そして、マーサは、またも僕を驚かせるようなことをしたのである。僕にセックス雑誌を買って欲しいと言ったのだ。
どうしてと訊くと、大学時代にちょっと読んだことがあって、それ以来、ずっともっと読んでみたいと思っていたと言った。話しを聞くと、どうやらマーサは、体験記とか投稿告白のような雑誌を意味しているのが分かった。そういう雑誌は、大半が男性向けに売られているのだから、基本的に、どんなことが男性を興奮させるかを表わしているはずで、それが知りたいのだと言う。僕は、どんな男でも、どんな雑誌でも、何の刺激にもならないような記事や、逆に、興ざめさせてしまうような記事があるものだよと言ったが、彼女は頑固で、結局、僕はマーサに2冊ほど買ってあげたのだった。
次に彼女に会った時、訊いてみた。「で、どう思った?」
「何のこと?」
「あの雑誌さ」
「男の人って、本当にああいうのが好きなの? 投書とかにあるああいうのが?」
「全部が好きってわけじゃないよ。それは保証できる」
「まあ、でも、あなたが好きなのを、少なくとも一つ当ててみせることができるわ」
「何だい?」
「3P」
僕はマーサの顔をじっと見つめた。なるほど、確かに彼女はあの手の雑誌から男性についての何かを学び取ったらしい。
「・・・しかも、別の女の人を交えての」
そうマーサは話しを続けたが、僕は返事をしなかった。
「どう?」 黙っている僕に痺れを切らしてマーサが問いかけた。
「確かに、そのアイデアにはアピールがあるよ」
マーサはケラケラと笑い。その後、黙った。僕の返事を待っているようだった。僕は黙ったままでいた。
「どう? してみたいんでしょう?」 ようやくマーサが言葉を発した。
「3Pを持ちかけているということ?」
「やってみたくないの?」 マーサは、どうしても僕に自分で言わせようとしている。「さあ、イエスかノーかはっきりしなさいよ」
「まあ、訊かれたから言うけど、イエスだ」
「オーケー! 私にできることを考えてみるわね」
マーサは、自分から3Pの設定をすると言っているのか?
「誰と?」
マーサはフェイスのことを考えていたのだろうか?
「さっきも言ったでしょ? 私にできることを考えてみるって」
そそられる話しではあったが、僕は、あまり安心できる気分にはなれなかった。マーサは、他の女たちに、僕がそれを望んでいると話すつもりなのだろうか?
ふと、別の考えが浮かんだ。「マーサこそ、3Pを望んでいるんじゃないのか?」
「ええ、楽しいかもと思っているわ」
「女性にも惹かれるのかい?」
「いや、特にそういうわけではないわ」
「じゃ、ちょっとは、ということ?」
「多分ね。私は、あなたが興奮しているところを見るのが好きなの」
だが、それなら、こんなことをするのは、明らかに職務範囲を超えている。
「そんなことをする必要はないじゃないか」
「いいえ、するわ」 マーサは意思を固めているような口調だった。こうなると、彼女の意思を変えようとしても無駄なのは分かっていた。
「誰か、意中の人はいるのか?」
「はっきりとではないけど。ジョイスに聞いてみようと思ってるわ。誰か興味がありそうな人がいないかって」
ジョイスは、マーサの友人で、僕も2回ほど会ったことがある。マーサは、ジョイスはレスビアンだと言っていた。
「ジョイスは、男に興味がある人を知ってるのか?」
「私のことを知ってるわ」
「僕が言ってる意味を知ってるくせに」
「他にもっと良いアイデアがあるの?」
いや、僕にはなかった。
口であそこを愛し続けながら、指を1本挿入し、抜き差しの動きを始めた。ディアドラは、僕の顔に向かって腰を突き上げ始めた。喘ぎ声も連続して出し続け、またも、新しく理性が麻痺するようなオーガズムに向かってロケットのように高く舞い上がり始めているのだろう。
でも、僕は別のことを考えていた。分かってくれているとは思うが、僕は別に残酷な性格の人間ではない。だが、僕には、どうしても知りたいことがあった。ディアドラが僕について、どう感じているのか、それがどうしても知りたい。彼女は、僕にたいする感情をなかなか話そうとしてくれない。だから、ちょっとだけ、誘引となる刺激を与えたら、彼女から返事を引き出せるかも知れないと思ったのだ。
ディアドラがオーガズムに近づいているのを見極め、僕はちょっとだけ攻撃の手を緩めた。オーガズムのふちには保ちつつも、そこを超えることはできない程度に、彼女の興奮を静める。それを何度か繰り返した。毎回、ディアドラをクライマックスのギリギリまで追い詰めつつも、毎回、最後まで達することは許さなかった。彼女は次第に狂乱状態になっていった。
あそこに情熱的にキスをし、クリトリスを舌でねぶった後、頭を上げた。指は相変わらず出し入れを続けていた。
「ディ・ディ? ディ・ディ? どうしても、訊きたいことがあるんだ」
ディアドラはかっと目を見開いた。困惑してるようだった。「何? 何? 何を知りたいの?」
「ディ・ディ? 君が僕をどう思っているか、どうしても知りたい。僕は、何だか、いつも一人っきりでいるような感じがしているんだ。どうして、僕についてどう感じているか教えてくれないの?」
ディアドラは頭を振った。「ダメ。それは訊かないで、お願い。ごめんなさい。でも、訊いて欲しくないの」
もう2、3回、クリトリスを舐めて、彼女の興奮を高めた。それから2本目の指も中に滑り込ませた。もう一方の手をお尻の方に回し、1本の指で、彼女の別の穴を優しく撫でた。
「いいだろう? ディ・ディ。僕に話してくれるだけで良いんだよ。そうしたら、いかせてあげるから」
「ああ、アンドリュー、どうして、そんなひどいことができるの? ああ、ひどい。ああ、お願い。本当に! アンドリュー、お願い!」
僕は、少し後ろめたい気持ちになっていた。しかし、僕にとって、こんなことができる女性は初めてでもあったのだ。つまり、オーガズムを求めておねだりさせること。そんなことができた相手はディアドラが初めてだ。女性にいかせて下さいとねだられること。これは、嬉しいことだと知った。
「ディ・ディ。ディ・ディ。僕のことをどう感じているの?」
もう一度、舌を使い、クリトリスをこねるようにして舐めた。気が狂いそうな状態にまでは舞い上がらせるが、決して、絶頂にまでは行かないような程度の刺激。
ディアドラは、もう耐え切れなくなったらしい。
「いいわ、分かったわ、ひどい人! 認めるわ。あなたのこと愛してるの。私自身を愛するより、あなたのことを愛してる。今も、これからも愛してる。愛してるのよ!」
口を使っていかせる気には、どうしてもなれなかった。代わりに、彼女の体を両腕で抱きしめ、彼女の中に入った。どうしても入らなければいられない気持ちだった。僕たちは互いに愛し合っているのだ。どうしてもセックスをしなければいられない。
ペニスを挿入すると、ディアドラはオーガズムに達したことを告げる叫び声を上げた。僕は激しく抜き差しの動きを続けた。僕自身のクライマックスも驚くほど急速に近づいているのを感じた。そして、再び、僕は彼女の中に溢れんばかりに精を放ち、再び、彼女は僕のものだと明確に主張を伝えた。誰のものでもない、僕のものなのだ。それまでの僕の人生で最も幸せな瞬間だった。
レオンの両肩に、どこかしら険悪な力がこもっているのを見て、イサベラは、何か悪い予感がし、背筋にぞくぞくと冷たいものが走るのを感じた。横たわった姿勢から、ゆっくりと体を起こし、両足をそろえてベッドの横へ降ろし、ベッドに座る姿勢に変わった。
イサベラは改めてレオンの姿を見た。マリイを見下ろす彼は、堂々とそびえ立ち、どこか人を寄せ付けないところがあった。輝く金色の髪は黒皮のコートの襟に掛かり、その姿は金色の神のよう。雪白のチュニック(
参考)を着た姿のため、金色の肌や引き締まった逞しい太腿が見え、その両足は膝までの高さの黒皮のブーツに覆われている。彼女は、彼の姿を見るだけで体が勝手に震えだすのを感じた。身体が心を裏切って、レオンが近くに存在するだけで反応を始めてしまう。身体が反応することなしにレオンを見ることができないのではないかと思ってしまうイサベラだった。
「この塔は境界外であると命令を出したはずだが?」 レオンはマリイに静かに語った。恐ろしいほど静かな声で。
「でも、あなた、私のことは別でしょう? それに、あなたが美味しそうな娘をここに連れてきたと聞いたた、私、どうしても自分で確かめなくてはいられない気持ちになったのよ。それにしても、この娘、驚きだわね。こんなに可愛くて、しかも、初々しい」
レオンは、片眉を上げた。「わしの命令ははっきりしているはずだ」
「でも、この修道院に隠れていた淫乱娘がここに来てから、私、あなたに何日も会っていなかったのよ。寂しくなっていたの」
「この娘が淫乱かどうかは、まだ分かっていないが・・・」 レオンは、ちらりとイサベラに目をやりながら、冷たく答えた。 「それに、寂しさを紛らわしたいと思ったら、お前に喜んで手を貸そうとする男女がいくらでもいるだろう。・・・さあ、ここから出て行くのだ」
「でも、レオン・・・あの娘を私にも使わせて・・・そうして欲しいの」
あれほど傲慢だったマリイが、今は、卑屈に懇願しているようにイサベラには見えた。イサベラは、固唾を呑んで、レオンは何と答えるか待っていた。まさか、レオンは・・・
「マリイ。お前はわしを操ったり、わしに指図をしたりできる立場ではない。今すぐ、ここから出て行くのだ。お前のことは、後で、扱うことにする」
冷たく言い放たれた言葉は、まるで、鞭のようにマリイを叩いた。イサベラは、マリイが怯えた目つきで彼女を振り返った後、慌てて小部屋から出て行くのを、目を大きくして見ていた。そのイサベラの目が、用心深くレオンの目へと向けられる。ゆっくりとではあったが、イサベラは、あのような親密な形でマリイに体に触れるのを許したことは、レオンの望みではなかったことを悟ったのだった。それを悟り、イサベラは恥辱に顔を赤らめた。