理解できると思うけれど、レキシとのランチは、出だしはちょっと気まずい感じだった。2人で道脇の小さなキャフェに入った。レキシのヘア・サロンの近くの街角にある店で、いつも2人で行く所だった。何とか気まずい雰囲気を打ち破りたかったので、私は率直に、心に浮かんだ最初のことから話を切り出すことにした。
「彼女、素敵だったわ。もっと言えば、あなたたち2人、一緒にいた姿、とても素敵だったわよ」
「・・・ありがとう」 レキシは躊躇いがちに言った。「彼女、本当に素敵になったと思うわ。そうだったでしょ? あなたのおかげで、彼女、自信を持ったのよ。それにセリーヌも・・・」
レキシはちょっと顔を落としてテーブルを見た。それから、意を決したように再び顔を上げた。
「あなた、どこまで見たの?」
「さっき言ったとおり。見たわ。私は、あなたたちと同じ部屋にいたの。陰のところに。私・・・彼女があなたにしているのを見ながら、そこで自慰をしたわ。あなたがいったのにあわせて、私も達したの。とてもエッチだった」
そこから会話が、飛行機が離陸するように滑らかになった。
「あなた、気にしている?」
「ええ、もちろん!・・・でも、今の私には、ダニーを独占する権利なんかないし、あなたは、いつも私がどれだけすばらしい人を相手にしているか、知りたがっていたもの。だから・・・」
レキシは、顔に夢見るような表情を浮かべながら私を見た。
「あの小部屋での交わりは、あの夜、たくさんしたことの一つに過ぎなかったわ。数え切れないほど、愛し合ったの。土曜日の朝には、ほとんど仕事に出てこれないくらいになっていた」
「ダニーは女を満足させる方法を知ってるのよね」
レキシが顔を輝かせた。熱をこめて、言い含めるように、話し始めた。
「たぶん、私は、あなたと違って、ずっと彼女を欲しいという風にはならないと思うの。・・・つまり、私はやっぱり男が好きだということ。だけど、残念だけど、ダニーは女の子。ほんと、あんな風に私を燃えさせるボタンをしっかり押してくれる相手は、これまで一人もいなかったわ」
レキシは、私が涙目になりかかっていたのを見たらしい。私の手を両手で握って、軽く揉んでくれた。
「大丈夫。あなたと彼女の仲は終わっていないから。ダニーはいつもあなたのことを話しているのよ。私の見るところ、ダニーは、あなたが彼女に会いたがっているのと同じくらい、あなたに会いたがっているはず。・・・あなたには悪いと思ったけど、彼女に、あなたのレイプ事件のことを詳しく話したわ。それに、あなたが、あのレイプ犯とは知らずに、あの男たちを招きいれた理由が、夢を実現しようとしたことだったということも。つまり、あなたとダニーが、他の男性2人に一緒にセックスしてもらうという、あなたの夢・・・」
「ダニーは、それを聞いて、話してくれたわ。そもそも、本格的に女性への変身を始めたのは、あなたがその夢のことを話してくれたときからだったって。それに、その夢は、彼女にとっても興奮する夢だったらしいの。ただ、あの時点では、彼女は、男とセックスするとどういう風な感じになるか、自信が持てなかったということ・・・」
「あなたが時々、気楽に男遊びをする件については、ダニーが口で言っていたよりずっと彼女を傷つけていたのよ。彼女が何も言わなかったのは、彼女があなたのことをそれだけ愛していたから。あなたと別れたくなかったから。ダニーは、あなたが喜ぶように変身することで、やがて、そういうことをやめてくれると信じていたの。実際、女性化した結果、あなたたちの関係はすごく良くなっていたんだから。そう思っていたところ、あの夜、家に帰ってみたら、あなたがベッドの上で、私たちがフライデーズで出会った男2人とセックスしていたのを見てしまった。ダニーはどうしてよいか分からなくなってしまったのね・・・」
「ともかく、あの夜、実際にどんな事が起きたか、実情を知ったダニーは深く傷ついたわ。彼女は、心から、あのようなことがあなたの身に起きて欲しくなかった。ダニーは、心から自分を恥じたの。あの時、ダニーは、あなたが男たちにいたわりの欠片もないやり方で体を貪られていた間、隣の部屋にいて何もせずに座っていたのね。そんな自分が嫌になっていた。それに、あなたの姿を見たダニーは、あなたのことを、こんなに思いやりのない行為が平気でできる人だと思ったらしいの。事実を知ったダニーは、そんな風にあなたのことを思ったという点でも、自分を嫌になってしまったのよ」
今度は、私が顔を下げて、テーブルを見つめる番になっていた。溢れてくる涙をこらえていた。