この前と同じ窓際のテーブルにつき、トリスタが来るのを待った。彼女は担当している各テーブルを巡回している。ようやく、俺の席にやってきた。
「あら、今日も、ようこそ」 と彼女はコーヒーカップを置いた。
この言葉には嬉しかった。トリスタは俺のことを覚えていたんだ。
「やあ、トリスタ」 コーヒーを注いでもらいながら返事した。
「コーヒーの他に何か?」と、俺の目を覗き込みながら言う。
「いや、これで充分」と、俺はコーヒーにクリームを入れた。だがトリスタが他のテーブルに移動していくのを見て、少しがっかりした。
コーヒーを飲みながらトリスタを見続けていた。優雅に店内を歩き回っている。ジーンズと白のTシャツで、その上から緑色のエプロンをつけている。とてもキュートだ。
…彼女、いいなあ… と俺は独り言を言った。
コーヒーを3分の2ほど飲んだ頃、トリスタが注ぎ足しに戻ってきた。テーブルを挟んで俺の向かい側の席にちょっと腰を降ろして、注ぎ足ししてくれた。
「しばらく座っていたらいいよ。そんなに忙しそうでもないし」 と微笑みかけた。
彼女は店内を見回し、コーヒーのポットをテーブルに置いた。
「ありがと」 と耳のところに手を当て、髪の毛をさっと後ろに払った。
「私の名前は知ってるわね。あなたの名前は?」
「ジャスティン」 俺は握手をするため手を差し出した。
トリスタは柔らかな指で俺の手のひらに触れ、それから手をつなぎ、しっかりと握手した。
「よろしく、ジャスティン」
「君はまだ学校に通ってるの?」 コーヒーをひとくち啜り、訊いた。
「いいえ、この春、卒業したわ」 トリスタは、用事を求めている客はいないかと、店内を見回しながら答えた。
「どこの学校?」 彼女が俺が出た高校にはいなかったのは確かだった。
「ヴァレイ・クリスチャン・アカデミーよ」 トリスタは自分の高校を誇りに思っている様子だった。
「あなたはどこ?」
「僕はノーバート高校の卒業」
「君の高校はどんな感じ?」 彼女のきれいな緑の瞳を見つめて、訊いた。
「まあまあね。私のお父さんはそこの牧師なの。だから、ちょっと退屈」
「へえ、お父さんは牧師なのか?」 少しびっくりしたような顔で答えた。
「ええ、ずっと牧師人生」 とトリスタはまた店内を見回した。
俺は、そこで、いきなり切り出した。 「ねえ、夕食、僕と一緒にどこかに食べに行かない?」
トリスタは顔を赤らめて俺を見た。
「そうねえ… 今夜、この店で会って、もうちょっとおしゃべりするのはうのはどう?」 と、彼女は席からすべり出て、立ち上がった。
「是非!」 と言い、俺も立ち上がり、テーブルに5ドル札を置いた。
「7時でオーケー?」 他のテーブルでお呼びがかかったようで、彼女は急いでる感じだった。
「もちろん」 と俺は出口に向かった。
「じゃ、またね、ジャスティン」 可愛い声を聞きながらドアを押した。
出口でちょっと立ち止まり、振り返って、返事した。「じゃ、7時に!」
コーヒーショップを出た。通りの向かいにシーサイド・ダイナーが見える。もう朝食時は過ぎているので、レストランの中は客がほとんどいないようだった。俺は自転車に乗り、家に向かった。
ふと、しまった! と思った。トリスタに電話番号を聞いておくのを忘れていたのだ。
家に戻り、部屋に入った。グラフ先生に贈るつもりの小包を取り出し、中を確かめた。きちんと揃ってる。その大きな黒い箱をクローゼットにしまった。計画は整ってる。あとは実行あるのみだ。
何もすることがなくなったので、ブラッドの家に遊びに行くことにした。また、自転車に乗り、漕ぎ出す。ブラッドの家の前に行くと、ブラッドの母親の車が止まっているのが見え、ちょっとワクワクした。自転車を降り、玄関をノックするとすぐに、ブラッドが出てきた。
「よお、ジャスティン、入れよ」
俺たちはテレビが置いてある部屋に入った。