしゃべりが暴走してしまうことがある。最初の何回か、そういうところもキュートに思えるかもしれない。でも、それが百回もあったら、そのうち、君たちは僕を殺したいと思うようになるかもしれないんだ…」
「…僕もベジタリアンになってみようかと思っているよ。でも、たまにはビッグ・マックを食べたくなるときもあるだろう? 君たちはシンシナチに住んでて、僕はクリーブランドだ。まあ、でも、それは克服できない問題ではないよね。君たちは二人とも、このすごい仕事についていて、中西部一帯を飛び回り、実力者として行動し、リストラを指揮してどんどんクビにして、楽しんでる。一方、僕の方は、こじんまりとした会社でこじんまりとした仕事をしていて、多分、未来もこじんまりとしているだろう。ま、僕は別にこの会社と心中する気はないけど…」
「…ずいぶん前から、僕は自分で会社を立ち上げようかと考えていた。インターネット関連の開発とか、顧客の求めるソフトのプログラミングとかのビジネスをね。実際、この業界には僕が声をかけられる知り合いがたくさんいるんだけど、その人たちに勧誘を始めたら、2ヶ月くらいの速さでできると思うんだ。必要なハードウェアやソフトウェアは全部、家にそろってる。そうなったら、クリーブランドに住んでいる必要がないよね。シンシナチに引っ越しても構わない。必要なのは、高速のインターネット・アクセスだけ。高速接続ができないと生きていけないから。君たちがいま高速アクセスになっていないとしたら、そして、後続接続の設置が不可能だとしたら、新しい家を買うか、じゃ、またねってバイバイするかのどっちかだ…」
「…君たちの出張に僕が同行することもできるよ。今は、どのホテルにも部屋にデータ通信の配線があるから。どこにいても仕事ができる。ある週はディ・ディとピッツバーグで過ごし、また別の週はドニーとフイーリングで過ごすとか。君たちも、夕方、誰もいないホテルの部屋に帰ってきて寂しく感じることもなくなるさ…」
「…加えて、君たちは二人とも、多分、僕の4倍か5倍は稼いでいるはず。リッチな女の子二人と一緒なら、かなり贅沢な暮らしができるかもしれない。いや、冗談だよ。タダ飯なんかありえないのは分かってる。どうなろうとも、僕はちゃんと引き締めた生活をするつもり。でも、僕は君たちそれぞれに、ある種、安定感のようなものを与えることができると思うんだ。出張の連続の生活を送りつつも、家族がいるという感覚をね。多分、いま僕が言ってることはうまく行くかもしれない。僕たち自身、ピッタリはまってると思うんだけど、本当にピッタリはまるかどうか、ちょっと時間をかけて検討してみたほうが良いと思ってる…」
「…ちょっと率直になるよ。いつか、どこかの時点で、僕は一人っきりになって考えをまとめるつもり。そうすれば、このことを客観的に見つめることができると思う。でも、現時点では、ディ・ディが手を僕のあそこに乗せているわけで、論理的に考えるのがちょっと難しいんだ」
ディ・ディはおしとやかに恥ずかしそうな表情になった。「アンドリュー、ごめんなさい。ただ、あなたのそこの部分がまだわたしたちのことを求めているか確かめたかっただけなの」
「ディ・ディ、これは、はっきり保障させて欲しい。僕たちの間に他にどんな問題が生じようとも…『問題』だなんて言い方、許して欲しいけど…このことだけは、全然、問題には入らない。この方面に関しては、絶対に、君に飽きることなどありえない。決してね。ただ、大急ぎで付け足したいのだけど、もし、あくまで僕をチェックしていたいんだったら、僕は拒否するつもりはないよ」
ディ・ディは、また、例の瞳を輝かす笑みを見せた。
「ドニーは、ここには日曜日までしかいないわ。あなたは、私たち二人に対してひょっとすると何か男の子っぽい夢を抱いてるかもしれないし、私もその夢を壊したくないけど、でもね、アンドリュー? 私たちは、他のところではいつも二人一緒だけど、ベッドの中では別個人で、別々なの。分かった?」
僕は傷ついた表情を顔に浮かべた。少なくとも、そういう顔をした。
「分かった? って何を? そもそも、何の話をしているか分からないよ。そんなことは一度も考えたことがないから。本当に。あ、でも、その点は、本当にそうなの?」
ドニーが頷いた。
「本当にその通りよ、アンドリュー。ごめんなさいね、私たち古風で真面目すぎていて。退屈でありきたりな1対1の交渉以外ダメなの。私が言っている意味が分かればの話だけど」
「1対1の部分については、何を言ってるか分かっているよ。ちょっと理解しがたいと思ってるのは、『退屈でありきたりな』って部分」
ディ・ディがドニーに言った。
「ほら、言ったとおりでしょう? 彼はいつも正論を言うの。まことしやかなことを言う点に関しては、世界クラスなのよ。アンドリュー? 私が言いたいことは、こういうこと。つまり、私たちとは、今夜は、これでおしまいなのか、それとも、食事の後も、何か、もうちょっと付き合う気があるか、どっちなのかと」
「ディ・ディ、君は、この1時間半ほどずっと僕を苦しめてきたんだよ。それに僕のことをひどい人間だと思ってるの? 僕が君に拷問したのは、ほんの2、3分だけだったじゃないか。それに僕の記憶が正しければ、君が僕の要求に従ってくれたとき、僕は君の満足がいくように喜びを返してあげたはずだよ。少なくとも、君をいかせてあげた。もし、君が、今夜、僕は君たちをおいて帰ってしまうと思っているなら、君はよっぽどおバカさんだよ」
「そうなら、私をハイアットまで送ってくれる? それからドニーを連れてあなたの家に帰っていいわ。ドニーも、ちょっとした拷問を受けてみたいと思っているはずだから。それに、ドニーにそれをできるのはあなたしかいないから」
ドニーは顔を真っ赤にした。
「もう、黙ってよ! ディ・ディが何を話してるのか、私にはさっぱり分からないわ。もう、全然。でも、アンドリュー? ここにいる南部生まれの邪悪な魔女がしゃべってることとは関係なしに、あなたがどんなところに住んでるのか見てみたいのは確かよ」
「にゃーお! 君たち二人と一緒にいると、すごく楽しいな。ほんとに。それじゃ、早速、ここを出よう!」
つづく