ノボルは、アンジェラが恐怖に身を離したりしなかったことに勇気づけられ、彼女をさらに強く抱き寄せた。ふたりは向かい合い、彼女の両脚が彼の腰にかかる姿勢になっていた。
「ベッドの上のあの刀が見える?」
アンジェラは見上げて、頭を縦に振った。
「あの刀は私よりも古い。私が25歳になった時、父がくれたものだ。鑑定でもそう言われている」
アンジェラはノボルの顔に目を戻して、彼の青い瞳を見つめた。困惑した顔をしていた。
「そんなことがどうしてありえるの?」
ノボルはアンジェラに触れたい気持ちを抑えきれなくなり、首筋に鼻を擦りつけた。触れた瞬間、彼女が身体を震わせるのを感じた。
「あなたは魔物の存在を信じますか?」
「ええ…」 ノボルの唇が首筋を這い、気持ちを集中させるのが困難だった。「私はクリスチャンだから。キリスト教では魔物というか、悪魔がいることになっているから…」
ノボルはアンジェラを愛撫するのを中断した。
「私は魔物に呪われたのです。そのため、こんなに長く生きているのです」
「どうして、永遠に若くいられることが呪いになるの?」 アンジェラは自分もそんなに年老いても若さを保てたらいいのにと思った。
「それには過酷な代償が伴うのです」
アンジェラは話しを聞きながら、ふざけ気味にノボルの乳首を舐め、彼の目が色を変えるのを見て、にんまり微笑んだ。
「と言うと、どういうこと?」
彼女はそう言いながら、舌をぺろぺろと動かし続けた。ノボルのペニスがむっくりと起き上がってくるのを彼女は感じた。
ノボルは真面目な話しをしようと、アンジェラの両肩を掴み、彼女の行為をやめさせた。アンジェラは彼の真剣な顔に、目を大きく開けた。
「そのひとつは、私の一部がもっと原始的になってしまうこと。そして感情を抑えきれなくなってしまうと、私は…、私は変身してしまうのです。変身してしまうと、衝動を抑えることが難しくなる…」
「分かるわ。つまり、あなたは無意識的衝動に支配されてしまうということね。でも、それって、そんなにひどいことじゃないわ」
アンジェラはそう言って腰を彼の固くなった分身に擦りつけた。彼女のあそこの濡れた唇がノボルの分身に触れた。
ノボルは、募ってくる欲望を抑え込もうと必死に戦った。
「もうひとつは、人生の目的を得られるような有意義なことを持たずに長い間生き続けていると、しばしば、死を切望するようになるということです。周りの誰もが死んでいくのに、自分はその人たちの思い出や、喪失感を抱きながら生き続けなければならない」
アンジェラの表情が真剣になった。「それは考えたことがなかったわ」
「そして、最後の問題は、私は……、私は、その状態を他の人に移すことができるということ……」
「あなたが恐れてわたしに言えなかったことは、そのことなの? 私にそういう状態を移してしまったかもしれないと…?」
「はい [Hai]」
アンジェラは依然として理解できずにノボルの胸を擦り続けた。
「ノブ? その『変身』って、どんな恐ろしいものなの?」
ノボルは、アンジェラから離れ、ベッドから降りた。そして手を伸ばして、彼女の頬に触れた。
「見たとしてもすぐに逃げ出したりしないと約束してくれますか? 私の名誉に賭けて、あなたを決して傷つけないと誓うから」
彼のその振る舞いと、言葉に、アンジェラはどこかしら、悲しみを感じた。まるで、たった独りにされるのを怖がっている傷ついた少年のように聞こえた。アンジェラは、頬に触れる彼の手に手を重ね、顔を横に向け、彼の手のひらに優しくキスをした。
「分かってるわ。あなたは決して私を傷つけたりしない。こう見えても、私は見かけよりずっと強いのよ。それに、私は精神分析医なの。いろんなことを見てきたし、いろんな話を聞いてきたわ。そもそも、私にショックを与えられるかしら? もし、そうできたら、かえって感動しちゃうわよ」
「…そうだといいけど」 そう言い、ノボルは背筋を伸ばし、目を閉じた。
アンジェラは、最初、これは何かの奇術か、あるいは幻覚を見てるのだと思った。でも、目の前で起きていることは事実。彼の肌が白く変わり、銀色の毛がみるみる生えてくる。両手、両脚が大きくなり、動物のような爪が生えてくる。ボキボキと骨が折れるような嫌な音が部屋を満たした。
だが、その間も、彼の顔は平静を保ったままで、少しも苦痛を感じているようには見えない。ただ、顔の中央部が前方に隆起し動物の鼻のように変わり、耳も頭の上部に位置を変え、先端がツンと尖っていった。
変身が終わると、彼はゆっくりと目を開き、ベッドの上へと目を落とした。そこには全裸のままの小柄な女性がいて、口をあんぐり開けたままこちらを見ていた。ノボルは、彼女が逃げ出すのではないかと息を止めて見ていた。
つづく