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Wイェックス:妊娠 (27) 

真夜中、股間の痛みと、マットレスがひどく濡れているのを感じ目が覚めた。掛布を剥ぐと、ベッドの上がびしょぬれになっていた。

大変だ。破水している。

体温のせいか暑くて仕方なく、妻と寝るとき、体をくっつけることはしなくなっていた。そこでベッドの向こう側に手を伸ばし、カレンの身体を揺すった。

「カレン! カレン!」

彼女は寝ぼけ顔で僕を見た。「アンバー、どうしたの?」

「破水してるんだよ!」とパニックになって答えた。

それを聞いて彼女は起き上がり、突然、変身したかのように、彼女が持っている能力を最大レベルに上昇させた。

「分かった。落ち着いて。陣痛はある?」

「うーん、あったと思う。それで目が覚めたんだと思う。病院に行かなくちゃ!」

「赤ちゃんが生まれようとしてるけど、今すぐ出てくるわけじゃないわ。起きて、体をきれいにして。いいわね? あたしは入院関係の準備をバッグに詰めるから。シャワーじゃなくてお風呂に入ること。オーケー? シャワーの最中に陣痛で転んだりしたくないでしょ?」

「でも……」 僕は抵抗した。今すぐ病院に行かないといけないのに!

「アンバー。ちゃんとあたしの顔を見て。今はお風呂のことだけ考えて。その後にどうなるかは、その後で考えるの。全部、あたしがケアするから。いいわね?」

僕は急いでベッドの端に移動して、大きくなったお尻を振ってよちよち歩きでバスルームに行き、バスタブの蛇口を回した。信頼できることがひとつしかないとしたら、それは、僕の聡明で有能な妻が、必要なことすべてについて思い、考え、知っていることなのだ。僕は何を? 彼女の指示の通り、お風呂に入ることだけを考えればいいのだ。

******

18時間にもわたる、これまでの人生で最も苦痛に満ちた時間の後、元気な泣き声を上げながらタイラー・レジナルド・ジョンソンはこの世界に加わった。3200グラムとというとても元気な赤ちゃん。道理で、あんなに痛かったわけだ。

僕は全身汗まみれだった。妻の指の何本か、骨を折ってしまったかもしれない。本気では思っていない脅かしの言葉を山ほど言ったかもしれない。でも、カレンからあの大切な小さな男の子を渡され、両腕で抱いた時、そして、その子に乳首をあてがい、初めて授乳した時、あの苦しみも、それに伴う乱暴も悪態も、すべてそうする価値があったのだと思った。どんなことも、そうする価値があったのだと。

カレンは震える指先で、赤ちゃんの額にかかる髪の毛を払いのけ、おののいた様子で僕に微笑みかけた。「やったわね、アンバー。ああ、すごい……あなた、驚くべきことをしたのよ」

僕も疲れた顔で笑みを返した。本当に疲れ切っていた。「僕たちやったよね。でも、どうして君が赤ちゃんを取り上げてくれなかったのか、いまだに分かっていないんだけど。君が取り上げてくれたら、手が届かなかったので、君の指の骨を折ることもなかったと思うんだけど」

彼女は両手をかざして見せた。両手ともぷるぷる震えていた。「これがそのわけよ。それは病院の方針に反するの。でも、充分正しい理由があるのよ」

「ああ、分かった。ところで本当に僕の名前を赤ちゃんにつけたいと思ってる?」 僕は出産した本人であるので、赤ちゃんの名前を決める裁量権が僕にあるという。これは知らないことだった。

「もちろん。それより良い名前が思いつかないわ」と妻は請け合った。

僕は自分の息子の顔を見た。実際、タイラーという名前はふさわしいと思った。もっとも、どんな名前も、この美しい、しわだらけのピーナッツにはふさわしいだろうけど。「こんにちは、ジュニア。愛しているよ」

カレンが感極まってすすり泣いた。「とうとう家族ができた。これがあたしの家族」

病院で回復を待つ間、ジュニアと僕には絶え間なく来客があった。カレンは職場では重視されているようで、雑役婦から病院の管理部のトップ連中に至るまで、誰もが僕と息子を見に来たがった。

望むらくは、僕とカレンの両方の両親が生きていて、孫を見られたらと願ったが、それは叶わない。

******

ジュニアを優しく揺らしながら、授乳していた。ジュニアは貪欲に僕の乳房からミルクを吸っている。僕はこの時間が大好きだった。授乳のたびに、この子との絆を感じる。真夜中の授乳ですら、好きだった。

「アンバー? あと2週間くらいね。また男に戻ること、ワクワクする?」 貪欲に乳を啜る息子を見ながら、そしておそらくは、僕のおっぱいを盗み見もしつつカレンは、ニヤニヤして僕に訊いた。

僕はジュニアを見つめ、頭に手を当てた。「それについてだけど……もう1年続けたいと言ったらどう思う?」

「本気で?」 カレンは驚いた様子だった。

「ジュニアはまだ授乳中だから。Wイェックスを追加かなんかで打ったら、ミルクを出し続けることができるわけでしょう?」

「まあ、そうだけど。でも、本当にそれでいいの?」

「本気だよ。粉ミルクを使わなくてもいいなら、ずっと母乳で育てるつもり。その方がこの子にとってもいいし」

「分かったわ。病院に予約を入れておくことにする」

「ありがとう。愛しているよ」

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12か月後、今度は女の子が生まれた。ブルック・サマー・ジョンソンが僕たちの家族に加わった。

******

最初のWイェックスを摂取してから、あと4日で3年目になろうとしていた。その効果が消え始めたのだった。

ブルックをお昼寝させ、ジュニアに食事をとらせている時だった。ベビーチェアに座らせ、どうかお願いだからニンジンを食べてとなだめていたら、突然、頭に奇妙なかゆみが出て、髪の毛がみるみる短くなり始めたのだった。

ジュニアは目を丸くして僕の顔を見つめ、大声で泣き始めた。

大変だ。すぐに着替えないと、服をビリビリ破いてしまうことになる。


[2021/02/25] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

浮浪者 (27:終) 


大きなV型8気筒エンジンが生きかえり轟音を上げた。娘たちはふたりとも興奮でぶるぶる震えていた。僕はドアを閉め、窓をノックし窓を開けさせた。僕は運転席に座るマギーにもう一度キスをした。

「じゃあ、学校で会おう」

マギーはバックで車を玄関前から道路へと出したが、そこで車を止めた。ブリアナと僕は立ったまま、車に乗るふたりを見ていたのだが、急にドアが開き、マギーが飛び出してきて、僕たちのところに飛ぶようにして駆け寄ってきた。両腕を広げて僕たちに抱きつき、何度も何度もキスをしてくれたのだった。

「本当にすごく愛してる」と何度も繰り返して言う。「ありがとう。ふたりは地球で一番のパパとママよ!」 そして再び車へと駆け戻り、そして走り去った。

ブリアナに顔を向けたら、彼女は赤ん坊のように泣いていた。僕自身、何と言ってよいか分からないが、目に涙が溢れていた。「僕たちを見てごらんよ。ふたりとも3歳の子供かなんかにしか見えないな。でも、ブリイ、車のことを思いついたのは素晴らしかったね。君は最高の女性だ」

ふたりでしばらくの間、抱き合った。授業に遅れるかもしれないのは分かっていたけど、構わなかった。

ストークリーが16歳になったとき、新車のチャレンジャー(参考)を買ってあげた。マギーの時のように感傷的になったりはしなかったが、特別なイベントだったのは変わりない。それぞれ、高校を卒業した時には、ふたりをハワイとベリーズ(参考)に連れて行った。

ストークリーが大学生生活を始めるために家を離れる日、家に帰ると、ブリアナがソファで泣いていた。僕は彼女の隣に座り、ひと言も語らず、ただ両腕で抱き、慰めた。ブリイは僕の胸に顔を寄せ、静かに泣いていた。しばらくたち、ようやく彼女は顔を上げた。大きな青色の瞳に涙が溢れていた。

「子供たちがふたりとも大きくなってしまったわ、マック」

「そうだね」と僕は彼女にキスをした。「いずれはそうなるものだよ」

ブリイは突然、両手で僕の顔を挟み、僕の目をじっと見つめた。

「マック、もうひとり子供を作りましょう。今度はあなたとあたしとで。赤ちゃんが欲しいの、マック」 いったんそこまで言い、また鼻をすすった。「こんな気持ちになるなんて思ってもみなかった。あなたのことをすごく愛してるし、もうすでにあの子たちがいなくてすごく寂しくなっているの。子育てをもう一度したいの。すごく驚きに満ちていたことだったもの! ふたりともここから200キロしか離れていないところにいるのは分かるけど、とても寂しいのよ」

「僕もだよ。もし、赤ちゃんを作るとするなら、ちょっと練習すべきじゃないかな?」

ブリイはハッと息をのんで僕を見つめた。「ほんと? あなたも望んでる? 赤ちゃんを作ることを?」

「もちろん。君と同じような赤毛の女の子を希望してるんだ。ブリアナ、僕も君を心から愛しているよ」

僕は彼女を抱き上げ、抱えながら誰もいなくなった家の中を寝室へと進み、そして「練習」を始めた。グランビルを追い出さなくてはいけなかったけど、犬と遊ぶより子作りの方が楽しい。ことを終え、ウトウトしていると、ナイトテーブルに飾ったマギーとストークリーの写真が目に入った。ふたりとも浮浪者には決して見えない。

おわり


[2021/02/21] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)