「ポルノ・クイーンの誕生」 第7章 Making of a Porn Queen Ch. 07 by Scribler
この何ヶ月かの間に、私とヘレンとの間柄は、以前にも増して親密なものになっていた。毎週金曜日には一緒にデートに出て、楽しむ。夜には、ヘレンはマークたちの家に来て、私と一緒に夜を過ごす。そしての週末も泊まり続け、トレーシーとマークとも一緒に過ごし、日曜日の夜遅くに帰っていくのが普通だった。
時々、私たち4人、時にはマリアも含めて5人で一緒に乱交することもあった。そういう時、カメラが1台かそれ以上用意されてて、撮影されるのも珍しくなかった。もちろん、そういう時に撮ったビデオは、ディスクにも焼きなおされる。
1月上旬になる頃には、私たちのホームメイド・ビデオのコレクションができていた。実際、12本以上。その編集は、マークが抱えている唯一の編集者であるビル・グラフトが、すべて行っていた。
ビリーは、たいてい、いつも仕事をする部屋にこもっているので、私はあまり彼に会うことはなかった。2回ほど、何か仕事のことでマークに連絡しに家に来たことはあったけれど、彼は長居することは決してなかった。スタジオでも私は2回くらいしかメインのオフィスに行ったことがない。だから、ビリーと顔を合わせたのは、それくらいしかなかった。
ビリーは、ルックスが悪い人ではない。プラスチックの縁の眼鏡をかけていて、ちょっとオタクっぽい感じ。体つきは痩せている方だと思うけれど、彼の服装だと、はっきりは分からなかった。たいてい、バギーのスウェット・シャツとジーンズの格好で、上もズボンも彼にはかなり大きすぎのサイズだった。顔はとてもキュートで、瞳は明るい青。ポルノ映画に出てくるような、筋肉隆々の逞しい男でないのは確かだけど、その代わり、とても知的で、私と会うと、目は合わせてくれないけれど、いつも、こんにちはと声をかけてくれる。
2月上旬、ちょうどバレンタイン・デイの前の頃、ヘレンとクラブに行こうとしていたときだった。家から出ようとしたとき、マークから、メイン・オフィスに行って、ビリーが用意しているディスクを何枚かもらって来てくれと頼まれた。私は、マークの車を使わせてもらっていたので、断ることはできなかった。もっとも、断ることなど考えすらしないことだったけれど。
ヘレンの家はオフィスへの途中にあるので、まずはヘレンを拾いに彼女の家に行った。車にヘレンを乗せた後、オフィスに寄らなければいけないと伝えた。ヘレンは驚いたようだった。
「ええ、どうして? ビリーはまだオフィスにいるの? 金曜日の夜の8時なのよ。もっと良い場所に行っててもいいはずなのに?」
「オフィスに着いたら、そのことを訊いてみるべきかもね」 そう言いながら私は車を走らせた。
オフィスに着いたけれど、誰もいないような感じだった。2、3箇所、電気がついていたけれど、そこの電気は、誰もいないときでも常時灯っている明かりなのは知っている。
私のキーを使ってヘレンと一緒にオフィスに入り、奥へと進んだ。ビリーのオフィスは一番奥にある。そこはオフィスというよりも、作業場と言った方がふさわしいところで、ビリーは編集に使うコンピュータを何台かそこに置いていた。
オフィスのドアは開けっ放しで、ビリーはデスクに覆いかぶさるようにして、コンピュータのディスプレーで何かを没頭して見ていた。最初は、別のTガールのビデオを編集しているのだろうと思ったのだけれど、すぐに、そのビデオは、マークが家で撮影したものだと分かった。私が映っている。
明け方、寒々とした灰色の光の中、スティーブには、夜に妻と愛しあったことが、夜に思ったほどは、良いことだったように思われなくなっていた。確かに素晴らしいセックスだったし、前のように夜の間ずっとバーバラを抱き続けるのも良かったけれど、依然として、バーバラの不倫については、まだ彼が理解していない問題や、解決しているとは思えない問題がたくさんあった。
例えば、いまだ彼はバーバラのことを信頼していないし、今後も再び信頼できるようになるのか分からなかった。夫婦関係を裏切ったことをバーバラが悔やんでいることは受け入れたものの、それで何が変わるかというのもはっきりしていない。最も大切なこととして、スティーブは、そもそも何故バーバラが不倫をしたのか、その理由が理解できていなかった。
だが、スティーブは、そのような問題は残っているし、二人が合意した時に限りセックスをするという約束をバーバラが破ったことに、表面的には腹を立てている振りを見せはするものの、以前のように彼女の間に境界を設けたり、一緒に暮らす際の条件を立てたりすることを重要視しなくなってきていた。もっとも、依然として、家庭内別居の状態は続いているとは考えていた。
バーバラとの境界とか条件とかを考えると、いつの間にか、そのようなことは、彼にとって影が薄いことになっているように思えた。再び一緒に暮らし始めて、いつの間にか、知らず知らずの内に、和解を求めなかったり、和解が可能であるのを信じないという状態から、和解が可能かもしれないと期待する状態へと、踏切を超えてしまったようだった。スティーブは、そのことに気づき、気落ちした。再び、以前のように、自分の将来を自分でコンロトールできない感覚をもたらされた感じがしたからだ。
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「では、今夜も、『許し』について話し合うことにしましょう・・・お二人が昨夜、愛しあったということを踏まえて・・・」 ヴェルン・ヒューストン氏が話題を提案した。
スティーブは、カウンセリングが、何か別の方向へ向かってくれれば良いと期待していた。彼は、この日一日中、自分とバーバラが行ったことの影響について考えていた。そして、あのセックスと、その出来事を取り巻くあらゆることを考えれば考えるほど、自分は、バーバラの不倫とそれに対する自分の反応について理解しているという自信が薄れていくのを感じていた。
「いかがですか、奥さん?」 ヒューストン氏は促した。
バーバラは、意思を決めかねているように長い間、ヒューストン氏を見つめた。
「そうですね。それについて前に話したように・・・」バーバラはゆっくりと語り始めた。「許しとは、善良な人も何か悪いことをしてしまうことがあるということを認めることだと・・・心から悔やんでいるならとか・・・そういうことではないかと・・・」
「ええ、そうですね。その定義についてはずいぶん話し合って了解しあいました・・・そうですよね? ご主人?」
スティーブは頷いた。「ただ、僕は、誰かを許すことに関係するいくつかについて、まだ疑問を持っていることは言いましたよ」
「分かっています」ヒューストン氏は素早く答えた。「それについては、追って考えることにします。ですが、今は、一つの問題に限定して、お二人の話し合いを聞きたいと思っているのです」
スティーブは、ちょっと躊躇いを見せた後、頷いた。