でも、父に会いに行くときの一着目のドレスを買った時には、このようなお金のことは、すっかり頭から抜け落ちていた。父に会う夜は、本当に特別な夜にしたいと思っていた。父に、こういうドレスを着た私がどれだけ愛らしいかを見て欲しかったというのもあるけど、それに増して、今の私がどれだけ幸せでいるかを知って欲しかった。
でも、父に会いに行く日のことを考えれば考えるほど、私は、面会をキャンセルしたい気持ちになるのだった。父には、もう、これ以上、私に腹をたてて欲しくない、と。
水曜日の夜、私は、いつもの通り、グループ・セラピーに出席した。そして、あまり深く考えずに、私は、みんなに、今度父に会いに行くことにしていると言ったのだった。
マシューソン先生は、父に会って何を言うつもりなのか尋ねた。先生に問われたその時になって、私は何を言うか、何も考えていなかったことに気がついた。私は、その場で適当なことを言ってごまかした。マシューソン先生も、エーカーズ先生も、そんな私のことを見抜いていたのは確かだった。
ホルモン注射のためエーカーズ先生のところに行ったら、先生は私に言った。
「分かっていると思うけど、お父様に何を言うつもりでいるにしても、その言葉で、面会の雰囲気ががらりと変わることになるはずよ。父親というものは、予想したようには振舞わないものなの。私の父も、私が自分のセクシュアリティについて話したとき、予想外の反応をしたわ。多分、あなたのお父様も同じ。私は、父には分かってもらえると、私を完全に応援してくれるものと思っていたの。でも、実際は、父は完全に反対に回ったわ」
先生が言ってることは理解しているつもりだった。私がどれだけ心配しても、どれだけ入念に計画を立てても、私には、父との面会の場を仕切ることはできない。父が、一旦、女のドレスを着た私を見たら、それ以降は、父が完全に場を仕切ることになるだろう。
それでも、父と会うときに備えて、私とトレーシーは計画をたてることにした。トレーシー、マーク、そして私の3人が、先にレストランへ行き、テーブルを確保する。トレーシーは、小さなデジタル・ビデオカメラを持って行き、私たちの面会の様子を撮ることにした。たとえ、父がすぐにその場を出て行ってしまうことになったとしても、少なくとも私は分かってもらおうとしたことが分かると思うし、それを見て、先生たちも納得してもらえると思ったから。
木曜日の夜になり、トレーシーは、翌金曜日は私の誕生日でもあるので、家の仕事はしなくても良いと言ってくれた。ということは、金曜日は、寝ていようと思ったら遅くまで寝ていられることになるのだけど、実際は、マリアが私のベッドから出ると共に、私は目が覚めてしまったのだった。
マリアと一緒にシャワーを浴びた後、私は、キュートなミニのサンドレス(
参考)に着替えた。フレデリックのところにいく予定になっていたから。仕事は免除になっていたけれども、それでも、トレーシーとマークのところに朝食を持って行った。ただ、朝食を出した後、寝室を出ることはなく、そのまま腰を降ろして、二人とおしゃべりをした。
トレーシーが朝食を終え、入浴をして着替えた後、私たちはフレデリックの店に向かった。トレーシーからの誕生日プレゼントとして、私は、完全トリートメントをしてもらった。つまり、カットとスタイルばかりでなく、マニキュアとペディキュアもしてもらったのだった。
この頃までには、私は自分の爪でいられるようになっていた。この3ヶ月で爪が伸び、つけ爪は一切必要なくなっていた。髪も長くなっていて、パーマネントのおかげで、今は、素敵にカールして、肩先にかかるようになっていた。トレーシーと家に戻った時には、そろそろディナーに出かける準備を始める時間になっていた。
下着には、茶色のシルク・ストッキングと、黒サテンのレースアップ・コルセット(
参考)を選んだ。コルセットは、マリアに手伝ってもらって、特にきつく締めてもらった。パンティは、黒サテンのソング・パンティで、これなら私のクリトリスも足の間にしっかりと納めておけるものだった。
ランジェリー類を身につけた後、今度はお化粧に取りかかった。お化粧も、この頃にはすっかり上達していた。ゴスっぽいものから、可憐なおしゃれなティーンエイジャーまで、どんな雰囲気でも出せるようになっていた。今夜は、エレガントだけど、地味な雰囲気にすることにした。
服装の中で唯一、地味とはいえない部分が、ハイヒールだった。ヒール高8センチほどのパンプスで、ヒールのところは、ゴールドで、とても細いものだった。スティレット(
参考)とまではいかないけれど、それにとても近いと言える。ゴールドのヒールは、ハンドバッグについているゴールドの鎖とマッチしていた。
支度が出来上がった後、全身鏡の前に立った。生まれつき女だったどの女の子よりも、ちょっと女の子っぽさが増していると思えた。思わず笑みが漏れてしまう。これなら、レストランに入った途端、かなりの人に振り向かれることになると思ったから。
私が寝室から出ると、すでに、トレーシーとマークは準備を終えて、私を待っていた。マークはスーツを着ていたが、ボタン・ダウンのシャツとネクタイの替わりに、スーツの中は黒のTシャツを着ていた。どこから見ても、やはり彼はとてもハンサムに見える。
トレーシーの方は。タイト・スカートの青いドレスだった。とてもタイトなので、急いで腰をかけたりしたら、縫い目から破れてしまいそうに思えた。実際、ドレス全体が体の曲線に密着したようなタイトなもので、服を着た上から見ても、どのような体つきかを想像するのに、たいして想像力は要らないだろう。とてもセクシーで美しかった。レストランに行ったら、私よりも多くの人に振り向かれるだろうなと思った。
レストランに着いたのは、7時15分前だった。