ケイトは俺を窓枠で箱型に組んだところへと導いた。歩いていると、大道具係のひとりが、その箱型の中に小さな黒い椅子を運び入れた。
「ありがとう、ピーター」 とケイトは立ち去る大道具係に声をかけ、彼は頷き、ステージを覆っている黒いカーテンの向こうに姿を消した。
するとケイトは俺を曇りガラスの窓枠の間に立たせ、俺のシャツの裾をズボンから引っぱり出した。
「服を脱いで」 と彼女は、急いで俺を脱がせにかかった。
ケイトはこのクラブのオーナーだし、俺を金持ちにしようとしてくれてる女だ。もちろん、俺は抵抗する気はない。言われたとおり、服を脱ぎ始めたが、その前に脱いだ服のポケットに手を入れ、中からミセス・グラフの結婚指輪を取りだした。
「これは失くせないんだ。どこか安全なところはないかな」 と割と大きなダイアモンドを見ながら訊いた。
「貸して」 とケイトは言い、俺の手から指輪を取った。
「わーお」 ダイアを見てケイトは目を大きくした。「これは私が嵌めておくわ。そうすれば失くさないでしょう」 と彼女は言い、自分の薬指にはめた。
俺は急いでズボンを脱ぎ、さらに靴もソックスも脱いだ。脱ぎ捨てたズボンや靴をまとめ、後ろのところに置いた。すると突然、ケイトが俺の下着の腰バンドのところに指を差し込むのを感じた。そして、俺が言葉を言う間もなく、ケイトは、あっという間に下着を踵のところまで降ろしてしまった。
すでにペニスは半立ち状態になっていたが、冷たい空気にさらされて、急速に固さを増していた。ケイトは俺の前にひざまずき、足元から下着を引き抜いているところだった。
「そこに座って」 と彼女は先の小さな椅子を指差した。
言われたとおりに椅子に座った。その次の瞬間、あっという間にケイトは俺の手首に手錠を当て、カチャリと錠をかけたのだった。手錠のもう一方の端は椅子に取り付けられた。手を動かせる余地はほとんどない。
ケイトはもう一方の手にも手錠をかけ、それから、しゃがみ込んだ。冷たい指が俺の足首を握るのを感じた。足を少し引っぱられ、その後、冷たい金属製の拘束具が足首につけられるのを感じた。冷たい鉄の拘束具で足首がしっかりと固定される。
俺は、こんなふうに身動きを取れなくされることに苦情を言おうとしたが、その間にも、ケイトはもう一方の足首を拘束していた。
実にあっという間に、俺は小さな椅子に固定され、素っ裸で座らせられてしまった。曇りガラスの窓枠でできた小さな空間の中、これから何が起こるのか、俺にはさっぱり分からない。
ケイトは俺が脱いだ衣服の山を抱えると、俺の方を振り返り、身体を傾け、俺の耳元に囁いた。
「ただここで待っていなさい。ショーはもうすぐ始まるから」
そう言った後、ケイトは立ち去ってしまった。背後に聞こえた彼女の足音からそれが分かる。
待っている時間は実際は短かったのだろうけど、俺には長い時間だった。その間、俺は、さっきマルチナと一緒にステージに出てたブロンド女のことを考えていた。どういうわけか、見覚えがあって仕方なかったからだ。知っているはずなのだが、どうしても顔が同定できない。あんな流れるように美しいブロンド髪をした女は、俺の記憶にはなかった。
そんなことを考えていると、突然、照明がぐるぐると回り始め、ステージがぱっと明るくなった。音楽のボリュームが上がり、ゆっくりとステージを囲むカーテンが動き始めた。カーテンが開いていくのに合わせて、俺の心臓がドキドキと高鳴る。
見てみると、この曇りガラスを通して、向こうが見えることに気がついた。ちょっと薄ぼんやりはしているが、クラブ内の人々の姿がよく見える。すでにステージの周りには数人、客が集まっていたし、中には相手の男に肩車してもらって見ている女たちもいた。
赤いドレスを着ていたケイトが見えないかと客たちを見回したが、見つけられなかった。実質、クラブのほとんど全員が裸になっているので、ケイトがあのドレスを着たままだとしたら、彼女を見つけられないはずがない。
俺はケイトが座っていたテーブルへと目をやった。次の瞬間、息が止まりそうになった。口をあんぐり開け、目を皿のように大きくしていたと思う。
「なんてことだ!」
ケイトのテーブルには、ミセス・グラフが座っていたのである。
ビルはしばらくクリスの上に覆いかぶさっていたが、ようやく回復したようだった。これは、彼にとって、人生で最高のセックスだった。身体を起こし、脱ぎ捨てた衣類を拾い、寝室へと向かった。
クリスも立ち上がった。レースの黒パンティがスルスルと脚を滑り、踵へ落ちた。精液で濡れた下着から足を抜き、拾い上げた。その汚れた下着を使って、固い木の廊下の床に点在する濡れた染みを拭った。
再び立ち上がり、自分の股間を見て、クリスはくすくす笑った。夫が出した水っぽい精液が太ももの内側からストッキングを履いたままの脚を伝って流れおちていく。右足の方では、早くも、いくらか足とハイヒールの隙間に染み入っていた。
主寝室に入ったビルは、キングサイズのベッドにドスンと音を立てて横たわった。それを見ながらクリスは寝支度をしにバスルームへ向かった。
汚れたパンティを洗濯物入れに入れながら、クリスは股間に目を落とし、いまだに脚の間から白濁が流れているのを見た。夫の水っぽい精液が流れるのをもっと見ようと、わざと陰部の筋肉に力を入れ、締めつけてみた。いまは左足のハイヒールにも精液が染み入っている。
それにしても、ビルの精液は何て薄いのだろう。クリスは信じられない思いだった。…ほんと、水みたい! でも、すごいわ。ビルがこんなに出したのは初めてじゃないかしら! たぶん、あのロールプレイのおかげね。黒人の逞しい男に私が犯されるプレイ! ビルは、あれで、ものすごく興奮したみたい」
その夜、クリスはベッドの中、疲労で大きないびきを立てて眠るビルの横、夫を喜ばせ、これまで最大の射精をさせたことを誇りに思いながら横たわっていた。オーガズムに達したように見せたけど、それはまったくの演技だった。とはいえ、それは今の誇らしい気持とは関係ない。
実際、あの時、太ももをぴっちりくっつけて締めつけていなかったら、夫のペニスの存在を感じたかどうかも怪しかった。悶えるような動き、身体の震え、痙攣、そのすべてが夫のことを思っての意図的な演技だった。自分に激しいオーガズムを与えたと夫に思ってほしかったからのことだった。
ビルが真実を知ったら、いいのに……と彼女は思った。
クリスは先週末のことを思い出しながら、ずっと眠れずにいた。その日、クリスは何かのきっかけで、ビルが夢中になってみていたバスケットボールの試合を途中から見たのである。
普段はスポーツには興味がないのだが、試合をしているのがシカゴ・チームであると聞いて、興味を持ったのであった。シカゴは、翌週、フライトで向かう都市である。それに、シェリーに誘われてアルバイトをしているスポーツ・エージェンシーから、まさに同じシカゴ・チームに属するある選手について最初の契約更新の仕事を任されていたのである。もちろん、この仕事はアルバイトであって、夫には彼女がしていることを決して知られたくない仕事であった。
テレビで、その最初の契約更新をする選手の名前が流れた時、クリスは、何て皮肉なんだろうと思った。
ちょうどその時、その選手が非常に破壊的なプレーをしたのである。その破壊力に驚いたビルは、大きな声で叫んだ。
「クリス! 今の、見たかい? バリー・ウィリアムズがボールをぶち込んで、相手のディフェンダーたちをこてんぱんに蹴散らしたところを! すごいなあ、こういうヤツを男の中の男というんだろうな。本物の怪物だ! 身長は2メートル、体重は115キロはありそうだ。しかも、固い筋肉の塊!」
「ええ、ビル、本当ね。逞しい男ってこういう人を言うのかも! それに、あなたの言うとおりね……115キロの筋肉の塊!」 クリスは独り言のように、呟いた。
それが先週末の出来事。そして、クリスは、今度は、昨夜のことを思い出していた。シカゴ往復のフライト勤務で、昨夜はシカゴに一泊してきたのである。そして、同時に、ある著名なスポーツ選手から最初の契約更新を勝ち取った。彼女は、そのバイト仕事の一部始終を、どうしても思い出さずにはいられなかったのだった。もちろん、そのスポーツ選手とは、夫がテレビを見て圧倒されていたバリー・ウィリアムズだった。