「で、クリスティは、このワインを持ってきたウェイターに、また覗き見させたってこと?」 ちょっとワインの酔いが回ってくるのを感じながら訊いた。
「ママったら……」
「まあ、悪いってことじゃないけど。クリスティは、家の中、半裸の格好で歩き回ってる人なわけだし」
娘は大笑いしてワインを少し啜り、あたしのからだをちょっと見た。
「ええ、さっきと同じようにじろじろ見て行ったわ。ママ? いちばん上のボタン!」
あたしは目を降ろし、ボタンを全部、元通り留めていたことに気づいた。そうねえ、今は、この格好じゃダメよねえ。分かったわ。
あたしは上のボタンをふたつ外した。
「まだまだ、足りない!」 とクリスティはあたしの谷間を見ながら言った。
もう、この子、頭がおかしいんだから! もうひとつ外しちゃったら、谷間の下まで露出しちゃうことになっちゃうじゃないの! あたしはグラスをとって、最後まで飲み干した。
「ママ、なんでこんなことしてるのか、分からなくなってきてる」と呟きながら、3つ目のボタンも外した。
「いいわ。じゃ、今度はドレスの肩のところをちょっと両脇にずらしてみたら?……こんなふうに」
クリスティは両手を伸ばしてきて、あたしのドレスを両脇にずらした。胸の真ん中のところが大きく露出するけど、かろうじて乳首が隠れる程度に。…ほんとにかろうじて隠れる程度。
娘はそうするついでに両手であたしの胸のあたりを覆いながら、手のひらでちくびをさわさわした。もうさっきからすっかり固くなっているのに。そうされたら、途端にビリビリと電流が走って、背骨を通って下半身に。思わずからだが震えてしまう。
そんなことされて興奮したことを一生懸命に隠そうとしたけど、息が乱れて、ハアハアッってなってしまう。
「うーむ、ママ、変ね? 乳首がすごく固くなってるわよ?」
クリスティは不思議そうな眼であたしを見ながら、片方の乳首に触れた。
ああ、もっといじって。両方とも。強く引っぱって! そう思ったけど、もちろん、ダメダメ。何とか意識を正常に戻した。そんなこと母親がすべきことじゃないもの。
「はい、はい。もう充分でしょ」 落ちついた声でそう言った。落ち着いた声に聞こえていたらいいんだけど。
そうこうしているうちに、例のウェイターが戻ってきた。すぐにあたしのドレスの状態に気づいたみたい。目を大きく丸くして見てた。興奮と欲望の色が浮かんでた。
「あ、あの……ご注文はよろしいでしょうか?」 とあたしの胸に目を落としながら言う。
笑いださないようにクリスティと目配せをしあって、あたしは何とか食事を注文。彼がクリスティの注文をとってる時、横に置いておいたハンドバックの中、何か探し物をするフリをした。からだを捻るように曲げて。そうするとドレスがさらにずれる。視線を落としたら、乳首の片方がはみ出していた。自慢の大きな乳輪と乳首がドレスの端のところから顔を出している。
彼がちゃんと見れるように、しばらくそのままの格好でいた後、また前を向いた。だけど、元の姿勢に戻っても乳首ははみ出たまま。周りには誰もいないので、そのまま直さずにいることにした。
ウェイターばかりでなく娘までもあたしの胸を、興奮して飢えたようなセクシーな顔で見ていた。いつもの通り、あたしの中には、胸をすぐに隠したいという自分と、これを楽しんでいる自分がいた……こんなふうに性的な目で見られるのを楽しんでる自分。
お尻の下のシートが濡れてるのを感じた。理由は明らか。これじゃあ、立ち上がったらドレスのお尻のところに大きな濡れたスポットができちゃうわと思ったけど、気にしなかった。だって、しかたないもの……。
興奮して頭がのぼせているせいか、あたしはさらにもう一つ試してみた。どうしたかと言うと、目を閉じて、両手を持ち上げ、ちょっと肩を動かし、けだるそうにストレッチをして腕を下げる。胸が両方ともドレスの中から出るのを感じる。それからすぐに目を開け、恥ずかしそうに両手で胸を隠す。
「あらイヤだ、ごめんなさい。このドレス時々、変なふうにずれちゃうの」 そう言って、困った顔をして若いウェイターの顔を見た。
彼、今にも気絶しそうになっていた。元々、目をまん丸にして見てたのに、もっと大きくして見ている。それに彼のズボン。前のところに何か固いモノの輪郭が浮き出ていた。
「あッ、ああ、いいえ、気にせずに。いいんですよ。分かります」 そう言うのがやっとみたい。
あたしは安心した顔になって、両手を離した。胸が再び露わになる。
「ありがとう。分かってくれて嬉しいわ。今度は大丈夫かしら?」
とゆっくり時間を掛けてドレスの両サイドを引っぱって胸を隠した。乳首が隠れる程度に。
「あ、ワインをグラスでもう2杯くれる?」
彼は注文を取った後、あたしをチラチラ見ながら厨房へと戻って行った。
「すごーい、ママ! ママがあんなことするなんて信じられないわ!」 クリスティは興奮していた。
「ええ、ママも自分で信じられない」 とあたしは笑った。
「彼の目を見た? もう、目が飛び出そうになっていたわよ!」
クリスティは笑いながらそう言い、あたしの手を握って近づいてきた。
「とても楽しかった。他に何かできないかなあ?」
「そうねえ、ママはすることはしたわよ。今度はあなたの番じゃない?」
あたしは娘のタンクトップを見た。ふーむ、ここではできることはあまりないけど……でも……
「ちょっといいことを思いついたわ」 とあたしは娘のタンクトップの裾に手を伸ばした。
「新たな始まり」 A Fresh Start by Nikki J
デニスは、家の前のステップに座り、通行人たちを見ていた。通行人は多かった。大半がデニスと同じ黒人で、彼に注意を向ける者はほとんどいなかった。みんな自分のことしか頭にないのである。ステップに座る若い黒人男などこの公共団地ではありふれていて、特に注意を惹くような存在ではない。彼らの視野に入らなくて当然だった。
確かにデニスの今の状態は注意を惹くものではないかもしれない。だが、デニス自身は注意に値する存在だった。
デニスの母親はシングル・マザーである。デニスはそのひとり息子だった。父親は、彼が生まれる前に母親を置いて逃げていた。とは言え、別に彼がグレているわけではない。デニスはずっと小さいころから、最後に警察につかまったり殺されたりするのが嫌なら、きちんとした生活を送った方がよいと知っていたのである。
この公共団地に住む他の人々と比べると、デニスの肌は明るい色をしている。母からは、父親が白人だったと聞かされていた。デニスは、皮肉なことだと思ったのを覚えている。黒人男というのは親としての責任から逃げるものだというありがちの思いこみがあるが、自分の白人の父親がまさに親の責任から逃げたなんて。親としての責任から逃げるっていうのは、人種的なことというより、男の性質なんだろうなと思った。人は誰でも怖くなるものだ。だから、責任から逃避してしまうんだろう。
あまり良くない環境で育ったものの、デニスは高校を卒業し、秋から(奨学金を得て)大学に進学することになっていた。彼は、この公共団地から抜け出し、大学を無事卒業し、経済的に母親を支援できる日が来るのが待ち遠しくてたまらなかった。思い出せる限りでも、彼の母親はずっと仕事を2つ抱えて働き続けてきていた。そんな母親の姿を見てきたので、彼は一度でもいいから、自分が母親を養う立場になりたいと願っていた。
デニスは、ステップに座ったまま背筋を伸ばし、胸を張った。俺はもうすぐこの公共団地から抜け出せるんだと。
デニスがそんな思いにふけっていたとき、彼の友人のひとり、アイクが近づいてきて、声を掛けた。
「おい、どうした?」
「いや、何でも」
ふたりは雑談を交わした。アイクはデニスの小学校の頃からの親友である。最近、地元の大学の電気関係の教育課程に入ることを認められたらしい。とは言え、デニスは、アイクが進学に応募したのは、単に、デニスが進学することで周りからああだ、こうだ言われるのが嫌だったからにすぎないのではないかと思っている。アイクは教育に価値を置くタイプではないことをデニスは知っていた。実際、アイクはすでにけちな犯罪に手を染めていたし、ほんの小さなきっかけさえあれば、本物の犯罪者になる道を進むことになる人間だった。
「さっきの、糞みてえなニュース知ってるか? テロリストだか何だか知らねえが」 とアイクが訊いた。
デニスもそのニュースを聞いていた。「ああ、白人たちに何かあるとかいうヤツだろ? 全部は聞かなかったが」
「お前、ちゃんと聞くべきだったぜ。その野郎、白人男を全部、エロ女に変えるとか言ってたんだ。言い方は違うが、言ってたことはそういうことだ」
デニスはその男がベルという名前であることを覚えていた。ふたりは、そのテロリストの警告したことが実際に実現したら、どれだけ面白いことになるかと話しあった。とは言え、ふたりの会話はすぐに、その気が狂った博士とありえない計画の話しから、10代の男子のほとんどすべてが心に浮かべていることに話題が変わった。つまり、女の子についての話である。
「で、お前、ベッキーとデートに行くんだろ?」 とアイクが訊いた。「ベッキーのあの尻!……たまんねえよ」
デニスは微笑んだ。「ああ、明日の夜な」
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