彼女がレオンのことを考えて油断していた隙に、父は顔を胸の谷間に近づけ、その肌に唇をつけた。イサベラは身の毛がよだつ恐怖を感じた。キスをしながら、くんくんと鼻を鳴らして彼女の甘い香りを吸い込んでいる。
「わ、私、ちょっと身体が汚れているので、洗わなければ…」
イサベラは弱々しい声で懇願した。だが、男は、それにお構いなく彼女の胸のピンク色の先端を親指でなぞる。イサベラはかすかに片膝を自分に近づけ、柔肌の太ももの間に生える赤い繊毛の部分を守る姿勢になりながら、ためらいがちに父親の両肩を押し返した。
「恥ずかしがるではない」
父親は顔を上げ彼女を見下ろし、命じた。手をイサベラの膝に当て、少しずつ力を入れてくる。その力に、否応なく震える太ももが開かれていった。同時に、イサベラの霞色の瞳に涙が溢れてくるのだった。
父親は、親指で縮れた繊毛を軽くかき上げながら、彼女の最も大切な部分をまじまじと見つめた。永遠と思われるほど、見続ける。
ようやく視線を上げ、イサベラの目を見て父親はつぶやいた。「わしのものだったものを奪うとは、あいつにはたっぷりお礼をしてやろう」
イサベラは、立ち上がる父親を見ながら、身体の奥で恐怖が渦巻くのを感じた。全裸のまま、我が身を守るものもなく横たわるイサベラを、父親は、その巨体でまるで彼女を覆い隠すかのようにして、彼女を見下ろした。
「休むが良い。お前はトラウマになるような経験をしてきたのだ。今夜は、早く眠ると良い」
父親が出て行った後も、長い間、イサベラは恐怖に身を凍らせ続けた。
* * *
イサベラは、警備の者に連れられて大ホールへと歩いていた。今夜はそこで晩餐会が行われることになっている。
彼女がついた時には、すでにホールは満員になっていた。彼女が、大きな石製の暖炉の前にある、父親が座るテーブルへと案内されると、来客から歓声が上がった。
父親は椅子にふんぞり返りながら、イサベラが来客の男女でいっぱいのテーブルの間をゆっくりと歩き、こちらに進んでくるのを眺めていた。イサベラは父親の視線に耐えられず、伏せ目になって歩いていた。その視線は、彼女の長い、流れるような紫のビロードのガウンを這い、その生地が包む胸と腰にまとわりつき、裾にいくにしたがって広がりを見せるスカートの中のスレンダーな脚をも見透かすように感じられるのだった。
父親の隣の席に座ると、直ちにメイドたちが近寄り、ワインを注ぎ、様々な肉料理のプレートを差し出した。イサベラは、その選りすぐりの料理の品々から、まばらに数品だけ選び、自分のプレートに置かせた。こんな小さな肉の塊ですら、喉を通るか、彼女には自信がなかった。
テーブルの下、父親の大きな手が太ももに触れてきたのを感じ、イサベラはぞくっと震え上がった。同時に、身体の中からこみ上げてくる吐き気を、なんとか、押さえ込もうとした。この食事もできれば避けたいが、それと同程度に、前から彼女を悩ませている疑問に対する答えを得たいとも思う。
「お父上…」 イサベラは問いかけたものの、伏せ目になった。長い間、彼女の中で燃え続けていた疑問を、どのような言葉で訊いて良いか分からなかったからである。「…どうしても知りたいのです… どうして彼は、私に、あの… あのようなことをしたのでしょうか? 彼は、お父上が彼の父親を殺害したと言ってました」
「その通り、わしがやった」
イサベラは息を詰まらせた。
「…もっとも、ドゥ・アンジェがお前に信じ込ませた理由から殺したのではないがな」
イサベラは下唇を噛んだ。なぜ父親がレオンの父親を殺したのか… レオンはなぜか、それを話そうとしなかった。そのことを父親に言うべきかどうか分からない。
「発端は、クレア・ドゥ・コーテニという名の女をめぐってだった」