俺はしばらく店にとどまって、トリスタが店内を優雅に歩き回る様子を見ていたが、コーヒーも飲み終え、ようやく席を立つことにした。一度、家に戻って少し眠っておきたいと思ったからだ。今夜はメインイベントに出るので夜遅くまでになるから。
「帰るの?」 とトリスタが俺の前に飛んできて、コーヒーポットをテーブルに置きながら言った。
「残念だけど…」 と顔にしわを寄せて言った。「ちょっと疲れちゃってね。ディナーに行く前にちょっとひと眠りしてこようと思ってるんだ」 と両腕を伸ばし、トリスタを抱き寄せた。
ふたりの唇が触れ合った。互いに抱き合いながら、長く優しいキスをした。客が呼ぶ声が聞こえ、トリスタはキスを解き、テーブルのコーヒーポットを取った。
「それじゃあ、今夜ね」 と彼女は笑顔を見せ、客の方へと歩き出した。
俺はコーヒーショップを出て、自転車に戻った。自転車をこぎながら、あのレイチェルとバルのことを考えていた。俺にとってはレイチェルは完全なアバズレ女で、一方のバルは可愛く、純真な娘に思える。バルの綺麗な瞳には、どこか不思議な魅力があって、虜にされそうな感じがした。
家に向かって走っていたが、途中、回り道してブラッドの家の前を通ってみようと思った。次の角を曲がって道を進み、その次の角へと向かった。
その角の所を曲がるとブラッドの家が見える。家の前にはブラッドの母親の車が止まってた。ひょっとして窓の中、ステファニの姿が見えるかもしれない。そう思いながら、心臓をドキドキさせながら家の前を過ぎた。だが、どうやら家には誰もいない様子だった。
引き続き自転車を走らせながら、今度は今夜のディナーについて考えていた。なんとかして今夜のディナーで、あのトリスタの父親に恥をかかせてやりたい。トリスタの母親は俺のことを気に入ってくれてるのは知ってるが、あの父親の方は違う。あいつは、俺が知ってる中でも最上級の嫌なオヤジだ。自分の妻に対するあの態度も嫌いだし、トリスタを自分の言うとおりにさせようとしてるやり方も気に食わない。今夜は、絶対に俺がどういう人間か、あいつに教えてやるつもりだ。
ようやく家が近づいてきた。スピードを落としながら家に近づくと、父親のバンの隣に、もう一台、知らないバンがあるのが見えた。俺は自転車で庭に入り、そこに横たえて置いた。そして開いているガレージのドアをくぐり、そこからキッチンに入った。手を洗っていると、リビングから父親が出てくる音が聞こえた。
手をすすぎながら、「あれ? 家で何をしてるの?」と訊いた。
「何だよ、お父さんは休みを取っていけないのか?」 と父親は冷蔵庫からコーラを出しながら言った。
「だって、これまで仕事を休んだことなかったように思うから」
そう言うと、父親はニヤリと笑みを浮かべ、ポケットの中に手を入れ忙しそうに動かし、何かを取りだろうとするのが見えた。そうして取り出したのは、車のキーの束だった。二つある。俺が近づくと、父親はその手を俺に差し出した。
「卒業おめでとう!」 と俺にバンのキーを俺に差し出す。
「え! マジで? 嘘だろ!」 父親の手からキーを受け取りながらも、俺は興奮して声が震えていた。
「お父さんは、仕事で新しいバンが必要になってな。今年のお前は学校でずいぶん頑張ったようだし、お母さんと二人でお前に古いバンを譲ることにしたんだよ」
父親の話しを聞きながらも、俺は何度も何度もありがとうと言い続けていた。
「どうだ? 新しい車を見てみるか?」 と父は玄関の方に歩き出した。
父親の後ろをついて歩きながら、頭の中、ありとあらゆるワイルドでエロい妄想が渦巻き始めていた。とうとう車を手に入れた。しかも荷台スペースが充分にある車だ。ということはだぞ、動く拘束部屋を手に入れたも同じことだ。