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67_The Sale 「商談」
「入れ、スレイブ」 あたしを誘拐した男が言った。部屋の外なので、男の顔を見ることはできないが、その顔はしっかり覚えている。残酷な印象の端正な顔立ち。獲物を狙う捕食者を思わせる顔。
入るのを躊躇っていると、でっぷりと太った寡黙な別の男が、あたしの背中を押すようにして中へ押し込んだ。いまだハイヒールを履き慣れていないので、背中を押され、よろめいてしまうが、素早く姿勢を立て直した。部屋の中、あたしは憮然とした表情で素っ裸で立っていた。そんなあたしを、誘拐者の男はカウチに座り、ニヤニヤしながらあたしを見た。白髪で地味な服装の女性が彼の隣に座っていた。
「あら、この娘、なかなか素敵じゃない? 捕まえてからどのくらい?」 とその女性が言った。
「もうすぐ半年になる。あなたがホルモン投与を続ける限り、こいつの肉体は今後も完成へ向けて変化し続けるだろう。クライアントの中には、よりアンドロギュヌス的な外見を好んで、投与をやめる人もいるが」
「いや、私は女性的な体が好みなの」 女性はそう答えたが、声がかすれていた。「私自身のお客は体にもう少し曲線があると期待しているわ」
「では、あなたは満足してると考えてよろしいのかな?」
「ええ、もちろん。とても満足してるわ。調教は完了してるの?」
誘拐者は頭を左右に振った。「私が望むほどはうまくいってません。もう半年あれば、真の意味で従順になるでしょうが。現状では、こいつは依然として、時々暴れだします」
女性はそれは構わないと言いたげに手を振った。「その点は何とかなるわ。で、お値段はおいくら?」
「従来と同じです」
「調教が半分しか完了していない商品に? それなら半額でしょう?」
「彼は、ここ何年かのうちでもベストと言えるスレイブですよ。価格は価格です。お望みなら、調教を完遂しましょう。そして完了後にこちらから配達してもかまいませんが……」
「いいえ、その必要はないわ」と女性は遮った。「今日、彼を引き取っていきます。在庫が不足気味なのよ。それに、私たちも、あなたと同じくらいには調教をすることができるの、ダミアン。手筈は私が整えましょう。彼を箱詰めして、私たちの施設に配送してください」
「マーサ、あなたとビジネスができて大変うれしい。これまでも、いつまでも、ごひいきに」 と男は言った。
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67_The Only Way 「唯一の方法」
「1秒でいいから、それするの止めてくれないか?」 ジョンはイライラを隠せなかった。「僕は話し合いをしに来たんだ。君がソレをお尻に入れたり出したりしてたら、話し合いなんかできないよ」
メルはつまらなそうに溜息をつき、ディルドを引き抜いた。「あなた、楽しいことをしたがってるんじゃないかって思ってたのに」 そう言って、立ち上がる。彼の完全に女性化した肉体……幅広の腰から豊かに膨らんだ乳房に至るまで……すべてを露わにしてジョンの目の前に立っている。「みんなは家に帰ってる。用務員の皆さんには、今夜は用事はないって言ってある。だから、何がいけないのか、全然分からないわ?」
ジョンは手で目をこすった。「みんなが噂してるんだ」
「噂なんかいつものことよ」とメルは答え、前かがみになってパンティを拾った。ツルツル肌の脚を通して、それを履く。「会社なんだから、派閥みたいなものはあるものでしょ?」
「でも、この件はそれとは違う。君だって分かってるじゃないか」とジョンは手で、濃い目の褐色の髪を梳いた。「もし、幹部たちに君のことがバレたら……確かに、それを僕も一緒に秘密にしようとしてきたわけだけど、でも、他の人たちが君の変化に気づいたらしいんだよ、メル。いつまで隠していられるか分からないんだ」
メルはスラックスに脚を通し、若干、苦労して膨らんだヒップをズボンの中に収めた。紳士用のズボンは彼のような体に合うようにはできていない。「で、あなたの提案は? あたしにカムアウトしてほしいの? 社内をドレスを着てしゃなりしゃなり歩いてほしいの? もし父が、私が……私が他と違うと少しでも疑ったら、父はあたしを会社から叩き出すだろうって、あなたなら十分よく分かってると思うけど?」
メルは再び前かがみになり、近くのデスクの引き出しから幅広の包帯を取り出した。そして、慣れた手つきで、胸に巻き付け、豊満な胸を平らにした。
「そして、その後、どうなると思う? 確実に、父はあなたもクビにするわ。そして、多分、この部局全体をシャットダウンすると思う。100人は社員がいるわ。あなた、その100人が一瞬にして失業するのを見る勇気がある? あの父なら、単に、道を踏み外した息子に嫌がらせをする以外に理由がなくても、平気で部局をひとつくらい潰すわ。それで、改めて訊くけど、ジョン、あたしにどうしてほしいと思ってるの?」
メルが胸に包帯を巻いている間、ジョンは、オフィス・チェアに座っていた。両手で顔を覆う。「自分でも分からない」 そして顔を上げた。「この行きつく先はどこなんだろう、メル? いつまで、これを続けていられるだろう?」
メルは愛する男性を見下ろした。「続ける必要がある限り、続ける。あの年寄りが死んだら、状況は変わるでしょう? 父はそんなに長生きはできないわよ。でも、それまでは、あたしたち隠し続ける。それまでは、普通の同僚のふりをする。それが唯一の方法なの」