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The dance 「ダンス・パーティ」 

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The dance 「ダンスパーティ」

「マリオン、こんなのバカげてるよ。絶対、通らないって……」

「女の子として? 鏡を見たらいいと思うわよ、シーン。あなた、一部、女の子っぽい部分が欠けているけど、それでも、男と言うよりは女と言った方がずっと説得力のあるルックスになってるんだから」

「君がボクをこんな狂った計画に誘ってきた時、ボクが何も言わなかったのは本当かも知れないけど、でも、あんなバカげた偽乳房だけは着けるつもりはないからね。絶対、バレちゃうって」

「それについては、話し合うつもりはないわ。まあ、あたしがちょっと夢中になってたのは認めるけど」

「夢中? それって、控えめすぎる言い方だと思うけど……」

「とにかく、あなた、最高よ。絶対、楽しい時間を過ごせると思う。絶対に」

「しょっちゅう、後ろで何か言われていないか、気にして振り返ってばかりいることになると思うよ。ボクは立派な男なのに、ドレスを着てるわけだからね。それに、ボクが10代の女の子だなんて、誰も信じないって。絶対にあり得ない」

「バカなこと言わないで。あなた、前から、実際よりずっと若く見えてきたじゃないの。歯の矯正もしてるので尚更10代に見えるわよ」

「だけど、絶対にボクだってバレるよ!」

「いいえ、大丈夫! あたしはあなたの妻なの。あの気持ち悪い顎鬚を剃ったら、あたしでも、あなたが前と同じ人だなんて思わなかったもの。うまくいくわよ。それに、このことがジャックにどれだけ大きな意味を持つか考えてみて。彼はひとりだったら、絶対にダンスパーティには行かなかったでしょ? なのに、今回は可愛い子を抱えてパーティに出られるんだから。このリスクをかけるだけの価値はあるわ」

「ボクだってジャックを助けたいよ。ジャックにとって良い義理の父になりたいからね。本当だよ、マリオン。でも、ボクだとバレた場合、どんなことになるか考えたことがあるのかい? ジャックがどうなるか……」

「ジャックはすでに落ちこぼれだわ。もう今以上、悪いことにはなりたくてもなれないほど。でも、これが上手くいったら、これをきっかけとして、階段を何段か這い上がるようになるかもしれないの。多分、あの連中も、息子をイジメるのをやめるかもしれない。それか、ジャックが素敵な女性をゲットしてると知って、他の女の子たちが彼に注目するようになるかもしれない。あなたみたいな可愛い子をガールフレンドにしてると知ったら、多分、他の女の子たちも……」

「分かったよ。すでに同意したことだしね。もう、これ。以上、説得してもらう必要はないよ。どんなに馬鹿げた計画でもね」

「その心意気よ! さてと……パーティに行ったら、気軽にPDA(公共の場で愛し合うこと:参考)はないこと。それに家に帰ったら、ジャックにおやすみのキスをしてね。それと、ジャックが望むことを何でもしてあげて。今夜は彼にとって特別に大事な夜なんだから!」

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Workout 「ワークアウト」 

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Workout 「ワークアウト」

「アレックス、何もかも、想定した通りに順調にいってるわよ。あなたがあたしのところに来た時に言ったけれど、あのままだったら、良くなる前に、ずっと悪化していたはずだったんだから」

「ああ、分かってるよ。理解してる。本当だよ。ただ……ちょっと……このウェアが……」

「普通の運動用のウェアだわ。ジムにいる他の人も、みんな、似たようなウェアを着てるんじゃない?」

「分かってるけど、でも。こういうの着てるの、みんな女だよ?」

「だから? そのウェア、あなたは気に入ってるとばかり思っていたわ。それに前にも言ったけど、あたしは、このジムでしかあなたのトレーニングはしないわ。ここは居心地がいいんだもの。だから、気に入らなかったら、別に……」

「いや、いいんだ。そういう意味じゃないんだ。ボクはいいんだよ。ただ、分かるかなあ、この部分の余分な脂肪を何とかしたいと思ってるんだよ。この胸のところをもうちょっと引き締められたら、こんなサポートのウェアを着なくても済むんじゃないかって」

「そこは、今、トレーニングしているところよ、アレックス。話は変わるけど、最近、あなた、ずいぶん周りからお世辞を言われるようになったって言ってなかった?」

「分からない。アレをお世辞と言うのかなあ。でも、男たちに言い寄られるのって、すごくキモイってのは言えるよ。こんなにたくさんゲイの男たちがいるなんて、知らなかった。それに、彼らが、こんなに積極的だってのも、全然、予想してなかったよ」

「素敵なカラダになると、そういうこともあるの。ちょっとした代償ね。それはすぐに慣れるはずよ」

「慣れっこになりたいとも思わないけど。ボクはゲイじゃないからね、ヘザー」

「やってもいないのに、拒絶するのはダメ。これは全行程の一部なの。単なるワークアウトじゃないの。ライフスタイルの改善も狙ってるの。重要なのは、新しいことに挑戦すること。人生を楽しむこと。だから、そいう男の人の誰かとデートしてみたら? どうなるかなんて分からないわよ。楽しいって思うかもしれないじゃない?」

「あ、ああ。そうだね。そんなこともあり得るってみたいな口ぶりだね?」

「やってみたら、びっくりするかもよ。さあ、ワークアウトを始めましょう!」

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Give up 「あきらめなさい」 

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Give up 「あきらめなさい」

「ああ、サラ」と部屋の前に立ったヘンリーが言った。禿げた頭部を残った髪の毛で隠そうとしてる頭、ぶくぶくに太った体、そしてニヤニヤした顔。彼の外見は、彼の性格を正確に表していた。とは言え、彼が従事している業界では、そもそも、善良と呼べる人間はほとんどいない。彼は、いつも持っているハンカチで、汗が噴き出た顔をぬぐった。「ジャックに会いに来たんだが」

「どうぞ」とサラは、横によけ、彼を招き入れた。夫と長い間暮らしてきたこの家。ここにこの男が入ってくることなど望まぬ彼女ではあったが、家の中に、彼に是非とも見てほしいことがあったのである。彼に是非とも理解してほしいことが。

「ということは、ここにジャックがいるということだな?」

ヘンリーはずかずかと家に入った。彼が歩く一歩一歩が、「自分は偉いんだ」と大声で言っているようだった。「どうしてもジャックと話さなければ……」

ヘンリーの声は途中で弱々しい調子に変わり、やがて彼は黙ってしまった。リビングルームの白いコーヒーテーブルの上にひざまずく裸の女性を見たからだ。つるつるの滑らかな肌、濃い色の長い髪、丸い腰つき、そして美しい顔。……瞬時ではあったが、ヘンリーはその女性の姿を隅々まで捕らえた。そして、彼女の脚の間にぶら下がるモノを見て、咳ばらいをした。彼は目をそらした。「ああ、お客さんがいるとは知らなかったから……」

「お客さん……」 サラは気だるそうな口調で言った。「フランチェスカはお客さんじゃないわ。もっと言えば、彼女を人間と思わない方がいいかも。どっちかと言えば、芸術作品。そう思いませんこと?」

ヘンリーは女性の方を見ずに、再び顔から汗をぬぐい、咳払いした。「綺麗な人だ。とても綺麗だ。だが、私はあの人を見に来たのじゃない。ジャックに会いに来たのだ」

裸の女性は、同じ姿勢でいたが、少しだけ頭をかしげ、ヘンリーたちの方を振り返った。何かに気づいたのか、瞳が一瞬ひかった。

「うふふ。もう会ってるんじゃありません? あなたが想像していた形ではないかもしれないけど。まあ、確かに予想とは違うでしょうね」と彼女はフランチェスカを指さした。「でも、そこにいるのは、あなたの彼氏よ。というか、あなたの彼氏だった人の抜け殻」

「な……何を言ってるのか……理解できない」

「まあ、そうでしょうね」とサラは答えた。「でも、これだけは言っておきましょうね。あたしはジャックの性的な奔放さにうんざりしていたと。それを何とかしようと思ったと。それだけ。……で、あなた、もう帰った方が良いと思うわ。彼と同じ運命になりたいと思うなら話は別だけど。でも、あなたの場合、どうやっても、そんなに可愛いシシーになりそうもないのは確か。でも、あなたも心の奥に何か隠してるでしょ? あたしにはそれは分かるわ。それが何なのかを探ってみるのって、それはそれで面白そう」

ヘンリーは血相を変え、後ずさりした。サラの笑い声が部屋を満たした。それを見て、ヘンリーはあわてて家から出て行った。サラは男が帰っていったのを見届け、彼女の夫だった人に顔を向けた。

「ほらね、分かったでしょう? あなたを助けてくれる人は誰もいないの。あなたの中に、歯向かう気持ちがどれだけ残ってるのか知らないけど、もう、そんな気持ち、勝手に死んでいくから、放っておくのがいいんじゃない? 意味がないもの」

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