俺はこの場所のことを細かく観察しようとしたが、多分、全部は覚えていられないだろうと思った。そこで、ステージのカップルに注意を向けることにした。
いまや男は立ち上がって、勃起を女の肉門に位置づけていた。男のペニスが女陰を左右に裂いて、侵入していくのが見える。
挿入の後、男はゆっくりと出し入れのテンポを上げて行った。女は、両手・両脚を拘束され、身動きができないまま、ズブリズブリと出し入れされている。その女の口から出される、喘ぎ声やよがり泣きから、女が感じまくっているのが分かった。さっき、音楽に仕込まれている周波数のことを聞いたが、まさに、その効果を実証しているようなヨガリぶりだった。
ステージの周りには多くの観客が集まっていて、その目の前で、男女はセックスを続けていた。そして、それから間もなくして、ステージの女は背中をグッと反らせ、大きな叫び声を上げた。オルガスムに達したらしい。
ふと、俺をここに案内してくれた女が俺の太腿を擦っているのに気がついた。
「あの人、すごいイキ方するから、見てるといいわ」
女に脚を撫でられ、俺の興奮も高まってくる。俺は、この女の名前もまだ聞いていないのだが。
突然、ステージの女が、狂ったように身体をくねらせ始めた。体の奥から出すような、よがり声や叫び声に変わっている。動物的と言ったらよいか、喉の奥を絞るような声だ。
次の瞬間、ステージの男がいきなりペニスを引き抜いた。と同時に、女は、くさびを引き抜かれたように、ぐったりとなってしまった。女が失神したのだと知って、驚く。
男は、力をなくした女の体の前に近づき、ギュッギュッと自分でペニスをしごき始めた。また、俺の太腿が擦られるのを感じる。やがて、ステージの男が白濁を撃ち出した。白濁はロープ状に伸び、空中を弧を描いて、女の乳房や腹に降りかかった。
俺の脚を触っていた手が、そこを離れ、俺の手を握るのを感じた。彼女の方を向くと、女は、またタバコを取り出していた。俺の目を見て、口の形だけで「もう、行くわよ」と伝えていた。
俺たちは立ち上がり、半裸状態の群集をかき分けるようにして、オフィスに通じる螺旋階段へと向かった。途中、別のドアがあるのが見えた。
「あのドアはどこに?」
突然、彼女は立ち止まり、俺の方を振り返った。これまで見たことがないような、冷たい視線を向けてくる。
「気にしないことね。あのドアは立ち入り禁止だから」
螺旋階段を登り始めたが、ちんぽが勃起したままなので、歩きづらくて仕方がなかった。ようやく登りきり、オフィスへ戻った頃には、何とか、勃起もおさまっていた。
彼女は下へ通じるドアを閉め、デスクの前に腰を降ろした。
「まだ、名前を聞いていないけれど?」 と訊いてみた。
彼女は、からかい気味に脚を組んで見せながら答えた。「私の名前を訊くのにどのくらい時間をかけるつもりなのか考えていたところよ」
そう言って苦笑いし、飲み物を一口啜った。「ケイトよ」
ケイトは、手を伸ばし、またタバコに火をつけた。一服吸い込み、口の横から出すようにして煙を吐いた。
「何か質問はある?」
俺は頭を振って、「いや」と呟いた。ケイトはまた一服吸って、その後、タバコを灰皿に置いた。
「決まりは分かっているわね・・・」 諭すような優しい口調だった。「5千ドル払って、テストにパスすれば、入会できるわ」
「どんなテストなんですか?」
ケイトは立ち上がり、デスクの前の方へ歩いた。そして俺に手を伸ばし、立ち上がるように導いた。彼女に手を引かれて、ドアへと連れて行かれた。ドアノブに手をかけ、回し始める。だが、ドアを開ける前に、ケイトは、俺の目を覗き込んで、優しく耳に囁きかけた。
「お金を持ってもう一度ここに来たとき、分かるわ」
そう言って、俺の耳に唇を寄せ、舌先で軽く耳の穴を突いた。
「さあ、帰りなさい」
そう言ってケイトはドアを開けた。
「ごめんなさい。こんなことしたくなかったんだけど。・・・でも、お願いだから、取り乱さないで! いいこと? 彼女は、君が望むことを何でもするようになるのよ!・・・」
私は黙って話しを聞いた。
「・・・彼女、君のことが、すごく欲しくなるの!」
先生はそこで話しを止めた。でも、私も何も言わなかった。
「信じていないようね。どう? 私には、彼女が君のことを欲しくなるようにさせることができるの。どうすればそうなるか知っているから。彼女、君のことを愛させてとおねだりするようになるわ。そして、君は君で、気持ちがいいことに浸っても良いし、その気がなかったら、しなくても良いことになるのよ」
「先生は狂ってます」 ようやく私は口をきいた。
先生はちょっと言葉に詰まったようだった。
「君が言うとおりかもしれないわね。でも、私が言ってることは100%本当のこと」
先生はまた沈黙した。でも、私も口答えしなかった。ただ、先生を睨みつけていた。
「彼女を、君のことが欲しくて欲しくて堪らない気持ちにさせることができるの。彼女の自制心を奪うことができるの・・・」
「彼女の催眠術をかけるのですか?」
私はどうしてこんな狂った人に話しかけているのだろう?
「いいえ、催眠よりもずっと強力で、ずっと恒常性があるものよ。彼女の精神を永久に変えてしまうの」
そこまで言って、先生は、また沈黙した。しばらく沈黙が続き、ようやく私が言葉を発した。
「先生は、私に何をして欲しいのですか?」
「私は、彼女を、永久に君のセックス奴隷に変えてあげるわ・・・ただし、君が私を愛してくれたらだけど・・・」
私は信じられない気持ちで先生を見つめた。これまでの人生で、この時ほど怖い気持ちに襲われたことはなかった。
「そんなことが私にできるとは思っていないんじゃない? どう? 彼女があまりに君のことが欲しくなって、どんなことを言われてもノーと言えなくなる。そんなことできないと思っているんじゃ?」
私は返事をしなかった。
「分かったわ、して見せてあげる。どの娘が彼女?」
私は返事をしなかった。
「この娘? それともこの娘?・・・」
一人一人指差しながら、私の顔を窺っている。多分、私は顔に出してしまったに違いない。私が気にしている彼女のことを先生は気づいたようだった。