バーバラは続けた。
「それにスティーブが言ったことは本当です。妹は、知ってて、スティーブを誘ったんです。妹が言うには、14歳の頃からスティーブとセックスしたいと思っていたらしくて、今がその時と思ったようなんです」
スティーブはバーバラを見つめたままだった。彼は、キンバリーが、そんなに前から、そういう欲望を持っていたことをまったく知らなかった。ただのありがちな幼な恋のようなものとばかり思っていたのだった。
「・・・そのことを昨日、聞きました」とバーバラは締めくくった。
スティーブは、ためらいがちに口を開いた。
「彼女は・・・つまり、彼女は・・・?」
バーバラは、言葉にされなかった疑問文を察し、頷いた。
「キムは、ダラスにある治療センターにいます。薬物から足を洗おうとしています。また、精神科カウンセリングを受け、薬物依存の治療と同時に、どうしてこんなに・・・何と言うか、ふしだらになってしまうのか探ろうとしています」
それを聞いてスティーブはうんと頷いた。少しだけ心が軽くなる感じがし、少し明るい表情を顔に浮かべた。バーバラが現れたことでうろたえていた気持ちから、少しずつ、立ち直り始める。
バーバラがカウンセリングに出てきたことは、そんなに困ったことでもないのだ。そのことがあっても、いまのゴタゴタから抜け出る道を用意してあることには変わりないのだから。
一方、ヴェルン・ヒューストンは、スティーブとバーバラのやり取りを聞きながら、怒りを感じつつ、考え続けていた。このカップルを元通りにさせようと努力してきたのに、突然、何も告げられず、何も予告なしに、危機が降りかかってきた。このようなことへの気構えはまったくできていなかった。だが、細かなことすべてを調べあげる時間的余裕はない。事態はどんどん進行している。ヒューストン氏は咳払いをして、話し始めた。
「一緒にミーティングを始めた時のことを覚えておられますか? お二人とも、明かすべきと思ったことはどんなことでも話すよう、同意なさったはずですぞ。この場は、お二人が必要と思ったことは何であれ、それを話し合うための場なのですよ」
ヒューストン氏は、そこまで語った後、しばらく沈黙を保った。そして、スティーブとバーバラの両方が頷くのを見届けた後、バーバラに向かって言った。形式ばった声だった。
「カーティス夫人、この1週間に明らかになった出来事について、ご主人にどんなことを仰りたいとお思いですか?」
バーバラは、思いをめぐらすような顔つきでヒューストン氏を見、それからスティーブを見た。かなり長い間、沈黙のままだった。ようやく口を開いたとき、彼女は感情を堰き止めていたダムを大決壊させるかのように、感情を爆発させ、叫んだ。
「どうしてこんなことを! よくも、私に、こんなひどいことをできたものね!」
スティーブは、自分の行為の一部はバーバラにあてつけたものだったことを否定することはしなかった。自分の動機をごまかす気など一切なかった。
「なぜなら、君は僕の言うことを本当には聞こうとしなかったからだよ。僕が心底、傷つき、虚しい感情に占められているのが、君には分かっていないと言ったのに、全然、聞こうとしなかったからだ。・・・君は、理解していると言い続けていたが、本当には何も理解してなんかいなかったのだよ・・・」
スティーブは、咎めるような口調になっていた。
「君が感じていたことなど、すべて、僕が対処しなければならなかったことに比べれば、まったく、取るに足らない、つまらんことばかりだったのだよ。・・・なのに、いつも、そう言い続けてばかり。毎日、毎日、同じことばかりだ。君も、君の母親も、そして父親も・・・いつも、誰かが、僕に対して、過剰反応していると言い続けていた。全然、そんな深刻なことじゃないんだとか、僕が過剰に思いすぎているとかね・・・」
「・・・まあ、これで、今は君も分かっただろう・・・今なら、君も、誰か愛しく、非常に大切な人を自分から奪われるということが、自分をどういう気持ちにさせるのか、分かっただろう。そんな、甘美で素晴らしいイメージから、突然、遮断されてしまうというのが、どんなものか、ようやく分かっただろうさ。そうだろ、バーバラ?」
スティーブは、息を荒げながら、ソファに背を預け、ふんぞり返った。苛立ちを現すように、両手の指がソファの肘掛の上、せわしなく動いていた。
ヒューストン氏もバーバラも、沈黙していた。二人とも、それぞれの思いを巡らしながら、スティーブのことを見つめていた。