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67 It gets better 「良くなっていく」 

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67 it gets better 「良くなっていく」

良くなった。良くなると言われたのを覚えている。良くなっていく。この単純なメッセージは、私が高校生の頃、いつでも、どこでも言われたことだった。良くなっていくと。当時、私は、そんなのウソだと思っていた。教育ビデオに出ている人たち、彼らは私の人生を生きてるわけではない。私の抱えている問題を抱えているわけではない。両親。クラスメートたち。彼らは、私のような人間で生きることがどういうことか分かっていない、と。

自分の問題は他にはない自分特有の問題だ。そう思うと気が楽だ。気持ちの上では、他の誰も、私のような人間であることを経験していないと思っていた。私は他の人と違った存在にはなりたくなかった。本当に、私は、自分が普通になるために、できることをすべて試したのだ。他の男子のような歩き方や話し方を真似した。「普通」で目立たない背景のような存在になって溶け込みたかった。だけど、できなかった。

みんな知っていた。みんな、私の表面的な偽りの姿をすべて見透かしていた。いくら努力しても、みんな、私が普通の男の子ではないことを見透かしていた。なぜ見透かされるのか、自分には分からないけれど、みんな、知っていた。そして、それがゆえに、みんな、私に地獄のような苦しみを与えた。

自分はその苦しみに耐えたと言えたらどんなにいいだろう。だけど、常時イジメを受け続けると、人は、それなりの影響を受けるものだ。当時を振り返ると、私は、それは弱さだと思っていた。からかわれていた人は他にもいた。侮辱されたり中傷される人は他にもいた。でも、その人たちは平気でいるように見えた。なのにどうして、その悪意が私に向けられると、こんなに私は心が痛むのだろう? 正直に告白すると、私は、一度ならず、その状況を完全に終わらせることを考えた。当時の自分が知っていた、それを実現する唯一の方法。自分は何のために生きているのか? 友人はいない。両親は私を愛してくれているが、彼らは、真の私ではない、何か他の形の私を気にかけているのではないかという気持ちを拭い去ることができなかった。両親は偽の私を愛していたのだ。仮面をつけた私を愛していたのだ。私の真の姿を知ったら、両親は、私の同年代の人たち同様、私を憎んだだろうと確信している。だから、私が突然この世から姿を消しても、私が……真の私が……いないことを誰も悲しまないのではないか? 誰が気にするだろうか?

当時、私がどれだけ真剣に自殺について考えていたか、今はよく分からない。おそらく、本気でそれを実行に移すつもりはなかっただろうと確信している。だけど、心の奥では、それも本当かなと疑っている。当時、あの最悪の日々がずっと続いていたら、私も自殺という道を進んでいたかもしれない。世の中に、私と同じように、悲惨な日々を過ごし、生きるより死んだ方が楽だと思ってしまった人々がいることを思うと悲しくなる。

いつから事態が変わり始めたのか、よく分からない。でも、良くなったのは確かだ。実家を出て、両親の期待から逃れた時から始まった。ありきたりの言い方に聞こえるとは思うけど、自分自身を発見した時から、自分が生きたいと思う人生を進み始めた時から始まったのだと思う。周囲のネガティブな言動がなくなったわけではない。変身途上の時期、いつも、私は人々に汚いものを見る目で見られた。噂話も耳にした。男性優位主義の言動を耐え忍んだ。だけど、そのようなことは、自分が本当になりたい人間になりつつある時は、そうでない時に比べれば、はるかに対処しやすいものだった。

そして、今は? まあ、さっきも言ったように、良くなっている。この2年ほど、誰も私の生き方に誹謗中傷を投げつける人はいない。確かに、いやらしい声を掛けられることはある。だけど、それは、どの女性も経験していることだし、自分の生き方に投げつけられる脅迫に比べれば、ずっと好ましいものでもある。両親は、まだ躊躇いは残しつつも、あるがままの私をしぶしぶ認めてくれた。両親にとって辛いことだろうとは思うけれど、ふたりとも私が幸せになることを求めていると思っている。もしかすると、私がそう期待しているだけかもしれないけれど。

いまは私には友人がいる。恋人がいる。彼氏がいる。要するに、今の私は、私がずっと前から求め続けてきた人生を生きている。自分は運がいい。それは分かっている。このような人生にたどり着こうとしても、できなかった人が何人もいるから。そもそも、試すことすら諦めてしまった人が何人もいるから。でも、完璧な形にはならないにしても、他の人があなたになってほしいと思うような生き方をするよりも、自分が生きたい生き方をする方が、はるかにずっと幸せが大きい。

だから、私はこう言いたい。多分、信じないかもしれないけど、良くなっていくと。良くなっていかなければおかしいと。


[2018/05/07] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

67 Initiation 「イニシエーション」 

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67 Initiation 「イニシエーション」

グラントは、男子学生クラブに加入を希望していた。彼は振り向いて、そのクラブ員たちを見た。顔には居心地が悪そうな表情を浮かべていた。「本当にこれをしなくちゃいけないんですか?」 懇願するような声になっていた。

学生クラブの団長のポールは頷いた。何かを期待してるのか、ニヤニヤしていた。「クラブに入りたかったら、やらなきゃダメだよ。簡単なことだろ?」

グラントは溜息をついた。周りの人に気づかれないように、駐車場に背を向けた。彼はガールフレンドから借りた無地の白いドレスを着ていた。頭にはウィッグを被り、サングラスと花をアクセサリーにしている。

男子学生クラブに加入するための儀式。グラントが他の男子学生と同じような容姿だったら、これもそんなにひどいことではなかっただろう。他の学生はみんな肩幅は広く、脚は毛むくじゃらで、顎も突き出て割れていたから、女装したらバカ笑いの種になるが、グラントは違った。自分の姿を鏡で見て知っていた。彼は、自分が少なくとも大半の女子と同じくらいは女性的に見えることを知っていた。

脚にはほとんど毛がなかったが、それも剃りきった。残ったのは、恥丘とおちんちんの上に茂みがちょっとだけ。その結果、元々、女性的だった脚がますます女性的で、柔らかそうで、つるつる滑らかに見えるようになった。彼の全体的な容姿からすれば、その脚の姿はふさわしい。けれど、そのおかげで彼は何度も「可愛い男子」のあだ名で呼ばれることになった。こういった容姿と、普通よりは小柄な体格のせいで、彼は際立って女の子っぽく見えるようになっていた。

彼はドレスの裾をいじりながら機会を待った。学生クラブ入会のためのイニシエーションが始まってから初めて、彼は断念することを考えた。その考えに膝まで嵌った時、一台の車が近づいてきた。車の窓が降り、中から年配の男性が顔を出した時、グラントは心臓が喉から飛び出てくる気がした。

「お嬢さん、何か困ったことでも?」 とその男性が訊いた。

「あ、いえ……あたしは、ただ……」 これから学生クラブの仲間になるはずの学生たちが期待していたように、グラントは甲高い女性的な声を使って答えた。そして一度、深呼吸をし、緊張を鎮め、おもむろにドレスの裾をめくりあげ、スカートの中、何も着ていないことを露わにしたのだった。「あたしは、ただ、あたしが可愛いシシーだというのを皆さんに知ってほしいだけなんです」

「ああ、なんてこった!……お前、変態だな!」 男性はそう叫び、アクセルを踏み急発進で走り去った。タイヤの軋み音に続いて、グラントの学生クラブの仲間たちの笑い声が聞こえた。彼らは駐車場の車の影に隠れて、グラントとあの男性とのやり取りを見ていたのである。

グラントはドレスの裾を降ろし、彼らの方を向いた。「ほらね、やったよ。だから、頼むよ。もう、この服を脱いでもいいよね?」

会長のポールはグラントを頭からつま先までまじまじと見て、「まあ、その件についてはなんとかできるんじゃないかな」とイヤラしそうな笑みを浮かべた。「寮に戻ってからだな。それを脱いだ後は、お前のような可愛い入会希望者には、もう2つ、3つタスクをしてもらうことになってるから」



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