イサベラは、もう一本指が加わるのを感じ、ぶるぶる体を震わせた。マリイの2本の指が、若い娘の肉体から反応を引き出そうと愛撫を始める。反応をしたくないのにと堪えるイサベラは、恥ずかしさが湧き上がってくるのを感じた。
「おやめください・・・」
やっとの思いで囁いたが、マリイの指に快楽の蕾を探り当てられ、顔を横に背け、みじめさに目を閉じた。
目を閉じたままでも、マリイの体重でベッドが揺れるのを感じた。マリイは、たっぷりしたシルクのスカートを後ろに引きずりながら、ベッドに上がり、イサベラの太腿にまたがったのである。
「ああっ・・・」
熱を帯びた唇が、敏感な乳首に触れ、甘美に吸い上げるのを感じ、イサベラは溜息を漏らした。太腿に何か熱い部分が押し当てられ、そこに擦りつけているのも、淫らすぎる。
イサベラは、こんなふうに自分の胸をキスでいじめているのは、実はレオンなのだと想像しようとした。彼の熱く優しい唇で愛撫されているのだと。この、繊細なタッチで触れてくるものの、残酷そうな眼差しをした女に愛撫されているのではないのだと。
だが、イサベラは、間もなく、自分の身体が拒否するのをやめてしまったのを知るのだった。無力な肉体がマリイの愛撫に反応し始め、熱い滴をちろちろと脚の間に垂らし始めたのである。
「おや、お前、これが好きなんだね。違うかい? 可愛い淫乱娘?」 マリイは、濡れた乳首にふうっと息を吹きかけながら、嬉しそうに言った。
イサベラは、一旦離れたマリイの口を求めるかのように、背中を反らせ、胸を突き上げた。自制心が溶け出しているのを感じる。マリイの巧みな指は、依然として責めを続け、イサベラは、喘ぎ、体をくねらせて耐える他なかった。レオンの高圧的な愛撫と、あまりに異なった別次元の愛撫。
女の口が、湿った跡を残しながらイサベラの胸を横切り、もう一方の乳房の頂上を予想外に強く捕らえた。
「あっ、いやっ、やめて・・・わ、私、こんなのいや・・・」 また、熱い涙が溢れ出し、イサベラの頬を伝った。
マリイの舌が乳房をぐるりと舐めまわし、その後、乳房全体を口に含むのを受け、イサベラは体を震わせた。
「あら、でも、お前の可愛い体は、正反対のことを言ってるよ。お前の可愛い口とは異なって、体の方は嘘がつけないようだね」
「あっ!」 また、もう一本、指が加わり、彼女の中に忍び込んでくるのを感じ、イサベラは小さな溜息を漏らした。快感に耐えるように、体の両脇で、両手にこぶしを握り、身体が勝手にぐいっとベッドからせり上がった。「あうっ・・・!」
「マリイ!」
予期せず、静かにその言葉を掛けられ、マリイもイサベラも、はっと息を飲んだ。そこにはレオンがいて、小部屋のドアに無頓着そうに寄りかかっていた。黄金色の目を細め、目の前に展開している見世物を眺めている。
「あなた!」 マリイは声の主にさっと顔を向け、叫んだ。ベラの上から滑り降り、部屋を駆け、両腕を広げて、長身の男に抱きついた。
「あなた、早く戻ってきたのね」
イサベラは、レオンが、マリイの頭越しに自分の方へ視線を向け、そのクリーム色の肉肌をさっと見定め、うっとりとした目つき、火照った頬、そして、マリイの愛撫により湿ったままになってる勃起した乳首に気づいたのを感じ、息を飲んだ。何を考えているか読めない視線に晒され、イサベラは全身に緊張を走らせた。
レオンはイサベラから視線を戻し、抱いているブロンドの女に視線を落とした。そして、彼女の両手首をゆっくりと、しかし、しっかりと握り、首の周りから外させた。
ヒールに片足を入れ、ベルトを締めて、足に馴染ませた。それから脚を組んで、もう一方の足先にも履き、ベルトを締めた。両足を床に着け、立ち上がる。身長が急に180センチ以上になった気がした。足裏が急勾配で下がっていて、前のめりになりそうな感じにも。
試しに2、3歩歩いてみた。転ばなかったのに気をよくして、自分のオフィスの中を歩き回ってみた。歩くたびに、コツ、コツと音がする。
どうも歩き方がぎこちない。その理由を思い出し、ジェニーが教えてくれたように、腰を大きく左右に振りながら歩いてみた。すぐさま、腰を揺らすリズムに乗り、部屋の中を快調に行ったり来たりし始める。小鳥のように、両手を開き、指先が外側にむくようにさせ、腰を振って、ちょこちょこと歩く。
服装は男の服装なのに、ヒールを履いて歩き回っている。突然、自分がそんな格好をしていることに気づき、僕は素早くデスクに戻り、腰掛けた。
椅子に座りながら、ヒールをぬ剛をすると、電話が鳴った。いまの気持ちからするとちゃんとした男性の声が出るように注意しなければ。そう思いながら受話器を取った。
掛けてきたのはドナだった。
「お願い、まだ、それは脱がないで」
「何を脱ぐって?」 困惑しながら訊いた。
「そのハイヒールよ。デスクの左袖の一番下の引き出しを開けて見て」
そこを見ると、黒毛のページボーイ・スタイル(
参考)のかつらと、口紅があった。
「お願いだから、ヒールを脱ぐ前に、そのかつらをつけて、口紅をして見せて」
「そんなこと、ここではできないよ。いつお客さんが入ってくるか、分からないんだから」
「お客さんなら、ゲイルが時間稼ぎしてくれるわ。お願い。私のために、してみせて」
僕がしていることを、どうしてドナに分かるのか、依然として不思議に思いつつも、僕はかつらを取り上げ、丁寧に頭につけ、形を整えた。それから、口紅を手に鏡の前に行き、明るい赤の口紅を唇に塗った。上唇と下唇に塗り、両唇を擦り合わせて伸ばし、軽く舐める。
これまではブロンドのかつらをかぶったことはあった。いま鏡に映る、美しい黒髪の自分にも、驚きの気持ちで見入ってしまった。鏡の中、黒髪の女性がセクシーに美しい唇を舐めていた。ハイヒールのために、セクシーに胸を突き出し、お尻をつんと上げる格好になっている。
うっとりとした気持ちで、僕はゆっくりとシャツのボタンを外した。キャミソールに覆われたブラジャーが見えてくる。ゆっくりと鏡から離れ、肩越しに振り返って自分の姿を見た。男物のシャツとスラックスを着ているにもかかわらず、鏡の中には、黒髪の魅力的な美女が見えていた。アイシャドウと長い睫毛をつけたら目のところがどんな風に見えるか、想像できる気がした。
僕は電話に戻り、受話器を握った。
「オーケー、いま、かつらをかぶって口紅を塗ったよ」
「分かってるわ、ミス・ビッキー。その黒髪と明るい赤の口紅だと、あなた、完全と言っていいほど素敵に見えるわ」
僕はあたりを見回した。ドナは、この部屋のどこかにいるのは確かなはずだ。だが、どこにも彼女はいない。
ちょうどその時、いつもならパソコンのところにつけられているウェブ・カムが場所を変えていて、僕のデスク回りばかりでなく、部屋全体を捉えられるところにあるのに気づいた。
そのウェブ・カムと電話の両方に視線を走らせた。電話の向こう、ドナが笑っているのが聞こえた。それに、ゲイルの笑い声も。僕はオフィスのドアへ行き、注意深く、外を覗いた。そこにはゲイル以外誰もいなかった。ゲイルは、受話器を持ちながら笑っていた。