私はようやく口を開いた。
「もし先生がそんなことをできるなら、どうして最初から私にその催眠をかけなかったんですか?」
「これまで何人か女の子たちにかけてきたわ。でも、だんだん、つまらなくなってきたの。私を自発的に愛してくれる女の子が欲しいのよ」
「絶対にイヤ!」
「お願い! 私のこと魅力的に感じない? ただ、私を愛してくれると言ってくれればいいのよ。そうすれば、あなたに、あなた専用の可愛い奴隷をあげるのに。永遠に奉仕してくれる奴隷を」
「先生は狂っています!」
「また、そう言うのね。私のことを信じていないのね? じゃあ、他の女の子を使って、デモンストレーションしてあげるわ。あなたに分かってもらうためだけに」
どうしたらよいの? 先生は止めようとしていない!
先生は女の子を一人立たせて、足の縛りを解いた。それから書類を手にし、女の子を引き連れて部屋から出て行った。あの女の子は、まだ、猿轡をされていたし、両手も手錠されたままだった。
二人は何分か戻ってこなかった。でも、そんなに長いわけではなく、せいぜい5分くらいだったと思う。そして、先生は、あの娘を引き連れて戻ってきた。女の子の猿轡と手錠を外す。その子は、私の顔を見るなり、すぐに私のところに飛んできた。私の足元にひざまずき、話し始めた。ものすごいスピードで。
「お願い! 私にあなたを舐めさせてください。お願いよ! あなたがとても欲しいの。お願いします!」
私は、足元にひれ伏す彼女を見下ろしていた。信じられない。彼女は私の足を持ち上げて、靴にキスを始めた。靴を脱がし始めている。
私はちょっとパニックになっていた。「やめて!」
「お願い・・・」 彼女は私を見上げて言った。悲しそうな目をしている。「私・・・あなたのために、裸になるから」と、いそいそと服を脱ぎ始めている。「あなたに触れてもいい? お願い、触らせて」
私は彼女を見つめていることしかできなかった。マイケルズ先生は、彼女がこんなことをすることを前もって知っているようだった。その娘は、あっという間に裸になって、私の足元にひざまずいた。
「先生は、彼女に何をしたんです!」
「まあ、ちょっと負荷を強めにした行動トレーニングよ。あなたの写真を見せながら、彼女の耳元にいろいろ囁きかけ、その間ずっと、電気プローブで慎重にショックを与え続け、指を使って、適切な時を見計らってオルガスムに何度か導くの。彼女の思考を制御して、正しい思考に近づいていくように、痛みと快楽の中枢部に刺激を与える作業ね。驚くほど、早く反応が出るの。今の彼女は、あなたが望むこと以外、何もしたがらなくなってるわ」
「私から離れるようにしてください!」
「あなた自身で彼女に言わなきゃだめ。彼女が話しを聞くのはあなただけだから」
私は半信半疑で、彼女に自分の服を持って、着るように命じた。
アンドリューに家族のことについて訊いた。彼はオハイオの小さな町の出身で、父親は亡くなったが、母親はまだ生きているらしい。兄弟姉妹は一人ずついて、二人とも専門職について、中西部の都市で暮らしている。彼は、親戚とは、誰とも親しくしていないらしい。
彼の恋愛関係についても知りたかった。何だかんだ言っても、私の方は、まったく恋愛関係には縁がないことを、はっきり伝えてたわけだから、彼の方についても教えて欲しいと思っていた。ただ、私がそれを知りたがっていることを、あまりあからさまにしたくはなかった。アンドリューの現在の恋愛関係が、何らかの形で私に影響を与えるように感じ取られることは避けたかった。実際、彼がどういう恋愛生活を送っていようが私には関係のないことなのだから。
でも、本当は、それは間違い。本当のところ、これは私にとって重要な問題なのだ。どうしても知りたい。多分、私は、自分の競争相手がどんな女性なのか知りたがっていたのだと思う。男女交際は避ける主義なのは変わっていなかったけれど。
アンドリューは、この点に関して、とてもオープンだった。
「2、3回は、わりと真剣な交際になったこともあるんだ。今は、真剣に付き合おうと思っている人は誰もいない。あ、もちろん、あなたとのことは別にしてだよ・・・」
(彼がこう言った時、体中が甘美に疼くのを感じた)
「・・・どの女性ともうまく行かなかったのは、結局、僕が、たいていの女性ならば僕に与える気にならないようなものを、捜し求めているからだと思う」
この言葉には興味を引かれた。
「捜し求めているけど、与えられなかったものって・・・それは何?」
「僕は、相手の女性には、平等でオープンな関係を求める人でいて欲しいんだ。僕が求めている男女関係とは、両者とも、関係が良好に続くようにする責任を持っている関係。オープンに語り合うことが必要だと思っている。それに、僕のことを死ぬほど退屈に感じてしまうような女性は困るし、僕の方も死ぬほど退屈に感じてしまうような女性は困る。残念だけど、そういう女性を見つけるのは簡単じゃない。僕が興味をもつことは、多くの人が死ぬほど退屈だと感じるようなことばかりだから。相手の女性には、少なくとも知的な面で僕と平等であって欲しいと思っている。僕が理想としている女性は、多分、僕より賢い人だと思う。ちゃんと考え、自分の言葉で僕に意見を言ってくれるような人。そういう人が欲しいんだ・・・」
「・・・嫌なことは、相手の人が、僕が言ったことにせよ言わなかったことにせよ、あるいは、僕がしたことにせよ、しなかったことにせよ、それについて鬱々と考え込んでいたことを、後になって知ること。その人を傷つけるようなことを僕がしたり、しなかったり、言ったり、言わなかったりしたとして、そういう場合は、すぐにそのことを教えて欲しいと思っている。そうしたら、早速、その問題に取り組んで、解決できると思うから・・・」
「前回、ある女性との交際が破綻したのはどうしてかと言うと、その人が、一ヶ月以上に渡って、僕のことに腹を立てていて、どうしてそうだったのか、僕に全然、知らせてくれていなかったからなんだ。今は、もう、気にしなくなっているけれど、今になっても、彼女が怒っていた理由は分からない。言ってくれればよいのに。もちろん、訊いてみたさ。でも彼女は、『言葉に出さなくても、どこが間違っていたか分かるはず』という態度だった。問題の核心は、『コミュニケーション不全』だと思っている。どんな男女も、この問題があったら交際は続けることができない。僕は、できるだけ痛みが少ないように言葉を選んで、彼女に交際を続けられないと話した。でも別れなければならなかったのは事実。コミュニケーションなしでは、先がないと思っていたから・・・」
「・・・多分、僕は強い女性が好きなんだろうと思う。僕が期待通りにならない時に、ちゃんと言ってくれる女性。日々の生活で、二人の関係を良好にすべく努力すべきだと主張する女性。互いの人生で、二人が交際することが最も重要なことだと分かり合っている、そういうカップルであるべきだと思っているような女性・・・」
そこまで言って彼は、少し弱気の表情を顔に浮かべた。
「・・・多分、僕が女性と付き合えない理由のもう一つは、僕の話しがしょっちゅう脇道に逸れてしまうことがあるかもしれない」