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願い事には注意して (8) 


* * * * *

みんながあたしの家でテレビを見ている間に素早くシャワーを浴びた。でも、それを除けば、あたしはずっと部屋にこもって、考えを整理することにした。

まず第一の、そして多分、いちばん重要なことはというと、いろいろ問題はあるけど、あたしはこのおっぱいが大好きだということ。心配の種はあるけど、このおっぱいをなくしてもらおうというのは論外だと思った。

今日一日のことを思い返しながら、仰向けになったけど、どうしても胸に目が行くし、優しく触れてしまう。家の中には他の人たちがいるけど、ずっと部屋に閉じこもったままでいようと思ったので、上半身は裸になってベッドでゴロゴロし、おっぱいをいじって楽しむことにした。シャワーの後は、ぴっちりした布のショーツだけの格好。

外は日も暮れて暗くなり、ウェンディやウェンディの友だちは庭に出てビールを飲んでいたけど、あたしはずっと部屋でゴロゴロしていた。

そして、この胸。形が最高であることに加えて、あのキッチンで感じたオーガズムが驚きだった。これまでの人生で、一番パワフルなオーガズムだったと言わざるを得ない。

もちろん、これまでも何度もオーガズムを感じてきている。でも、それは全部、似たようなオーガズムだった。それもそのはず、全部、自分で自分にして感じていたわけだから。あたしは、この通りの性格だから、彼氏なんかいないし、もちろんバージンだし。

このおっぱいでのオーガズムも自分で自分にしたわけだから、同じと言えば同じなんだけど、でも、強烈さは圧倒的だった。

それにそのことを考えれば考えるほど、ミルクのことはあまり気にならなくなってきた。確かに、ちょっと不便なことだけど、このおっぱいの見栄えと、ミルクを出す時に感じる快感に比べたら、何てことない感じだった。

それに、これも認めなければならないと思ったけど、そのミルクの側面も、あたしにはちょっとセクシーに思えるのだ。自分の身体から何かが出たという点。汚いモノとかじゃなくって、栄養があって、ジーナやウェンディの反応から察すると、美味しいモノ。それを自分の身体が分泌してるという点が、何かゾクゾクしてくる。

それにウェンディたちがあたしの分泌したモノを美味しそうに飲むというのも興奮だった! あの時のことを思い浮かべるとゾクゾクしてくる……。

でも……

ウェンディとジーナのことを思い浮かべたら、別のことも思い出してしまった。このおっぱいの唯一のネガティブな側面。つまり、おっぱいがあっても、効果がなかったということ。

あのとき、あたしは大きなおっぱいをしてキッチンに立っていた。明らかに「セクシー」に見えていたはず。なのに、あたしは相変わらずギクシャクとして強張っていた。ぜんぜん、みんなとうち解け合わなかった。前とおんなじ、「変人」のまま。

おっぱいは、一種の魔法の銃弾となって、あたしの人づきあいでの不安感や、おどおどとして、引っ込み思案なところを直してくれるとばかり思っていたのに。今になって思えば、そんな考えは甘すぎたみたい。

それに欲求不満も高まっていた。それが、その時いちばん強く感じていた気持ちかも。身体の奥底から湧き上がってくるような強烈な欲求不満感。じわじわと押し寄せてくるような感じ。

しばらく経ってから気づいたけど、その耐えがたい欲求不満感と一緒に、胸も痛くなり始めていた。最初、それがどういうことか分からなかったけど、ひょっとすると、あたしの大きなおっぱいは、不安感に反応するのかしらと思った。

でも、すぐに思い出した。6時間経ったのだ。ミルクの時間になったのだと。とすると、この欲求不満を解消する、お気に入りの方法があるじゃない?……

ミルクを受けとめるカップの代わりになるものがないか、部屋の中を見渡した。これまでの経験から、かなり多量なミルクが出るのは知っていた。部屋の中には水を飲むときに使うコップがあるけど、あれじゃ、小さすぎてダメ。700ミリリットルもの液体を受けとめられるだけのものと言ったら、お父さんがある年、あたしに買ってくれた宝石入れの箱くらいだった。でもアレもダメ。防水じゃないみたいだし。

アイデアに尽きはじめていた。その間にもどんどん胸が痛くなってくる。

服を着てキッチンに行くのはイヤだった。キッチンには大きな窓があって、庭から中が見える。キッチンに行ったら、ウェンディや彼女の友だちに、庭に出てこいよと言われるに違いない。それはイヤだった。

どうしたらよいかと、ベッドの上、ゴロゴロと寝返りをうった。そしたら、寝返りの動きに合わせて、あたしの大きな胸が動くのを感じた。この感覚、経験がなかった。身体を起こした姿勢だと、胸は重力で自然に下方にゆったりと垂れるけれど、横になって動くと、少し顔の方にせり上がった感じに動いてくる。以前は、こんなふうに動く大きな胸がなかったので、知らなかったけど、これにはちょっと驚いた。

そして、それを見て、あたしはあるアイデアを思いついた。背筋に戦慄が走るようなアイデア!

仰向けのまま、ベッドをずり上がり、首がヘッド・ボードに当たるようにした。その姿勢を取ると、首が起き上がり、身体と90度の角度で立つ形になる。あごが胸骨に強く当たって、若干、居心地悪いけど、あたしの大きなおっぱいが顔から5センチも離れていない位置に来る。

さっきのジーナとウェンディのことを思い浮かべた。あたしのミルクを飲んだ時のこと。飲んでも悪い効果はなさそうだった。リリスはそこまでは言っていた。それに匂いのことも思い出した。美味しそうな匂いがしていた。そうして、味見してみようかと思ったとき、運悪く、ウェンディたちが家に入ってきたのだった。

心臓がドキドキしていた。興奮している。手を出して片方の乳房をすくうように持ち上げた。そうして、注意深く顔に近づけ、乳首を口の方に寄せる。

多分、持ち上げる時、ちょっと力を入れすぎたのかも。あのとき感じたのと同じ、何かを放出するような強烈な感覚を感じた。そして顔面に温かい液体がピシャッとかかる。思わず、自分でクスクス笑ってしまった。

頬をミルクが滴り流れるのを感じたし、乳首の先には白い水滴がぶら下がっているのが見える。

でも今は、あたしの乳首があたしの唇のほんの先にある。しかも完璧な位置にある。

確かに思ったよりちょっと姿勢が辛かったけど(あたしの胸はそれほど大きいわけではない)、でも、そのすぐ後には、あたしの温かい唇があたしの乳首を優しく包んでいた。

その瞬間、全身に電気が走った。あたしの舌があたしの乳輪を焦らすように擦るのを感じ、ベッドの上、身体をくねくねさせていた。そして、胸に垂れていた一滴のミルクを味わった。初めての経験。

かすかな味しかしなかった。甘い味。普通の牛乳よりずっと甘い。ウェンディがバニラの豆乳と間違えたけれど、それよりもずっと甘かった。それに温かい。口と同じ温度。まあ、考えてみれば当たり前のことだけど。

かすかにメロンの味もした。説明しにくいけど。濃くて、ねっとりとした感じ。小さな滴だったけど、舌全体に広がって、舌を味わいで覆うような感じだった。

あたしの舌が勝手に動いていて、乳首を相手に踊っていた。その感覚にびっくりして、あたしは目をまん丸にした。その間にも乳首が固くなってくるのを感じる。自分の舌が自分の肌に触れてる感覚なのか、自分が分泌した甘いミルクの味のせいなのか、あるいは、そのふたつが組み合わさった感覚なのか? ともかくもっと欲しくなった。


[2015/11/17] 願い事には注意して | トラックバック(-) | CM(0)

願い事には注意して (7) 

ウェンディのお友だちのジーナ。頭からつま先までよくよく見た。この子もすごく可愛い。ウェンディとジーナは、高校時代、カッコよくってセクシーなふたりとして有名だったのは明らかだ。ジーナの背の高さはウェンディとほぼ同じ。髪の毛は長くて、濃い目の赤色。肌には軽くそばかすがある。上はビキニのトップで、下はカットオフのジーンズ。その引き締まったお腹に目を疑う。過剰に筋肉っぽいわけではなく、とても女の子っぽいお腹で、肌もちょうどよいくらいの日焼け。脚はすべすべしている感じで、そばかすは顔ほどはない。そして胸。彼女の胸も大きい。あたしのほどじゃないけど。

端的に言って、ジーナはウェンディと同じく、とても素敵でしかも一緒にいて気楽そうな人だった。

ふと、あたしは、ずいぶん長くジーナのことをじろじろ見ていたと気づいて、あたしは顔を赤くして、うつむいた。ウェンディはあたしが気まずい感じになっているのに気づいたのか、いつもの彼女らしいのだけど、うまく話題を転換して、雰囲気を救ってくれた。

「ああ、良かった。何か出しててくれていたのね? 昨日の夜、飲みすぎたみたいで、まだ二日酔い状態なの。何か水分補給になるものが欲しかったところ!」

ウェンディはそう言って、あたしの身体の前に手を伸ばし、あたしのミルクが入ったカップを掴んだ。あたし自身もまだ味わっていないので、気をつけた方がいいと、注意しようとした。だけど、その時、ウェンディがあたしの耳元に囁いたのだった。

「ワンダーブラかなにかつけてるの? すっごく良く見えるわよ!」 とウィンクしながら小声で言った。

その言葉に、あたしはとても嬉しくなって、あのミルクについて警告するのをしそびれてしまった。ウェンディはカップを唇のところに持ち上げ、中の白い液体を口に入れるのを見ているだけだった。ウェンディは大きくひと口分、口の中に入れた。喉のところが動いたので、あたしが出したミルクが彼女のお腹の中に流れ込んだのが分かった。

「あら、ミルクだとは思わなかった!」 と上唇に白い髭をつけながら言う。それを舌でゆっくりと舐め取ってから、「でも、美味しいわ。甘いし。これ何なの? バニラ風味の豆乳とか? それに温かいのね。豆乳とかって冷蔵する必要ないらしいけど」

あたしは、何か言おうと口を開いたけど、何も言えず、また閉じた。

「あたしにも飲ませて?」 とジーナが言った。

あたしはどうすることもできず、ただ見ているだけ。ジーナはウェンディの手からカップを奪い、自分の口に当てた。この子もあたしのミルクを飲んでいる。あたしは不安感が募ってきて、口の中が渇くのを感じた。

ここから逃げたい。自分の部屋に引きこもりたい。

「ほんと、これ、美味しいわ」

「だめ、これはあたしがいただくわ」 とウェンディはジーナからミルクを奪い返し、素早くひとくち啜った。「あなたが、あたしの最後のスナップル(参考)を飲んだの知ってるんだから。これでおあいこ」

「ヘイ、君たち、キックオフを見逃しちゃうよ!」

男子のひとりが言った。そちらに目をやると、彼はあたしのところを見ていた。その時、そういうことがあったら、嬉しくなると思っていたのに、実際は、あたしは自分が恥ずかしい感じがしたのだった。

「いま行くわ!」 とウェンディが彼に言い、あたしにも「見に来ない? いい試合になると思うわ」と言った。

あたしはリビングにいる人たちを見た。一緒に見たいと言いたかった。本当にそう言いたかった。でも、言えなかった。この時も、みんなから離れたいと思ったのだった。

「いいえ、あたし……。しなければならないことがあるから……」

ウェンディは怪訝そうな顔をした。あたしは変な振舞いをしていたに違いない。自分でも変だと知っている。でも彼女は何も言わなかった。

「オーケー、分かったわ。後で時間ができたら、来てね」

「おいおい、いま来てくれよ!」 と部屋の中の男子が言い、他の男子が笑った。

「落ち着けって」 と他の男子が彼に言った。

もう、これ以上、嫌だった。くるりと向きを変え、キッチンから素早く出た。キッチンを出たところで、立ち止り、呼吸を鎮めた。

いったい何が起きたの? オーガズムを感じたことを考える時間もなく、ウェンディと彼女のお友だちがみんな入ってきて、そして、あたしは、以前のあたしとまったく同じように、みんなの前では固まってしまい、そしてウェンディとジーナがあたしが分泌した母乳を飲んで、そして……。

「ウェンディ、君のルームメイトはセクシーだって、どうして教えてくれなかったんだい?」

あたしを見つめていた男子が言ってるのが聞こえた。今はそれを聞いて、嬉しく感じた。でも、彼の横に立って、それを聞いたら、たぶんあたしは完全に恥ずかしくなっていたたまれなくなっただろう。あたしはキッチンのドアに近寄り、みんなが言ってることを立ち聞きした。

「変態ね!」 とウェンディが答えた。そして、別の男子の声を聞いた。多分、ウェンディのいまの彼氏だと思う。

「でも、君が彼女とルームメイトになっている理由が僕には分からないんだ。君たち友達同士という感じじゃないだろ? それに彼女、すごく変だよ。世捨て人みたいな感じ。でも、かなり可愛いしセクシーなんだけどね」

その後、その男子が枕で顔を叩かれたような音がした。

「嫌な人!」 とウェンディが言ったけど、怒ってる声じゃなかった。

「分からないわ。覚えているのは1年生が終わった頃。みんなが次の年のルームメイトを探してて、どんどんペアができていた。あたしの友だちはみんな完全な変人ばっかりだったし。でも、オリエンテーションの時、とあるきっかけで、彼女の両親がお金持ちだと知ったの。彼女と一緒なら、彼女が家賃を払わないとか言わないだろうと思ってね。そういうことで心配しなくて済むもの。例えばローラをルームメイトにしたら、そういう心配をすることになったと思うのよ」

ああ、それで、ずっと前から思っていた疑問が解けた。どうしてウェンディがあたしをルームメイトに選んだか? 親がお金を持っていたからなのね。いま頃になって、こんなことを知るなんて。もっと前にこんな嫌な気持ちになれてたら……

「ずいぶん冷たいな!」 と男子のひとりが言った。

「いえ、いま言ったこと、ひどいことなのは知ってるわ。あたし、たぶん、嫌な女だったのよ。でも、いまは違うの。ラリッサは本当にいい人なのよ! どういうわけか、狂ってるほどシャイだけど、でも、いまなら、彼女が裕福な両親を持っていなくても、彼女をルームメイトにしたいと思ってるの」

それを聞いてちょっとだけ、気分が直った。

「ともかく」 と別の男子の声がした。「俺は冷蔵庫からビールを持ってくるよ。誰か、他に欲しいものはある?」

あたしについての話しは、たぶん、そこで終わったのだろうと思い、あたしはキッチンのドアから離れ、がっくり肩を落として、自分の寝室に戻った。またも、負け犬になった気分。


[2015/11/16] 願い事には注意して | トラックバック(-) | CM(0)

願い事には注意して (6) 

せっかく声を出さないようにと頑張ったのに、揉むたびに、喉の奥から、ぐぐぐっと声が聞こえてくる。揉むたびに、クリトリスを濡れた舌で舐められているような感じがした(実際はそういう経験がないから、その感覚をしらないけど、自分で自分を慰める時、指を濡らしてする経験から、そんな感じじゃないのかなって想像した)。

次に揉んだら、もうまともに立っていられなくなって、キッチンのカウンタに覆いかぶさるようになっていた。呼吸も浅く、ハアハア途切れ途切れになっていた。全身の神経がビンビン反応している。

もう中毒みたいに、何度も何度も繰り返し揉んだ。そのたびに、両足のつま先が、キューっと内側に反り、息づかいが乱れ、そして、感覚がどんどん高まっていく。もう一度、揉んだ。……でも、今度は何も起きない。

すぐに左の乳房に目をやった。乳首にミルクの滴が一滴くっついているけど、もう、その乳房は張った感じがしなくなっていた。

カップを見たら、350ミリリットルくらい溜まっていた。エクスタシー感が急速にしぼんでいく。でも、右側の乳房はまだ痛みがある。中腰のまま、すぐに右のおっぱいがカップの上に来るよう姿勢を変え、そして揉んだ。

「ホーリイ・ファック(すごく感じる)!」

喘ぎ声を出したけど、そんな言葉で言ったか分からない。あふぁ、ふぁ、くっ!って言葉ないならない喘ぎ声だったのかもしれない。音が似てるだけの、何か根源的な唸り声みたいな感じ。

ともかく、快感は麻痺して鈍くなっていくどころか、ますます強烈になっていくばかりだった。放り投げるように頭を後ろに倒し、胸を前に突き出す形になって、何度も何度も右の乳房を絞り続けた。ぎゅっと握るたびに、ビュッ、ビュッとミルクが出て、同時に、全身に強烈な快感の電流が走る。

右側のおっぱい、最初の3回くらい握った後は、握るたびに快感がずんずん加算されていくように感じた。こんな感覚、信じられない。オナニーは何度もしたことがあったけど、こんなのは初めて。

揉めば揉むほど、そこに近づいていく。全身がぶるぶる震えていたし、乳房を握る指にも力が入らなくなっていった。もう、力尽きてしまうかもと思い、最後に思い切り強く握った。乳首からミルクが勢いよく噴射するのを感じた。

「ああ、すごい!」

大きな声で叫んだ。ウェンディに聞かれても構わないと思った。

全身にオーガズムが大波のように打ち寄せる。こんなオーガズムは初めて。たいていのオーガズムのようにクリトリスからゆっくりと高まってくるような絶頂感とは違って、
胸と股間のあそこのふたつから同時に噴き出してくるように感じた。

衝撃、圧倒的で純粋な衝撃! それが両脚、胴体、そして身体のすべての他の部分を、同時に駆け巡る。

快感はあらゆる方向に動きまわり、あたしは自分の中心がどこにあるかも忘れ、完全にリラックスし、そして、どこか高揚した気持ちになった。その変化が同時に起きる。意識は身体の中だけになり、身体の外のことについては、聴覚も、味覚も、触覚も、嗅覚も、視覚も消えていた。全身が快感が充満したカタマリになっていた。

永遠に続くかと思ったそれも、ようやく、落ちついてきて、オーガズムがゆっくりと鎮まってきた。意識が戻り、キッチンで上半身裸のまま立っている自分に気づいた。ちょっとおどおどして、混乱してる感じで突っ立っている。

2分ほど立ったまま、息づかいが元に戻るのを待って、いまの快感が何だったのか、理解しようとした。何が起きたんだろう? ミルクを出すたび、いつも、いまのようなことが起きるの? それに、あたしが出したミルクは?

カウンタの上のカップに目をやった。さっきの不思議なオーガズムについては、あまり重要でなくなっていた。オーガズムが去り、呼吸も元に戻ると、オーガズムより、あたしの乳房と、その乳房の不思議な性質の方が、もっと興味深くなっていた。

うつむいて胸を見た。無意識に強く握っていたので、ちょっと赤くなっているけど、リリスが受け合っていたように、相変わらず、ツンと張って、重量感たっぷりの形。もはや、張りの痛みはなくなっていた。

カップの容器は透明だった(あちこちにフットボールのロゴが塗られているけど)。中には、青みがかった白い液体が溜まっていた。

カップを一回まわしてみると、ミルクがちゃぷちゃぷと波立った。(水よりはずっと濃いけど)普通の牛乳よりは薄い感じ。スキムミルクのような感じかもしれない。たくさん溜まっていて、リリスが言ったように700ミリリットルは確実にある。

カップを鼻先に近づけ、匂いを嗅いでみた。どんな匂いがするか予想していたわけじゃないけど、うっすら、美味しそうな香りがした。ちょっと甘くてクリーミーな匂い。実際、飲みたいと思わせるような匂いだった。急に、どうしても味わってみたい気持ちが高まってきて、あたしはカップを口に寄せ、傾けた……。

「だから、あたし、こう言ったのよ……」

玄関が開く音がし、ウェンディの大きな声が聞こえた。声の様子から、連れの人も家に入ってくると分かった。かっと熱いパニック感が全身を走った。さっきのオーガズムで道を切り開かれたのか、さっきと同じ感覚経路を今度はパニック感が走る。

急いでカップをカウンターに置き、放り投げたTシャツを探した。床に落ちてたのを見つけ、急いで頭からかぶる。シャツの裾を整えている時、ウェンディがキッチンに入ってきた。

「だからね、あたし、まるで……」

ウェンディは後ろからついてくる友だちに話していた。女の子がもうひとり、それに男の人が4人くらいいるようだった。みんな、ウェンディの話しをうんうんと頷いて聞いている。

全員が入ってきたのを知り、あたしは冷蔵庫を背に縮こまった。できるだけ目立たない、小さな存在に見せようとして。

「あ、ハイ、ラリッサ!」

ウェンディは、立っているあたしに気づくと、可愛い声であたしに呼びかけた。

「ようやく起きたのね。気にしないでくれるといいんだけど、テレビで試合を見ようと何人か連れてきたの」

突然、全員の目があたしに向けられた。今は自慢の美しい乳房があるのに、あたしはみんなの視線が気になった。多分、以前よりも、人の視線が嫌と感じていたかも。胸の前で両腕を組んで、顔を赤らめた。

「いいえ、いいわよ」

男子学生たちは、ちょっとあたしのことを振り返りながらリビングに入って行った。彼らの視線があたしの胸に向けられるのを感じた。

「あ、あと、こちらはジーナ。あたしの友だち」

ウェンディはもう一人の女の子の方を指さして言った。「彼女、あたしの地元の友だちなの。来週にかけて家にステイしてもらうつもり? 彼女の大学は休みなんだって。いいわよね?」

「ハーイ、会えて嬉しいわ」 とジーナは手を差し出した。あたしは胸の前で組んでいた手の片方を出して、彼女と握手した。心臓がドキドキする。ウェンディの友だちと会うといつもそうなるのだけど、この時も、いつもと同じ人づきあいの不安を感じた。いや、別にウェンディの友だちに限らず、誰とでもそうなるんだけど。

でも、これが理由で、あたしは立派な胸が欲しいと思ったんじゃないの? 胸が大きくなったら自信が持てると思ったのでは? でも、思ったようには、なっていない。

「あたしも会えて嬉しいわ」 とあたしは小さな声で早口で言い、また顔を赤くした。


[2015/11/12] 願い事には注意して | トラックバック(-) | CM(0)

願い事には注意して(5) 

でも、リリスの話しを聞きながら、あたしは別のことを考えていた。

「胸の形が変わったりしないなら、母乳を出さないで放っておいてもいいいんじゃない? つまり、いちいち絞り出さなくてもいいって。違う?」

そう言って、また、頭を下げて大きくなった胸を見おろした。いろいろ問題が出てきたけれど、やっぱり、この胸すごく形がいい……。

「ふーん、あたしならそんなことしないけどね」 とリリスは不吉な返事をした。

「どうして?」

「そのおっぱい、6時間くらい前にあんたにあげたんだけど、いま、どんな感じしてる?」

訊かれるまで、気づかなかったけど、言われてみて、ちょっと痛くなってるのに気づいた。そんなひどい痛みじゃないけど、何だか圧迫されてる感じ。バスルームで感じた、あの、溜まってるものが放出されたような快感って、この圧迫感からの解放だったのだ。

「ほったらかしにしたら、どんどん痛くなるということ?」

手で片方の乳房を持ち上げて、ちょっと揺すってみた。重くなってる感じがしたし、前より痛くなっている。

「たぶん、しばらく痛みが続くでしょうね。でも、でも、別に何かしなくちゃいけないってわけじゃないわよ。意図的にミルクを絞らなくても、いずれ出てくるから」

「つまり、漏らしちゃうってこと?」

「ちょっとね」

リリスがあたしを笑ってる感じがし、あたしは顔が真っ赤になった。

「でも、そんなミルクをどうしたらいいの? 飲むとか?」

「飲んでもいいんじゃない? 害にはならないわよ。正直、あたしはどうでもいいけどね。ちゃんとうまくいってるか確かめるために電話したんだから。ま、多かれ少なかれ、あんたが求めたようになってるようね。もう、出かけるからね。今日はすごく忙しいんだから」

リリスは急に退屈そうな声になった。

「多かれ少なかれってどういうこと? 胸をこんなふうにしたいとは思ってなかったって言ったでしょう?」 あたしは必死になって訴えた。

「あのねえ、ラリッサ。さっきも言ったけど、願い事をする時には注意するのよ。それ、知っているべきだったのよ。そんなにそのおっぱいが嫌いなら、今夜の2回目のお願いの時に、それをなくしてくれって頼みなさい。でも、その前に、その大きなおっぱいをちゃんといじりまわしてみたら? 気に入るかもしれないわよ」

そして、電話を切る音がした。

あたしは、しばらく茫然としていた。いったいどうしたらいいの? こんなの正常じゃない。

そしたら急に胸の圧迫感が増える感じがし、胸元に目をやった。いまだに、この胸を見ると、その大きさや形の美しさにうっとりとしてしまう。だけど、母乳についてはどう思ってよいか分からなかった。ものすごく変! ふたつ目のお願いで、この胸を元通りにするか考える必要があった。でも、そんなの、せっかくのお願い事なのに、無駄遣いすぎる! ダメダメと頭を振った。それに合わせて、いっそう胸が痛くなった。

「たとえ今日一日だけでも、この状態、無視できないわ」 そう独りごとを言った。

この乳房をなくすかどうか、いまの時点で心配しても意味がない。ともかく、どんどん張ってくるお乳のことを何とかしなければ。

持ってるブラは全部あわなかったので、代わりに大きめのTシャツを着た。そのシャツは、前までは大きかったけど、乳房ができた今は、身体にぴったりな感じで、胸の丸い盛り上がりをゆったりと包んでくれていた。

一応、上半身も服を着た状態になれたので、安心して廊下にでた。ウェンディの部屋のドアは閉まっていた。これは幸い。シャツの中、胸を軽く弾ませながら、キッチンへと進んだ(もっとも、胸が弾むたびに張った感じがひしひしと伝わってくるんだけど)。

キッチンに入り、引き出しの中を漁り始めた。そして、あたしが前にフットボールの試合を観に行った時に、お土産として買ってきた大きなプラスチックのカップを見つけた。大きなカップで1リットルくらい入るヤツ。

それを部屋に持ち帰ろうと思ったけど、部屋の方向に振り返った時、急に強烈な圧迫感が襲ってきた。胸元を見ると、シャツの前に小さな濡れた染みがふたつできてる。ああ、漏れ始めているんだ!

部屋に戻ってる時間がなかった。後ろを確認して、絶対に誰も見ていないとチェックした後、素早くシャツを脇の下まで捲り上げ、胸を露出した。左右の乳首に、それぞれ白い滴が出てきているのが見えた。

その滴は見る間にどんどん大きくなって、やがて、ひとつがこぼれ、乳房の丸い肉丘を伝って、下に落ちた。

気持ちいい! 圧迫感からちょっとだけ解放される感覚!

でも、こんなことしてたら、床をびちゃびちゃにしてしまう。急いで行動する必要がある。

大きなカップをキッチンのカウンタに置いた。そうして、ちょっとしゃがむ格好になって、左の乳房がそのカップのところに来るようにし、強く絞った。さっき洗面台の前でやったより、ずっと強く絞った。

「あああ、いいッ……!」

無意識に喘ぎ声が出ていた。あたしの乳房から、白いミルクが、それこそジェット噴流のようにビューッと撃ち出てきて、カップの中にシュワーっと入っていく。

この感覚、信じられないほど強烈だった。それに、ものすごく気持ちいい。もう一度、今度はちょっと注意深く絞った。温かいミルクがあたしの身体から出てくる。またも快感に喘ぎ声を上げていた。

この快感、もはや、否定しようがなかった。単なる溜まっていたものを解放する感覚だけではない。本当の意味での満足感。それに、性的な快感も確実にある。

もう一度、揉んでみた。3回目。ぎゅっと握りながら、膝ががくがくしていた。それに、間違いようのない湿り気が脚の間に広がってくるのを感じた。声を出さないよう下唇を噛んで、もう一度、揉んだ。今までで一番強く。


[2015/11/11] 願い事には注意して | トラックバック(-) | CM(0)

願い事には注意して (4) 

第2章 おっぱい

次の日の朝、寝室の窓からさす陽の光に目を覚ました。朝と言うより、実際は、昼過ぎ。最近、ずっとお昼過ぎまで寝てることが多くなっていて、今日も、時計によるとすでに午後の1時半になっていた。

ちょっと身体がだるかった。前夜にお酒を飲みすぎたような感じ。前夜に見た変な夢のことをかすかに覚えていたけれど、あれが何だったのか思い出せなかった。

寝ぼけ眼のまま、両脚を振ってベッドから降りようとした時、心のどこかからか、それはやめた方がいいと言われてる気がした。でも、その心の声を無視して、あくびをし、床に足をつけた。両足がちゃんと床のカーペットについて、あたしは両腕、両脚を伸ばして、背伸びした。

目をこすりながら廊下を進み、バスルームに入った。洗面台に行き、蛇口の下に顔を入れ、ちょっと水を飲んだ。水を流したまま、歯ブラシを握り、歯磨きをそれに塗りつけ、顔を上げ、鏡を見た。

その瞬間、あたしは口をあんぐりと開け、持っていた歯ブラシがシンクに落ち、かちゃりと音が鳴った。怪訝そうな目で鏡を見ている自分の顔がそこにあった。そのあたしの視線が胸へと降りて行く。

あたしは、いつもそうしているように、寝巻がわりに白いTシャツを着ている。でも、そのシャツがいつもと違って、普通じゃないように見えた。いつもなら、Tシャツの布地は、すんなりと胸の前を降り、パジャマのズボンのところまでを覆っているはず。なのに今日は、おへそが見えてしまってる。それに、うまく形容できないんだけど、胸の前が丸く膨らんでいるようにも見えた。身体の前、膨らんでいて、ふたつ丸い盛り上がりができている。その左右の盛り上がりの先端にはそれぞれ小さな突起ができていた。

次の瞬間、昨夜の出来事がいっせいに頭の中に溢れてきた。あの物音、匂い、光景、そして、何より、あの契約。

あたしは昨夜、乳房ともうふたつの願い事と引き換えに、自分の魂を売ったのだった。そして、それは白日夢でも幻覚でもなかったのである。本当に変化が起きていた! 夢に見続けてきた乳房ができている!

素早くシャツの裾を握って、頭の上まで捲り上げ、そして鏡を見た。それを見た瞬間、文字通り、ハッと息を飲んだ。

本当に完璧だった。まず第一に、それは大きかった。アニメにあるようなバカみたいな大きさではない。あたしは元々、小柄な女だ。だが、その小柄な身体にCカップの乳房がつくと、ものすごく大きく見える。先端には、以前同様、小さな乳輪があるし、ちょっと長めの乳首もついている。だが、その後ろにある肉の部分が、突然、巨大に膨らんでいる! この乳房、あたしの乳房! 形も完璧。ふもとが正円に近くて、ゆったりとスロープを描いて先端に通じ、パーフェクトな滴の形状をしている。

肩をちょっと揺らしてみると、胸も自然に、しかも誘惑的にプルンプルンと揺れた。それを見て衝撃を受ける。この乳房、本当にあたしの胸なんだ! あたしの身体にくっついているんだ!

身体を動かすと、左右の乳房がぶつかりあったり、跳ね揺れたりする。それにより乳房の重量感も肉の密度も感じ取れる。

もっと感じてみたい! 両手を胸の近くに持っていった。心臓がドキドキしていたし、指先も本当に震えていた。どんな感じがするんだろう? 貧弱な胸しか知らないあたしには、知らないこと。触れた途端、指が千切れちゃっうかも。それとも乳房がシューっとしぼんでしまうかも。でも触ってみたい。

指を乳房に押しつけてみたら、乳房の肉にむにゅーっと入っていった。暖かくて、肉が詰まっている感じ。しかも、指で乳房を感じることができたばかりか、乳房で指を感じることもできたのだ! 当たり前と思うかもしれないけど、こんなこと信じられない!

乳房を触りながら、うつむいてそこに目をやった。乳房の肌がぷるんぷるん波打ってるのが見えた。本当に完璧! それにいじるのが気持ちいい。自分がセクシーになった気がする。

前からずっと知りたいと思っていた。大きな胸を持つってどんな感じなのか、それに、それを揉んでみたらどんな感じになるのか。

そこで右手で左の乳房を掴んで、ちょっと軽く握ってみた。その瞬間、何か溜まっていたものが解放されるような不思議な感じがした。実際、目を閉じて、ああんってうめき声を漏らしていた。不思議だけど、気持ちいい。

目を開けて鏡の中の胸を見た。何だか変。鏡に、白い液体が何滴かついている。頭が混乱した。顔を近づけて見てみたけど、何なのか分からなかった。でも、鏡に映る乳房を良く見たら、そこの乳首にその液体の滴がくっついている!

右手の人差し指を、その乳首に当ててみた(瞬間、快感の電流がぞぞっと背筋を走った)。そして指でその白い液体をすくって、目の高さに持ち上げた。いったい、これは何なの?

天井に目をやった。天井から何か滴り落ちてるんじゃないかと思って。でも天井は乾いている。鼻に近づけて匂いを嗅いでみた。でも、何も匂わない。あたしは肩をすくめ、パジャマのズボンで指を拭った。それから、右側の乳房は違った感じがするかもしれないと、そっちも揉んでみようと思った。

今度は前より強く揉んでみた。やっぱり何か溜まっていたものが解放される感じ。前より強く感じる。でも、この時は、目を開けたままで揉んだのだ!

乳首から何かがビュッと撃ち出されるのを見て、ショックを受ける。あたしの身体から、液体が長い紐状になって出てきたのだ! その液体が鏡にぴしゃりと当たり、はじけるのを見た。鏡には、さっきのに加えて、新たに白い液体がくっついている。

顔を下げて乳首を見たら、またも、その先端に滴がついていた。

もしかしてミルク? あたしの乳房には母乳がいっぱいなわけ? 見ている光景があまりにショッキングで、あたしは何がなんだか分からなくなっていた。混乱させることが、一度に一気に押し寄せてきて、何が何だか分からない。

ゆっくりとだったけど、あたしの寝室から電話のベルが聞こえてるのに気づいた。あたしは、指先やバスルームの鏡についたミルクを見つめたままだったけど、一種、茫然とした状態で、上半身裸のままバスルームから出て、寝室に戻り、電話に出るため寝室に戻ることにした。そんな茫然とした状態であっても、歩きながら、胸が上下に跳ねるのに気づいた。

何とか部屋に戻り、ナイトスタンドのところに置いておいた電話を取った。表示されている電話番号を見た。知らない人からの電話。ディスプレーには666という数字しか出ていない。

ちょっと電話を見つめていた。こんな番号、ありえない。でも、母乳充満の大きな乳房があたしにくっついているというのも、ありえない。結局、あたしは電話のボタンを押し、「もしもし?」と言った。

「おはようございます、マンスフィールド様。いくつかご質問がおありかと感じまして、お電話さしあげた次第ですの」

電話からは、聞き覚えがあるセクシーな声が聞こえた。言葉づかいは違うけど。

「リリス?」 そもそも電話をよこしてくるというのがワケ分からないと思ったけど、「あたしはラリッサで、何とか様じゃないわ…」と答えた。

「そうよね、ジェーン・マンスフィールド(参考)、冗談だわさ……あんたの時代より前の話しだから気にしないで。今ならパム・アンダーソン(参考)? それもダメか、今の時点だと彼女もかなり古くなってるから。それで、どうなの? 今朝の調子はどう? おっぱいの件だけど」

リリスはそう言って、電話の向こうゲラゲラ笑いだした。

「これ、リリスがしたの?」 とあたしは胸を見おろしながら言った。

「お願いすれば、叶えられるということ。あんた、でかくて、綺麗なおっぱいを欲しがっていたでしょ? で、ちゃんと手に入れたのよね?」

「ええ、でも、このおっぱい、いっぱいすぎて……」

「セックス・アピールが? 動物的欲望の吸引力が? それとも、単に肉感が?」

「違うわよ、ミルクが!」 とあたしは叫んでいた。「大きくて綺麗な胸なのはいいんだけど、ずっとミルクを出し続けているの!」

「何のこと言ってるの?」 とリリスは興味なさそうに言った。

「母乳たっぷりの胸なんて言ってなかったわ。単に大きくしてくれと言っただけなのに!」 

大きな声を上げると、それに合わせて乳房がぶるぶる震えるのを感じた。乳房の中、ミルクがたぷたぷ波打ってるのが聞こえそうに感じた。もちろん頭の中での想像にすぎないとは知っているけど、こんな感覚、変すぎる! 

「まあ、確かにあんたは言わなかったけど?」 リリスは平然と言いかえしてきた。「だから、何なの? いいこと、ラリッサちゃん。あたしはね、太古から自然界で生きてるのよ。何もないところから何かを作ることなんかできないし、多量のシリコンも持っていないしね。そもそも、シリコンなんて、あたしが住んでるところではすぐ溶けちゃうし。あんたのおっぱいを大きくしてやったけど、これは昔ながらの方法でやったの。ミルクを入れる方法ね」

リリスの口ぶりは、彼女がどんな方法を使って願いをかなえるか、あたしは前もってちゃんと知っておくべきだったと言わんばかりの口ぶりだった。

「お願いするときは、注意することね」

話しを聞いてるうちに、突然、あたしは恐怖を感じた。

「赤ちゃんができたということ?」

だって、何もないのに母乳が分泌されるはずがないもの!

でも電話の向こう、リリスはクスクス笑っていた。

「さすがのあたしも、そこまではしないわよ。でも、いま思うと、そうした方が良かったなあと思うわ。アハハ。やったのは、ただ、ミルクをたっぷり出す仕組みをいじっただけ。そうすると自動的に大きなおっぱいになる」

姉が子供を産んだ時のことが頭によぎった。あの時、急に姉の胸がちょっとだけ大きくなったっけ。ちょっとだけだったけど。

「でも、ミルクを出すためなら、カップのサイズ1つくらいしか大きくならないはずじゃない?」

あたしはベッドにどっしりと腰を降ろしながら訊いた。こんなの予想していなかった。

「そうねえ、赤ちゃんができて、正常に母乳を分泌するとしたら、1日当たり、700~900ミリリットルくらいかな。だったら、たぶん、あんたが言うのは正しいかも」

リリスの「正常に」というところの言い方に、何だか、嫌な予感がした。

「それで……あたしの胸の場合は、どのくらい分泌するの?」


「まあ、それはいろんな条件によって変わるわね。ほら、どんくらい食べるかとか、飲むかとか、運動とかも関係するし」

リリスは、まるで一般的な知識の話しをしているような口調だった。あたしはだんだん心配になってきた。

「お願い、リリス。だいたいのところでいいから」

「そうねえ、だいたい3リットルくらい? 牛乳パック3本分くらいかな。6時間ごとに、乳房一つあたり、340ミリリットル。まあ、寝てる時とかは、分泌速度も遅くなったり、止まるかもしれないけど」

牛乳パック3本分! 自分の身体からそんな多量の液体を出せるなんて、できっこない。しかも6時間あたり、700ミリリットルって! すごい量じゃないの! あたしって、牛になったの?

「あ、でも、心配しなくていいわよ。ミルクを出してもおっぱいがしぼんだりしないから。そこんとこは、ちゃんと注意しておいたわ。いくら出しても、プリプリのまま。形も変わらない。すごいでしょ!」


[2015/11/10] 願い事には注意して | トラックバック(-) | CM(0)

願い事には注意して (3) 

彼女はちょっと意地悪そうな笑みを浮かべてあたしを見ていた。でも、完全に落ちつき払っている感じ。

あたしはちょっと彼女から視線をそむけ、床の穴を見た。こんなのありえない。彼女がこの穴から出てきたなんて……

彼女はあたしが視線をあっちに向けたりこっちに向けたりしてるのに気づいたようだった。ベッドに両手をついて、前のめりになり、ベッドに入ったままのあたしに顔を突き出すようにした。その姿勢のせいで、大きな乳房が左右から押されて、むにゅーっと盛り上がる。あたしは自然とそこに目を向けた。

「あんた、あたしのおっぱいを見つめ続けてるだけ? こんにちはも言ってくれないの?」

すごく官能的な声。

あたしは2秒くらい目を閉じ、そしてまた目を開けた。目を閉じてる間に、この人が消えてくれればいいいのにと思って。

「あたしはまだいるわよ」

彼女は身体を起こして、そびえ立った。背が高いというわけではない。あたしとあまり変わらない。でも、背が高いように感じてしまう。彼女はあたしにウインクして見せ、片手に尻尾を握って、誘惑するような感じで、振り回した。

「誰……?」 ようやく声を出したが、小さなかすれ声しか出なかった。

「ラリッサ」

「何……?」 少しずつ普通の声に戻り始めた。

「あたしに会うと、自分の名前を忘れちゃう人がいっぱいいるのよねえ。あんたの名前はラリッサでしょ?」

そう言って彼女はベッドの横へと回ってきた(穴が開いていない方の横側)。そして、けだるそうにベッドに腰を降ろした。

「いえ、何が……?」

そう言いかけて思った。どうして彼女はあたしの名前を知ってるの? とは言っても、別にその疑問が重要だったわけではない。頭の中が混乱しきっていたし。でも、それが最初に浮かんだ疑問だった。

「あら、あたしのことを知りたいの? はじめまして。会えて嬉しいわ。あたしの名前、当ててくれるといいんだけど」

あたしは眉をしかめた。

「どう?」

どんどん頭が混乱してくる。彼女はつまらなさそうにクスクス笑い、瞳をくるくる回して見せた。

「あんた、若すぎるようね。ローリング・ストーンズは? まあ、どうでもいいわ、あたしをリリスと呼んでいいわよ」(訳注:ストーンズのレコード会社はリリスと言う)

あたしはちょっと驚いた。何か、もっと邪悪な名前を予想してたから。ベルゼブブ(聖書での大魔王の名)とかなんか。

「血統の良い名前なのよ。いつかグーグルで検索してみて」 とリリスが言った。また、あたしの心を読んだみたいだった。

そう言って彼女は、ベッドの上、仰向けに倒れ、背伸びをした。毛布の上からだけど、あたしの両脚の上に背中を乗せるような感じで。

彼女の匂いがした。硫黄の匂いではなく、バラの花の匂いに近い感じ。毛布の上から彼女の体温も感じた。すごく熱い。でも、火傷するほどではない。

リリスは横になったまま背伸びをした。関節がポキポキなる音が聞こえた。じっと天井を見つめている。呼吸に合わせて、彼女の胸が上下に隆起を繰り返していた。ビキニの中、乳首が固くなっているのが見えた。寒さを感じた時に固くなるのと同じ感じで。リリスは寒さを感じているの?

「いったいあなたは誰?」

そう言うと、彼女は笑いだした。あまりに笑いすぎて、横になってばかりもいられず、身体を起こし、あたしを見た。また、あたしに興味をもったような顔をしていた。瞳は、さっきまでは黒かったのに、いまは赤く輝いていた。

「適切な質問ね。見かけよりは面白そうな人だわ」

「あなたは誰?」

「リリスよ。もっと面白い質問をしなさいよ」 と退屈そうな目を向ける。

「どこから来たの?」

そう訊くと、リリスは笑顔になった。彼女の歯が本当に鋭い牙になっているのが見えた。舌でゆっくりとその歯をなぞっている。舌は黒っぽい血のような赤で、フォークのように先割れしていた。

「その答えは知っているでしょ? 答えを知らない質問をしなさいよ。最後のチャンスよ。あたし、だんだん退屈してきてるんだから」

リリスがどこから来たか? 心の奥では答えは知っていたが、それを受け入れる気にはどうしてもならなかった。

でも、彼女が退屈したら、いったい何をしでかすか、それの方が恐ろしかった。あたしは別の質問をした。

「なぜここに来たの?」

リリスはニヤリと笑い、また仰向けに転がった。そしてあたしの横にすり寄ってきた。いまは、(毛布の上からだけど)あたしのお腹の上に寝転がっている。肘枕をして、顔をあたしに向けていた。

「あんたがあたしを召喚したんじゃない、ラリッサ?」

「そんなことしてないわ!」

すっかりわけが分からなくなって叫んだ。あたしは、人から宗教的な人と呼ばれるようなタイプではない。ましてや、助けを求めて、あ…悪魔を呼び出すなんてあり得ない。こんなこと完全に狂っている。

リリスは肩をすくめ、口を開いた。口の中、赤い舌は動いてなく、平らに収まったまま。なのに、彼女の口から声が出てきた。まるでテープレコーダのように。

「もうイヤ! 素敵なおっぱいができるなら、こんなあたしの魂なんか売り飛ばしても構わない!」

あたしの声だった! リリスの口から出てきてるけど、まったくあたしの声と同じ! そして、何時間か前に、その言葉を吐いたのを思い出した。あたしはまた頭を左右に振り始めた。

「否定するのはヤメな!」

リリスは身体を起こした。怒った声になっていた。

「あんたもあたしも、あたしが誰で、あんたが何を求めたか知ってるの。さっさと本題に取り掛かるのよ」

「いや、あたしは、ただ、感情をぶちまけただけなの。別に望んだわけじゃないの」

あたしは、この部屋で起きてることと、世界についての真理や物事が作用する仕組みについての知識との、つじつま合わせができずにいた。でも、ここに、あたしの目の前にリリスがいることは事実。ということは、リリスと契約を結ばなければならない?

「あのねえ、あたしは感情をぶちまける人のところには来ないの。本当に心から願ってる人のところにしか来ないの。いいこと? あたしを信じることね。あたしには嘘は見抜けるのよ」

リリスはそう言って、ウインクした。あたしは少し前のことを思い浮かべた。不満に思うことや、落胆させることが山ほどあって、一度にあたしに襲ってきたあの時。あたしは本気で言ったのか? すごく不幸な気持ちだった。いまでも不幸だけど。

「ええ、確かにあの時は本気だったわ。でも、今はもういいと思ってるの」 そう言った。

人生で、あたしがこういうことを言ったり、思ったりしたのは、何度目だろう。あたしは、そんな願いを言っても叶いっこないと知ってたから、そう言ったのか? それとも、心の中、本気でそれを求めていたということか?

「あたしが誰かに会いに来るときは、その人は心から求めていたモノを欲しがっているの。あたしがこうやって出向くのは、年に2回程度なのよ? それにあたしが望みを叶えてやると言えば、人間は受諾するものなの。妙な自意識は捨てて、魂をあたしに売りたいと思ってると観念しなさいよ」

「気持ちが変わったのよ」

あたしは良く考えずに、そう言った。これは狂っている。第一に、誰かに自分の魂を売るなんてことがそもそも不可能。起こりえないこと。それに、たとえそれが可能だとしても、おっぱいのために魂を売るつもりなんてない。第二に、今のあたしが何らかの精神的障害状態に陥ってるのは明らかであり、……

「気持ちを軽く持って」 とリリスが言った。今は暖かい笑みを浮かべている。魂の代わりにどんなものが得られるか、まだちゃんと聞いてないでしょう? あんたがあたしのところに来たのは運がいいのよ。いや、あたしがあんたのところに来たのか? どっちにせよ、あんたの魂の価値に見合うものを与えてくれる人なんて、そうそういないのよ?」 
リリスは早口になっていた。ちょっと中古車のセールスマンの口調になっていた。

「いえ、あたしは……」

「それに今は11月。11月には特別契約を実施してるの。今すぐ行動した方がいいわよ。いったん契約がテーブルに乗れば、5分以内に見返りが得られるから。5分よ。魂を売ってから、手に入れるまで、たったの5分……ええっと、ちょっと待ってね」

リリスはしゃべりながら、身体を反転させ、あたしの腰の上にまたがった。両手をあたしの首の左右に添えて、前のめりになって顔を近づけた。リリスの美しい顔が、あたしの顔から10センチも離れていないところに近づく。彼女の呼気からバラの香りがした。

「あたし、魂を売れない。地獄に行っちゃうもの」

この時点では、自分でも、どうして魂を売りたがっていないのか真面目に考えていなかった。それも一種、自然な反応だと思う。魂を売ることは悪いこと。だから、売らない。それ以上でも、それ以下でもない。

「あたし、たいていの時間は地獄にいるの」 とリリスが急いでつけ加えた。「あそこ、大好き。あんたも気に入ると思うわ」

リリスの瞳を覗きこんだら、今は青白い炎で燃えているように見えた。

「あ、あたし……」

「あんた、魂が必要なのね。自分の魂をいつも近くにおいておいて、キスしたりして、大事にしていたいのね? あたしにも分かるわ。あたし、今すぐ奪ったりしないから。あんたが死んだときにもらうから。ねえ、正直になったらどう? あんた、そんなに品行方正な人生を送っているわけじゃないじゃない? というか、妬みやひがみだらけの人生じゃないの? 確率的には、あんた、どのみち地獄に落ちる可能性の方が高いわ。だったら、地獄か天国か、どっちか分からない宙ぶらりんの状態を解消しちゃって、地獄に落ちると諦めて、そこから何か得た方が、いいんじゃない?」

「いや、そういうのとは違うの」

そうは言ったけど、心の中は違っていた。リリスが言うのは正しい。あたしは信心深い人間じゃないし、これまでも、神は存在しないと考えて生きてきた。まあ、それを言ったら、リリスも存在しないと考えて生きてきたんだけど。

ともかく、リリスはここにいて、あたしが間違っていると言っている。どのみち地獄に落ちて、身を焼かれるのなら……だったら、今の自分にご褒美をあげていても構わないんじゃ?

リリスは、あたしの目を見て、心の変化を読み取ったに違いない。

「よく考えて、ラリッサ。あんたがどうしてそういうことを言ったのか、あたしには分かるわ。孤独になることも、怒りを感じることも、恥ずかしさも、不安感も、どういう感情かあたしは良く知っている。あんたが毎日、どんな日々を送っているのかも知っている。そんな人生、送る必要ないのに、あんたは。なのにこれからも今の人生を続けて行くつもりなの? 今日はあんたのサインだけもらえればいいの。他は何も求めていないのよ」

リリスは、あたしが自分について考えてきたことのすべてに触れてきた。あたしの考えてることを見通している。それに加えて、まさに痛いところを突いてくる。あたしには自分の人生を自分の力で直す決断力が欠けているのは明らか。本当に、これって、あたしが求めていたことのすべてじゃないの?

「ねえ、サインしてくれる?」

リリスは乳房の間に手を入れ、中から小さなノートを引っぱりだした。それから耳の後ろからペンも出してきた。あたしはそれを受け取り、彼女を見つめた。

「どうしよう……」

リリスの目がしだいに飢えた感じになるのが見えた。一瞬、こんなことものすごく狂っていると思った。こんなことが本当に起きてるなんてあり得ない。これって、何か、奇妙な夢かなんかじゃないの?

でも、同時に、あたしは願い事をかなえられたらって、何度も期待してきたことを思い出した。人生を変えることができたらいいのに、と。これが夢なら、何も害はない。でも、これが夢じゃないなら……でも、あたしは、幸せになっちゃいけないのだろうか? あたしだって……。リリスはうまいところを突いている。

切り替えが速すぎるように思われるのは知ってる。魂を売ることにぜんぜん乗り気じゃない状態から、売ってもいいかなと思うようになるまで速すぎるのでは、と。でも、あたしには、実際、それほど速かったとしか言えない。

最初は、当然、魂を売ることを拒否した。でも、その後、落ちついてよくよく考えてみたら、あたしは、そもそも自分の魂を使っていないことに気がついたのだ! あたしの魂以外の部分は、みっともなくて、目も当てられない代物なんだけど、それで言ったら、あたしの魂自体もみっともなくて、目も当てられない代物だったと気づいたのだった。あたしには、守るべきものなど、そもそも何もなかったのだと気づいたら、急に、魂なんかどうでもいいじゃないと思った。大事なのは、今の自分を変えること。それだけだわ。しかも今すぐに。

「さあ、どうする? ラリッサ?」

リリスはあたしの魂を得ようと必死になっているのに気づいた。彼女の目の色からそれが分かる。今ならチャンスがあると思った。魂を売る時に、おまけを得るチャンス!

「そうねえ、何かもらえるんでしょ?」

「おやおや、偉そうに!」 リリスは高慢な口調でそう言ったが、顔は笑っていた。「誰かさんは、魂を売ることについて交渉しようとしているようだね。その種のことをやっただけでも、地獄に落ちるのに充分。まあ、あたしは好きだけどね、そういうの。あんたに何を提供するか、話してあげるわよ」

リリスはそう言って、あたしから離れ、あたしの膝の上にしゃがんだ。

「何をくれるの?」

「まずは、おっぱい。それをあんたにやるわ。あんたが望んだモノだからね。あんたが魂を売る代わりに得るものが、それ」

と、そこまで言って、リリスは話しを止めた。おっぱいが欲しいというのは、あたしもリリスも知ってること。でも、あたしはもっと欲しいのよ。あたしは目を落とし、自分のぺったんこの胸を見て、それから顔をあげ、リリスを見た。

「あたしの魂を奪っておいて、おっぱいしかくれないなんて、思ってないわよね?」

そう言うと、リリスは大笑いした。

「あんた、自分で思ってるほど弱くはないわよ。なかなかヤルじゃない? さっき、あたしは取引するって約束したでしょ? まずはおっぱい。それは今夜にも、もらえるでしょう。でも、それに加えて、続く二晩連続で、2つ、追加の要望を叶えられることになるわよ。一晩にひとつずつ。2夜連続。合計、3つ願いをかなえられるの。人間って、3つのお願いってのが大好きだからね。千夜一夜とか。父と子と聖霊のためにお願いしてもいいわよ、その気があるならだけど。ともかく、魂との交換で、願い事3つを提供するわ。もっと願い事を叶えてもらう願い事は不可とか、いろいろあるけど。で、どう? ラリッサ?」

リリスは一通り離し終えると、手の爪を見た。一種、「あたしはどうでもいいんだけどね」といったフリをしているのだろう。あたしも同じようにしたかったけど、できなかった。お願いが3つも叶う! それならどんなことでも、欲しいモノ何でも手に入れられる。とても、ポーカーフェースを装うことなどできなかった。

「取引するわ!」 とはっきり言った。

リリスは素早くノートをあたしの顔の前に突き出した。あたしはさっきのペンを握り、ノートを見た。何も書かれていない。あるのは、1本の直線と、その先に×印だけ。リリスを見たら、彼女は眉毛を上げた顔をした。心臓がドキドキしている。

「サインしなさい。そうすれば、もう二度と、自分は要らない人間なんだなんて思わずに済むようになるから」

またもあたしの胸に突き刺さるような言葉を振りかけてくる。あたしはノートをおいて、名前をサインした。すぐに胸に目を落とした。すると……何も変わらない。

「どういうことよ、リリス? ちゃんと最後までしなきゃ、魂をあげないわよ!」

突然、リリスの瞳が紫色に輝いた。そして、素早く立ち上がり、ベッドの上、仁王立ちになった。威嚇するようにそびえ立っている。全身から純粋な悪意が放たれてくる感じがした。

「奴隷の分際で、あたしに説教しようなんて思わないことね! あんたは、この地上には2年程度しかいられないのよ。その後はあたしのモノになる。つべこべ条件を言うのは止めることね! あんたには、願ったことをすべてやるわ。でも、それはあたしのやり方でヤルということ!」

リリスの声が頭の中でこだました。急に恐怖に襲われた。今まで経験がないほどの恐怖。あたし、なんてことをしてしまったんだろう?

次の瞬間、リリスの尻尾がびゅんと飛んできて、あたしの頭の横を強打した。そして、世界は真っ暗になってしまった。


[2015/11/09] 願い事には注意して | トラックバック(-) | CM(0)

願い事には注意して (2) 

この日、午前11時に仕事をクビになってから、ずっと家でごろごろしてたから、多分、新鮮な夜の空気を吸えば気分も良くなると思った。早秋の宵で、トリキシーと出かけた時には、すでに辺りは暗くなっていた。ちょっと寒くて、何か温かい服を着てくるんだったと思った。トリキシーが用を足したら、すぐに帰ろうと思った。

少なくとも、近くに散歩するのに手頃な場所があった。あたしが通っている(いや、通っていた)大学である。丘の上の中規模サイズの公立の大学。樹木がたくさん植えられている。あたしとウェンディは街の中でもわりと静かな通り沿いに暮らしているのである。

金曜の夜なので、大学生がたくさんうろうろしていた。

新入生たちは、嫌いな人が誰かが分かっていないのか、大人数で集団行動をしていた。薬中の連中は、芝生に座って宇宙のことについて議論していた。ガリ勉学生は、学生組合でロールプレイのゲームの準備をしていた。そして、他の何よりたくさんいたのが、パーティに行こうとしている男子学生と女子学生たち。

誰もが落ち着いて幸せそうだった。この幸せそうな人たちが、あたしと同じ世界に住んでるなんて理解できない。確かにあたしの中の一部は、あたしは、ここにいる人たちのように振舞い、彼らの中に溶け込みさえすればいいと知ってるけど、気持ち的には、どうしてもそうできないのだった。あたしは、できる限り自分を小さく見せて、足元を歩くトリキシーのことだけを見て歩いた。誰もあたしのことに気づきませんようにと祈りながら。

トリキシーは、ようやく良い場所を見つけたようで、郵便ポストの近くに駆け寄り、用を足した。こういうことにかけてはトリキシーは割と素早く行うので、安心できる。

そしてあたしたちは方向を変え、家に戻り始めた。でも、帰宅の途に着くとすぐに、突然、頭上で耳をつんざくような音が鳴り響いた。肌に鳥肌が立ち、あたしは文字通り地面にしゃがみ込んだ。何が起きたかさっぱり分からない。でも、すぐにその答えが出てきた。暖かいのどかな夜だったのに、一瞬にして、凍えるように冷え込み、滝のような土砂降りになったのである。

文字通り、滝のような土砂降りだった。すぐに道路には雨水が溢れだし、歩道にまでせり上がってくる。トリキシーは半狂乱になって、ぴょんぴょん跳ねまわり、狂ったように吠えていた。あたしはどうしてよいか分からず、両手を頭の上にかざしたけど、手では小さすぎるし、そうするのも遅すぎた。あっという間にずぶ濡れになっていた。

あまりに突然の土砂降りで、ちょっと凍りついていたけど、ようやく気持ちが落ち着き、あたしは家への道を歩き始めた。走って帰ることも考えたけど、どの道、すでにもうずぶ濡れになっている。あたしは両腕を胸の前で交差させ、うつむいた姿勢で歩いた。想像できると思うけど、これがあたしの普段の姿勢なのだ。トリキシーは水たまりを見つけ次第、そこにジャンプしようとしたけど、あたしはリード紐を短く持って、それを防ぎ、ともかく家路を急いだ。

家まで2ブロックほどのところに来た時、道端の消火栓のところに男がふたり立っているのを見かけた。ふたりとも雨のことは全然気にしていないようだった。慌てて歩く人々を見て大笑いしている。

あたしは、あの人たちに気づかれたくなかった(というか、誰であれ、あたしは人に気づかれたくない)。なので、歩道の端の方に寄って、できるだけふたりから離れるルートを取った。近づくとふたりの話し声が聞こえた。

「いや、マジで。これほどいいプランは考えられねえって!」とひとりが言い、もう一人が笑った。

「本当だぜ。タダでずぶ濡れTシャツ・コンテストを見られるんだからな。でもよ、急な土砂降りになった時に、俺たちが、女子寮がある通りにいる確率って、やたら低いんじゃね?」

「特に、みんなが、どういうわけか、白いTシャツを着てるとなると、かなり確率が下がるな」

あたしは歩きながらふたりの視線を追った。見てみると、通りの反対側を、女子寮に住む学生が10名ほどキャッキャッと笑いながら走るのが見えた。全員、白いTシャツを着ていて、走るのに合わせて、胸がぶるんぶるん揺れているのが見えた。このふたりの男たちは、それに目を奪われているようだった。多分、あたしも目を奪われていたと思う。ふたりから離れて歩こうとしていたにもかかわらず、気づいたら、彼らのひとりに身体を擦りそうになっていたから。

「あ、ごめんなさい」と呟いた。

「いいってことよ、お兄ちゃん」

それを聞いて顔が赤くなるのを感じた。もう一人の男が振りむいてあたしを見た。

「おい、あいつ女だぜ」

するとふたりともあたしに顔を向けた。あたしが白いTシャツを着ていたのは見ていたんだろう。すぐにふたりの視線があたしの胸に向けられた。そして、あたしにはすっかりお馴染みのがっかりした表情がふたりの目に浮かぶ。ふたりとも、すぐにあたしから視線を外した。

「ああ、いいってことよ、お嬢さん」

この「お嬢さん(Miss)」って言葉は、男子寮の学生風の男が使う場合、一番セクシーからかけ離れた言葉と言ってよい。この男に12歳の妹がいて、その妹の友達か何かに対して使う言葉だ。あたしは、目を落として、ふたりが見ていたところを見た。シャツがずぶ濡れで、胸がぺちゃりとなっているのが見えた。小さな乳首の突起が見えた。だけど、他は何もない。乳房があるべきところに、まるで何もない。多分、両脇にかけて、あばら骨も見えているかもしれない。

あたしは、ふたりを見て、彼らが道路の向こう側の女の子たちを見ていても咎める気すら起きなかった。トリキシーのリード紐を引っぱり、雨がなかなかやみそうもないこともあり、できるだけ急ぎ足で家に向かった。

家の中に入ったとたん、外にいる間ずっと溜めこんでいたストレスが一気に噴き出した。他人目の多い街に出る不快さ、他人の目にじろじろ見られる感覚、みんながあたしを笑っているような感覚、そして、とどめがあの侮辱。最もエッチな気分満々の、最悪バカと言える学生の目にもあたしがぜんぜん性的に魅力がないと思い知らされた侮辱。トリキシーのリード紐を床に落とし、トリキシーが雨水をふるい落とすためにキッチンへ走っていくのを見ながら、あたしは喉の奥から叫び声が募ってくるのを感じた。

「もうイヤ! 素敵なおっぱいができるなら、こんなあたしの魂なんか売り飛ばしても構わない!」

思いっきり叫んでいた。自分の声だけど、何か心の奥底からの原始的な叫び声のように聞こえた。その声が廊下に鳴り響くと共に、心の中のストレスが身体の中からゆっくり消えて行くのを感じた。

強い雨が家の屋根を叩くのが聞こえ、自分は家の中にいるんだと知った。ウェンディは遅くまで帰ってこないだろうし、あたしはしばらくこの家に独りでいるだろう。さっき受けた侮辱に、顔はまだ赤いままだったし、焦燥感からちょっと過呼吸になっていたけど、それでも、少し落ち着いた気持ちになっていた。

「もう、ラリッサったら! 自分をしっかり持って!」 あたしは自分に言い聞かせ、頭を振って、あたしはどうしてしまったんだろうと思った。こういうことには慣れていると思っていた。不安感が悪化しているの? そんな感じを振り払い、トリキシーがぶるぶるして水だらけにした後始末をするためにキッチンに向かった。

キッチンじゅうの水を拭きとるのには時間がかかった。でも、それは良かったと思う。悩み事を忘れることができたから。全部、拭き終えたけど、辺りじゅうが濡れた犬のような匂いがしていた。顔を上げるとトリキシーがあたしのことをじっと見つめていた。あたしはトリキシーに微笑みかけ、バスルームに連れて行き、お風呂に入れてあげた。トリキシーを洗って乾かした後、自分も服を着替え、髪を乾かした。

すべてが終わった頃には、すでにずいぶん夜遅くになっていた(多分、11時ごろ)。ということは、この数時間ほど、気持ちを落ち込まさせずに何とかやり過ごせたことになる。これは良い兆候だと思い、この機会を逃さず眠ってしまうべきだと思った。そして急いでベッドにもぐった。

でも、もちろん、忙しく動きまわることがなくなるとすぐに、いろんな思いや心配事が戻ってくる。ウェンディのことを考えた。いま頃、何をしてるんだろう? あの二人組の男子寮の学生は、いま頃どこにいるんだろう? それに大きな胸をした女子寮の娘たちは、週末の夜11時にはどこで何をしてるんだろう?

さっきまでとは違って、周りにあたしを見てる人が誰もいなかったこともあって、強烈な負け犬感覚には襲われなくなっていた。ただ、悲しい気分。

でも、そんな悲しい気分に浸ることはせずに、代わりに比較的鮮明な空想へと滑り込んだ。あたしが、いろんな人がいっぱい来ているパーティに出かける夢。みんな、あたしに話しかけようとしている。どんなふうに見えてるか、お化粧はうまくできてるか、あたしの意見を聞きたがって、あたしに話しかけてくる夢。あたしはみんなとお話しするのに大忙し。一種、みんなの注目を一身に集め、その注目に浸っている感じ。

こういう空想をしていると、普通、首尾よく眠りに落ちることができる。あたしは目を閉じ、ゆっくりと眠りに落ち始めた………

突然、何かぐらぐら揺り動かすような衝撃が起きた。外にいた時に受けた雷鳴よりも10倍は大きな衝撃!

ハッと目を開け、素早く起き上がった。心臓がバクバク言っているし、全身にアドレナリンが流れ渡り始めるのを感じた。一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなった。特に、この音が雷ではないと知ったことで、わけが分からなくなっていた。この音は、想像できないほど奥底から鳴り響く感じではあったけど、あたしのこの部屋から出た音であるのは確実だった。

その轟音がどこから出ているか、すぐに分かった。ベッドで起き上がってすぐ後に、バリバリと割れるような恐ろしい音がして、あたしの部屋が一瞬にして煙に包まれたのだった。でも、普通の煙じゃなかった。硫黄の匂いがすごい。

家の中で何かの火事が起きたんじゃないかと思った。確かに、部屋が熱くなってるように思った。ベッドの右側から熱が来るように感じる。そっちの方向に目をやって、あたしは思わず口をあんぐりさせていた。無意識のうちに、頭を左右に振っていた。

見ているモノが信じられない。床のど真ん中に、突然、大きな穴ができていて、口をぱっくり開けていたのだ。そこから硫黄の煙を吐き出している。中はオレンジか赤い色に光ってる。狂ってるとしか思えないことは、その穴の奥が見えたこと。少なくとも部分的にだけど。

あたしに見える限り、その穴はずっと奥まで続いているようだった。確かに、あたしの寝室は家の1階にあるけど、この家には地下室なんかない。AとBのふたつの考えをつなぎ合わせることすらできなかった。頭の中がぐちゃぐちゃで、ただ頭を左右に振ることしかできなかった。ありえないって。

すると、急に地割れするような音が止まり始め、床の穴も輝きを止め始めた。今度は別の音が聞こえてきた。床の穴から、煙と明かりと一緒に、急に恐ろしい唸るような、あるいは叫ぶような声が聞こえてきたのだった。まるで千人の人々がいっせいに苦痛にうめきだしたような声。肌がぞわぞわとなって、何よりもまずここから逃げ出したくなった。でも、身動きできない。

穴からの明かりが急に消え、部屋全体が真っ暗になった。うめき声はますます大きくなってくるし、硫黄の匂いもどんどんきつくなってきた。

そして、次の瞬間、うめき声が止まったし、硫黄の匂いも消え、部屋の電気の明かりがいっせいに戻ったのだった。

すぐにあの穴に目をやった。でも、穴はまだある。今は真っ暗で、前より不吉に見えていた。穴の奥は見えない。もはや輝いていないから。穴があるということは、これは想像ではないんだ!

「えっへん!」

急に声がして、あたしはビックリして跳ねあがった。声がしてきたのは、穴からではなく、ベッドの先から! 床の穴にばかり気を取られていて、誰かが部屋に入っていたことに気づかなかったのだ。いや、誰かと言うより、何かと言うべきかも。

ベッドの足先のところに立っていたのは、あまりに奇妙で予想外だったので、自分の目で見てるのに、信じられなかった。

声は女性の声。とてもセクシーな女性の声。古い映画スターのような、低くてハスキーな声。その声を生み出した生き物は、確かに、そういう声にふさわしい姿をしていた。おおまかに言って、その生き物は美しい女性のように見えた。彼女は(「彼女」って呼ぶけど、他に何て呼んでいいか分からないし)信じられないほど長いストレートな黒髪をしていて、大きな黒い目をしていた。鼻は小さく、唇は真っ黒で、まるで炭で(でも魅力的に)塗ったみたい。その奥の歯は黒い唇とのコントラストで、ものすごく白く見えた。顔は、角ばった特徴や、黒い目、それに鋭い歯先とあいまって、恐ろしいけど、同時に美しい。

身体に目を向けると、ただただ驚くばかり。首は長く細くエレガントで、両腕も細く女性的な腕。肩はほっそりとしてるけれど、スポーツウーマンの肩のようでもあった。胸は、黒いビキニのようなもので覆われていたが、そのわずかな布地の中からたわわにはみ出しているようにも見えた。お腹は平らで、下着のモデルのように、おへそのところを露出していた。腰は見事に女性的な広がりを見せていて、ミニスカートの下、腰のところに鍛え抜かれた筋肉も見える。脚は細く、長く、小さく女性的な足先へとつながっていた。

この時点であなたが何を考えているか、あたしには分かる。よくアニメやSFモノに出てくるような妖艶な美女を思い浮かべているはず。そういう想像は珍しくない。そういうキャラは山ほどあるから。そして、部分的にはその想像は正しい。でも、あたしはいくつか述べていなかったことがある。

ひとつは、彼女の肌の色。真っ赤なのである。彼女がアイリッシュ系の女の子のようだと言っているわけではない。本当の意味で、真っ赤なのである。頭の先からつま先まで、同じトーンの真っ赤。肌で赤じゃないのは、さっきも言ったように唇とまぶただけ。

髪の毛は長い黒髪と言った。でも、その髪の毛がこめかみから上のところで、直立してるのは言っていなかった。髪がまとまって左右に分かれ、15センチくらいの角になっているのだ。角の先は若干、内側に曲がっていて、左右の角先が向きあう形になっている。

そして、一番、異色なのは、彼女の後ろにある、お尻のところから真赤な尻尾が生えていて、その先端が矢先のような形になっているのだ。

要するに、彼女は美女だけど、とても恐ろしい美女。


[2015/11/02] 願い事には注意して | トラックバック(-) | CM(0)

願い事には注意して (1) 

「願い事には注意して」 Be Careful What You Wish For by YKN4949

第1章 魂を売る

「ねえ、ラリッサ? あたし、今夜デートなの。なので、お願い。あたしの犬を散歩に連れて行ってくれない? 寝る前に。何時でもいいから?」

ルームメイトのウェンディがドアを開けた音は聞こえていなかった。だけど、彼女の要望は聞こえた。あたしは、急に彼女に声をかけられ、びっくりしてちょっと椅子から跳ねあがってしまった。

急いでパソコンのブラウザを閉じる。パソコンの画面は彼女には見えなかったはず。身体で視界をブロックしていたはず。それに、シャワーを浴びた後、タオルを身体に巻いていたんだけど、それも解いていなかったのは本当に幸いだった。だって、もし毎週金曜の夜のあたしの計画について、ウェンディにバレたりなんかしたら、あたし、もう生きてはいけないもの。部屋に閉じこもって、違法にダウンロードしたポルノを見ながらオナニーするなんて。

あたしは振り返って、あたしの寝室に入ってくるウェンディを見た。

「うん、いいわよ……あたし、どこにも行かないから。散歩に連れてってあげる」

そう答えながら、自分がつくづく負け犬で、金曜の夜だと言うのに何の用事もないことを認めてしまってることを自覚した。でも、負け犬だって認めてるんだったら、そもそも、あたしは何を心配してるのかしら?

ウェンディは、あたしのデスクの奥に鏡があるのを見つけて、近寄ってきて、あたしの肩越しに鏡を見た。あたしは、何を見ていたか覗かれないようにと、静かにノートパソコンを閉じた。ウェンディは鏡に映る自分の顔を見ながら、髪の毛をいじったり、唇を尖らせたりした。

「ラリッサにならお願いできると思っていたわ!」

あたしは小さく泣き声をあげた。週末には確実にスケジュールが空いていると、自分のルームメイトに確信させてあげることは良いこと。あたしには何の用事もないのが嫌って言うほどはっきりしてるから。あたしの泣き声を聞いてウェンディは、あたしがちょっと不満に思ってるのに気づいたみたい。

「ラリッサって本当に模範的な学生よね。あたし、あなたは、今夜は家にいて勉強するんだろうなって思っていたもの。あなたの楽しい日は土曜日の方なんでしょ?」

ウェンディは寛大にもそう言ってくれた。事実じゃないけど、そう言ってくれたのは優しい。確かにあたしは社交面では不活発だけど、それは、あたしがガリ勉だからじゃない。ウェンディが気づいてないことは何かと言うと、この2年間、彼女のルームメートだった人(つまり、あたし)が2ヶ月前に成績不振で退学になっていること。あたしの成績は、これまでもずっと不振続きで、今年になってからは、かろうじて残っていた勉強への動機も失ってしまったのだった。あたしが、勉強でパスできたからって何かいいことがあるの? 学位を取れたからといって、学位を持ったみじめ人間になるだけじゃないの、って。

あたしは、何にも集中できない気持ちになっていた。これはずっと前からのあたしの問題。ママがよく言っていた。あたしは雲の中に頭を突っ込んでいるって。目の前に現実の目標があって、それに集中すべきときなのに、手に入れられそうもないモノを夢見ているって。

ママが言ってたことは正しいと思う。大学に入ってからの3年間、あたしはキャンパスの可愛い人気者になることを夢見てきていた。人気者になったらどんなことがあるだろうって、いろいろくわしく妄想していた。でも、あたしがそんなふうにみんなの人気者になりたいって願うということは、逆に言えば、どうしたらその夢をかなえるかについて、あたしは、何にも知らないということ。人とどう付き合ったらよいか知らないから、みんなの中で人気者になりたいと願って、夢に見るわけ。

実際、あたしは、人に話しかけずに済むなら、めったに話しかけない。退学になる前でも、あたしの名前を知ってる学生は10人もいなかったと思う。それに、そういうあたしの愚かな夢のせいで、あたしは気が散ってしまって、講義にぜんぜん集中してなかった。もし本気で全精力を傾けたなら、落第して退学なんて避けられたと思うんだけど。

退学になったとは、まだ誰にも言っていない(パパから仕送りを受け続けるため)。キャンパスの近くの中古ビデオショップでバイトの仕事を始めたところ。誰かに見つかる前に、何かいいことが起きて、あたしの問題を解決してくれたらいいなと思っている。あ、でも、あの仕事もダメになったんだった。今日の午前中にクビになってしまったのを忘れていた。店番している時、ぼんやり宙を見つめていて、10代の悪ガキどもがDVDを盗んで、建物の壁にぶつけて壊してたのに気づかなかったから。

あ、忘れる前に言っておくけど、ウェンディはもうひとつのことについても間違っている。土曜日も、あたしの楽しい日ではない。明日の夜の計画はというと、今夜と同じこと。あたしの人生って、ホント、ごみ溜めみたいなものよ。

「ラリッサ、あたし、どう? 可愛い?」 とウェンディが訊いた。その声に、あたしは自己嫌悪から一瞬、抜けだした。顔を上げ、鏡の中を覗きこんだ。

すでに時刻は8時、彼女はデートに向けて完璧ないでたちだった。彼女の曲線美豊かな腰や形の良い太腿をぴっちり包み込むような流行の黒いタイトなドレス。ハイヒールを履いて、引き締まったお尻をキュッと持ち上げると同時に、素敵なふくらはぎに視線を引きつける。

瞳は大きく緑色で、アイシャドウを注意深く塗って完璧と言ってよいアクセントになっているし、ピンク色のぷっくりした唇もリップ・グロスで輝いていた。髪は長く蜂蜜のようなブロンドで、毛の先端に至るまでストレートなさらさら髪。髪やリップやシャドウの強めの色が、ミルクのように白い肌から浮き出て見える。ウェンディは、あたしが知ってるうちでも最高クラスに入る可愛い娘なのは事実。ボディには目を奪われるし、顔も欠点が何もない。

「完璧だわ」 と言うとウェンディは目を輝かせた。

「ありがとう。優しいのね。でも、あたしなら完璧とは言わないわ。あなたほどじゃないもの!」

あたしは力なく微笑んだ。

ウェンディは、こういう点では、ちょっとぎこちないところはあるけど、いつもとても気立てが良い。あたしがルックスについて気にしてることを知ってるからか、いつもルックスについて良いことを言って、おだててくれる。

でも、彼女のおだては、時々、恩着せがましい感じもする。あたしより彼女の方が可愛いのは誰が見ても明らかなのだ。鏡で自分の顔を見てみたが、いつもの顔。ほどほどのルックスの女の子。それ以上では決してない。長い黒髪でゆったりしたカールで背中に流れてる(これがあたしのベストな特徴)。そして大きな青い瞳。まつ毛はウェンディのより短いし、鼻もちょっと小さい(かと言ってウェンディの鼻が大きいと言ってるのではない)。背も彼女より低い(ウェンディは175センチでほっそりとしてる。一方、あたしは155センチでガリガリに近い痩せ形)。肌は彼女より濃い目で、オリーブオイルのような色。脚はいい形をしていると思うけど。

時々、こんなあたしでも、案外、かなり可愛いんじゃないかと思うことがある。特に今みたいにシャワーを浴びた直後とか、そう思う。そして、特にそんな時、どうしてウェンディには、デートに誘おうと素敵な男たちが群れ集まるのに対して、あたしは独り家にいて、自分で自分を慰めなくちゃいけないのかって思う。ぜんぜん、理屈が分からないと。どうしてウェンディはあたしが夢に思う生活ができて、あたしは部屋に座って、ただ切望し、自分が情けないと思ってるの? あたしとウェンディ、そんなに違わないと思うのに。

そんなことを考えていたちょうどその時、ウェンディが身体を傾けて、鏡の中を覗きこみ、唇の状態を確かめた。そしてあたしと彼女の違いが、あたしの左腕に押しつけられた。違いの左右両方とも。

それに気づくのにいつもちょっと時間がかかるのだが、この時は速攻であたしは悟った。ウェンディには完璧な形のCカップの胸があるのだ。ドレスから溢れんばかりになっている乳房。あたしは自分の胸元に目を落とした。身体に巻きつけたタオルを支えるのもやっとな胸しか見えなかった。21歳になるのに、トレーニング用のブラすら必要ない。見た目は、12歳の男の子の胸と同じ。こんな女と誰がデートしたがるだろう? 人が聞くと馬鹿げてると思うかもしれないけど、あたしは、この左右の虫刺されみたいなモノがあたしのすべての問題の根源なのだと確信した。

その時、あたしたちが借りている家の前から、クラクションの音が聞こえた。ウェンディのデート相手ね。

ウェンディはもう一度、鏡を覗き、確認した後、「お犬の散歩、引き受けてくれてありがとう」とあたしの頬に軽くキスをして、出て行った。

キスする時の彼女の唇が震えているのを感じた。「諦めなさいよ」のキスね、と思った。また、ひとりぼっちの金曜の夜か。行動予定の変更の見込みもほぼゼロ。

椅子に座り、鏡の中、自分の顔を見つめた。孤独感と自己嫌悪がずっしりと両肩に乗ってくるのを感じた。いつもお馴染みの涙が、目に溢れてくるのを感じた。そして、これもいつもお馴染みのことだけど、あたしは現実の生活から抜け出て、物事がもっと良かったらどんな生活になっていただろうと想像し始めた。あたしが今のあたしというより、ウェンディに近い存在だったら、どうだろう? 素敵な彼氏とデートに行って、お食事をして、映画を見て、意味深な視線を交わしあったり、焦らすような冗談を言い合ったり…。

これは、あたしが金曜の夜に思い浮かべる、いつもの夢。毎週金曜、オナニーをした後、不安感が必ず襲ってくる。そんな時に見る夢だ。そして、その夢から覚めると、前よりもっとみじめになるし、孤独に襲われる。

この日は、もはやオナニーする気にもならなかった。だから今夜は完全にムダな夜になる。また、ここにひとりぼっちで座っていたら、また泣き出してしまうだろう。しょうがないから、あたしの一番の親友を呼び出して、彼女に慰めてもらおう。あたしはそう決めた。

「トリキシー、おいで! 散歩に行こう」

小さな毛玉が、跳ねるようにして部屋に入ってきた。あたしはタオルを引きはがして、素早く運動用のショートパンツと白いタンクトップに着替えた。わざわざブラをつける必要も感じなかった。

数分後、あたしは、リード用の紐を握り、21年目にして初めてのデート相手と散歩に出かけていた。毛深い女性はあたしのタイプじゃないけど、相手を選べる立場じゃない。


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Grad 大学院生 (1) 

「Grad 大学院生」 Grad by deirdre

妹のゲイルはいつものゲイルのままだった。ゲイルは学生なのだけど、まさに彼女は典型的な学生の印象そのもの。

私は飛行機でここに来たばかり。ゲートのところで私を待っていたゲイルを見つけた。私は、この週末、ゲイルのところに遊びに来たところだった。私が通っているロースクールから解放される週末になる。ゲイルとは2ヶ月以上、会っていなかった。

ゲイルも、私を見て嬉しそうな顔をした。彼女も、この週末を楽しみにしていたことが分かる。ゲイルは私のバッグを持ってくれて、一緒に空港の外の乗降場へと出た。彼女の車はと言うと……ピカピカのジャガーのセダン。ジャガーのセダン!? こんな車でゲイルは何をしているの? お金持ちのボーイフレンド?

ゲイルは後部座席のドアを開けて、私に乗るよう示した。私はバッグを押しこみ、乗り込んだ。ゲイルは前の座席の助手席に乗り込んだ。運転席には女性がいた。20代後半か30代前半くらいの女性。とても高級そうな服を着ている。ゲイルはどうやってこの人と知り合ったのかしら?

ゲイルがその女性を紹介してくれた。なんとアパートの同居人だと! 私はちょっと唖然として、どういう状況なのかしらと思った。名前はブレンダと言って、弁護士をしている人らしい。

弁護士をしてると聞いて、法律を勉強している私はちょっと興味を持った。でも、依然として、妹とこの女性の状況にとても疑念を感じているのには変わりはなかった。

それでも、車の中、3人でおしゃべりをし続けた。ゲイルは、私が法科の学生をしていることをブレンダに話したらしく、ブレンダは私がどんな授業を受けているかいくつか質問した。車が家に着くころには、私もちょっとうち解けた気持ちになっていた。

家に着き、荷物をゲイルの部屋に運びこんだ。ゲイルは私が滞在する間、別の部屋で寝起きする。

ゲイルの部屋で少し休んでいるうちに、どうしても好奇心が湧いてきて、ちょっとたんすの引き出しを開けてみたくなってしまった。そして、私はとんでもないショックを受ける。

こんな革の衣装! ほとんど生地の部分がない革の衣装! ある種の男たちが大喜びしそうなタイプの衣装で、実用的価値がまったくないような衣装。それがあったのだった。下の方は、小さな布切れにしか見えないとても小さな革のビキニ。トップも革製で、胸から腰にかけてを覆うコルセットみたいなデザイン。他にも革製の首輪やブレスレットなどがあった。

そして、その下にはというと、何枚か写真があった。なんて写真なの!

この衣装を着たゲイルの写真。革のブレスレットやアンクレットをつけ、首には革の首輪を巻いている。しかも、手には鞭を持っていた! ブレンダの写真もあった。ブレンダは全裸で床にひざまずいている!

私は口をあんぐりさせて、写真を見ながら突っ立っていた。そこにゲイルが戻ってきて、唖然としている私を見た。

でも、ゲイルはこのことについて、すごく、「当たり前のこと」のように対応した。

「ええ、そうよ。私とブレンダは、ある種の「関係」にあるわ。でも、どうして姉さんはそんなこと気にするの? 私には偏見はないわ」

私にはそんな確固とした自信はない。この状況に、ただ、何かわけのわからないことを呟くほか何もできなかった。じっくりと考える時間が必要だった。結局、私は、ブレンダのようにとても自立しているように見える女性が、写真に写ってるようなことまでするなんて驚いたと、そういうコトを言った。

「ブレンダには、誰も知らない側面があるの。それはと言うと、ほぼ完ぺきに従属的だということ。誰かが彼女に何かをしなさいと命令したら、彼女、言われた通りにするわ。そして、彼女は、そういうふうに従属的に振る舞うことを心から喜んでいるの。もっと言えば、誰も気づかないでしょうけど、ブレンダは、どんな人の命令でも聞くタイプ。誰でも彼女に命令できるし、彼女は喜んでそれに従うでしょうね」

「あなたがこんなことをしてるなんて信じられない!」

ここばかりは、我ながら流暢に言葉が出ていた。

「ああ、お姉さんには分からないかなあ。ひょっとするとお姉さんも興味深いと思うかもしれないのに」 とゲイルが答えた。ちょっと、ミステリアスな顔になっていた。

「絶対、ありえない!」 と私は叫んでた。

ゲイルはちょっと私から目を逸らし、何か考え始めた。

「いいわ、証明してみて」 

しばらく経ってゲイルがそう答えた。そして、「あの衣装に着替えた方がいいわね」と言って、早速、着替え始めた。


いまゲイルは、あの衣装を着て、手には鞭をもち、ハイヒール姿で立っている。信じられない、私たちのあのゲイルが!

「いい? これから私は『ひざまずきなさい』と命令口調で言うわね。そう言ったら、姉さんはできるだけ素早くひざまずかなければダメ。いい?」

「そんなの変よ」

「いや、ちゃんと従って! 私たちのしていることがどういうことか、姉さんに理解してもらうには、これが手っ取り早くて簡単な方法なの」

私は半信半疑ではあったけど、同意した。そして見ていると、ゲイルは堂々として、厳格そうな姿勢になった。

「ひざまずきなさい!」

その効果にビックリした。革の衣装を着たゲイルが厳格な命令を下してきた。あんまりびっくりして、私はひざまずくのを忘れてしまった。するとゲイルは「キャラを崩して」、私がたったひとつの単純なこともできなかったのを見て、クスクス笑った。

「いい? もう一回するからね。簡単なことなんだから、忘れないでよ! じゃあ、行くわよ! ひざまずきなさい!」

私は素早くゲイルの前にひざまずいた。その瞬間、何か電撃的なものが私の全身に走った。ゲイルに命令され、それに従う私。ゲイルを見上げると、私を見てにんまりしていた。ゲイルは私を立たせ、そして訊いた。

「何か自分の中で反応があったんじゃない?」

私は返事をしなかったけれど、それは確かで、ゲイルには私の心の中が読めるのではないかと不安がよぎった。

でもゲイルはちょっと私を笑っただけで、それ以上、私に心境を告白させて私を恥ずかしがらせることはしなかった。それでも、ゲイルは、もう一度やってみるべきだと強情だった。今度は役割を交換してやろうと。

私はちょっと抵抗した。だけど、間もなく、私はゲイルに促されて、あの革の衣装に着替えされていた。ゲイルが衣装を脱いで裸になり、代わりに私が革の衣装になる。すぐに私は、さっきのゲイルと同じ服装になっていた。革の服、ハイヒール、そして手には鞭!

ゲイルに促されて全身鏡を見て、ビックリした。こんな姿になっている自分が信じられない!

その後、ゲイルは私をまっすぐに起立した姿勢にさせ、彼女も60センチくらい離れたところに、私と対面する形でまっすぐに立った。ゲイルは衣装を脱いだ後のまま、全裸のままだった。彼女は私の命令を待っているような雰囲気だった。

「オーケー、ちゃんと命令っぽく言うのよ」 とゲイルは少しリラックスして言い、その後、再び起立の姿勢に戻った。まっすぐ前を見つめているけど、特に私の顔を見つめているわけではない。

「ひざまずきなさい!」 私はそれっぽく言った。

私が言い終わる前に、すでにゲイルは動き始めていた。1秒もしないうちに、彼女は両膝を床についていた。身体をまっすぐに保ったまま、床にひざまずいている。

これも電撃的なショックだった。電気がビリビリと全身を走り、直接、脚の間のあそこに行くような感じがした。あそこが濡れて、彼女の衣装を汚してしまったのではないかと思った。ちょっと意識を失ってしまいそうに思った。

するとゲイルは立ち上がり、服を着始め、私にも着替えるように言った。私は彼女のベッドに腰をおろしていた。少し休んで呼吸を整えようとしていた。いま起きたことが信じられなかった。何が起きたんだろう? 自分でも理解できない。

でも、ゲイルは私に無理強いはしなかった。ゲイルがその気になれば、簡単に、私たちの関係の支配権を握れるのではないかと、そんな気がしたけど。

「私とブレンダとの関係で私がどんな気持ちになっているか、分かってくれたかも」

ゲイルはそれしか言わなかった。


[2015/11/02] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)