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Glance 一瞥 (2:終) 

ローレルが誰かとしゃべっているのが聞こえた。そして、少し後、彼女が戻ってきた。別の女性と一緒に!

「私のお隣さんのこと、覚えている?」

僕はその女性を見つめた。あのビキニ姿の女性だった。彼女は、僕を見て、ニヤニヤしている!

また尻を叩かれた。

「お前は、早速、訓練のことを忘れたようだね!」

「はい、女王様」

「ご覧のとおりよ。あなたがちょっとショーをしてくれたおかげで、ここまで完璧になったわ」 と、ローレルはその女性に話しかけた。彼女は笑顔で僕を見ている。

「あなた、あたしのビキニ姿、好きだったの?」

「あ……は、はい、女王様」

またベルトが尻に飛んできた。

「彼女には、はい、カルラ女王様と答えなさい」

「はい、女王様」

「また、あたしのビキニ姿、見てみたい?」 とカルラが訊いた。

「はい、カルラ女王様」

「いま?」

「はい、カルラ女王様」

「淡い期待ね、バカ豚!」 とカルラは嘲笑った。

「はい、カルラ女王様」

ローレルがカルラのそばに近づき、彼女の後ろに立った。そして平然と右手をカルラの胸にあてた。ふたり並んで僕の方を見ている。

「私たちを見て楽しんでる? バカ豚?」

「はい、女王様」

ローレルは、ブラウスの上からカルラの乳房を愛撫し続けた。ふたりとも僕に視線を向けたまま。ほぼ1分以上、ふたりは並んで立って、そうし続けた。カルラの呼吸が乱れてくるのに気づいた。ローレルはさらに愛撫を続けたが、カルラも本気で感じだしてきた時になり、急に愛撫をやめてしまった。

「お前に見せるのは、ここまでで充分ね!」

「はい、女王様」

カルラは、途中でやめられてしまい、ちょっと不意をつかれたような顔をしていた。

「そうねえ、もう、この弱虫豚には奥さんのところに帰ってもらうことにしましょうか」 とローレルが言い、僕の手錠を外した。そして、「ほら」と僕にビデオテープを渡した。オリジナルのテープだろうか? だが、あれだけ写真を撮られ、ビデオにも撮られた今となっては、それがオリジナルだろうが、そうでなかろうが意味はなかった。

翌日、仕事から帰宅すると、家にはローレルとカルラがいた。しかも、ベスも一緒に! 3人とも僕の写真を見ていた。

「よくもこんなことを!」 

とベスが切り出した。僕のことをバケモノでも見るような顔で見ている。ベスのすぐ隣にはカルラが立っていた。腕をベスの腰に巻きつけていた。

「よくも、こんな……」 とベスは繰り返した。ほとんど泣きそうな声で。

僕は何を言ってよいか分からず、唖然として突っ立っていた。

「こっちに来なさい」 とローレルが僕に玄関へ行くよう指図した。だが、僕はベスを見つめ、近づこうとした。

「私に近寄らないで!」 とベスが金切り声で叫んだ。

「こっちに来なさい!」 とローレルが強い声で言った。

どうしてよいか分からなかった。仕方なく指示された通りに玄関へ行くと、ローレルは僕を外に連れ出し、彼女の車へと向かわせた。

車に乗るとすぐにローレルが言った。

「ズボンのチャックを降ろしなさい」

「あんたって人は!」

「チャックを降ろしなさい! 今すぐ! お前の職場仲間や、両親がどう思うか…」

僕は座ったまま考え続けた。ベスに話さなくてはならない。でも今は、まだ……言っても不可能だろう。ベスに理解してもらえるようにはできない。

「今すぐと言ったはずよ! ええっと、お前の職場は、確か……」

このアバズレ女め! だが、まだ僕は、こいつに牛耳られたままだ。僕はズボンのチャックを降ろした。

「そう、いい子ね。私への返事は?」

「はい、女王様」

「しごきなさい。しごけば、気持ちよくなるでしょう?」

「はい、女王様」

僕には選択肢がなかった。言うとおりにするしかない。いつしか車は家の前に来ていた。ローレルの家ではなかった。彼女の隣の家の前だった。

「車から降りなさい!」

僕はペニスをしまおうとした。

「出したままで!」

僕は凍りついた。そしてまた考えた。こんな昼明かりの中で?

「お前へのお仕置きがどんどん溜まっているわよ! 行儀作法はどこに行ったの?」

「はい、女王様」と言い、僕は車から出た。

「家に行きなさい」

「はい、女王様」

僕は歩き始めた。少なくとも通りには前を向けていない。ローレルが玄関ドアを開け、僕は中に入った。

「あなたの奴隷を連れてきたわよ」 とローレルが言った。

部屋の中には男がいた。大きな男だった。背が高く、がっちりした体格をしている。ブロンドで日焼けした男。

男は僕に近づき、頭からつま先までじろじろ見た。

「床にひざまずきなさい!」 とローレルが言った。

僕はひざまずいた。

「口で奉仕しなさい!」

僕はまたも凍りついた。

「命令よ! それに、行儀作法のことも忘れずに!」

「はい、女王様」

僕は男のズボンのチャックを降ろした。男は堂々と立っているだけで、何もしなかった。ローレルがクスクス笑う声が聞こえた。

「うふふ、おふたりさんだけにしてあげましょうね」 とローレルは言い、部屋を出て行ってしまった。

男は僕の頭を掴み、すぐに僕の口を相手にピストン運動を始めた。後頭部を両手でつかみ、ぐいぐい出し入れを繰り返す。

僕は、事実上、何もしていなかった。言ってみれば、ただ、なされるがままになっていただけ。口の中に出されるのを感じた。

「飲め」

男は、その単語ひとつしか言わなかった。この男は強すぎる。逃れるなど不可能だった。僕は飲み下した。

次の瞬間、気がついたら僕は男に床に突っ伏す姿勢にさせられていた。両手を背中に回され、押さえつけられている。そして男は僕の服を脱がし始めた。ズボンも下着も強引に引き脱がされたし、シャツは、文字通り引き裂かれた。

男はベルトを握り、それを振り回して僕を歩かせ、地下室に通じる階段を降りさせた。地下室に来ると、僕は小さなベッドにうつ伏せにされた。すぐに男は覆いかぶさってきた。男が僕のアナルにペニスを導き入れるのを感じた。

「お前、なかなかのご馳走だな」 と男は笑った。

男はすぐさま叩きつけるように僕に抜き差しを始めた。その間、僕はただうつ伏せになっているだけだった。僕にできることは何もないと。やがて男が再び射精するのを感じた。男は起き上がり、僕から離れた。

「そこに横になっていろ、淫乱!」

そう言って男は階段を上がって行った。僕は動かず、横になっていた。1分ほどすると、男がまた降りてきた。突然、尻に痛みが走った。男はベルトか鞭のようなものを持っていた。

「立て!」

僕は立ち上がった。

「俺のことをご主人様と呼ぶんだ」

「はい、ご主人様」

「お前は物覚えが早いな。横になって休んでろ」

僕はここにいろと言うことか?

「はい、ご主人様」

男はまた笑って階段を上がって行った。僕は小さなベッドを見つめた。両手はまだ後ろ手に拘束されたままだった。夕食も何も与えられなかった。僕は横になった。うつ伏せの姿勢で。

横になりながら、自分がおかれた状況について考えた。自分がしていることすべて、まったく信じられなかった。どうしてこんなことが僕の身に降りかかったのか、そんなことありえるのか? 僕は壁を見つめた。

痛みが走った。お尻にだ。明るい。夜が明け次の日になったのが分かった。

「バスルームに行け、今すぐ!」

「はい、ご主人様」

僕は立ち上がった。また、尻を叩かれた。多分、早く歩いていなかったからだろう。僕は、どっちに行ったら良いのか、周囲を見回した。

「階段の上だ、バカ野郎」

「はい、ご主人様」

階段を上がり、1階のキッチンに出た。男も一緒に上がり、僕をドアの方に押した。

「バスルームは向こうだ、マヌケ!」

「はい、ご主人様」

「待て!」 と男は僕を掴んだ。「その前に、こっちに来い」

男は僕を反対方向に引っぱった。リビングルームの奥の方にある部屋だった。

誰かが2階から降りてきた。女がふたり階段を降りてくる。カルラと……ベスだった!

カルラはジーンズとブラウスの格好。だが、ベスは、完全にシースルーの丈の短いナイトガウンだけの格好だった! 下着も履いていない!

カルラがベスを抱き寄せ、キスをした。ベスはくすくす笑い、カルラにキスをさせていた。ベスは僕の方を一瞥し、またくすくす笑い、それからカルラに目を戻した。

カルラは片手をベスのお尻にあて、指を2本、彼女の脚の間に押しこんだ。ベスはカルラに応じるようにお尻を彼女の方に向け、前を僕の方に向けた。カルラがベスの真後ろにいる形になる。

僕は部屋の中を見てみた。テーブルの上に額に入った写真が2枚、飾ってあった。僕が床にひざまずいて自慰をしている写真と、ベスが裸で、同じように床にひざまずき、あのディルドを舐めている写真。

カルラはベスの身体を自分に引き寄せた。ベスが背中をカルラの前に押しつける格好になっている。カルラは両手をベスの前に回し、彼女の股間をいじり始めた。ベスは僕を見ながらにっこりとほほ笑み、同時に、口を半開きにした。ベスが感じてきてるのが分かった。呼吸も乱れてきている。やがて、ベスは僕から視線を離し、天井の方を見上げた。カルラの片手はベスの股間を、もう片手は乳房の片方をいじっている。

「この子、とても簡単なのよ」 とカルラが僕に言った。

階段の方で物音がするのが聞こえた。目を向けるとローレルが階段の一番上のところに座っていた。半分、眠っているような表情だった。ローレルもベスと同じようなシースルーのナイトガウンの服装だった。

おわり

[2015/10/19] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

Glance 一瞥 (1) 

「Glance 一瞥」 by deirdre

僕は目を奪われた。たった2秒間だったけど、僕は、自分のいる場所も忘れ、茫然と立ち尽くしていた。

この女性。隣に住む女性。

日光浴の後なのだろう、想像できるうちでも最も露出度の高いソング・ビキニを着た姿を見せて、立ち上がり、家の裏門へと入って行ったところだった。僕は彼女の突然の出現に不意打ちを食らったのだった。

正気を取り戻し、振り返った。彼女が隣の家の中に入るところをちらりと見た。そして、顔を前に戻すと、そこにはローレルがいた。僕の妻の姉である。

ローレルは僕の目をじっと見ていた。そして、突然、妙な表情を顔に浮かべた。「あなたが何をしていたかしっかり見たわよ」とでも言いたげな表情。それに「あたしの妹は、知りたがるんじゃないかしら?」とも言いたそうだなと僕は心の中でつけ加えた。ローレルが何を考えているのか、僕には分からないことが多い。だが、この時は、嫌になるくらい彼女が考えていることが明瞭に分かった。僕は、一瞬、パニック感に襲われた。……ローレルは、今のことから何かでっち上げてベスに言うんじゃないか?

ローレル経由で話しをされたらベスが受け流してくれるはずがない。僕はローレルに近寄った。ローレルは小さく笑みを浮かべていた。何か裏がありそうな、そして人を見下しているような笑み。僕は、また、嫌な感じになった。ローレルは何を考えている?

「何を考えてるんだ?」 声を小さくしようとしていたわけでもないが、別に大声を上げてもいなかった。

「私が見たことを知ったら、ベスはビックリするんじゃないかしら? あの美女に見惚れて、口をあんぐりさせてたなんて」

僕はベスの方を振り返った。今はバーベキュー・グリルのところで何かを焼いている。ローレルは、声を小さくする気はない様子だった。

「そもそも、君には、ベスに何か言う必要もないだろ?」 と僕は何気なさを装って、静かな声で言った。

突然、ローレルの手が僕の股間を覆っていた! ほんの1秒くらいだったが。

「でも、彼女を見て勃起しるんだ」

僕はローレルを見つめた。こんなことをするんなんて信じられなかった。

「やっぱり、ベスは興味を持つと思うわよ」

「いったいどうしたんだ?」 と、囁き声に近い声で訊いた。ローレルはニヤリと笑った。

「一緒に家の中に来た方がいいわよ」 と彼女はニヤニヤしながら背中を見せ、家の中に進んだ。僕は後に続いた。

ふたりでキッチンに入ると、ローレルは振り返った。

「まあ、そうね…。ベスが私が見たことの本当の話しを聞くことになるか、それとも……」

「それとも……?」

「それとも、あなたがつぐなうか」

ローレルが何を考えてるのか考えた。また、あの邪悪っぽい笑みを浮かべている。僕は彼女を見つめた。

「どうやって?」 しばらく沈黙した後、僕は訊いた。

「これは取引ね。私はベスに、あなたのいやらしい妄想については話さないわ。もし、あなたが……あなたがおちんちんを見せてくれたら!」

「何だって?」 頭の中がグルグル回る感じだった。こんなの現実じゃない。「ちょ、ちょっと、君は……」

「今すぐおちんちんを見せなさい。そうすれば私は黙ってるわ。さあ、早く。ズボンのチャックを降ろして、中から引っぱり出す。ちょっとだけよ。それですべて終わり」

ローレルは僕のことが好きだったのか? 事態の展開が早すぎる……頭の中、いろんな考えがチカチカ浮かんでは消えた。

「急いで! さもなければ取引は中止! 引っぱりだせば、あの美女のことについては無言にする」

ローレルはまだニヤニヤしていた。僕は、ニヤニヤ顔のローレルの顔を見つめた。……そして、おもむろにズボンのチャックを降ろし、ブリーフの中に指を突っ込み、中からペニスを引っぱりだした。

「あっはっ! ちっちゃいの!」 とローレルが言い、僕は視線を下に向けた。その瞬間、クリック音がした。僕が顔をあげたら、彼女は手にカメラを持っていた。

「ローレル!」

ローレルはすぐにカメラを降ろし、走り出した。僕はズボンの中にペニスをしまいながら、カメラを奪おうとした。インスタント・カメラだった。チラリと見ただけだったが、ローレルが写真を撮ったのはすぐに分かった。カメラが写真を吐き出す音が聞こえた。

ズボンのチャックを上げ、すぐにローレルを追いかけたが、彼女はすでに庭に戻っていた。何事もなかったようにベスの方に歩いている。写真は見えなかった。彼女は歩きながらどこかにしまいこんだか、途中のどこかに突っ込んで隠したのかもしれない。僕は走るのをやめ、歩きながら庭に戻った。

食事の間、ローレルはベスにぴったりくっついたままで、ローレルとふたりっきりで話すチャンスはなかった。ローレルの家を出て自宅に帰る車の中、ずっと考えごとをしていた。ベスが僕に話しかけても、僕は話しを聞いていなかったようで、そういう時が何回かあった。まったく信じられなかった。いったいローレルはどうなってしまったのだ?

翌日も僕は心配し続けた。僕はベスより早く帰宅し、すぐにローレルに電話をした。

「あなたが電話をしてくるなんて、ずいぶんフレンドリーじゃない? いま私の手にあるこの写真、ベスなら気に入るんじゃないかしら?」

「ベスには言わないって言ったじゃないか!」

「うちのお隣さんのことについては一言も言わないわよ。でもねえ、これは……」

「何が望みだ!」

ベスがまだ帰宅していないにもかかわらず、できるだけ大声を立てまいとしている自分に気がついた。

「今夜8時に、こっちに来て」

「ベスには何と言えば?」

「それはあなたの問題。いいから、来てね!」 とローレルは電話を切った。

僕はまたも気もそぞろの状態になり、ベスが帰宅するまで、家の中を行ったり来たりし続けた。ローレルにこんな一面があるなんて、想像すらしたことがなかった。

ベスが帰宅し、ふたりで夕食を取った。そして、僕は口実をでっちあげて、外出した。

ローレルは玄関に出て僕を出迎えた。また、あの笑みを浮かべていた。

リビングルームに入るとすぐに僕は訊いた。「何が欲しいんだ!」

「あら、最初に言っとくけど、あなたは事態を理解した方がいいと思うわ。私は、あの写真をベスに渡すつもり……もし、あなたが私の言うことに正確に従わなかったらね」

僕はローレルを見つめた。彼女は権力キチガイにでもなってしまったのか?

「理解した?」

僕は、何と言ったらよいか考えあぐねていた。

「ちょっと聞いてくれ。君は頭がどうかしているよ!」

「理解した? 明日、ベスの職場に行って、彼女に会おうかなあ」

「ローレル、いったいどうなってしまったんだ?」

「理解した? 返事はイエスが欲しいわ!」

僕は間を置き、そして「イエス」と答えた。この先、僕はいったいどうなるんだ?

ローレルはちょっと黙って、すぐに、また笑みを浮かべた。

「いくらか私に敬意を払ってほしいわ……。そこにひざまずきなさい!」

僕は少し考え、おもむろに床にひざまずいた。

「よろしい! ズボンを脱ぎなさい!」

「ちょっと、ローレル……」

「話しあう必要はなし。今すぐズボンを脱ぐこと。さもなければ、明日ベスをランチに誘って、あの写真を見せるわ」

僕はベルトのバックルを緩め、ズボンを膝まで降ろした。

「下着も!」

僕に何ができるだろう?

「可愛いじゃない? じゃあ、今度は自慰をしなさい!」

「ローレル!」

「お黙り! ただちに自慰をするの! おちんちんを握って!」

「ローレル!」

「うるさいわね! 黙りなさい! 今後、口答えはなし!」

僕はひざまずいたまま、どうしてよいか考えていた。

「さあ、ヤルのよ!」

僕はペニスを握り、しごき始めた。こんなことをしている自分も信じられない。

「いい子ね」

ローレルは小さな声でそう言い、僕に微笑みかけた。僕は次第に勃起していた。

「射精するまで続けなさい!」

僕はひたすらしごき続けた。ますます固くなってくる。ローレルは見ているだけだった。ふたりとも黙ったまま。ただ、僕がしごき続けている。ペニスがますます固くなってくるのが分かる。

そろそろイキそうだと思った。ローレルは微笑みながら見ているだけだった。床のことを考えたが、彼女は汚れても気にしなそうだった。

僕はひたすら続け、とうとうリビングのカーペットの上に噴射した。彼女は見てるだけだった。僕は射精後もひざまずいたまま、次に何が起きるのかを考えていた。

突然、ローレルは飛び跳ねるように立ち上がり、部屋を飛び出し、数秒後に写真を持って帰ってきた! その写真を僕に渡し、「ちゃんと言われた通りにしたご褒美よ。もう家に帰ってもいいわ」 と言った。

僕はすぐさま立ち上がり、ズボンを履き、玄関を出た。車のエンジンをかける前に写真を散り散りに破り、帰路の途中、公衆ゴミ箱に捨てた後、家に帰った。こんなほっとしたことはなかった。

翌日、仕事から家に戻ると、家の前にローレルがいた。彼女は僕にバッグを渡し、楽しんでねと言って去って行った。

バッグの中はビデオテープだった。心が沈むのを感じた。テープをビデオデッキに入れ、予想通りだったと落胆した。自慰をする自分の画像。ビデオはたった5秒で終わり、一枚の紙を写した画像に変わった。その紙には「今夜、8時、私の家」と書かれていた。もう、何もかも信じられない。僕はすぐにテープを消去した。

夕食の間、ベスを見続けた。こんなこと、ベスは信じてくれるだろうか? 自分の夫を信じてくれるだろうか? それに自分の姉を? あのキチガイ女を!

ローレルはこの夜も僕を玄関に出迎えた。中に入るとすぐに、「ひざまずきなさい」と言われた。僕はちょっと彼女の顔を見、そして、その場にひざまずいた。玄関を入ったばかりの床に。

「ズボンと下着を降ろす!」

「ローレル!」

「やりなさい! 黙って!」

言うとおりにした。

「全部、脱ぐの!」

僕は身体をもがかせながら、ズボンと下着を脱いだ。

「靴も!」

時間がかかったが、言われた通りにした。

「次はシャツ!」

僕は素裸になっていた。ローレルはカメラを出し、スナップを撮り始めた。

「ローレル!」

「黙ってなさい! 一言も!」

彼女は写真を撮りまくり、その後、ビデオカメラを出した。

「勃起させなさい!」

「しゃべらずに!」 僕が口を挟む間もなく命令された。本当にこんなこと、信じられない。

「オーケー、それで充分ね」

ペニスが勃起したのを見て彼女は言った。「ひざまずいたまま、こっちに入ってきなさい」 と彼女は後ろ向きのままリビングに入りながら言った。僕は言われた通りに膝立ちのまま中に入った。

リビングに入ると、彼女は僕の姿を一瞥し、言った。

「はい、女王様と言いなさい」

僕は黙っていた。

「言うの!」

「はい、女王様」

「よろしい! これから何かを命令されたら、今のように答えなさい」

と言って少し間を置き、「ほら、ちゃんと言いなさい!」

「はい、女王様」

信じられなかった。ローレルは本当に気が狂っている。

「両手を床につけなさい!」

僕は言われた通りにした。四つん這いの姿勢になっている。

「お前は精神を鍛え直す必要があるわ」

とローレルは向こうの方に歩き、革ベルトを取った。

「命令された時、どう返事すべきか、もう忘れたらしい。ちゃんと返事なさい!」

「はい、女王様」

「立ちなさい!」

僕は立ち上がった。ローレルはベルトで僕の尻を叩いた。

「あうっ!」

「お黙り!……また四つん這いになりなさい!」

僕は四つん這いになった。再び尻を叩かれた。本気で叩かれ、痛みが走る。

「はい、女王様、でしょ?」

「はい、女王様」

「立ちなさい」

「はい、女王様」 そう言って立ち上がった。

「お前はそれほどマヌケでもなさそうね。また四つん這いになりなさい!」

「はい、女王様」

「お前でも学習できるかもしれないわね。私の靴にキスをしなさい」

ローレルは足を僕の顔の前に出した。僕は顔を寄せた。尻にベルトが飛んできた。

「はい、女王様」 僕はキスをした。

「お前はすでに5回も返事を忘れてきた。これからは、お前が忘れるたびに1回ずつ多くベルトを使うことにするわ。これまででは5回! 次は6発になるわよ!」

「はい、女王様」

「床に顔をつけてうつ伏せになりなさい。両手は背中にまわして」

「はい、女王様」

うつ伏せになると、ローレルは僕の片方の手首を握った。その後、カチッと金属音が聞こえた。手錠だ! あっという間に手錠で両手首を拘束されていた。

「身体を起こして、ひざまずきなさい!」

「はい、女王様」

ローレルはディルドを持っていた。リアルな形の偽ペニス。それを僕の口に近づけてくる。

「口を開けなさい」

「はい、女王様」

口を開いた。ローレルはディルドを僕の口に押し込み、出し入れをし始めた。僕の後頭部に片手を当てて、逃げられないようにされた。しばらく出し入れされた後、彼女は口から引き抜いた。

「ひざまずいたまま、あそこのオットマンまで行って、そこに覆いかぶさりさない」

「はい、女王様」

言われた通りに移動し、小椅子に覆いかぶさった。両手は背中に拘束されたままで、尻を小椅子の端から突き出す姿勢になっていた。ローレルは僕の片方の尻頬を掴んで、中心部を広げ、ディルドをアナルに当てた。押し込んでくる。

「おい!」

そう叫ぶと、ローレルはディルドを引き抜いた。そしてベルトで叩かれた。3発。

「後の3発は、後でするから」

「はい、女王様」

「お尻をリラックスさせるの」

「はい、女王様」

再び押し込んでくる。ぐいぐいと押し込まれた。

「リラックス!」 僕は、自然と逃れるために小椅子を引きずって動いていた。小椅子は先のカウチにぶつかっていた。

「はい、女王様」

それが入ってきた。ぐいっとひと押し強く押しこまれると同時に、僕の中に入っていた。巨大な感じがした。こんな感覚は一度も経験がなかった。ローレルが離れるのを感じた。また写真を撮ってる音が聞こえた。クスクス笑う声も聞こえた。

「立ち上がりなさい。それを落とさないようにして」

「はい、女王様」

僕は立ち上がった。ディルドは中に入ったままだった。

「ひざまずいて!」

「はい、女王様」

ローレルは僕にいろんな姿勢を取らせているだけのように思えた。

その時、玄関のチャイムが鳴った!

ローレルは僕をそのままに、玄関へと行ってしまった。部屋の真ん中、素っ裸でひざまずき、手錠をされたまま。しかもお尻にディルドを突き刺したままの格好で!


[2015/10/17] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

Girlfriend -- ガールフレンド 

「Girlfriend ガールフレンド」 by deirdre

あの声は、はっきりしていた。何が起きてるか誤解する可能性はゼロ。あたしは、ちょっと面白半分に、ママの方を見た。

ママと一緒に家に戻ってきたところだった。そうしたら、家の中、ふたりがアレをしている声が響き渡っている。ママはパニックになったみたい。あたしの純真さが今にも崩壊しそうになってるとかと。

「自分の部屋に行って!」 とママは必死な声で言った。でも、大きな声じゃなかった。あのふたりに聞かれたくなかったみたい。

「ママ!」

「いいから、行って!」

ママが焦りまくってるのが分かった。もはや、声を小さくしておくこともできなくなってる。別にママはあたしに腹を立てているわけじゃない。ただ、何と言うか、あたしが、アレをやってるふたりの声を聞くのを防ぎたいと思っているだけ。

あたしは部屋に行った。

「ちゃんとドアを閉めて!」 それがあたしが部屋に入る前に聞いたママの最後の叫び。

あたしは言われた通りにドアを閉めた。

ようやく! 部屋に入って、あたしは堕落とモラル崩壊から守られた状態に戻る。兄のビルと、兄の彼女のケイトのふたりにモラルを崩壊されることから守られた。ドアを閉めていても、ママがビルの部屋に行く足音はちゃんと聞こえた。

ケイトはスゴイ人。兄がケイトと付き合い始めてから1週間しか経っていないし、兄も彼女を家に連れてきたのは2回ほど。ケイトは背が高くてほっそりしている。そしてとてもセクシー。いつも黒いストッキングとミニスカートを着ている。にっこり笑ってフレンドリーになる時もあるけど、ちょっと意味ありげな目つきをすることの方が多い。あの表情を見ると、彼女は何か企んでるんじゃないかと思ってしまう。ある意味、ケイトとビルがアレをしててもあたしは驚かなかった。ケイトは、自分からそそのかすことはないにしても、喜んでアレをしたがってるようなタイプの人に見えるから。

ベッドに仰向けになって考えた。もうあの声は聞こえない。でも、ママは、まだあたしにもう部屋を出てもいいわよとは言ってない。

部屋を出ようかと思ったけど、それはやめて、しばらく横になったままでいて、事態が落ち着くまで待とうと思った。夕食ができたとかといった何か大事なことがあったら、ママが呼ぶだろう。それまでは横になって考えごとを続けよう。

普通は、あたしは、兄とガールフレンドとのセックスについてなんて考えたりしない。ビルはかなり前からヤッテるかもしれないとは思ってた。何年も前からヤッテたかも。

でも、それで言えば、姉のエレンについては、彼女がセックスするところなんて想像すらできない。姉がケンと結婚して3年になるのだけど。

その時、外で物音がした。窓のところに行くと、ビルが歩いて行くのが見えた。もう家の中を歩き回っても「安全」になったと思ったけれど、でも、あたしはママのことがちょっと不安だったので、ベッドに戻って、もうちょっと横になってることにした。

そうそう、姉のエレンのこと。エレンがあたしよりも男性のことについて知ってるなんて、とても想像しにくい。エレンが男性と一緒にいるところ? 彼女はそんなタイプでは絶対にない。バカげた考えだとは分かっているけど、あたしの中には、エレンとケンは一度もアレをしていないんじゃないかと思ってるところすらある。

あたしはベッドに横になりながら、ひょっとして、ママはあたしに部屋に入っていなさいと言ったことを忘れてしまったのではないかと思い始めていた。

もう部屋から出て行っても大丈夫なのは分かっていた。……何も起きていないようだったし、ビルも家を出てるわけだから、部屋を出ても、ママが兄に説教してる真っ最中ということはありえない。ケイトの姿はまったく見ていなかった。

あたしは起き上がって、ドアを開けた。何も音がしない。部屋を出て、キッチンに向かった。ビルの部屋の前を通り過ぎるとき、ドアが少し開いているのに気づいた。ちょっと、中を覗きこんだ。部屋の中にはママがいた!

ママは裸だった! というか、ブラしかつけていない! 裸のまま、部屋の真ん中に、あたしに背を向けてじっと立っている! お尻も含めてカラダが丸見え! ビルの部屋なのに!

ハッとして素早く、音を立てずに身を引いて、隠れた。いったい何が起きてるの? 心臓がバクバクしていた。もう一度、音を出さないようにして、部屋の中を見てみた。まだ、立っている。同じ格好で!

注意深くドアの向こう側の方を覗きこんだ。ケイトもいた! ママの後ろ、ビルのベッドに座っている。あたしの方には顔を向けていない。ケイトはブラウスを着て黒いストッキングは履いていたけど、スカートは履いていない。

するとケイトはママのお尻に手を伸ばして、脚の間に指を滑り込ませ、擦り始めた! ママが呼吸を荒げて、肩を上下に動かし始めるのが見えた! 見ている光景が信じられなかった! 

あたしは、またドアの外へと身を引い。そこに立ちつくしていた。心臓が高鳴っていた。何とか呼吸を鎮めようとしていた。

気になって、またドアの中を覗いた。ママの息づかいは前より荒くなっている。なのに、まだ、同じ姿勢で立ったままでいた。

あたしは静かにビルの部屋を去り、自分の部屋に戻った。静かにドアを閉めて、ベッドに戻り、ごろりと横になった。

天井を見つめた。

ビルとケイトがエッチするところを想像するなんて、今のことに比べたら、何でもない! いったい何が起きてるの? ママは、アレをしてたビルとケイトに腹を立てていたはず。少なくとも、あんなに大きな声を上げてヤッテいたことに怒っていたはず。

考えてみれば、ママがセックスするということを真正面から考えたことがなかった。ママは男の人とデートすること自体、めったになかったし、デートしても普通は気軽で、無邪気なデートばかりだったから。なのに、女の人とアレをしていたなんて! ママがしそうなことで、一番、予想できない出来事だった!

部屋のドアが開いた。振り返ると、ケイトがいた。ケイトはあたしのベッドに近づいてきて、あたしを見おろした。

「しっかり見たようね」

ケイトはあたしが見たのを知っていた。あたしはじっとケイトを見つめた。

「見たことを考えているのね?」 と彼女は微笑んだ。

あの独特の笑み。何かを隠しているような、それでいて、邪悪な秘密を教えているような笑み。矛盾の笑み。ケイトの笑顔を見て、あたしは不安になった。

「心の準備はできた?」 とケイトはあたしのベッドに腰を降ろした。

何を言ってるのか分からなかった。

ケイトは身体を傾け、あたしの顔の真上に顔を近づけてきた。あの謎の笑みを浮かべたまま。

彼女の唇があたしの唇に触れた。あたしはケイトを押し戻そうとはしなかった。かと言って、あたしからキスをしてるわけでもなかった。ただ、押し戻そうとはしてなかっただけ。どうして、あたしは彼女を押し戻そうとしていないの?

ケイトは身体を起こして、あたしから離れ、座りなおした。まだあの笑みを浮かべている。あたしは、再びキスされるのを待っていた。次にキスされたらどうしよう?

でもケイトはキスをすることはなかった。立ち上がって、「まだまだシャイなのね」 とそう言い、部屋を出て行った。さっきと同じ、ブラウスとストッキングだけの格好。あたしは、部屋を出て行くケイトの身体を見ていた。どうしてあたしは彼女の身体をこんなに熱心に見つめているの?

あたしはベッドに横になって、考え続けた。外は暗くなってきていたけど、まだ夜には早い。家の中、人が入ってくる音が聞こえた。ビル? それともエレンとケン? 話しをしている声が聞こえた。あたしは横になったまま。

多分、そのうち、ママがあたしを呼び出すはず。その時、ママに目を合わせられるかしら? ママはあたしが見ていたことを知らないはず。でも……ママが本心からあたしに知られたくないと思ったなら、あたしがいる家の中で、あんなことをするなんて、すごく危険なことじゃないかしら。

あたしは待ちくたびれてしまい、起き上がった。日が沈み、電気もつけていなかったから、部屋は暗くなっていた。

ドアを静かに開けてみた。廊下も暗かった。部屋から出てみた。ビルの部屋のドアは開いていた。中には誰もいなかった。

暗い廊下を歩き続けて、ダイニングに入った。

みんなはそこにいた!

自分の目が信じられなかった!

5人とも裸! ママはブラだけを着けていたけど。でも裸同然!

ママは床に四つん這いになっていて、その後ろにケンがいた。膝立ちの姿勢で、後ろからママにヤッテいる!

そのママの前にはビルがいて、同じように膝立ちの姿勢。ママの口にアレを入れてる!

ケンとビルは前と後ろから、ママにぐいぐい出し入れを続けていた。

ケイトはというとダイニング・テーブルの端に座っていて、その脚の間にはエレンがひざまずいていた。ケイトのあそこを舐めている! しかも両手を後ろ手に縛られていた!

ケイトがあたしを見て、にっこり微笑みかけた! テーブルの横に置いてあった鞭を取って、その握りであたしにエレンのお尻に来るように指図した。

あたしは自分の部屋に駆け戻った。そしてベッドに倒れ込み、天井を見つめた。いま見た光景が本当に信じられない。あたしはズボンの前から中に手を滑り込ませ、指であそこをいじり始めた。

おわり


[2015/10/15] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

デビッド・ジョーンズとベル博士の追跡 (16:終) 

「…ところで、俺も君に質問があるんだが…」 とクラレンスは思い出したように言った。「君は男とのセックスを本当に楽しんでるのか? ベル博士と一緒にいる時の君の声を聞いたことがあるが、本当に喜んでるような声を上げていた」

「ベル博士と? あれは演技。でも、男とのセックスを楽しんだことがあるのは本当よ。相手によると思う」 とデイビーは正直に答えた。

「ボイは異常なほどエッチな気分になるものだって聞いたことがある。ボイにとっては、男とのセックスが格段に気持ち良いらしいと。あるボイを知っているんだが、そいつはベル博士によって変えられた人ではなかった。誰か他の人に変えられたらしい。そのボイは高校時代、その男をいじめていたらしいんだ。そこで、そのいじめられていたヤツが、仕返しとして、そいつをボイに変えたらしい。まあ、ともかく、そのいじめられていたヤツは大した才能があったようだ。そしてボイに変えられた方は、信じられないほどセックス狂いになっていたよ」

「レオね。レオ・ロバートソン。彼はジョージ・ヤングに変えられた」

「ああ、そいつだ。どうして知ってるんだ?」

「2年ほど前にレオと話しをしたことがあるの。今はレアという名で通っているわ。ストリップ・クラブで働いている。でも、これだけは言えるけど、レアは今の状態に満足していないのよ。不幸になっている。実際、身の上話をしながら、彼、急に泣き出したもの」 とデイビーは言った。

「本当か? 俺が見た時は、すごくハッピーそうだったが……。ベル博士が俺に結果をじかに見せてくれたんだ。彼はその時もストリップ・クラブで働いていたが、生活を楽しんでいるように見えたけどなあ」

「それはよくあるパターンなの。多くのボイは、調整期間を経験するのよ。だいたい2年半くらいね。その期間中は、性欲が非常に高いの。加えて、そういうボイたちは、それまで知らなかった感情や、快楽を得る新しい方法とかを経験するの。その結果、彼らは、性行動がとても激しく増加することになる。でも、その期間を過ぎると、生活が通常状態に戻るし、女性と同じような性的好みを持つように変わるのよ。本当だから、信じて。私自身も、この3年間、変化を経験してきたし、自分自身を研究してきたから。だから、ボイたちの実情は、一見したところほど、バラ色というわけじゃないの」

「どういうこと?」

「何と言うか、たぶん、かなり多数のボイたちがうつ状態になると予想しているわ。性欲が通常状態に戻るのにつれて、ボイたちにも時間的余裕も出てきて、自分たちの人生についてじっくり考え始めると思う。実際、すでにこの数ヶ月で、ボイの自殺が増加していたわ。今は数字から離れているから分からないけど、たぶんもっと増えていると思う」

「ということは、いま俺たちが生きている安定した世界は、今にも沸騰しかかってる煮えたぎった状態を覆い隠している幻想に過ぎないと。そう言いたいのか?」 とクラレンスは納得して言った。

「そんな上手な表現、私には思いもつかなかったわ」 とデイビーが言った。

「興味深い」 とクラレンスは言い、その後、会話は途切れた。

*

2時間ほど後、クラレンスは、ドアの外に衛視をひとり立たせて、部屋を出て行った。彼はどこに行くか言わなかったし、デイビーも訊いたりしなかった。クラレンスは何時間も考えごとに没頭し、黙ったまま、さっきの会話の意味を考え続けていた。デイビーには、この大男の頭の中で、ギアがシフトするのが見えるような気がした。

クラレンスが黙考している間、デイビーは彼をじっくり観察することができた。身体の大きな男がタイプな人にとっては、彼はハンサムだと言えるだろう。そしてデイビーも、どちらかと言うと、そういう男性が好きだった。クラレンスは筋肉隆々というわけではないが、逞しい体つきをしているのは事実だった。腕は、デイビーの細いウエストほども太い(あるいはそれよりも太いかも)。だが、そんな動きの鈍い武骨者という外面の中に、何か光るものがあった。

話し合ったことについて黙考するクラレンスを見ながら、デイビーは、彼の瞳に思慮深さが光るのを見ていた。

そして、デイビーは、このストイックな衛視に心が惹かれ始めているのに気づいた。

クラレンスが戻ってきた時には、すでに夜も更けていた。彼は椅子に腰を降ろし、何の前置きもなく、デイビーに問いかけた。

「君はどうなんだ? チャンスができたら、元に戻るつもりか?」

その質問を受けて、デイビーは何秒か考え込んだ。何秒かは何分かに変わり、結局、15分近く考え続け、ようやく答えた。

「戻らないと思う。今の姿に慣れるまでは辛かったけれど、今は、自分のあり方に満足しているし、幸せだと思っている。以前の私の人生は虚ろだった。いかなる感情も外に出さなかった。でも、今は、自由に感じたままに生きている。こんなに自由な気持ちになったのは、これまでなかったと思う」

デイビーはこれまでになく正直に自分の気持ちを語った。自分自身、これには驚いていた。

「じゃあ、他のボイたちは、それと似た結論にならないなんて誰にも言えないわけだな?」

「ええ、その通り。私が言いたいのもその点。彼らボイ、というか私たちボイは、選択肢を与えられるべきだと思うの」

「それを君はしようとしているのか? 人々に選択肢を与えること?」

「ええ。私たちがしようとしているのは、それだけ。聞いたら気が休まると言うなら言うけど、私たちも、このミッションを進めるべきかどうか、問題にしたのよ。答えは簡単ではなかったわ。でも、男性に戻るという選択肢を選ぶかもしれない人々には、その選択をするチャンスを与えられるべきだと結論したの。自分が望まない人生を生き続けるのではなく、自分で選べるようにすべきだと」

それから再びクラレンスは黙り込んだ。トイレに行く時や食事の提供の時を除いて、その夜、ふたりは黙り続け、やがてデイビーも眠りに落ちた。

*

「散歩することはできるかしら? 脚をストレッチしたいの」とデイビーが訊いた。すでに丸一日たっていて、再び夜になっていた。まさにこの瞬間、ベル博士は新しいハーレムの人材集めに忙しくしていることだろう。

「いいだろう。だが、他のことは何もするなよ」とクラレンスが答えた。

デイビーは、何かする意図はなかった。船外に逃れようとしても、良い結果にはならないだろう。必要なものは船にあるのだし、船外に出て、誰かと接触できても、その時には船は大海に出た後となっていることだろう。そもそも、クラレンスとドアの向こうにいる武装したふたりの衛視たちから、逃れることなどできそうもない。

「ええ、何もしないわ」 デイビーは本心からそう答えた。

その何分か後、ふたりはデッキを歩いていた。遠くに市街が見え、街明かりが点滅している。別の世界で、別の状況だったなら、ロマンティックな状況だと言えただろうなとデイビーは思った。デイビーは、欄干にもたれかかり、街の明かりを見つめていた。

「綺麗だわ。そうじゃない?」とデイビーは小さな声で言った。

「確かに。……それに君も」 とクラレンスが答えた。

「ありがとう」 とデイビーはお世辞はいいのよといった感じで答えた。

「いや、本気だ」とクラレンスはデイビーの方を向いて言った。「内面も外面も。俺は君のような人に会ったことがない。君は……」

「ここではダメ」 とデイビーは、頭を振って、向こうにいる船員たちの方を示した。

クラレンスはデイビーの言わんとしたことを理解し、彼をデイビーの牢屋代わりにしている船室に連れ戻した。

部屋に戻り、デイビーはベッドに腰を降ろし、もたれかかった。クラレンスは、デイビーに背を向けて立っていた。

「デイビー、君の言ったことで俺は混乱している。あらゆることが振り出しに戻された感じだ。だが、さっき言ったことは本当だ」

そう言ってクラレンスはデイビーの方に向き直った。

「君は、他の人たちとは違ったように、俺を扱う。もっと言えば、君は、俺が答えを見つけられる能力を持っていると、単なる筋肉バカではないと思っている」

「その通り」 とデイビーは小さな声で言った。

「そして、君はとても魅力的だ。上品で、魅力的で、賢く、そしてセクシーだ。これらが君というひとりの人間に一体化しているなんて……。俺は……」

デイビーは立ち上がり、指を立て、クラレンスの口にあてた。そうして彼の顔を見上げながら言った。「しーッ。分かったから。あなたは私のことが好き。そして私もあなたのことが好き」

そうして彼は、手をクラレンスの逞しい首の後ろ側に添え、自分に引き寄せた。クラレンスもそれに従い、顔を下げた。デイビーは、つま先立ちになり、彼にキスをした。

キスを解いた時、クラレンスは何か言おうとしたが、この時も、デイビーは彼を黙らせた。情熱に任せて、ふたりは服を脱ぎ棄て、1分もかからぬうちに、ふたりとも全裸になっていた。服を脱ぐ間、ずっとふたりは唇を重ねあったままだった。裸になると、デイビーはふざけまじりにクラレンスをベッドに押し倒し、彼の上にまたがった。

デイビーは、彼に覆いかぶさり、キスを続けた。キスをしながら、クラレンスの熱い勃起が尻の間を撫でるのを感じた。

2分ほどそれを続けた後、クラレンスが身体を起こした。そして、デイビーの身体を軽々と抱き上げ、ベッドに仰向けに寝かせた。そしてデイビーのお尻を少し持ち上げ、同時に彼の脚の間にひざまずいた。顔をデイビーの股間へと近づける。

クラレンスは、デイビーの小さなペニスと睾丸を一気に口に含み、舌で愛撫し始めた。同時に大きな指でデイビーのアナルの中を探り始める。

デイビーは夢心地になっていた。こんなことをしてくれた人は初めて!

興奮しきったデイビーがクラレンスの口の中に放出するまで、時間はかからなかった。クラレンスは出されたものを飲み、デイビーを驚かせた。

その後、クラレンスは立ち上がった。デイビーが彼のペニスをじっくりと見たのは、この時が初めてだった。巨大ではない(もっと大きいのを見たことがある)、でも、ベルのよりははるかに大きかった。

クラレンスはデイビーに覆いかぶさり、デイビーのアナルにペニスを押しつけ始めた。

「いや。私が上になりたいわ」

デイビーがそう言うと、クラレンスは肩をすくめ、デイビーを抱え上げた。そして彼を抱いたまま、クラレンスはベッドに腰を降ろした。

「仰向けになって。全部、私にさせて」 とデイビーは言った。淫猥さが溢れた声だった。

クラレンスは言われた通りにベッドに大の字になった。デイビーは後ろに手を回し、彼の大きなペニスを握った。そして、ペニスの亀頭がアナルに触れる程度まで、腰を浮かし、それから、ゆっくりと腰を沈めた。

これ以上ないほど、夢のような快感だった。これまで相手してきた男たちの誰よりも気持ち良かった。だが、その快感は、肉体的な快感とはほとんど関係がなかった。デイビーにとって、自分から選んでセックスしたのは、クラレンスが最初だったのである。ミッションのためでもなく、訓練のためでもなく、ましてや、何かを手に入れるためのセックスでもない。デイビーがこの男性とセックスするのは、この男性にセックスしてほしいから。それ以外の理由の何ものでもないから。

ふたりの行為が終わり、デイビーはクラレンスの大きな胸板に崩れるように覆いかぶさった。彼の心臓の鼓動が聞こえた。

心も身体も満足しきったデイビーは、愛する男の腕に包まれながら、ゆっくりと眠りに落ちた。

*

翌朝、船はいかりを上げ、港を出た。

デイビーは、注意深く、クラレンスにミッションの目的を告げずにいたが、クラレンスには分かっていただろうと思っている。なぜ、クラレンスに話さなかったのか? その理由のひとつは、クラレンスに、情報やサンプルを入手するために一緒に寝たのだと思われたくなかったから、というのがあった。もうひとつは、もっと論理的な理由で、今、実行するのは無意味だと思ったからだった。再び船が入港するまで待っているべきだと。

これがクラレンスに話さなかったふたつの理由だが、デイビーは最初の理由の方しか重視していなかったと言ってよい。そういうふうにクラレンスに勘違いされる可能性は低かったけれども、デイビーはクラレンスのことを思いやることの方が大切だと感じていた。それほど愛を感じていたのだった。

ふたりが一緒に過ごしたのは、たった2日間だったし、その大半が黙りこくったまま過ごしたのではあるが、デイビーは彼に対する愛情は本物だと感じていた。それにクラレンスの方も同じ感情でいることを認識していた。クラレンスは知的でハンサムだし、忠誠心もある(もっとも、ベル博士への忠誠心に関しては、忠誠心の置きどころが間違ってはいたが)。ボイにとって、これ以上の男性を、求めることなどできようか?

デイビーにとっては2回目の航海になる。だが、この2回目の航海は1回目に比べて、はるかに楽しい航海だった。というのも、この航海のかなりの時間を、彼はクラレンスの船室で激しく愛情豊かなセックスをして過ごすことができたからである。それ以外の時間も、ふたりでいることが多かった。ベル博士はと言うと、新しいハーレムができたおかげで、デイビーのことは忘れてしまったように見えた。多分、そうかもしれないし、そうでないかもしれない。

だが、この時間が、デイビーの人生で最良の時なのは確かだった。彼はクラレンスを愛している。何があっても、その気持ちは変わらない。

すべてがこの上ない喜びの日々だった。ある日が来るまでは。3ヶ月が過ぎた頃、クラレンスがデイビーのところに来て言ったのだった。

「明日、再び入港することになった。だがベル博士が君に会いたがっている。博士に、君を解放するよう言ってきたのだが、ようやく納得してもらったようだと思う。俺は、君のことを愛しているのだと博士に伝えたんだ。博士も、それを聞いて喜んでいたみたいだ」 とクラレンスが言った。

クラレンスは、ベル博士が自分の親友なのだと思い込んでいるらしい。デイビーは、それほどウブではなかった。

*

その数分後、ふたり一緒にベル博士の部屋に行った。

「おお、愛するおふたりさんか。入りたまえ。クラレンス、君に見せたいものがあるんだ。そしてお前」 と博士はデイビーを指差した。「こっちに来なさい」

ベルは階段のふもとのところに立っていた。

デイビーが博士のところに近づいた。

「裸になれ!」

デイビーはクラレンスの方を振り返った。彼は無言のまま、じっと立ったままでいた。デイビーは諦め、服を脱いだ。

「ちゃんと見てるか、クラレンス? お前が妻にしようとしてるボイが、どんなボイなのか、お前に見せてやろうと思ってな。こいつは、チビの淫乱ボイにすぎんのだよ。さしずめ、このボイ、お前に化合物を盗むのを手伝ってくれと頼んだだろう? 違うか?」 

ベル博士はズボンのチャックを降ろした。

「そんなことはありません」

「おお、そうか。それは良かったな。だが、このボイなら、いつそう言ってもおかしくない」 とベルはペニスを出した。

「尻をこっちに突き出せ」

デイビーがほとんど動かずにいると、ベルは乱暴にデイビーを背中を押し、上半身を傾けさせ、怒鳴った。

「尻を突き出せって言ったんだ! この淫乱ボイ!」

「オマール、こんなことはやめてくれ」 とクラレンスは握りこぶしを握りながら言った。

「これは」 とベルはデイビーの尻頬を強くひっぱ叩いた。「これは俺の尻なのだよ。そして、お前は俺に雇われている男だ。お前が降りられるのは、俺が降りてもいいと言ったときだけだ。指図できるのは俺であって、お前じゃないのだよ。それにお前は……」

クラレンスが飛びかかり、殴打し始めた。彼の怒りは激しく、気のふれた博士が死に、顔面を血だらけにし、誰とも判別できない状態になるまで、殴打が続いた。クラレンスはぼろぼろ泣きながら、「オマール、そんなことしちゃダメだ」と叫び続けるだけだった。クラレンスは、両手が血まみれで傷だらけになって(おそらく骨折もして)やっと、殴打をやめた。

デイビーは素早くパンティを履き、間違ってパンチを受けないようにと注意しながらクラレンスに近づいた。だが、心配する必要はない。クラレンスがデイビーを傷つけることなど、たとえ間違ってでも、ありえないのだから。

そしてクラレンスは、すでに死んでいた男への殴打をやめ、涙をとめどなく流しながらデイビーの膝に顔を埋めた。そして彼の怒りはゆっくりと鎮まっていった。愛する者の腕に包まれながら、彼は啜り泣きを続けた。

*

翌日、船は入港した。愛しあうふたりが下船し、彼らの後に、戸惑い顔のセクシーなボイや女たちが続いた。船員たちは、何が起きたか知っているようだったが、誰も、本当の話しを知らないし、ベル博士の死体がどこにあるのかも知らなかった。ベルの死体はクラレンスがデッキから海に放り投げたのだった。

ミッションに関しては、デイビーは頼みすらせずに遂行できた。デイビーに言われるまでもなく、クラレンス自身が衛視の元に行き、中に通せと命令し、部屋の中からオリジナルの化合物が入った容器を持ち出したのである。彼は、ロックされた実験室にあるすべてのコンピュータからハードディスクも持ち出した。

下船後、ふたりはエージェンシーの本部に直行した。下船した港から本部までは、アメリカを横断する旅行となったが、行楽気分のドライブ旅行で、何度も愛の行為も行った、極めて楽しい旅行になった。

本部に着くと、エージェンシーの大半の局員は、デイビーが生きていたこと、ましてや任務に成功したことを知り驚いた。不満と言えば、ベル博士が死んでしまったこと、それゆえ、治療法を得るための、より多くの情報が得られなくなったことだけだった。

だが、後から分かったことだが、治療法を得るためには、それからたった2年しかかからなかった。そのさらに半年後、治療法が、それを欲する人誰にでも与えられるようになった。治療を受けたのは、ボイの20%だけだった(もっとも、メディアでの報道では、それよりはるかに少ない人数にされていたが)。

デイビーとクラレンスに関しては、ベル博士が大気に化合物を放出してから6年ほど経った時、ふたりは結婚した。それまでに世界は大きく変わっていた。この2年間だけでも、大きな変化があった。

多くの人々が、ボイに対してネガティブなステレオタイプを抱き、ボイは意志薄弱で、セックス狂で、好色狂であると考えていたが、すぐに、世界は、そういうステレオタイプのボイは、調節期間を過ぎた後は消滅すると気づき始めた。ボイたちは、確かに以前の姿とは大きく違った姿になるが、それ以外では他の人々となんら変わらぬ、普通の人間なのである。他の人々と同じように、希望や夢を持ち、愛情や成功を求める、そういう人間なのだ。世界はそういうふうに認識を改めていった。

そして、人生は続く。世界は、ジェンダーが3つの世界になった。男性と女性とボイである。誰もベル博士のことを悼むひとはいなかったが、彼が歴史の本に名前を残したのは事実だ。クラレンスは、ベル博士は、本当に欲した世界を実現したといつも言う。でも、デイビーは、それはどうかなと思っている。デイビーによれば、ベル博士は、よくいる狂ったテロリストのひとりにすぎない。ただ、偶然にも自分の人生の目標をまっとうする結果を生むことができたテロリストなのだと。

おわり


[2015/10/05] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

デビッド・ジョーンズとベル博士の追跡 (15) 

日々がだらだらとすぎていった。毎日、同じようなことの繰り返しで、デイビーも退屈し始めていた。ハーレム仲間みんなに、さまざまな性的な行為が行われた(通常の性行為とは違うことも多かった)。それにデイビー自身、楽しんでいたのは間違いない。それでも、デイビーはどうしても時計がチクタクなる音が聞こえてくるのだった。1ヵ月がすぎたのに、ミッションに関してはほとんど進展していない。彼は、いまだにベルのお気に入りの行為相手だったが、だからと言って、任務遂行の機会が増えるわけではなかった。

1ヵ月はすぐに2ヶ月になり、デイビーは、そろそろ動きださなければならないと思った。ベルは、すでに、ベティとパーシーのふたりに飽きていた。ふたりは、ベル博士よりクラレンスに抱かれる方を切望するようになっていた。ふたりは、クラレンスの方がセックス相手としてベル博士よりもずっといいと言っていた。

2ヶ月目はやがて3ヶ月目になり、デイビーはパニック寸前の状態になっていた。その頃までには、ベル博士はデイビー以外の者たちを相手にすることは、ほとんどなくなっていた。ということは、とりもなおさず、ほぼ毎日、デイビーはベル博士に抱かれるようになっていたことを意味する。

そして、出港してから3ヶ月半になったある日、クラレンスがデイビーのところに来て、言った。

「我々は、明日、入港する。ベル博士は、その前にお前に会いたいとおっしゃってる」

その時の行為も、他の時と変わらなかった。クラレンスに連れられてベル博士の部屋に行くと、ベル博士はすぐにデイビーを四つん這いにさせ、後ろから突きまくり、彼に快感の叫び声をあげさせた(もちろん、演技であるが)。そうしてベル博士が射精すると、しばらくふたりで横たわったままになり、その後、デイビーは部屋を出ようと起き上がるのである。

だが、この日、デイビーが起き上がろうとすると、ベル博士は呼びとめた。

「いや、もうちょっとここにいなさい、デイビー」

デイビーはベッドの上に座った。これは、これまでなかったことだった。

「私の隣に横になるんだ」 とベル博士はベッドの上をトントンと叩いた。

デイビーは言われた通りに横になった。背中を向けて、お尻をベルの股間にくっつけた姿勢でいた。ベルは後ろから手を回して、何気なくデイビーの乳首をいじり続けた。

しばらくそうしていた後、ベル博士が突然、言葉を発した。

「お前のことは知ってるのだよ、デイビー・ジョーンズ。……政府のエージェント。否定しようがないな。お前がこの船に乗ってきた最初の日から知っていた。私が作り上げた新世界を覆そうとしているボイを犯すのは、実にワクワクしたものだ。お前も楽しんでいたようだな。かなり喜んでいたようだ」

デイビーはくすくす笑った。「いいえ。そうでもないわ。あなたのあの小さなおちんちんで? まさか。最初に見た時、あなた自身がボイかもしれないと思ったほど」

ベルはデイビーの尻頬をピシャリと叩いた。かなり強く。

「良いボイは、目上の者をからかったりしないものだぞ!」

しばらく沈黙が続いた後、またベルが言葉を発した。

「クラレンスから聞いていると思うが、明日、我々は入港する。お前は船から出るのは許されない。入港するまでは部屋に戻ってもいいが、我々が上陸している2日間は、お前は監禁することにする。もう行ってもいいぞ」

そしてベルは再びデイビーの尻を叩いた。「それと、再び海に出た後は、もうお前はここに来なくていい。恩知らずのボイは不要なのでね」

*

部屋に戻るまでの間、デイビーは焦燥した。顔にも不安が出ていたに違いない。それを見たエリックが尋ねた。

「どうしたの? 何かあったの?」

「いえ、何も」 とデイビーは嘘をついた。「何か身体に合わない物を食べたみたいで、気持ち悪いの。それに、ベル博士に、みんなよりここに長くいるよう言われたし」

彼のハーレム仲間はみんな笑顔になり、デイビーを祝福した。エイミが声を上げた。

「気をつけていないと、ベルのお嫁さんにされちゃうわよ。デイビー・ベル夫人! 素敵な指輪をもらえるわね」

「ええ、たぶん」 とデイビーは言い、横になった。

ベティはバスタブに入っていた。脚の毛を剃っている。

「あなたたちボイが羨ましいわ。何でも持ってる。妊娠する心配をしなくてもいいし、身体は最高だし、それに脚の毛を剃る必要がないなんて! この剃刀負けを気にしなくても良くなるには、どうしたらいいのかしら……」

デイビーはその後の話しを聞くのをやめた。さんざん聞いてきたことだった。デイビーは、これまでの人生で初めて、今後どうしたらよいか分からなくなっていた。

*

予定の入港時間の2時間ほど前、クラレンスがハーレムに現れ、デイビーを別の部屋に連れて行くと言った。デイビーは仲間に手短に別れのあいさつをし、船を離れる時が来たら、必ずみんなに会いに行くと約束した。

その後、彼はクラレンスにエスコートされて、このクラレンスが居住していると思われる部屋に連れて行かれた。その部屋はベルの部屋ほど豪華ではなかったが、それなりに快適そうな部屋だった(小さかったが)。シングルベッドがひとつだけで、歩きまわれるようなスペースはあまりなかった。

クラレンスはデイビーにベッドに座るよう指示し、自分はデスク脇の椅子に座った。

「これから2日間、俺がお前の見張りをすることになる。もし、服を着たいなら、着て構わない。この部屋では裸になってる必要はほとんどないから」

クラレンスは、そう言いながら、デイビーの身体に目を向け、顔に少し不快そうな表情を浮かべた。

その表情を見た瞬間、デイビーは急に裸の自分があからさまに露出していることを実感した。デイビーはこの3ヶ月間、ほとんどずっと全裸のままで過ごしてきた。だが、この逞しい見張り役の男のちょっと不快そうな顔を見た瞬間、彼は急に裸でいる自分が恥ずかしくなったのだった。

デイビーは自分の小さなスーツケースを取り出し、それを開けた(そのスーツケースは、初日に着てきたショートパンツとタンクトップを入れた後は、一度も開けていなかった)。そして、中からパンティを出し、履いた。その後、ジーンズと白いブラウスを出し、それを着た。

服を着た後、デイビーはベッドに横になり、クラレンスの様子を観察した。この男と肉体的に戦って勝つ可能性はゼロだろう。彼はNFLのディフェンスのラインマンのような体つきをしている。

「それで、あなたはどのくらいベル博士の元で働いてきているの?」 とデイビーは声をかけた。

「もう10年以上だ。博士の組織の保安部の長をしていた。博士が……博士があの化合物を放出するまでは……」

その言葉の最後のところを言う時、クラレンスがちょっと苦々しく思ってる様子であるのをデイビーは察知した。

「その前は何を?」

そう問いかけたが、答えは返ってこなかった。

「ねえ、私たち2日間もここに閉じこもることになるのよ。ちょっとおしゃべりしたら、気が楽になるんじゃないかしら?」

クラレンスはそれでも黙ったままだった。デイビーは、聞えよがしに溜息を吐き、仰向けになって枕に頭を乗せた。

少し沈黙があった後、クラレンスが答えた。

「俺は15年間、海兵隊にいたんだ」

「じゃあ、たくさん戦闘に加わったのね?」

「ああ、かなりな。だが、あまりそれについては話したくない」

「ベル博士が国の敵になってることについては、どう思ってるの?」

「ベル博士は偉大な人だ」 クラレンスはそれしか言わなかった。

「でも、あなたも、彼がしたことは間違ってると分かってるはずよ。あなたの道徳心は彼のほど、ひねくれてはいないのは確かだもの」

「白人と黒人の間のレイシズムが、今は、ほとんど消えているのを知っているか? 考えてみろよ。今は、白人は黒人を嫌ってはいない。もっと言えば、積極的に黒人との交際を求めている。黒人の方も白人を嫌ってはいない。今は、白人とセックスしたいと思ったら、前ほど苦労しなくてもよくなっているだろう。確かに、多少は、周辺的な人種間のいざこざはある。だが、そういうのは急速に圧倒的なマイノリティになってきてるんだ」

「でも、ベル博士が破壊した人々の人生については、どうなの? ばらばらになってしまった家族がたくさんいるわ」

「コラテラル・ダメージだよ(参考)」 とクラレンスは答えた。

そして、「ベル博士は偉大な人なんだ」 と付け加えた。まるで自分を納得させるために言っている感じだった。


[2015/10/05] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

デビッド・ジョーンズとベル博士の追跡 (14) 

デイビーは、デッキの上、裸でくつろいでいた。隣には女の子がふたり、ボイがひとりいて、同じように全裸でくつろいでいる。どの娘もボイも息をのむほど美しい。だが、デイビーは、自分が最も美しいと知っていた(それにその事実にプライドも感じていた)。

あわただしい一日だった。その日の朝、彼は9時少し前にドックに出向いた。服は、下はキュートなデニムのショートパンツ、上は、お腹のところが露出するタンクトップを選んだ。

ドックに行くと、豪華な船にエスコートされた(多分、全長40メートルはありそうだとデイビーは思った)。船室は複数階にわたって存在し、ヘリコプター発着場や、ジャクージ、小さなプールもあった。100万ドル以上はかかっただろうと思われる。

巨大な船の船内を手短にひと通り案内された後、彼は居住することになると思われるところに連れて行かれた。そこは大きな部屋で、船室があるひとつの層をほぼ丸々占有していた。この部屋を他の者たち(彼を除くと、ボイ2名、女性4名)と共有する。とは言え、それでも充分すぎるほど、大きな部屋だった。

「ベル博士は、お前たち全員に同じベッドで寝てほしいとお考えだ。だが、それは義務と考えなくてもよい」とクラレンスは皆に説明した。「もし嫌なら、取り計らうことができる」

連れてこられた者たちには、招待してくれた人のご機嫌をそこねたいと思う者は誰もおらず、ベッドはひとつで構わないと同意した。実際、見てみると、そのベッドは過剰なほど大きなベッドで、7人が一緒に寝ても、充分、余裕があるものだった。

バスルームはふたつあり、大きな浴槽も自由に使えるようになっていた。どうやら、ベル博士は、ハーレムに属する者たちには、何一つ不自由させないと思っているらしい。

デイビーのミッションは単純ではあったが、同時に、極めて厄介でもあった。そのミッションは、博士が船内に例の物質のサンプルを持っているかどうかを調べること(入手した情報によれば、実際、船内にあることを示唆している)。そして、もし船内にあるなら、それを入手する方法を探り、盗み出すことだった。加えて、博士の研究に関して、できる限り多くの情報を集め、船外のエージェントに伝えること。

確かに、単純な使命である。だが、最も順調に遂行するにしても、最大4ヶ月は、あのテロリストに囲われたハーレムのボイとして船内で生活しなければならない。もっとも、それは、捕まって殺されるよりはましなのは確かだ。

そういうわけで、デイビーはキャラクタを変えずにいた。すでにこの3ヶ月ほど、そういったキャラクタで生活してきたわけで、それ自体は難しいことではなかった。

初日の生活が、彼の船上での生活全体の基調となった。日中の大半の時間は、プールのそばに裸で横たわり、他の者たちと一緒に日光浴をする。それだけだった。時々、船員のうち誰かが近くに立ち寄り、美しいボイや女たちを眺めては、また仕事に戻っていく。

暇を持て余したボイや女たちは、必然的に自分たちの生い立ちについて話し始めた。ボイのひとり(パーシーという名のブロンドのボイ)は、変化する前は建設関係の労働者だったと言う。もう一人のボイは、エリックという名の茶髪で、哲学を専攻していた大学生だった。女性たちは、エイミ、イングリッド(スウェーデン人)、そしてベティだった。エイミは小柄だが、曲線美が豊かな茶髪の女性で、プロのダンサーだと言う。イングリッドはモデル志望の女性。そしてベティは専業主婦だったが、少し前に夫婦関係が国の指示により解消されてしまったと言う。

各自の自己紹介が終わりにさしかかった頃、クラレンスが現れた。

彼はデイビーを指差した。「お前……ベル博士がお呼びだ」

デイビーは、クラレンスがじっと見つめているのを感じながら、気だるそうに立ち上がった。クラレンスは彼を船の1階に連れて行き、その後、エレベータへと導いた。エレベータは最上階まで一気に上がった。ドアが開くと、非常に豪華な部屋が目の前に現れた。

天井にはクリスタルのシャンデリアがあり、穏やかな波の揺れに合わせて、ゆったりと揺れている。部屋全体の壁は、濃い目の色の、丁寧に磨き上げられた木板で覆われている。(デイビー自身はアートの審美眼はないが)非常に高額そうに思える絵画が壁に掛けられており、床にはオリエンタル風のじゅうたんが敷かれていた。

部屋の奥には踏み段がふたつ、交差するように上に伸びていて、バルコニーに通じている。そのバルコニーには4柱つきのキングサイズのベッドがあった。ベル博士は、そのバルコニーに立っていて、デイビーとクラレンスを見おろしていた。ベル博士はシルクのトランクスにバスローブを羽織っただけの格好でいた。

「おお、可愛いねえ」 とベル博士が言った。「さあ、君と私でもっと互いを知り合おうじゃないか」

デイビーは踏み段を上がった。彼の小さなペニスが、段を上がるたびに揺れていた。踏み段を上がりきり、ベル博士の前に立つ。

「君の姿をもっとよく見せてくれるかな?」 とベルは指を伸ばしてクルクル回す仕草をした。

デイビーがゆっくりと回るのを見ながら、ベル博士は言った。

「知っての通り、私が君をこうしたのだよ。私が君を今の姿に変えた」

「ええ、知っています。ありがとう」

「変わる前は何をしていたのかね?」

「私? 今もそうですが、学校の教師をしています。中学の英語の」 とデイビーは嘘をついた。

「おお、そうなのか? じゃあ、どうして君は、いま教室にいないのかな? 教室で思春期の子供たちに名詞や前置詞を教えていないのは、どうしてなのかな?」

「1年間、休暇を取ったんです。その……変化に慣れるまで、ということで」と、デイビーはさらに嘘を続けた。これは、キムと一緒に作り上げた設定だった。

「それで? それはどんな調子なのかな? もう順応したのかな?」 とベルはニヤニヤしながらデイビーに近づいた。

「え、ええ……」 とデイビーは答えた。ベルの顔がすぐ近くに来ている。

「見せてもらおうか」 とベルは命じ、デイビーにキスをした。

デイビーは、心の中、トレーニングしてて良かったと思った。ミッションが始まる前のトレーニングと、その後の、この船に乗り込む前の何ヶ月間の時間の両方に感謝した。それがなかったら、このテロリストに対する嫌悪感で、顔を引っ込めていたことだろう。

だがトレーニングの甲斐もあり、デイビー自らキスを返した。何秒か唇を重ねた後、デイビーはキスを解き、ベル博士の首筋に唇を這わせ始めた。小さなキスを繰り返しながら、徐々に首筋を下り、胸板へと進む。黒肌の胸板に唇を寄せながら、両手を胸に当て、ベルの白髪まじりの胸毛を指で掻いた。さらに下方へと移り、少したるんだ胴体へとキスを続けた。デイビーは、ベルはだらだら過ごす時間をもう少し減らし、運動をする時間を少し増やすべきだと思わざるを得なかった。

流れるような滑らかさで、デイビーは床へと両膝をつき、ベルのトランクスのゴムバンドに指を引っかけた。そして、それを引き降ろす。ベルのペニスが姿を見せた。小さいと言うわけではないが、大きいとはとても言えない。平均よりちょっと小さいくらいだろうと思った。

そのペニスにキスを始めると、奉仕に報いるように、固くなり始めた。ベル博士は片手をデイビーの頭に当てたが、デイビーは急ぐ気はなかった。彼は、経験から、焦らした方が、ペニスを口に入れた時の快感がはるかに増大することを知っていた。

時々、唇で亀頭を包んだりするのを加えながら、2分ほど舐め続けた。そうやって焦らした後、口に含み、吸い始めた。デイビーは、パーティ好きのボイとして何ヶ月間か暮らす間に、多くのことを学習したのである。今や彼のフェラ・テクニックは非常に熟達していた。

「ベッドに上がれ」 と2分ほどした後、ベルが指示した。「お前の可愛い尻にヤッテやる。……いや、四つん這いだ。ああ、その格好だ」

四つん這いになったデイビーの後ろにベルがついた。彼のペニスは、ほとんど抵抗なく滑り込んできた。そして挿入と同時に抜き差しが始まる。

ベル博士はセックスの技量もなければ、スタミナもなかった。ただ、しゃにむに出し入れを繰り返すだけ。とはいえ、それはデイビーにまったく快感を与えなかったというわけではない(もっとも、デイビーはオーガズムには達せなかった。彼は演技で、達したフリをした)。その行為は、たった2分ほどで終わってしまった。

ベル博士は、行為が終わると、デイビーから離れ、彼の隣に仰向けになった。ハアハアと息を切らしている。

「もう戻っていいぞ」

と彼は言った。

*

そういう調子で2週間ほどが経った。

ベル博士はひとりだけ相手にする時もあれば、ふたり一緒に、あるいは3人一緒にすることもあった。さらには全員一緒にということもあった。デイビーは、ひとりだけ相手にするときは、自分が他の者より多く選ばれているのを感じた。複数でする時は、特にボイ同士で絡みをすることが多かった。それがベル博士の特にお気に入りらしい。

ミッションに関して言えば、デイビーは、初めのうちは何もしないことにしていた。彼は、彼自身を含め、女やボイたちがベル博士の手下たちに見張られていることを知っていた。なので、デイビーは、船の詳細をすべて心に留めつつも、役になりきって行動し続けた。

だが、すでに、ベル博士の実験室や作業場、あるいはオフィスがありそうな場所はつきとめていた。おそらく、それはデッキの直下の階だろう。一度、ベルの寝室に連れて行かれる途中で、その階の様子を垣間見たことがある。部屋のドアの前には、武装した衛視がふたりいたし、ドアノブの近くにキーパッドがあった。

ある日、デイビーが他のボイや女たちと一緒にベッドに座っておしゃべりをしていた時だった。この日も全員、全裸だった。彼らは滅多に服を着ない。着るとしたら、普通はランジェリだけである。おしゃべりしているうちに、ちょっと興味深い話題が持ちあがったのだった。

「ある物語があって、その物語の敵役がレイシストだったとするよ。そういう場合、その物語自体も差別主義的になると思う?」 とエリックが言った。

「もちろん、そんなことはないわ」 とデイビーが答えた。

「いや、最後まで言わせて」とエリックが続けた。「物語全体が、差別主義的な行為に基づいているとするの。例えば、だけど、私たちが置かれている状況を物語にしたとしてみて? 話しのための仮定としてね。そんな場合、私たちが主人公だわ。いわばヒーロー。じゃあ、悪役は誰かというと……」

「ベル博士」 とエイミが口を出した。

「その通り」とエリックが言った。「ベル博士は、あからさまにレイシスト的な理由で世界中に例の化合物を撒き散らした。そこで、誰かがそのことについて物語を書いたとするね。その場合、その物語を書いた作者は、あるいは物語自体でもいいけど、差別主義的だってことになるのかしら?」

「私はそうは思わない」とデイビーが言った。「つまり、ベル博士が悪者だとしたら、その物語は、彼がやったことを許さない結末になるということでしょ?」

「まさにその通り」 とエリックが答えた。「でも、ここからが問題だけど、その物語が私たちのように展開したとしたらどうなる? 私たち、みんな、変化があって結局ハッピーになっているわよね? そうでしょ? そのことは、ベル博士が悪者で、彼の差別主義的な行為が、少なく見ても、狂っていて間違っていたという事実を変えてしまうかどうか、なんだけど。どう?」

「もちろん、変えない」とデイビーが言った。「物語の中のキャラクタたちが頑張って、自分たちの新しい人生を何とか良いモノにしようとしているからと言って、作者がベルがしたことを許していると言うことにはならないわ。もっと言えば、正反対のことを言ってることになると思う。そういう物語は、少なくとも風刺と言えるんじゃないかと思うの。多分、何かのフェチのポルノ小説のようなものを狙った、書き方もマズくて、場違いの、嫌な書き物でしょうけど。でも、風刺なのは確かじゃないかしら。国とか民族が過去に行った悪事に対して、いま生きている人たちが償いをしなくちゃいけないという考え方をバカにする風刺。過去の出来事を過去にとどめ、現在や未来のことに目を向ける。人間にはそれができないという考え方って、本当に広くいきわたっているでしょう? しかも、どの社会にも見られる考え方。それをからかっているのよ。でも、そういうことを全部、吐き出すにも書き方があるかと思うけど」


「バカな演説はやめて、ソープボックスから降りなさいよ(参考)」とベティは、デイビーに枕を投げた。「でも、その仮想上の物語にはいいところを突いてるかもよ」

その後の会話は、(そもそも、どうしてこのような話しが出てきたのか誰も分からないまま)「もし、あの時、こうだったら?」とか他の仮定の物語の話しへと流れていった。例えば、レイシズムを表現する物語は、誘拐、拷問、子供相手の性交やレイプを表現する物語(エリックは、そういう題材はレイシズムよりもネガティブな反応を受けにくいと主張していたのだが、そういうの)よりも悪いのかどうかといった議論から、それぞれ、どういう趣味嗜好に一番興奮するかといった話題に至るまでいろいろあった。

だが、その日のおしゃべりを通じて、ハーレム仲間の間では、デイビーは知的だとの評判が高まり、彼は尊敬を集めたようだった。その夜は、みんな身体を寄せ合うようにして眠った。

*

[2015/10/02] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

デビッド・ジョーンズとベル博士の追跡 (13) 

デビッドは1時間近くクローゼットの前に立っていた。何を着るべきか決めようとしているのだ。今夜のことについて考えながら、ドキドキしている自分がいた。

計画は単純だった。彼は、楽しいひと時を過ごしたいと相手を探してるクラブ・ボイになりすます。理屈から考えて、この夜にベルがクラブにやってくる可能性はあまりないのは知っていたが、どうしても、もし本当にベルが来たらどうなるだろうと想像してしまうのだった。

デビッドは頭を振って、そんな愚かな想像を振り払った。出かける時間が差し迫っている。

何を着て行くか決めようと思いながら、選んだのはパンティだけだった。セクシーなピンク色のソング・パンティ。その後、ようやく彼はその下着にマッチした服を選んだ。スカートは、太腿がかなり露出するミニで、全体的にふわふわしていて、お尻のあたりだけ伸縮性のあるバンドで締めている。トップは、ひらひらした生地で、ほぼシースルーのトップ。それを着て彼は鏡の前に立った。鏡に映る自分の姿に満足した彼は、ストラップ式のハイヒールに足を入れ、ホテルを出た。

このミッションはデビッドが単独で実行するということに決められていた。キムは、自分も同行すると申し出たが、彼女には、危険から身を守るのに必要なトレーニングの経験がなかった。

デビッドのホテルは、問題のクラブから2ブロックしか離れていない。通りに出て、クラブに向かう道を歩きながら、デビッドは街を歩く人々が自分に視線を向けるのを感じ、微笑んだ。適切な服装を選んだことが、彼らの視線から分かる。

そのクラブはかなり大きな店で、名前は「ミスト」という単純な名前だった。デビッドの情報提供者によると、ベル博士が街に来た時に訪れるのは、このミストだけらしい。クラブのドアマンはデビッドを見つけると、入場を待つ行列をスキップさせ、彼を優先的に招き入れた。

だが、その夜は不発に終わった。

デビッドは一晩中、踊り続けたが、ベル博士は現れなかった。デビッドに一夜の情事を誘う者たちが何人かいたが、彼は丁寧に誘いを断った。ただし、お酒をおごろうとする申し出は受け入れたし、かなり多数の男たちとダンスをした。しかも、かなり意味ありげなダンスを。

その夜、デビッドは落胆してホテルに戻り、ベッドに倒れ込んだ。期待したのが愚かだったとは分かっていた。だが、頭ではそうは分かっていても、塞ぎこんだ気持ちになるのは止められなかった。

何日か不発状態のまま過ぎた。毎晩、デビッドはクラブに通った。一夜限りの誘いは断り続けた(いまだに彼はそういう関係は心地よくなかったから)。とは言え、自分の評判に気をつける必要があることも知っていた。美しくセクシーなクラブ好きのボイが毎晩現れるのに、一度も誰かと一緒に帰ったことがないというのは、疑念を起こさせるものだ。というわけで、デビッドは、2日か3日に一回は、誰かと連れだってホテルに戻るように、方針を切り替えた。そういう相手としては、ビジネス等で成功しているような男だけを選んだ。やがて、デビッドは意図した評判を得るようになっていった。

不発の日々は、やがて週になり、週が重なり、ひと月以上になっていった。

その頃になると、デビッドは、黒人男性に関するステレオタイプが完全に無意味であることを理解していた。彼は様々なペニスを見ていた。小さいのから大きいの、短いのから長いの。実に様々だった。男たち自身も、極めて多様だった。引っ込み思案の黒人もいれば、本当に傲慢で支配的な黒人もいた。優しくて感情豊かな黒人もいれば、勃起すらできない年配の黒人もいた。やはりそうなのだ。黒人男性も他の人種の男たちとまったく変わらない。そうデビッドは思った。

デビッドは、パーティ好きのボイを装いつつも、内面ではできるだけ冷静に、計算づくで振舞おうと努めつづけた。だが、実際には、それは困難だった。人間は、ある役割を長い間、演じ続けると、やがてその行為は、その人間にとってリアルなものとなっていくものである。毎夜クラブ通いをし、男たちといちゃつき、ダンスをする。そして何日かに一回の割合で男に抱かれ、快感に溺れる。そういう日々を送るうちに、デビッドは、本来の自己と、クラブ好きのボイという仮面とを区別する能力を次第に失っていった。

1ヵ月がすぎ、デビッドは内面での抵抗を諦め、素直に流れに任せるようになっていた。もちろん、ミッションの目的は忘れずにいたし、ほとんどあらゆる事象について観察も怠らずにいる。だが、日陰に留まり、人々に気づかれないようにするといった彼本来の性向は消えてしまい、おそらく、もう二度と見られることはないだろう。デビッドは、前とは異なる存在になっていた。かつては、状況を遠くから観察するだけで満足していた彼だが、今は、状況に自ら飛び込み、衆目を浴びても気にしなくなっている。

さらに2ヶ月がすぎ、デビッドは新しい生活に完全に馴染んでいた。友だちすら何人かできていた。彼らは皆、デビッドのことをデイビーと呼んだ。さらに、クラブの常連客の大半も、彼と顔なじみになっていた。もっとも、彼らはデイビーのことを、ちょっと尻軽で非常にセクシーな、面白いことが大好きなパーティ・ボイとしてしか知らない。

3ヶ月がすぎた頃、辛抱強く待ったデイビーが、ようやく報われる日が来た。彼がダンスフロアで踊っていた時、中年の黒人男性が店内に入ってきたのである。デイビーはすぐにその人物がベル博士だと認識した。禿げ頭で、白髪まじりのあごひげを蓄えた男。彼のそばには、巨体の男がいた。おそらくベルのボディガードだろうとデイビーは思った。

*

その夜、ベルは、極めて上機嫌でクラブに歩み入った。船上での生活は嫌いではなかったが、たとえ短期間とはいえ、陸地に戻れて嬉しかった。船にいると常時、波に揺られている。たいていは、その感覚も快適なのだが、時に神経にさわることもあるのだ。彼は陸地で眠ることを楽しみにしてきたのである。

だが、ベル博士が興奮している理由は、揺れのない陸地で過ごしたいといった単純なことだけではなかった。もっと言えば、それが一番の理由ですらなかった。彼が興奮している一番の理由は、彼の現在の美しいボイや女たちのストックを入れ替えることにあった。彼は選り好みが激しい男だった。常時、船には12人ほどのボイや女を集めてハーレムを築いているのだが、すぐにその半数には飽きてしまうのである。というわけで、ベル博士は、何ヶ月かに一度、ハーレムの半分を入れ替えることにしていた。彼はその日を待ち望んでいたということである。ボイか女かは、ほとんど関係なかった。綺麗である限り、ベル博士には、どちらでも良かった。

彼がクラブの中を歩いていると、クラブのオーナーが来て、彼をVIPルームに案内した。ベルは腰を降ろすとボディガードに顔を向け、言った。

「クラレンス、新しいお友だちを見つけてきてくれるかな?」

クラレンスの趣味は非の打ちどころがなく、彼に任せておけばよい。ベル博士がそう思う理由は2つあった。ひとつは、クラレンスがベル博士にこれ以上ないほど忠実であること。ベル博士とクラレンスはずっと一緒に行動してきた。そもそもの始まりから、クラレンスはベル博士に伴ってきていたのである。ふたつ目の理由は、クラレンスが選んだ女やボイたちは、ベル博士に奉仕するだけではなく、時に、クラレンス自身にも奉仕することもあったという理由である。そうであるならば、クラレンスの選択は信頼してよい。そうベル博士は考えていた。

チョイスをクラレンスに任せたベル博士だったが、ちょうどその時、彼はあるボイを目にしたのだった。ボイにしては背が高いか? 多分、160センチから165センチくらいか。ファッションモデルのような体つきをしている。スリムで、柳を思わせる四肢。音楽に合わせて、思わせぶりなダンスを踊っていた。ショートの髪だが、意図的に乱れたヘアスタイルにしている。

ベル博士はクラレンスに、そのボイを指差して見せた。

「あのボイは必ず連れてくるように」

*

デイビーはベル博士が自分に目をつけたことに気づいた。博士がVIPルームのバルコニーから自分のことを見ている。そして、その2分後、巨体のボディガードが近づいてきて、VIPルームに来るよう言った。いよいよか!

彼は、他の何名かのボイや女と一緒に、VIPルームへと招き入れられた。デイビーは、気に入られようとできる限りセクシーに振る舞った。ベル博士をセクシーに焦らし、ほのめかすようなダンスをしたり、他の女やボイとダンスをし、さらには彼らにキスをしたりを交互に行った。

ベル博士がずっと彼に視線を向けているのに気づき、デイビーは内心喜んだ。夜はふけていき、やがて客たちも帰り始めていた。店じまいの時間が近づいた時、クラレンスがデイビーの腕を取って、引き寄せた。

「ベル博士は、お前をお気に入りのようだ。お前には、2ヶ月ほど、博士の船に乗って同行してほしいとおっしゃってる。その時間の分の報酬は保障する」

デイビーはわざと呆気に取られて言葉が出なくなっている表情をして見せた。だがクラレンスは、彼にお構いなく話しを続けた。

「この話、同意するか? 身の回りのものはすべて提供する。欲しいもの必要なもの、すべて、満たされるだろう」

デイビーは無言のまま頷いた。

「よろしい。船は、このカードに書かれているところに停泊している」 とクラレンスはデイビーにカードを渡した。「明日の朝9時までに、ここに来い」

そう言ったきり、クラレンスは離れ、集められたボイと女のうちの別のひとりのところに行った。おそらく、同じ招待を伝えるためだろう。

デイビーは興奮を隠すのがやっとだった。潜入できる!

2分くらい後、ダンスを踊るデイビーのところにベル博士が近づいてきて、デイビーの手を取り、手にキスをした。

「じゃあ、また明日」

そう言って彼は出て行った。

*


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