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裏切り 第6章 (5) 

アンジーはオフィスには派手すぎる服装をしてくる。それにヘアスタイルも化粧も、大半の保守的でポリティカル・コレクトネスを求めるアングロサクソン系の白人層の基準からすれば過剰すぎるものである。だけど、それは彼女の場合はしょうがないものであるとオフィス内では受けとめられていて、スタッフの男性メンバーたちにとっては毎日の喜ばしい気晴らしとなっている。たとえ彼女が、その発達した腰やお尻や太ももをオフィス内の所作としてはちょっと過剰に振って見せたとしても、僕のいる部署で苦情を言うものなど、ひとりもいないのだ。

確かに、従業員間で時折ちょっとした騒ぎが発生し、「適切なビジネス用の服装と身だしなみ」についてメモが回覧されたりすることもある。そういったメモは、間違いなく、陰険な同僚が匿名で書いたものだろう。だけど、そういった騒ぎが起きても、これまで何も変わらなかったし、僕たちが監視されるようなこともないだろう。(リーダーである僕も含めて)6人の上級トレーダー全員が上層部にメモを送ったからである。アンジーに対して、何の理由もなく何らかの処置が下されるようなことになったら、6人集団で会社を出ると脅かすメモだ。僕たちの世界では、つまらない嫉妬心よりマネーがモノを言う。だから、たちまち騒ぎは収まった。

それでも僕たちは、アンジーの振舞いについて注意を払い続けた。何らかの「口実」がねつ造されないようにするためである。そういう僕たちの行動を何と言うのだろう。自分の娼婦を守るポン引きの行為? あるいは排外主義? どうとでも言ってくれて構わない。僕たちは仲間を守るのだし、アンジーを自分たちの仲間と考えている。彼女がどんな服装をするか、プライベートな時間にどんなことをしているか、誰と一緒にそれをするかなど、仕事が順調に行われている限り、彼女以外の人には関係ないことなのである。

アンジーは一緒に働いている男性すべてに色気をふりまいているが、中でも彼女が一番いちゃつく相手はいつも僕だった。その僕も、ビル・クリントンの言葉を使うと「心の中で彼女に淫らな思いを抱いていた」と言ってよいし、僕も彼女にいちゃつき返してきた。だが、そもそも、そういうふうに思わない男性などいるだろうか。スーザンに心身とも捧げていた頃でも、アンジーのことは今と変わらない。


何週間か前、僕の夫婦危機についての噂が、職場の休憩所での話題になると、アンジーは早速、自分自身の問題として取り上げ、できる限りのことをして、僕のその問題を忘れさせようとしてくれた。彼女は、僕に、いつもに増して人懐っこく接し、気を使ってくれたし、服装規定の限界ぎりぎり、まさに破らんとするところまで挑戦しようと決心したようだったのである。アンジーの「気晴らし作戦」を受け、僕は、ひょっとして彼女は仕事を超えたところまで考えているのではないかとさえ思った。

「ボス? この週末は忙しかったの?」 とアンジーが明るい声で言った。

彼女の笑顔を見て、僕の気持が明るくならないなんてあり得ない。あの心のこもった、思わずこっちも笑顔になるような笑顔。しかも、心臓が止まりそうなキワドイ服装をしている。

スーツはタイトな白いスーツで、スカートの裾は膝のちょっと先のところ。タイトスカートのおかげで、キュッと細いウエストが強調されると同時に、歩く時に脚の動きが制限され、おおげさにお尻を振るような歩き方をしている。ジャケットは襟元が大きく開いたデザイン。その下には赤紫色のシルクのブラウスを着ていて、ジャケットの襟元のV字のラインに沿うようにボタンを外している。ノーブラでいるのは見てすぐわかり、身体を動かすたびにFカップの胸が甘美に揺れ動いていた。脚を濃い茶色のストッキングで包み、その脚先にはブラウスと同じ赤紫色のパンプスを履いていた。足首にストラップで留めるパンプスで、ヒール高は13センチ。

アンジーは両手を僕のデスクに突いて前のめりになる姿勢になっていた。おかげで彼女の深い胸の谷間がはっきりと見え、僕の目を楽しませてくれている。

「ああ、確かに忙しかった…。でも、とても楽しい週末でもあったよ」

「ウフフ…。やっぱり、思った通り」 とアンジーはウインクして笑った。「どことなく、エッチしてきたばかりみたいな雰囲気が漂っているもの。女の子には分かるのよ」

僕は思わず椅子から転げ落ちそうになってしまった。ひょっとして僕の首の周りにネオンサインでもついてるのだろうか? ともあれ、アンジーの言葉は無邪気なジョークだったのだと思うことにした。

「ああ、アンジーにはやられちゃうなあ」 と素直に僕は白状した。「君の目には何でもお見通し何だね。実際、相手の人も良い人だった」

「ズバリ、ストレートに言うわね。…で、その人は元妻ではないわよね?」

「うん、違う」

「ああ、良かった…」 と彼女は猫なで声を上げた。「ということは、私のような日焼け顔のメキシコ系日雇い労働者にも希望が残っているわけね」

僕はデスクの向こうに手を伸ばし、彼女の手を僕の手で覆った。そして、彼女の大きくて表情豊かな瞳を見つめた。

「アンジー? 君がどんな人であれ、少なくとも、君はそんな存在じゃないからね」

一瞬、彼女の瞳がうるんだように見え、その後、ちょっと真顔で僕の身体を確かめるような仕草をした。

「ランス? ちゃんと食事はとってる?」

「ああ。……どうして?」

「分からないけど。……でも、何だか、ちょっと痩せたように見えるから」

この言葉に、僕はちょっとドキッとした。アンジーは心のこもった笑顔のまま、やんわりと僕の手の下から手を引き抜き、軽く僕の手の上に乗せた。

「というか、あなたは依然としてとても素敵よ…」

アンジーはそこまでは真顔で言った後、すぐに元の彼女に戻った。「……とっても、とっても素敵。まあ…何と言うか…ただお世辞を言ってるだけだけど…。ウフフ」
 
アンジーは僕の手の甲を優しく擦った。指先の爪が完璧に磨かれているのが見える。そして、呟くような声で言った。

「…あと、それから、さっきボスは『君がどんな人であれ』と言ったけど、本当の私がどんな人間か知りたくなったら、いつでも私に教えてね」

そう言って彼女は踵を返し、ドアに向かった。そして僕は、この20分間でまたもや、あり得ないほどヒールが高いハイヒールを履いて堂々と歩き、肉感的に左右に振る彼女のお尻を眺めることができた。スカートの生地がはち切れそうなほど伸びて彼女のお尻を包んでいる。そして、その二つの尻頬が出会う部分に深い谷間ができているところまで見ることができた。

アンジーはドア先まで行き、肩越しに僕を振り返り、ウインクをした。

「私、このドアのすぐそばにデスクがありますから。OK? …って、でも、そんなこと、前からご存知ですよね。アハハ」

オっ…オーケーだよ…。まあ、ともかく、アンジーの明るい態度のおかげで、僕が痩せて見えること(つまりコルセットをつけていること)については、妙な雰囲気を一掃できたみたいだ。さて、今度は、もうひとつ僕の頭を悩ます別のことを考えなければ。


[2012/11/29] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)