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報復 第4章 (10) 

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リディアが鋭い口調で訊いた。

「何だい、それは? クリスマス・パーティがどうしたんだい?」

祖母の居間、バーバラは安楽椅子に座っていた。リディアは近くの大きなソファにちょこんと腰掛けている。最近、バーバラはノニーと彼女が呼ぶ祖母のところで過ごすことが多くなっていた。父親の態度は徐々に頑なになり、スティーブの味方につくことが多くなっていた。バーバラにはそれが理解できなかった。父親というものは、他の者でなく、娘の側に立つべきものと思っていたからだ。

母親も疑念を抱いているようだった。母親は、どうして、このポーターという男と募金パーティにいたのかとバーバラにしつこく訊き続けていたし、あの公園で、バーバラがその男と服を脱いだような格好で一緒にいた事実には、正直、呆気に取られていると言ってよかった。バーバラは、おばあちゃんなら、自分の見方をもっと受け入れてくれるだろうと期待していた。

金曜の午後、バーバラには他に会える人はいなかった。妹のキムは、あからさまにバーバラに敵対的で、おとといの夜、電話でバーバラに、スティーブはどんどん先に進んで、離婚に持っていくといいわと言っていた。バーバラはスティーブのような男性に相応しい女じゃないとすら言っていた。このような状態はバーバラにとっては非常に不安になる状態だった。彼女は、これまで、家族の積極的な支えを受けずに、深刻な事態に対処したことが一度もなかったのである。

「え?・・・ああ、あのパーティのことね」 バーバラは、つまらないことと言わんばかりに答えた。

「まあ、そうねえ・・・去年、スティーブと、私の職場の人が集まったクリスマス・パーティに出たの。その時、スティーブは私がジミー・ロバーツに関心を示しすぎると思ったらしいのよ。実際は、そうじゃないのに、彼はそう思ったのね・・・そして、ジミーが話してくれたジョークに、彼、腹を立てて、バカみたいにパーティの雰囲気を悪くさせちゃったのよ。まるで、高校生みたいに、ジミーに外に出ろ、話をつけてやるって、そんな風になったのよ。・・・信じられる? しかもジミーはレイノルズさんの甥だというのに。・・・というか、レイノルズさんの奥さんの甥だけど。とにかく、ジミーは会社では大切な人物なの。なのにスティーブは彼に失礼な態度を取ったのよ」

リディアは、しばらく黙って、孫娘の説明を咀嚼した。バーバラにどんなジョークだったのかを尋ね、バーバラがジョークの要点と、ジミーがスティーブに対して言った「楽しい」からかいのことを話すのを聞き、顔を曇らせた。話しが終ると、リディアは立ち上がり、オットマン式の大きなソファを押して、バーバラの椅子に近づけた。

「で、話しておくれ・・・お前とそのジミーって人とは、このくらい近く座っていたのかい?」

「ええ、確かにそう・・・。でも彼は、何て言うか、ボスの甥なのよ」

リディアはバーバラの言い訳に、ふんと鼻を鳴らしたが、このことは脇に置くことにした。

「分かったわ・・・それで、お前とそのジミーは、体が触れ合っていたのかい? そもそも、どうして隣り合って座ることになったんだい? ジミーには連れはいなかったのかい?」

バーバラは、少し驚いた口調で答えた。

「ん・・・彼には連れの女性とかはいなかったと思うわ。よく知らないけど・・・あ、ジミーは、あの大きなホールに入ってきて、後から私の隣に座ったんだった。何も変わったことはなかったわ。ジミーとは何度もランチを一緒したことがあったし、そういう時も、彼は私の隣に座っていたから。誰も、そのことについて何も言わなかったし」

「なるほど・・・で、体は触れ合っていたのかい?」

「いいえ。・・・まあ、時々、そうなっていたかも・・・でも、ただおしゃべりしていただけなのよ」

リディアは溜息をついた。そして、さらにオットマンをバーバラに近づけた。

「彼は、こんな感じだったわけだね?」

リディアは孫娘の方に体を傾け、バーバラに近い方の肘掛に腕を乗せた。

「そうなのかい?」

「え、ええ、まあ・・・でも・・・」

「そして彼は、お前にしか分からないようなジョークを言っていた。・・・彼とお前だけが笑っていたんだね?」

「ええ、まあね・・・多分・・・でも、おばあちゃんは、何か大ごとのように考えてるけど、そうじゃないのよ」

「・・・そうやって笑うときが何度もあった・・・ジミーは、低い声で話すことが多かった・・・ちょうど、お前が特別な人なので、お前だけに聞えるように話しているみたいに」

リディアは、質問をしながら、声を低くし、さらにバーバラの方へ体を傾けた。指で孫娘の腕を撫でる。バーバラも、祖母が話すことを聞くため、無意識的に、リディアの方へ体を傾けていた。バーバラは、自分がしていることに気づき、はっと顔を赤らめた。

「ノニー!」

バーバラはさっとリディアから体を離した。リディアはくすくす笑ったが、その笑い声には、ユーモラスな調子はほとんどこもっていなかった。


[2007/10/18] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)