クリスはスター選手がためらいの表情を浮かべているのを見て、下唇を噛んで笑いを堪えた。
「あ、あの……け、契約に何か問題があるのでしょうか、ウィリアムズ様?」 クリスはわざと口ごもりながら言った。「な、何か…その…私に説明できることがございませんでしょうか? シンプソン氏から、電話では契約条件は合意できていて、私は契約書にサインをいただきさえすれば良いと伺っていたのですが…」
クリスは落胆した表情で、そう言い添えた。
わざと落ち込んだ顔をし、わざと口ごもりながら彼女は続けた。
「お願いです……ウィリアムズ様……。何か私にできることはありませんでしょうか? ご満足して契約書にサインをいただけるよう、何か私に……? わ、わたし……どうしてもこの仕事を続けたいんです。………この仕事、スポーツ代理店で私が受け持った最初の仕事なの! 最初から失敗してしまったら、もう仕事をもらえなくなると思うんです! だから……お願いです………。どういたしましたら、サインをしていただけるのかお教えください」
バリー・ウィリアムスは、それを聞いて目を輝かせ、にやりと笑った。舌舐めずりし、淫猥な表情を浮かべている。クリスはそれを見て、椅子から立ち上がった。ショックを受けた顔をし、わざと溜息まじりに言った。
「……あり得ませんよね……。分かってるんです、そんなのあり得ないって………。ウィリアムズ様がそんなこと思うはずがないって、私にも分かるんですけど…。私ったら何を考えているのかしら………。だけど……………。もし、わ、私が……私が………!」
クリスはそこまで言って、後は口ごもった。その後のきっかけはバリーに仕掛けてもらおうと期待してのことだった。
バリーは自分の運の良さが信じられなかった。
…マーブ・シンプソンの野郎、やっぱり特別サービスを送ってよこしたんじゃねえか。こんな若くて美人のスチュワーデスとは! これほどの特別サービスはねえぜ! 若くておしとやかで、おまけに人妻だ! ふん、ジェニングスって名前か? 弱っちい白人男と結婚したのか? こりゃあ、面白いことになりそうだ!…
「そうだなあ、ミセス・ジェニングス! 俺はまだこの契約更新にサインすると決めたわけじゃないんだ。はるばるここまで来てくれたのには申し訳ないが、………まあ、手ぶらで帰ることになるだろうな!」 とバリーはにやりと笑った。
「ところで、あんた、結婚してどのくらいになるんだ?」
「たった……たった1年です!」
それを聞いてバリーのペニスがピクリと反応した。
「ジェニングズさんよ、あんた、どうすれば俺がこれにサインするか、知ってるんだろう?」 と彼はカマをかけた。
「あんた、その制服姿、すごく綺麗だぜ! だけど、賭けてもいいが、それを着てない方がもっと綺麗だしセクシーになるだろうな!……もう一回言うが、どうすれば俺が契約更新にサインするか知ってるんだろう? 違うか? マーブ・シンプソンのところで働いてると………。あいつのことだ、俺が期待している仕事にあんたを割り当てたはずだ。そうじゃないのかい、ミセス・ジェニングズ?」
バリーは、清純そうな若妻が下唇を噛んで、うつむき、こくりと頷くのを見て、自信を深め、ニヤリと笑った。
「結婚1年目の新婚にして、マーブ・シンプソンの元で働いてる。ほおー! しかも最初の担当が俺だと! あんたの旦那はあんたがマーブ・シンプソンの元で働いてるのを知ってるのかい?」
クリスが頭を横に振るのを見て、バリーは、また笑い、勢いづいた。
「まあ、くつろいでくれ。そこのベッドに座っていいぜ!」
言われたとおり、従順に、ベッドに移動する清純そうに見える女を眺めながらバリーは続けた。
「あんた、俺に何か求めてるんだろう? ………何か、契約以外のことも………。そうなんだろ、ミセス・ジェニングス?」
クリスはこくりと頷いた。
「いいから、言ってみろよ。何が欲しいんだ………? 遠慮しなくていいんだぜ。マーブは俺に特別サービスをよこしたはずだ。それを俺に見せろよ! ミセス・ジェニングス!」
もうゲームはおしまい。クリスは期待にそわそわと両太ももを擦り合わせた。
さっそく軽くお尻を上げ、青い制服のスカートの中へ手を入れた。中からレースの白いパンティが出てきて、それが太ももを降りていく。そしてベッドの中央へと仰向けのまま移動し、左のハイヒールに引っかかっていたレースの下着を蹴りなげた。
右手をスカートの中に入れ、すでに興奮している割れ目を擦り、左手はブラウスの中に忍び込ませ、敏感な乳首を愛撫する。
「お願い………、お願いなの…………前からずっと思っていたの……。あなたが全身筋肉の塊だというのを証明してみせて………。夫が言っていた通りなのか、私に見せて! あなたの脚の間にある大きな筋肉を私に見せて! お願い……、お願いです。…………欲しいの! ……どうしても欲しいの…………。私のエッチなあそこに、あなたの大きくて黒いおちんちんがどうしても欲しいの! 今すぐ……。お願いです………。ねえ、お願いだから!」
バリーは満面の笑顔になりながら、服を脱ぎ始めた。無垢な可愛い顔をして、とんでもなく淫乱そうだな。
セクシーな美女がベッドで身体をくねらせるのを見ながら、バリーはシャツを脱ぎ、靴を脱ぎ去った。そのすぐ後には、ズボンもトランクスも脱いで、片手でペニスを握っていた。充分長くなっているが、まだまだ大きくなっている途中だ。
これまで何人も綺麗な女に狙いをつけてきたバリーだったが、この女はまったく予想してなかったタイプだった。まさに純粋無垢で天使のように愛らしい顔かたち! であるにもかかわらず、夫に隠れて浮気しようとしている! しかも、こんなに黒ペニスに飢えている!
ベッドに上がり両膝を突いて座ったバリーだったが、制服姿がそそられるので、クリスの服を脱がすことはしなかった。制服を着せたままで、この美人スチュワーデスを犯す。そうすればバリーにとっては興奮がいっそう高まることになる。
バリーはクリスの両脚を割り、その間にじりじりとにじり寄った。すると、クリスは手を自分の割れ目から離し、ヒクヒク脈動しているペニスを握り、自分に引き寄せるではないか。しかも、自分から亀頭を濡れた開口部へ擦りつけ始めてる。バリーは思わずうなり声を上げた。
「ああ………………すごい固くて大きい………………。いいっ………! この黒くて大きな筋肉の塊………………。欲しい………………。私のエッチなところに入れて! お願い、エッチなおまんこに突っ込んで!」
クリスは、そう懇願した後、股間を突きだし、自分からペニスを自分に入れた。
「ああああぁぁぁぁ………………。いいぃぃぃぃッ!………………感じるッ! あ、いいッ………………いいッ……………… わ、私、契約更新のための特別サービス品なの! だからサインして………………。お願い………………。い、いいぃぃぃぃッ!………………あっ、すごい! ………いっ、いいいぃぃぃぃぃぃ!」
クリスは喘ぎまくっていた。
「ああん、ああん、ああん………………。すごく大きい! ………………こんなに大きいの? ああっ、いいッ………………これ、大好き! ああ感じるっ!………………大好き! あなたのおちんちん大好き! か、感じるううぅぅぅぅぅぅッ!」
バリーの巨大な黒い背中がクリスの小さな白い身体を覆っていた。いま、バリーはクリスの唇を貪っている。舌を伸ばすと、口の中から可愛い舌を出してきて、ちろちろ愛撫してくる。まるで恋人同士のようなキスが続く。
バリーは手を下に這わせ、制服の下の白いブラウスに手をかけ、強く引いた。ボタンが数個はね飛ぶ。バリーは背を曲げ、顔をクリスの胸に持って行き、彼女の敏感な乳首を貪った。
「おお、きついぜ………………。すげえ、きつい………………!」
乳首を吸いながら、きつく捉えて離さない陰部にペニスを突き上げ、バリーはうめき声を上げた。
…あのシカゴの夜はとてもすごかったわ…とクリスは先日のことを楽しく思い返していた。あの最初のセックスの後、クリスは制服を脱ぎ、素裸になってバリーの上にまたがった。股間にあの黒く大きなペニスを入れたまま、競馬の馬に乗るように激しく上下に動いた。
クリスは、バリーの睾丸に溜めこまれていた精液の量に圧倒されていた。あの夜、何度も身体を重ね合ったが、そのたびに多量の濃い精液を注ぎ込まれ、子宮が精液で窒息しそうな感覚を味わっていた。
クリスは、最初の仕事を完全に満足のいく形で成功させた。股間に感じる、あの切ない疼きは、そこに注ぎ込まれた多量の熱くトロリとした白い香油のおかげですっかり癒されていた。
特にクリスが気に入ったのは、犬のように四つん這いにさせられて、後ろから激しく犯された時。まさにサカリのついたメス犬のように扱われた時だった。
その翌朝、クリスは、契約書を手に、搭乗勤務のためスチュワーデス姿に着替え、身支度をした後、最初の顧客であるバリーに感謝のあいさつをした。バリー・ウィリアムズの前にひざまずき、彼が我慢できなくなるまで、ありがとうのキスを続けたのである。たっぷり口に出してもらった後、クリスは唇を舐めながら、達成感にニッコリほほ笑んだ。
翌日、ビルはヒューストンでのシカゴ・ブルズの試合を見ていた。シカゴを応援するビルの隣、クリスは冷たい飲み物を飲みながら一緒に座って試合を見ていた。テレビカメラがバリー・ウィリアムズを映すと、クリスは興奮して夫に言った。
「ねえあなた? この人、先週、私のフライトにいた人だわ! 確かに、本当に大きな人! 全身、がっちり固い筋肉の塊! 本当に筋肉の塊だったわよ!」
クリスは両太ももを強く擦り合わせ、ぶるぶるっと身体を震わせた。……本当に固い肉の塊……まさに一番大事な部分で!……
クリスは興味を持って試合を見ていたが、ある局面で、バリー・ウィリアムズが相手の選手と張り合うところを見た。バリーにあてがわれた専用のガードらしい。クリスは88番という番号を記憶した。「ブルドック・ゲインズ」というあだ名の選手らしい。この選手も、バリー・ウィリアムズ同様、筋肉の塊のような体格。
するとテレビのアナウンサーが言った。
「ビッグ・ブルドック! こいつはすごいぞ。廃品置き場の野良犬並みの獰猛なヤツ! 身長2メートル10センチ。体重127キロ! コイツには気をつけろ! さもないと、生きたまま貪られるぞ!」
クリスは太ももを擦り合わせながら思った。
…来週、ヒューストンでこの人と会ったら、私、生きたまま食べられちゃうのかしら?
おわり
「いいわ。悪いママね! 両手をお尻から離して上げなさい。お仕置きをしてあげる。…ううん、もっといいことがあるわ。そのシャツもたくし上げるのよ」
「クリスティ、ダメよ!」
「ママの方こそイケナイことをしたのよ。知ってるでしょ…。言われたとおりにしなさい! 今すぐ」
娘の命令口調にちょっとビックリした。まるでわたしの方が娘になって、クリスティの方がママになったみたいな感じ。
でも、これはお遊びなの。女の子二人のお遊び。そうなのよね…
わたしは息をのんで、ナイトシャツの裾を握った。それから娘の方を振り返った。できる限り無邪気そうな表情を作って…。
「ねえ、お願い、強く叩かないで…? 約束して…?」 と幼い少女のような声で訊いた。
わたしの言い方に驚いたのか、クリスティはニヤリと笑った。
「ふーむ、それは場合に寄るわよ。さあ、早くシャツを捲り上げなさい!」
ゆっくり、徐々に捲り上げた…。後ろの娘を振り返ったままで、お尻を出していく…。いまはウエストのところまで捲り上げている。
クリスティはわたしのお尻に目を釘づけにしていた。わたしがお尻を露わにしていくのにつれて、目を皿のようにしている。興奮しているのが分かるわ。娘の目を見るとそれが分かる。クリスティはわたしのお尻のこと、そんなに気になるの? もう遊びじゃなくなっている? そんなことを自問していたら、突然、一発お尻を叩かれた。わたしはぶるっと身体を震わせた。
それから何度も叩かれた。娘は叩くたび、お尻の頬に手を当てたままにして、ちょっとだけ揉んでいく。ぴしゃりと叩いては、ちょっとだけぎゅっと揉んでいく…。
「悪いママ! ママは、さっき私にあんなふうにスパンキングしたのよ。そのことの罪を償ってもらわなきゃ! ママは、お仕置きされなくちゃいけないの!」
娘の声にはもう笑いは混じっていなかった。むしろ、興奮の色が混じってる。わたしに命令して興奮している…。
背中を反らせて、また娘の方を見てみた。両眼を大きく開けて、舌舐めずりしている…。分かったわ、分かったわよ…。事態が手に負えなくなる前に止めさせなくちゃいけないのよね? 自分の娘に変なことを期待させたりしちゃいけないの。
でも、どんなに頑張っても、私自身の身体は動こうとしなかった! どうしてなの? 心の中では娘にスパンキングされるのを待っている…。もうほとんど期待していると言っていいほど…。お尻がじりじりと痛み始めていたけど、でも、もっとして欲しいと思ってる…。
「ママ、ちゃんと反省してるの? 自分がしたことを反省してるの?」
ピシャリ、ピシャリ、ピシャリ!
ああ、いい……。これ、好き……。
「ああ、ごめんなさい…。ううぅぅぅ、本当にごめんなさい……。だからお願い!」
お願いと言ったけど、自分でも何をお願いしているのか分からなくなっていた。お願いだから止めてと言ってるの? それとも、お願いだからもっとしてと?
ピシャリ! 身体に緊張が走った。今度のは強い一撃だった。
「ああん、痛い…!」
叫び声にはなっていなかった。むしろ、悩ましい声になっていた。
娘は手を当てたままにしていた。指を広げて、お尻の頬に食い込ませている。あんまり強く叩かれたので、ビックリして娘の方を振り返った。クリスティは、目を大きく開けて、お口を半開きにしたまま、わたしのお尻を見ていた。
娘はわたしが文句を言ったり、止めさせようとするのを待っているみたい。でも…、でもわたしはそうしなかった。叩かれるままになっていた。
クリスティはわたしに身体を寄せてきた。わたしの身体の横に身体を押しつけるような姿勢。娘のお腹がわたしの身体の横に押し付けられている。ハアハアと荒い息使いをしている…。娘の左手が反対側のお尻の頬を握るのを感じた。そして、その私のお尻を揉み始めるのを感じた。ぐるぐる円を描くようにこね回している…。
緊張して身構えた。これはもう遊びじゃなくなってるわ! 性的になってる。明らかに性的なことになってる! 止めさせなくちゃいけない! そう、心が叫んでいた。この子はわたしの娘なのよ!
だけど、わたしは動かなかった。娘のタッチを楽しんでいた。多分、クリスティは気づいていないから大丈夫…。だから、もうちょっとだけ楽しませて…。
「私が嫉妬する理由があるのかな?」とノボルは眉をつり上げ、訊き返した。「あなたはもう私のものだと言ったけど、冗談で言ったのではないのですよ」
アンジェラはノボルの顔を見て、真剣にそう言ってるのだと分かった。このような独占欲の強い態度には、特に、関係を持ってすぐにこういう態度を取られると、普通なら嫌悪感を感じるアンジェラだったが、ノボルの場合は、どういうわけか彼女は理解できる気がしたし、むしろ好ましいとすら感じるのだった。
アンジェラはノボルを引き寄せ、甘え、なだめようと首筋に甘噛みをした。
「ケンは元彼なの…」
アンジェラはノボルが身体に緊張を走らせるのを感じた。
「それで、彼と最後に会ったのはいつ?」 ノボルは言葉を吟味し、ある意図を持って問いかけた。
…あらまあ、早速、始まったわね…とアンジェラは思った。もし嘘をついたら、この人のことだから多分バレると思ったアンジェラは、正直に答えた。
「…先週」
ノボルの顔を見ると眼に怒りが現れている。恐怖感を抱かせる顔になっていた。
「ノブ? ただの友だち関係なのよ。相互に利益がもたらされるような友だち関係。私には、彼は何の深い意味もないの」
ノボルは少し和らぎ、力強くアンジェラを抱きかかえ、自分の上に乗せた。
「よろしい。でも、今後はダメだよ。もしあなたが私以外の人に身をゆだね、そのため、誰かが怪我をしても、私は責任を取れないから」
「この24時間を経験した後で、どうして私があなた以外の人に身をゆだねる気になると思うの?」 とアンジェラは大きな声をあげた。
それを聞いてノボルが笑顔になるのを見たアンジェラは笑いだし、そして愛情たっぷりにキスをした。
「それに、本物の狼男と張り合える男なんていないだろうし」
「正確に言って、私は狼男ではないのです。それに、その言葉は好きになったことがない」
「でも、それじゃあ、あなたなら、自分のことを何と呼ぶの?」
「2、3か所、遺伝的変異をともなった日本人…」 とノボルはちょっと狼っぽい笑顔をして見せた。
「ウフフ、でも、ノブさん? あなたは誰かがあなたのテリトリーを侵害しても心配する必要はないと思うわ」
アンジェラはゆったりとくつろいで背伸びをした。だけど、家の子猫たちがアンジェラはどこに行ってしまったのだろうと心配しているかもと思い、溜息をついた。
「大きい犬[okki-inu]さん、もう私、帰らなくちゃいけないわ」
「どうして?」 とノボルは頑固に彼女を離そうとしなかった。唇に不満そうな表情が出ている。
「私のベビーたちが待っているもの」
「ベビー?」
ノボルの大きな声に、アンジェラは顔をしかめた。ノボルが近くにある家具を窓から放り投げそうな勢いになるのを見て、アンジェラは彼の腕を押さえこんだ。
「私の子猫たちのことよ、ノブ! 多分、お腹をすかしていると思うの」
「ああっ…」 とノボルは恥ずかしそうな声で言った。「…なら、私にそのベビーたちを紹介してくれますか。私も猫たちに餌を上げるお手伝いをしますから」
この人ったら、どうしても私の姿を見続けていたいのね? …そう思い、アンジェラはむしろ心が温まる気がした。
「いいわ。ところで、シャツを貸してくれるとありがたいの。思い出したんだけど、ある日本人男が欲情のあまり私のブラウスを破いたみたいだから」
ノボルはにっこり微笑んだ。とても嬉しそうな顔をしていた。
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車を止めた後、ノボルはアンジェラの手を取り、彼女の住居があるビルの中へと進んだ。だが、突然、ノボルは心の中が騒ぎ出すのを感じた。この400年ほどのあいだ経験してこなかった感情だった。
「中に入ってはいけない」 とノボルは警告し、アンジェラを引きもどした。
「どうして?」 とアンジェラはエレベータに通じるロビーに目をやりながら訊き返した。「猫たちに餌を上げなくちゃいけないのに」
ノボルは、何かに対して警戒態勢になっているように見えた。辺りを見回しながら、彼はアンジェラの手をさらに強く握った。
「どうしてもと言うなら、二人で、猫たちと、さしあたり必要なものだけを取ってくるのは構わない。でも、それも短時間で。その後は私の部屋に戻った方がいい。ここは安全ではない。他の持ち物は、後で誰かを送って取りに来させるから」
「ノブ、何を言ってるのか私…」
言葉を言い終える前に、ノボルは両手でアンジェラの顔を挟み、優しくキスをした。顔を離した後、彼はアンジェラを見つめ、訊いた。「私を信じてくれる?」
「もちろん」 とキスの後の荒い呼吸で彼女は答えた。
「なら、お願いです。私が言ったとおりにしてください」
とても真剣な目の表情だった。アンジェラは、ノボルが彼女の身を案じてそう言ってるのだと感じた。
「分かった。猫たちとノートパソコンだけを取ってくるわ。そして、あなたのお部屋に戻ることにしましょう」
ノボルはアンジェラを引き寄せ、辺りを見回しながら、エレベータの中へと向かった。エレベータのドアが閉まった時、彼はアンジェラを強く抱きしめ、「ありがとう」と言った。
通りの反対側、向かいのビルの屋上に、高層ビルの中へ入る男女を見る独りの男がいた。黒いトレンチコートのポケットに手を突っ込みながら、男は低い声で笑い、そして向きを変えた。
つづく