家に着き、自転車をガレージ脇に置いて中に入った。時計を見ると、もうすぐ親たちが帰ってくる頃だと分かった。トリスタに会いに行くまで2時間ほどだ。ついでにクラブ・カフスにも顔を出してこようと決めた。
簡単にシャワーを浴びて、自分の部屋に入った。髪を乾かしながら、コンピュータを立ち上げ、メールをチェックした。グラフ先生からはメールが来てなく、がっかりした。カジュアルな服に着替え、キッチンに降りて行くと、ちょうど親たちが帰ってきた。
母親は、クロック・ポット(
参考)を一日中つけっぱなしにしていたらしく、すぐに夕食になった。3人で、その日のことを話しながら食事をし、その後、後片付けをした。
すでに6時半。そろそろコーヒーショップに行かなければ、遅れてしまう。両親はリビングでテレビを見ていたので、俺は裏口からこっそり忍び出た。時間に合わせてゆっくりと自転車をこぎ、コーヒーショップに向かった。2、3軒手前に自転車を置き、そこからは歩いた。トリスタに俺が自転車に乗ってるのを見られたくなかったからだ。コーヒーショップに着き、中に入った。
「ハーイ、ジャスティン!」
トリスタは俺の手を取り、隅のテーブルに案内した。
二人でいろんなことについておしゃべりをした。トリスタは子供時代のことについて、いろんなことを話してくれたし、俺も同じく自分の子供のころについて話した。トリスタは一度、席を立って、二人分のコーヒーを持ってきてくれた。それから、またおしゃべり。ただ、この時は、テーブルを挟んで前より顔を近づけ合っていたと思う。
この子には何か特別なことがあるように感じたが、それが何かは俺には分からなかった。二人で笑いながら、互いのことを話し続けた。
気がつくと、もう9時15分になっていた。
「私、家に帰らなきゃ。お父さんに怒られちゃうわ」
「まだ門限があるの?」
「そうなの。パパは、私のことになると、とても過保護んだもの」 とトリスタは微笑み、横目で俺を見た。
「パパは、私がいつの日か、悪い道に進んでしまうのではないかって心配しているの」 と立ち上がり、ハンドバッグを取った。
「ねえ、君の電話番号を教えてくれる?」
トリスタは座りなおし、バッグを開け、小さな手帳を出した。紙に名前と番号を書き、そこを破いて俺にくれた。
「あなたのは?」 と彼女は手帳を開いたまま、訊いた。俺が名前と番号を言うと、トリスタは手帳に書き込んだ。
「もう、本当に行かなくちゃ。遅すぎるって、お仕置きされちゃうわ」
俺たちは一緒に店を出た。彼女は彼女の車である濃い青のカマロ(
参考)に飛び乗り、スピードを出して走り去った。
彼女の車が角を曲がるまで待ち、それから通りの向かいに渡って、クラブ・カフスの入り口に向かった。だが、その途中で俺はIDカードを忘れてきたのを思い出した。仕方なく、回れ右して自転車に向かった。
家に戻ると、まだ電気が点いていた。親たちはまだ起きてる。忍び足で家に入りリビングの前を行くと、親たちはテレビをつけっぱなしでソファでぐっすり眠ってた。
俺は自分の部屋に入り、例の封筒を取り出し、クラブ・カフスのIDカードを取り出した。
封筒を片付け、コンピュータの前に座り、もう一度、メールをチェックしてみた。やはりグラフ先生からはメールが来てない。
俺は静かに階下に降り、ガレージに出た。そして自転車に乗り、クラブに向かった。