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68_Adapting to corporate culture 「会社の文化に順応すること」
「セス、あなたのことが心配だわ。どうしてあなたには見えてないのか、それがあたしには分からない」
「理屈が通じないからだよ。ほんと、カレン。ボクたちはありえないって思えるほどの楽園で暮らしてるんだよ。ボクは素晴らしい仕事についている。この仕事でボクはたくさんおカネを稼いでいて、それで、キミも文筆活動に集中できてるんじゃないか。それに、ボクは今までにないほど健康的な毎日を送ってる。一体、何を心配しなくちゃいけないんだい?」
「真面目に言ってるの? あなたには、本当に見えていないの?」
「何が?」
「あたしには……あなたが分かっていないなんて、信じられない」
「いいから、言ってくれよ。どんなことでも驚かないから」
「いい? この仕事のこと。ええ、ペイは素晴らしいわ。それに、あなたは、自分がしていることを気に入ってることも知っている。でも、会社の人たちが、あなたにあの服装規定を強いてること、変だと思わないの?」
「どの会社にもある種の服装規定はあるものだよ、カレン。アメリカの企業とはそういうものだよ」
「ええ。でも、男性従業員にスカートを履かせる企業なんかどこにもないわ。お化粧させる企業も、髪の毛を伸ばさせる企業も。ほんとのこと言うと、あたし、あなただと見わけがつかなくなる時すらあるの」
「また、その話? 最初の時に言ったよね? この会社は世界中でも最も進歩的な会社のひとつなんだよ。世界中でだよ、カレン。この後、キミは、ジェンダーの区別をしないトイレのことに文句をつけるつもりなんだろ? それとも、会社が通わせてくれてるヨガ教室の話かな? それとも……」
「あなた、女みたいになってるの。ほら、あたし言ったわよ、セス。あなたは女の子みたいに見える。そしてあたしはそれがイヤなの。いい? あたしどうしても……どうしても、イヤなの」
「女の子? ふーん? その種のジェンダーのステレオタイプ化こそ、うちの会社が打ち破ろうとしていることなんだよ。女の子みたいに見えるって、どういう意味なの? どうしてボクはスカートを履いてはいけないの? どうして可愛いヘアスタイルをしてはいけないの? どうしてお化粧してはいけないの? 女性だけがそういう利益を持つべきだなんて、性差別主義的だよ」
「利益? マジで言ってるわけじゃないでしょ? そんなのバカげてる」
「平等はバカげたこと、と。いいよ。悪かったね。ボクはそんなの知らなかったよ。進歩的な世界の皆さんに、そのことを教えてあげることにするよ」
「ああ、いいわ。そんな揶揄をして。そういう服装とかすれば問題が解決するから、ってことね? でも、分かってほしいの。あなたの服装や女の子っぽい行動は、あたしは何とか対処できるわ。単に服装の問題にすぎないから。そうでしょ?」
「ボクはさっきからそう言ってるんだよ」
「でも、あなたの脚の間にあるモノを見てみて、セス。本気で見てみて。もうほとんど見る影もなくなっちゃってる。それに、あなたが最後に勃起したのはいつだった?」
「まず、勃起って? うげぇ。ボクは、もう自分の人生で、そういう毒のある男性性は必要としていないんだよ。それに、今は、小さいことが人気なんだよ」
「もう、あたしには、……あたしには何を言っていいか分からないわ」
「じゃあ、何も言わないで。カレン、ただ、流れに任せればいいんだよ。そして、これは良いことなんだと受け入れて、先に進めばいいんだよ」
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68_A night's work 「夜の仕事」
屈辱的だったけど、これを喜んでいる自分がいた。中をいっぱいにされるのを感じ、完璧なところを突かれる喜びに打ち震える。堪えたいのに、どうしても、声を出してしまう。喜びの声。それは、単純で否定できない生物学的な反応。どうしようもない反応。でも、その喜びに反し、同時に、恥ずかしさも感じてしまいどうしようもなくなる。昔の自分の人生に戻れる日を待ち望む気持ちを打ち消すことができない。
イキそうになってるのを感じる。動きのリズムだけのことかもしれない。経験を積んできたからかもしれない。もう数えきれないほど、こういうことをしてきたから。でも、トイレの個室で、この男の上に乗りながら、おっぱいをブルブル震わせて、自分自身のふにゃふにゃなおちんちんをブルンブルン振りながら、このおことが今にもイキそうになってるのが分かる。彼がイッたら、ビュッと噴射してきて、同時に、苦しそうに最後の唸り声をあげてくるだろう。そうしたら、あたしの仕事は終わる。
彼から降りて、彼が放ったドロドロがあそこから染み出てくるのを感じながら、あたしは、何か色っぽいことを彼に言う。もちろん、あたしもバカじゃないから、あそこをキレイにぬぐう。あそこから出るドロドロは、あたしのサイフに入ったお札と同じく、あたしがちゃんと仕事をした証しになる。
パンティを履くときが、気まずい時間。トイレの個室にふたりは一人分多すぎるし、この時ばかりは、それが明らかになる。でも、あたしは、この点については充分経験を重ねてきてる。もう何百回も。その繰り返しの経験の証しは、あたしが、今日の黒いミニスカをいかに素早く履くかを見て分かる。それを履いたら、エッチっぽいピンクのホルターのトップを着て、信じられないほど高いハイヒールを履いて、完璧に元の姿に戻る素早さを見ればよく分かる。
着替えが済んだら、あたしは前かがみになって、このお客さんにキスをする。「優しい人ね、ありがとう」と甲高い声を使って言う。もう、この声はあまりに自然になっていて、自分の生まれつきの声をもはや出せないほどになっている。「ねえ、もう一度会いたいなあ。いい?」
彼はぎこちなく唸り声をあげる。また常連客がひとり増えたと確信する。多分、あたしの女将は喜んでくれるだろう。もちろん、女将はどこか必ず文句をつけてくる。仕事に見合うおカネをもらってこなかったとか、もっとお客さんを取れたはずだとか、もっと一生懸命働けとか。女将の文句のリストはいくらでも長くなるし、あたしも、今度はもっとうまくやるからと言うだろう。これは、毎朝、まったく同じで繰り返される。そして、あたしも女将もそのことに慣れきっている。
あたしはトイレを出て、お客さんが服を着ている間に、鏡の前で身だしなみをチェックする。あたしは、どう見ても、隅から隅まで売春婦。あたしは娼婦になってしまった。
溜息をついて、元の男性に戻れるのだろうかと思う。たとえ胸のインプラントを取り除いても、女性ホルモンを多量に摂取した証拠は残るだろう。それに顔を女性的にした手術の結果も消せない。でも、たとえ、それらすべてを何とかできたとしても、あたしはもう1年近く売春をしてきてるし、それ以上に女性として生活を続けてきている。そんな状態なのに、どうやって男性に戻れるだろう?
もちろん、男性に戻るという話しは、女将があたしを自由にしてくれることが前提となっている。かつて、女将はあたしの妻だった。でも、あたしはあまりに多くの間違いをしてしまった。その中には、複数の娼婦たちと浮気をして妻をだましたことも数多い。その結果、妻は当然と言えば当然だがあたしを恨んだ。その恨みが、あたしを女性に変えるという形で具現したのだった。最初は、あたしも抵抗したけど、彼女の方があらゆる点で上手だった。あたしは、女性化はちょっとした軽い辱め以上には進まないだろうと高をくくっていたので、あたし自身、それほど抵抗しなかったということもある。自分が最後にはどういう姿になってしまうか、それを前もって知っていたら、絶対に、これを受け入れなかったのに。
でも、それは過去の話。いくら過去を悔やんでも、何の意味もない。重要なのは、毎日、夜を何とかやり過ごし続けること。服装を整えながらトイレを出て、バーへと戻る。お客になりそうな人を探すと、独りで来てると思われる男性を見かけた。いちど深呼吸をして、神経を落ち着かせ、その男性の隣に座る。
「ねえ、あなた、楽しいことしたいと思ってる?」 そう話しかけ、あたしは彼の顔を見る。そして、次のお客さんが見つかったと確信する。