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身内びいき (1) 

身内びいき Nepotism  by Nikki J http://omarbelluniverse.blogspot.jp/2011/03/nepotism.html

マイクは怒っていた。会社が最大級の損失を出してしまったのは、自分の責任ではない。自分は自分の仕事をしただけだ。ミスをして、会社に何百万ドルもの損失を与えたのは、あのトニーの傲慢バカ野郎のせいなのだ。だが、そんなことは問題にされなかった。トニーはすべてマイクのせいだと主張した。そしてトニーは、CEOの従弟であるおかげか、むしろ、あらぬ嫌疑をかけられた人物として、会社から好意的に受け取られた。

結果として、マイクはオフィスでの自分の持ち物を段ボール箱に詰めることになった。その作業をするところを守衛が見守っている。会社のビルから出るまでマイクを監視する職務なのだろう。

マイクは25年近く会社のために働いてきたし、何百万ドルも会社に利益をもたらしてきた。だが、身を粉にして働いてきたことも、会社のトップの親族である傲慢野郎の身代わりに会社から放り出されるためだけだったような気がしてくる。マイクはマグカップを段ボール箱に放り込んだ。だが、怒りのせいか、ちょっと強く投げすぎたようだ。マグカップが粉々に割れ散った。

「大丈夫?」 と守衛が訊いた。マイクはこの10年ほど毎日、この守衛を見かけてきたが、名前は知らなかった。

「ああ。ただ、憤懣やるかたなくてね」 とマイクは答え、ツルツルに剃ったチョコレート色の頭を手で撫でた。

お金が問題ではなかった。彼は充分な財産を蓄えていた。問題は今回の件の背後にある原則なのである。会社に貢献してきた長い歴史が何の意味もなかったということが問題だった。会社への忠誠心が、廃棄物のように投げ捨てられたように思えた。わずかな所持品を段ボール箱に詰め終わると、守衛に導かれてビルの外へ出た。何かの犯罪者のように扱われ、マイクは屈辱感を感じた。

ビルの外に出たマイクは、しばし呆然と突っ立っていた。彼の脇を通行人たちが歩いていく。これから何をしようか?

ほぼ10年前に離婚したので、彼には家族と呼べる人はいなかったし、子供もいなかった。マイクはそれだけ会社に人生を捧げてきたのである。そして、その会社はというと、彼の顔面に唾を吐きかけた。

何分か後、マイクは家路についた。それしか思い浮かばなかったからである。

*

2日ほど過ぎた。マイクは重度のうつ状態に陥っていた。何もしたくない。ただリクライニングに座って、一日中、テレビを見ていた。別の仕事を探すこともできるだろうとは思ったが、新しい仕事についたからと言って、この欝状態を和らげることにはならないのは自明だった。加えて、新しい職場に行っても、たぶん、その会社もスケープゴートが必要になったら、自分を真っ先に解雇するだろうと思った。

日は、週へと延び、週は月へと変わった。そして知らぬ間に半年近くが過ぎていた。マイクはめったに家を出ず、ただ無為に時間を浪費することを選んだ。ひとつ明るいことがあって、それは、彼の取引業者が巧妙に株の投資をしたおかげで、このひと月の間に、貯蓄がほぼ3倍になっていたことだった。こんな短期間に資産が数百万ドルに膨れ上がったら、たいていの人なら、狂喜するだろうが、マイクは違った。生きる目的がない時、カネがあったって何に使うというのだ。

彼の興味を惹くものはほとんどなかった。食もギリギリ必要なものしか食べず、ほとんど睡眠もとらず、外の世界との接触も皆無だった。マイクは実に、実に暗い場所に落ち込んでいたのである。だが彼は自分が求めていることが何かを知っていた。少なくとも、無意識的には知っていた。マイクはあの連中に代償を求めていたのでる。トニーに負け犬になった気持ちを味わわせたかった。彼は復讐を求めていたのである。

その思いが幾層にも重なった欝状態を潜り抜けるのには、しばし時間がかかった。だが、ようやくその状態から復讐の思いが抜け出た後は、彼は計画を練り始めた。再び、自分自身のことを期にかけるようになったし、それから間もなく、彼は元の自分自身に戻った。今や、マイクには目的ができたのである。トニーを殺すのだ。

*

そういうわけで、マイクは身体を鍛え始めた。捕まらずに目的を達成するために、どの程度の体力が必要かを考え、設計したトレーニング計画だ。もちろん、彼は刑務所の塀の中にはいりたいとは思っていない。だから、彼はありったけのエネルギーをトレーニングに注ぎ込んだ。彼は、ミッションに取り憑かれた男になっていた。

ある朝、射撃練習場から帰って来たマイクは、留守電にメッセージが入っているのに気づき、ボタンを押した。

「マイク? オマールだ。この二日ほど、ここに来ていて、私の大学時代のルームメイトに電話をしようと思ったんだ。どこかで会わないか? 私の電話番号は421-555-2351。返事の電話をくれ」

マイクはニヤリとした。彼はオマールとはいつも気が合った。オマールは人種的なことに関しては、いささか過激な点があったが、全体的にみれば、オマールはいい奴だった。それに、オマールは常に興味をそそる存在でもあった。マイクは電話をすることにした。

番号を押すと、呼び出し音2回でオマールが出た。

「はい。オマール博士です」

「ただのオマールじゃないのか? お前、今はベル博士?」 とマイクは冗談まじりに言った。

「マイク! 調子はどうだい?」

「あんまり良くない。というか、実際は、かなりひどい目にあわされてきた」

「昼飯はどうだ? 何だかわからんが、俺に話してみないか?」

「ああ、良さそうだな」 とマイクは答えた、食事をする場所を決めた後、マイクは電話を切った。

*

その2時間後、マイクは指定したスポーツ・バーに来た。そして、オマールがバーカウンターのそばに座り、大学野球の試合を見ているのを見つけた。オマールは大きな男ではない。たった160センチだ。体重も多くはない。だが、彼にはどこか周囲を仕切る存在感が合った。

握手をし、挨拶を交わした後、オマールが尋ねた。「それで、悩みというのは?」

そしてマイクは解雇になったいきさつを説明した。オマールはそれは人種差別的なことによるとしたがっていたが、マイクは、自分が黒人であることはこの件と関係がないという点は頑として譲らなかった。これは、身内びいきのおかげで職につけた無能な男の代わりに、便利なスケープゴートがいたという、そういう単純なことなのだと。オマールは納得してないようだった。やはり、彼にとっては何もかもが人種差別に関係するのだ。

「それで、お前、これからどうするつもりだ? 新しい仕事に着くのか?」

マイクは頭を左右に振った。「いや、職を変えても俺が変わることはできないと思う。それに、俺は今はかなり金銭的には余裕があるんだ。株で幸運に恵まれてね」

「じゃあどうする? 旅行か? 世界を見て回る? お前なら、いつでも俺の会社に歓迎だ。俺は善良な人間を求めている」

「いや。俺には計画があるんだ…」 と言いかけ、マイクは思い直した。

マイクはオマールを完全に信頼している。ふたりはほとんど兄弟のようなものだ。だが、だからこそ、マイクは殺人の意思を持ってると言って親友を困らせたくなかった。

「…いや、お前は知らない方がいいな」

「何だよ? じゃあ、復讐か?」 とオマールは訊いた。オマールはマイクのことを良く知っている。

「会社内の不正か何かについて、社会に警鐘を鳴らすつもりなのか?」

ここまでのところ、的外れだ。

マイクは笑った。「あの会社に? いや、会社自体はクリーンだよ」

「何かせっかちに荒っぽいことをするつもりじゃないよな?」 とオマールは心から心配して言った。

マイクは返事をしなかった。その代わりに、顔を上げ、モニターに映ってる野球の試合を見た。地元の大学が、どこか他の州の大学と戦っている。そして、ふとマイクはあることに気づいた。

「ああ、もううんざりだ」

オマールはいぶかしげにマイクを見た。

「あのガキだよ。打席に立ってる…」 とマイクは画面を指差した。「あいつは、俺を首にした野郎の息子だ。フィリップと言う名前だ。俺と一緒に仕事をしていた野郎がトニーだが、あいつは、いつも野球をやってる自分の息子を自慢していた。いつかはプロの世界に入るだろうとか。あの息子こそ、あの野郎の自慢の種だし喜びなんだろう。トニーは、あのガキがたらしこんだ女の数までも自慢してたっけ」

マイクはうんざりした様子で頭を振った。そして顔を上げオマールを見た。オマールは妙な顔をしていた。

「お前は、そのトニーって男に復讐したいんだな?」 とオマールは訊いた。

「他の何よりも一番に」

「そしてお前は多額のお金が使えるんだな?」

マイクは興味をそそられた。「ああ、必要なら、数百万の単位で」

「じゃあ俺には考えがある」 とオマールは言った。「お前からはかなりの投資をしてもらうことになるが、お前が求めている復讐は確実に叶えてあげられる」

「あいつを殺すのか?」 とマイクは訊いた。

オマールは笑った。「アハハ、俺は殺し屋じゃないよ。俺がするのは、そのトニーが可愛いがってるモノを奪うだけだ」

オマールは説明し始めた。生化学者、および遺伝工学者としての研究を通して、彼の問題を非常にユニークな方法で解決する薬物を開発したと。マイクは説明を受ければ受けるほど、興奮してくるのであった。

そしてとうとうマイクは言った。「それをやろう。そうするには何が必要なんだ?」

「まずはカネだ。いくらかかるかは分からんが、俺はお前にその投資に見合ったことはして返せる。それに施設も必要だ…。それ以外では、フィリップスを俺たちが望む場所に連れてくる方法を考えてくれさえすればいい」

マイクはニヤリと笑った。まさにそういう仕事のために、この何ヶ月かトレーニングを続けてきたのだから。

「それなら任せてくれ」

*

そういうわけで、今、マイクは、2週間ほど前に買った古いピックアップトラックの中にいた。この数日、彼はフィリップを見張り続けていた。彼を拉致する適切な時期を探っているのである。だが、適切な瞬間はまだ訪れてはいなかった。この若者の女性を引っかける能力に関しては、トニーは確かに誇張していなかったようだ。大学のスター選手であると、有利なことがあるのだろうとマイクは思った。

このフィリップという若者は確かにマイクよりも大きな身体をしていた。身長190センチほど、体重は100キロ近いか? だがマイクはこの男を倒せる自信があった。何と言っても、マイクはかつてボクシングでゴールドグラブ賞を取ったことがある。それに彼は、まさにこういう時のために何ヶ月もトレーニングを続けてきたのである。

マイクはフィリップが建物から出てくるのを見た。この建物には野球部のための屋内バッティング場がある。フィリップは振り返り、友人が言ったジョークに笑い、手を振って、仲間たちと別れた。そして自分の赤いスポーツカーへと歩き出し、キーのボタンを押しした。車のランプが点滅し、ロックが解除されたことを知らせた。

彼の車は駐車場の非常に暗いスペースに止まっていた。それにフィリップは今はひとりだ。マイクにとって、これほど良いチャンスはないだろう。マイクは車のドアを開け、外に出た。足音を立てずに、より体の大きなフィリップへと忍び寄る。マイクは手袋をしていたが、その片手に注射器を握っていた。フィリップはマイクが近づくのに気づいていない。

マイクはフィリップの背後から襲いかかり、片手でフィリップの口を塞ぎ、叫び声を押し殺した。それと同時に、フィリップの首に注射針を押し込み、麻酔薬を注入した。フィリップは数秒も経たぬうちに意識を失った。

マイクは彼の身体を自分の車へと引きずり、非常に苦労したものの、彼を車の後部へと載せ、ドアを締めた。マイクはひと仕事を終え、車に背を預けながら荒い呼吸を続けた。

*

警官たちはコーヒーを飲みながら、あれやこれや話しあっている間、トニーはイライラしながら携帯電話をいじっていた。

「あの、私の言うことを聞いておられますか?」 と捜査官が訊いた。

「え? あ、ああ…」 とトニーは答えた。

「この1日か2日の間に取引の電話か手紙が来るはずです」

トニーはちょっと黙った後、口を開いた。「どうしてフィリップなんだ? 息子は誰にも迷惑をかけていない」

「可能性としては、あなたの家族のお仕事と関係があるかもしれません。ご子息を誘拐した人が誰であれ、犯人はあなたが身代金を払えると知ってる人でしょう」

その日の前夜、メッセージが現れた。トニーの息子のフィリップが誘拐されたこと、および、誘拐者は近々、接触を持つつもりであることを告げたメッセージだった。トニーは息子とは二日ほど会っていなかったが、それはそんなに不自然なことではなかった。フィリップはしょっちゅう監視する必要はなかったから。彼はもう大人だったから。

ちょうどその時、トニーの携帯電話が鳴った。皆が会話を辞めた。捜査官は、「電話に出てください。私たちが携帯電話の追跡をします」

トニーはボタンを押し、耳に電話をあてた。「もしもし…」

「我々はカネは求めていない」 と電話の向こうの声が言った。ロボットのような声で、明らかに何らかの装置を通して発せられている声である。「我々は単にお前を辛い目にあわせることを目的にしている。お前の息子が誘拐されたのは、お前のせいであるということを知らせたいだけだ」

「息子を傷つけるのはやめてくれ!」

「誰だ…」とトニーは耳から電話を離した。「すでに切れていた」

捜査官はノートパソコンの前に座っている技術者に目を向けた。技術者は頭を左右に振った。「何だ、これは…。こんなに複雑なのを追跡するのは初めてだ」

「明らかに、私たちはプロを相手にしてるようです」

*

フィリップは頭が割れそうな頭痛と激しい吐き気を感じながら目を覚ました。ぐったりしたようすであたりを見回した。彼はコンクリートの小部屋の隅にいた。鉄格子がないことだけが異なる、まるで牢屋のような部屋だった。コンクリートの壁と小さなドア、それだけだった。彼は全裸にされていた。

フィリップは立ち上がり、数歩進み、ドアを確かめた。ロックされていた。

「誰かー?」 

叫んでみた。声がコンクリートの壁に反響した。彼はドアをがんがん叩き、叫んだ。「僕をここから出してくれ!」

何度か叫んでみたが、無駄だと悟り、彼は床に座った。壁にもたれかかり、考えた。

僕を誘拐するなんて。そんな理由を持ってるのは誰なんだろう? 自分には知る限りでは、敵対する人などいない。だとしたら、犯人が求めているのはお金なのだろう。そうに違いない。フィリップは、お父さんなら僕を取り返すためにお金を出してくれるだろうと思い、少し安心した。

だが、そうだからと言って、ここから脱出しようとするのを止めたわけではない。メディアの見出しを想像してみよう。「野球のスター選手が変態誘拐犯の元から見事、脱出!」 なかなかいいじゃないかとフィリップは思った。そこで彼は落ち着いて腰を降ろし、脱出のチャンスを待った。

そのチャンスは1時間後に訪れた。フィリップは準備万端だった。ドアのノブが回り、ゆっくりとドアが開いた。フィリップは即座に行動に移った。ドアの向こうにいたのは巨漢の黒人だったが、フィリップの方は不意打ちをしかけてる点で有利だった。フィリップはドアに突進し、見張りと思われる男を床に倒した。男はコンクリートの床に頭を打ち、動かなくなった。

フィリップは巨大な石の迷路のような廊下を圧倒的なスピードで疾走した。壁は、彼が閉じ込められていた部屋と同じコンクリート製で、天井は比較的低かった。出口を見つけ出そうと、彼はでたらめに何度も角を曲がり、走った。そしてついに、廊下の突き当たり、重厚なドアを見つけた。おそらくそこが出口だ。

そのドアを体当たりして外に出た。強烈な陽の光に照らされ、慣れない眼のため一瞬、真っ暗になる。ようやく眼が慣れ、あたりを見回し、フィリップはがっくりうなだれた。そこは砂漠の真ん中だったのである。見渡す限り砂丘が続いている。振り返って建物を見た。それは巨大なコンクリートのブロックのような建物だった。ほぼ正方形の形をしている。

フィリップはチャンスに賭けることにし、建物に背を向け走り出そうとした。そして、3歩ほど進んだ時、強烈な痛みが脇腹を襲った。フィリップは熱い砂に崩れ落ち、痛みにもがいた。ヒクヒクと身体が痙攣し、口からは涎れが垂れ流れた。

数秒後には痛みが引いたが、身体の力はかなり奪われていた。フィリップは首を曲げて、相手を見た。そこには背が低く、ヤギ髭を生やした禿げた黒人男が立っていた。手にはスタンガンを握っていた。

「フィリップ、そう簡単には逃げられないよ」 と男が言うのが聞こえ、その後フィリップは意識を失った。

*

目が覚めた時、彼は再びコンクリートの部屋に閉じ込められていた。今度は、前より頭がぼんやりしていた。そして、今度は部屋には彼ひとりではなかった。ヤギ髭の男が彼の前、スツールに座っていた。まだスタンガンを持っている。

「ああ、ようやく目が覚めたようだな」と男は言った。フィリップは男を睨みつけた。

「自己紹介が必要かもしれない。もちろん、私はお前のことを知っている。私はオマール・ベル博士だ。そして、私はお前のことを完全に、疑うべくもなく、憎んでいる。お前が誰であるからとか、お前が何かをしたからという理由で憎んでるのではない。お前が代表していることが理由で、お前を憎んでいる…」

「…こう言ったからと言って、別にお前を怖がらせようとしているわけではない。むしろ、警告するのを意図して言っているのだ。私から譲歩を得ようとしても無駄だ。私は私の計画を完遂するつもりだ。そして、お前の感情も、生活も、未来も呪われたものになるだろう」

「どうして…」 

フィリップはそう言いかけたが、ベル博士がスタンガンを掲げたのを見て、すぐに口を閉じた。

「話せと指示された場合を除いて、お前はしゃべってはならない。これからお前の身に何が待ち構えているかに関しては、いささか複雑な話しになる。ただ、私は世界を変革する薬物をお前に実験するとだけ言っておこう」

フィリップは恐怖に顔をひきつらせた。

「心配するな。その薬物はお前に危害を加えるものではない。充分、健康のままでいられる。こう言って安心するなら言っておくが、もし私がお前を殺すつもりなら、もうとっくにお前は死んでるはずだ。それを知っておくがいいだろう…」

「…その薬は単に、お前の人生に対する見方を変えるだけだ」 とベル博士は安心させるような口調で言った。「実験が終われば、お前は解放される。ちなみに、悪い行動をしたなら、確実に罰を与える。良い行動なら、褒美を与えるだろう」

ベル博士は立ちあがり、ドアに向かった。ドアを開け、彼は振り返った。

「あ、それから、二度と逃げようとしないことだな。いつでも我々は、お前のここでの生活を非常に不快なものに変えることができる。それに、ここはサハラ砂漠のど真ん中なのだよ。逃げたとして、どこに行くつもりなのかね?」

そう言って、ベル博士はドアの向こうに消えた。重々しい鉄の扉ががちゃりと音を立てて、締まった。

*

マイクはふたりの様子をコンピュータのモニタで見ていた。あの部屋に設置されている小さなカメラから画像が転送されているのである。

オマールが入ってきた。

「俺の声、どう聞こえた?」 とオマールはニヤニヤしながら訊いた。

「悪魔の天才のようだったな」 とマイクもニヤニヤしながら答えた。

「で、もう一回、教えてほしいんだが、これからどうなるんだ?」

「前に話した通り、2年ほど前、俺は前の同僚から製法を買い取った。彼は何年も前から彼にイジメを繰り返していたヤツに復讐するため、それを使ったらしい」 とそこでオマールはちょっと間を置いた。「……その男の名は忘れてしまった。とにかく彼は今はどこかに行ってしまった。それで、この薬だが、実にユニークな薬だ。だが、俺の求めるものを考えると、まだ完璧とは言えない。と言うわけで俺はその製法を改良する研究を始めた。まさに俺が望むものになるよう、改良しはじめた」

「それは?」

「俺は、この世界の白人どもに復讐したいのだよ。この問題について俺がどう思っているか、お前もよく知ってるだろう。雇用機会均等法などでちょっと仕事を与えられたからといって、俺たちが被った不平等を補われることなどあり得ない。過去に我々黒人が受けた抑圧を補うには、単に平等になっただけでは済まないのだ。平等以上の補償が必要なのだよ。白人男は罰を受けなければならない」

オマールは一言ひとこと言うごとに、だんだん声の調子が上ずっていった。一度、気持ちを落ち着かせ、彼は続きを言った。

「知っての通り、俺たちは白人より優れているんだ。プロスポーツを見ろ。俺たちの方が強く、速い。そして、あの不公平なシステムで押さえつけられていなかったら、俺たちの方がずっと賢かったはずなんだ」

「オマール? 話しを省いて要点を言ってくれないか? その話しは前から聞いていたし、俺がどう思ってるかも知ってるはずだよ。…あそこの中でフィリップにはどんなことが起こるんだ?」

「基本的に、彼は女っぽくなっていく」

マイクはちょっと考えこみ、そして口を開いた。「それは前にも聞いたが、それはどういう意味なのかな?」

オマールはニヤリと笑い、そして興奮して言った。「まるでSFの話しのようなものだ。だから、実際に自分の目で確かめるまで、信じられないと思う」

「普通の言葉で説明してくれよ」 とマイクは苛立ちながら訊いた。

「まず第一に、彼は徐々に身体が小さくなる。基本的に、彼が女性として生れたとしたら、そうなるであろう体の大きさに変わっていく。あの薬が遺伝子に変化を与えるプロセスは実に複雑で…」

マイクが遮った。「ということは、彼は小さくなるんだな。その仕組みの話しはいらないよ」

オマールは少し不満そうだったが、話しを続けた。

「筋肉の総量の大半が失われるだろう。それに体つきも変化していく。ウェストが細くなり、腰回りが膨らむ。また臀部は丸みを帯びて大きくなる…」

ちょっと間を置き、オマールは続けた。「…この薬で俺が気に入ってる部分は、これだ。乳首と肛門が性感帯に変わるという点だ。それに応じてそれぞれの器官の働きも調整されていく。アヌスは伸縮性を獲得し、挿入に対して極めて感受性が高まるようになる。乳首も興奮すると自然に硬直するようになり、女性の乳首と同じようになる。ただし、もちろん、乳房自体はないのだが…」

「…彼は体毛の大半を失うだろう。これまでの被験者の中には、陰茎の上部に小さな筋状の陰毛を残した者もいたが、大半は、それも失った。…さらに声の質も変わり、甲高くなり、陰茎と睾丸は大幅に縮小する…」

「…そして最後に、彼は女性フェロモンを分泌し始め、男性フェロモンに反応するようになる…」

「…この効果の何とも美味しい点は、彼は非常に女性的な肉体を持つことになるということ、それに男性に心を惹かれるようになることだ。そして、いったん男性に挿入されると、あまりにも快感が強いので、その惹かれる気持ちが強化されていく。まあちょっと条件付けも必要であろうが、そのような効果と、自分の男性性が失われることによる心理的効果が相まって、彼は典型的なオンナ男になるのだ」 とベル博士は興奮して話しを終えた。

マイクは少し考え、口を開いた。

「…写真だ。彼の変化を撮った写真が必要だ。それほど変化するのなら、トニーに、それが本当に彼の息子であることを確実に認識させる必要がある」

*

「起きろ」

見張りの男がフィリップの部屋のドアを開け、言った。「今すぐだ」

フィリップは言われた通りにした。

「俺について来い」

フィリップは従順に見張りの男に従い、個室から出た。2分ほど廊下を歩き、あちこちの角を曲がり進んだ。そのうち、フィリップは来た道が分からなくなってしまった。そして、巨体の見張りの男が導いてくれて、ありがたいと思った。

ようやく、ふたりは別の部屋の前に来た。ここも同じく鉄の扉がある。見張りの男はフィリップに中に入らせた。そこは写真撮影のスタジオのような部屋だった。部屋の隅には黒い背景の幕がたらされていて、そこは様々な照明器具に囲まれていた。その反対側には様々なカメラが三脚に据えられていた。

そのカメラのひとつの脇に、ベル博士が立っていた。博士はフィリップと見張りが入ってくるのを見ると、見張りの男に言った。

「クラレンス、外で待っていなさい」

クラレンスが出ていきドアを閉めると、ベル博士が言った。

「私は大学では副専攻として写真を学んだのだよ。決して巧くはなかったが、実に楽しく学んだ。分かったことがあって、それは、カネと権力を別とすれば、女性を裸にするには、その女性にアーティストの被写体になるかもしれないと思わせるのが一番だということだな」

フィリップは垂れ幕の横、裸で立った。大事なところを両手で隠しながら。

「おっと、わざわざ隠そうとしなくてよい。お前はこれからかなりの時間、素っ裸で生活することになるのだから」 とベル博士は笑った。

「さあ、それじゃあ、撮影開始だ」 とベル博士はカメラの何かをカチャリと押した。

「さて、まずは垂れ幕の前のところに立ってくれるか。…ああ、それでよい。横向きに立つんだ。両手を両膝について。お尻をちょっと突き出して。背中を反らす。そうだ、いいぞ。…じゃあ、今度はカメラの方を振り向いて、カメラにキスするように振舞って」

オマールはシャッターを切った。

「今度は腰を降ろして。両脚を広げて、両手を足首に添える。それから、ちょっと膝を曲げて自分に近づけて…。そうだ、いいぞ」

カシャッ! さらにもう一枚撮った。

「上手だな。今度は立ってみようか? 垂れ幕の方を向いて。それから背中をぐーっと反らす。お尻を思い切り突き出して。両手はお尻の頬に当てがって。もっと突き出す……。よし、そこだ。それからこっちを振り向く。ちょっと口を尖らせて。いいよ、最高だ」

オマールは笑顔になっていた。

「フィリップ、君は実に素晴らしいよ。すごい才能だ。それでは、最後の一枚だ。いいね? 今度はうつ伏せになってほしい。床にうつ伏せに。そして両ひじをついて、背中を反らす。いいかね、いつも背中を反らすこと。そうして、両足を宙に上げる。…そう、その格好でカメラを見て。そしてニッコリ笑って」

彼は最後の写真を撮った。

「クラレンス!」

ベル博士が呼んだ。ドアが開いた。

「お客さんを部屋に連れ帰ってくれ」

部屋に戻るまでずっと、フィリップは恥ずかしくてたまらなかった。撮影を止めさせることなどできなかったのは知っている。だが、あんなふうに、誘拐者の言うことに全部したがったりせずに、少なくとも、抵抗はすべきだったと思った。それにしても、ベル博士はあの写真をどうするつもりなのだろう? それが気になって仕方がなかった。フィリップは、自分が女の子のようなポーズを取ったのは自覚していた。誰も、あんな格好になった写真を見ないように。彼はそう祈る他なかった。

*


[2014/03/13] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

強盗ボーイ (3:終) 


2日後、彼のダンスのインストラクター(セクシーな裸の方のインストラクター)が、再び彼の部屋を訪れ、モーリスは驚いた。だが今回は、彼女はストラップオンをつけていた。

「今日はあなたにプレゼントを持ってきたわ。四つん這いになりなさい」

モーリスは喜んで従い、四つん這いになった。ただの四つん這いではなく、ピンクのブランケットに顔を埋め、お尻を高々と掲げた姿勢になっていた。

女性は彼の後ろの位置につき、ディルドをアヌスに押し当てた。

「あなたのちっちゃなおちんちん、すごくキュートだわ。どのくらいの大きさ? 5センチくらい?」

モーリスは答えなかった。

「これじゃあ、たとえ勃起できたとしても、女のあそこにフィットさせるなんて無理だわね」

その通りだとモーリスは知っていた。

そして、次の瞬間、女はディルドを押し込んだ。

「あ、ああーん!」

モーリスは女のような悶え声を上げた。

「あら、こうされるの、好きなのね? そうでしょ、淫乱ちゃん?」

女が何度か出し入れを続けた後、モーリスは答えた。

「ああ、いい! そうなの。やって! 強くヤッテ!」

「私をパパとお呼び、淫乱!」

「あ、はい! パパ、私を犯して! もっと強く、パパ!」

モーリスは叫び声を上げ続けた。女も同じだった。女は何度も繰り返しディルドを突っ込んだ。ほぼ1時間、続けた。その間、モーリスは3回、絶頂に達した。

モーリスが疲れ果て、ぐったりとすると、女は彼をそのままに部屋を出ていった。

*

それ以来、その女は週に1回、彼の部屋に来るようになった。そして、毎回、彼女は自分のことを「パパ」と呼ばせた。だがそんなことはモーリスは気にしなかった。彼女が自分を犯してくれる限り、そんなことはどうでもよかった。

そしてある日、今度はスタイリストが彼の元に送られてきた。髪のセットの仕方を教えるためである。この数ヶ月の間にモーリスの髪は長くなっていた、スタイリストの女性は彼に、髪を美しく整える方法を教えた。それから2週間、スタイリストは毎日彼の元に現れ、やがてモーリスは自分で容易く髪を整えられるようになった。

その次には化粧のレッスンが始まった。これも同じようなやり方で行われた。概略的に言って、モーリスの日常は、ディルドによるセックス、フェラチオ、セクシーダンス、そして自分を可愛らしく見せるための方法の習得に埋められた。

最後は服装だった。それまではモーリスはランジェリ姿でいることしか許されていなかったが、ある日、(今だ名前も知らない)例の見張り役の男が彼の元に衣類が入ったバッグをいくつか持ってきたのだった。

モーリスは急いでバッグの中を調べた。丈の短いクラブ用のドレスから、タイトなボディースーツ、さらにはビキニ、ショートパンツ、ジーンズ、様々な露出度の高いトップに至るまで、あらゆるものが中に入っていた。モーリスは、自分の意に反して、どうしても試着してみたくて待ち切れなかった。

新しい衣類を試着して、彼は大興奮の状態になった。どれを着ても、すごくセクシーに見える。今や、ランジェリだけの衣類から、あらゆる種類の可愛い、セクシーな衣類を着ることができる。

その2日後、ひとりの女性が部屋に来て、彼の耳とおへそにピアスを施した。その女性は彼に大きな輪のピアスをつけ、いつもそれをつけてるようにと彼に命じた。

*

さらにその2日後、モーリスのダンス・レッスンに新しい要素が導入された。ハイヒールを履いてダンスすることである。最初は(5センチほどの)比較的低いヒールを履いて始め、日を追うごとに、ヒールの高さが高くなり、最後にはヒール高15センチのスティレット・ヒールを履いてダンスするまでになった。2週間ほどの間に、モーリスは完全にマスターした。

さらにテレビにふたつほど従来のテレビ局の番組が加えられた。だがモーリスは結局は、あの裸の男がダンスする番組に落ち着くことが多かった。もっとも、他の番組も楽しまなかったわけではない(例えば、ミュージック・ビデオの番組でラップを見ることなど。もちろん、彼は、自分が、ラップ曲にあわせて裸同然の姿で踊る女性たちのひとりとなってると想像して見るのである)。

さらにもう2週間ほどした後、モーリスは何かが起きそうだと感じた。彼の周りのセキュリティが緩められたのである。家の中、自由に歩き回ることが許されたのだった。だが、彼は大半の時間を自分の部屋で過ごした。ほぼ1年間、この部屋で生活してきたのである。ここを出るのを恐れている部分が彼の中にあった。

*

そして、ある夜、彼は自分のピンク色のベッドで眠りにつき、翌朝、どこか他のところで目を覚ましたのだった。そこはうす暗く、かすかに見覚えのある場所だった。

「あいつら、本当にできたんだな…」

モーリスは何者かがそう言うのを聞いた。

「…疑っていたが、本当にやるとは」

「ここはどこ?」 とモーリスは甲高い声で訊いた。

「お前、分からんのか?」 と声の持ち主が言った。

そしてモーリスは部屋の隅の陰に人が立っているのに気づいた。

「俺がお前にこれからどうなるか言ったとき、お前はまさにそこに座っていたんだぞ。忘れたのか、モーリス?」

モーリスは自分が素っ裸にされているのに気づいた。確かに、この1年間、ほぼ裸の状態で過ごしてきたのではあるが、それでも、この状態はとても無防備すぎて落ち着かなかった。そして、彼は思い出した。この声の持ち主が誰かを。

ジャマルが前に進み出て、明かりの元に現れた。そして、すぐにモーリスはその人物に気づいた。強盗をしていた頃に知っていた人物としてのジャマルではない。違う。テレビに出ていた男としてのジャマルだった。

「立て、オンナ男! お前の姿を俺によく見せろ」

モーリスは躊躇わずに立ち上がった。ジャマルはゆっくり歩いて彼の周りを一周した。モーリスは荒々しくお尻を揉まれるのを感じた。次の瞬間、ジャマルはふざけまじりに彼の尻をぴしゃりと叩いた。

「私に何をするつもり?」

ジャマルはチャックを降ろし、ズボンを脱いだ。そして、部屋の中央にある椅子に腰を降ろした。モーリスはジャマルがすでに勃起しているのに気づいた。そして自分が何をすることを求められているかを察した。それをすることに何ら恐怖は感じなかった。彼はジャマルの前に向き直り、床にひざまずいた。目の前にはジャマルの大きなペニスがそそり立っていた。

モーリスはジャマルの睾丸から始めた。愛しそうにそこを舐め、その後、少しずつゆっくりと肉茎に沿って上下に動き、何度も優しいキスをした。ほぼ5分間に渡って、それを繰り返し、ジャマルを焦らし、その後ようやく、亀頭を舐めはじめた。

さらにもう2分ほど、亀頭を舐め回った後、頭部を口に含み始めた。口に入れて何秒か舌でこね回しては、口から弾くようにして出す。それを繰り返した。やがて先端から先走りが出始め、それを味わった。そしてようやく、彼は本格的に吸い始めた。巨大なペニスを喉奥まで吸いこんでは吐き出す。彼の口にジャマルが噴射するまでそれを続けた。

モーリスは出されたものを飲み下し、口の中がきれいになると、無意識的に「ありがとうございました」と言った。そして床に正座したまま、ジャマルの睾丸を舐め清めた。ジャマルは、椅子にふんぞり返りながら、そんなモーリスのストレートにした髪を優しく撫で続けた。

2分ほど経った。ジャマルは再び勃起していた。

「俺のここに乗っかって、踊れ」

モーリスはジャマルに背中を向け、彼のペニスの上に位置取った。だが、ジャマルはそれを止めた。

「いや、俺はやってる時のお前を見たい」

そこで、モーリスは前に向き直り、お尻に手を伸ばして、ジャマルの巨根を自分のアヌスに導き入れた。

「ああーんッ!」 とモーリスは悩ましい声を上げた。そして早速、動きだし、すぐに叫び声を上げ始めた。

「いいッ! もっとヤッテ、パパ!」

モーリスはジャマルのペニスを相手に激しく上下に身体を動かした。女っぽいお尻の頬がぶるぶると揺れていた。

*

3時間ほど経った。さんざんセックスが繰り返された。ようやくジャマルが地下室から出てきた。手には鎖をもち、その鎖にはモーリスがつながれていた。

モーリスは黒いブラジャーとパンティ、そしてハイヒールだけの姿だった。

「俺は散歩に行くことにする」 とジャマルは言った。

散歩をするふたりの後ろで、「おい、あれがモーリスか?」とか、「女のモーリス、見てみろよ!」とか、「ジャマルに一発やられたら、誰でもあんなふうになるのさ」 とかの囁き声がかわされた。

近所を歩いた後、家に戻ると、ジャマルはモーリスに裸になれと言った。もちろん、モーリスは言われた通りにした。

「おい、おめえたち、ご褒美だ。こいつを自由にしていいぞ」

すぐにモーリスは何本もの巨大な黒ペニスに取り囲まれた。彼にとって生れて初めての輪姦だった。その中心になれて、彼はこんな幸せなことはなかった。

*

何日か過ぎ、やがて何週間かが過ぎ、さらには何ヶ月かが過ぎ去った。今や、モーリスはジャマル一味を相手とするセックス玩具としての役割に完全に馴染んでいた。ジャマール一味の本部(計画住宅群に隣接するアパートのビル)の中では、モーリスは裸でいることが多かった。彼は、まさにエッチなペット女に期待されてるように振舞い、逞しい男どもにいちゃついたり、彼らの下腹部に乗っかったりし、男たちの目の保養となっているのだった。

ギャング一味には他の女たち(大半が黒人)もいたが、モーリスは彼女たちとはあまり仲良くはできていなかった。多分、嫉妬心からだろうとモーリスは思った(自分の方が彼女たちより、いい体をしてたのは事実)。もっとも、彼女たちは、しょっちゅう、モーリスの小さいペニスをからかった。中には、彼のペニスをいじりながら、「ねえ、このちっちゃなおちんちん、すごくキュートよね?」 とか言ってからかう者もいた。また、「こいつ、ほんとに根っからオンナになってる。勃起すらできないじゃん!」と誰かが言うと、必ず別の女が反応して、「いや、この人、勃起するわよ。ただ男を相手にするときだけ、だけど」と言うのであった。

そんなからかいもモーリスは気にしなかった。ジャマールたちは、女たちを集めて一種のハーレムを作っており、モーリスはその一員に加えられた。もっとも、モーリスがそこで他の女たちと寝ることはめったになかった。彼はセックス玩具として男たちと寝るので忙しかったからである。

ある日、ジャマールが来て、モーリスに言った。

「服を着ろ。セクシーな服だ。お前に仕事を用意してやった」

モーリスはいそいそとジャマールの部屋へと向かった(もちろん、お尻を誘惑的に振りながら)。彼は今や女の子のように走る仕草を会得している。モーリスは、タイトなミニスカートと、ホールター(参考)のトップ、それにハイヒールを選んだ。ジャマールの部屋に行くと、ジャマールは彼の格好を見て、「それでよかろう。ついて来い」 と言った。

ジャマールは、モーリスを自分のメルセデス・ベンツに乗せた。モーリスは車に乗るとすぐにフェラをしようとジャマールの股間に顔を寄せた。だがジャマールは彼を押しのけ、「今じゃねえ」 と突き放した。モーリスは車に乗ってる間ずっと、不満そうに口を尖らせていた。

間もなく、車はひと気のない公園に着き、そこに駐車した。その数分後、パトカーが彼らの車の隣に停まった。ジャマールはモーリスに車から降りるよう命じた。

モーリスはジャマールの後ろについて、ふたりの男たちが挨拶を交わす間、従順そうに立っていた。警官は白人だったが、ジャマールと同じく大きな身体をしていた。

「そうだな、それなら俺たちもうまくやっていけそうだ」とジャマールは警官に言い、その後、モーリスに向かって、「こっちに来い」と言った。

モーリスは言われた通りにジャマールの隣に来た。

「この人はウィルソン巡査だ。お前、巡査のこと覚えているよな? この巡査の相棒をお前は殺したんだ」

モーリスは、巡査の顔を見ることができず、目を伏せた。

「まあ、言ってみれば、巡査はお前に償いをしてほしがっている。と言うわけだ、巡査にいい気持ちをさせてやれ」

モーリスは裸になり、地面にひざまずいた。そして警官のズボンのチャックを降ろし、そのペニスを焦らしつつ舐めはじめた。

「違う、メス犬! 吸うんだ!」

ウィルソン巡査はモーリスの頭を押さえ、ディープスロートをさせた。そして、彼の頭をぐいぐい突きを続けた。それを2分ほど続けた後、ウィルソンはモーリスの喉を掴んで、立ち上がらせた。そして、乱暴にモーリスをパトカーのボンネットに覆い被らせ、彼のアヌスに挿入した。ウィルソンはあまり長くは持たなかった。モーリスは、白人男で長く持つのはめったにいないと知っていた。とは言え、この短いセックスでも、一度だけ彼はオーガズムに達することができた。

ウィルソン巡査は射精を終えると、ぼろ雑巾を捨てるように、モーリスを地面に投げ捨てた。モーリスは地面に横たわったままでいた。

「これでいいだろう。今度の木曜にお前のアジトの捜査に入る計画がある」

警官はジャマールにそう言い、パトカーに乗り、走り去った。

ジャマールはモーリスに手を差し伸べ、彼を立たせ、「服を着ろ」と言った。ふたりとも車の中に戻ると、ジャマールが説明を始めた。

「お前も知ってる通り、ウィルソン巡査は絶対にワイロを受け取らなかった。俺たちがいくらカネをつんでも、あいつは絶対に受け取らない。だが、今回は、あいつの方から俺に話しを持ちかけてきたんだ。信じられるか? あのバカ真面目の巡査の方から俺のところに来て、お前に会えるなら情報をやってもいいと言ってきたんだぞ。ウィルソンは、始めはお前を殺す気でいたが、俺はそれはさせないと言った。するとあいつはお前と一発やらせろと、それで取引してやってもいいと言ってきた。お前、どう思う?」

モーリスはしばらく考え、そして答えた。「あなた様のお役に立てて、嬉しいです」

「いい答えだ」 とジャマールは言った。そしてしばらく経って、彼は付け加えた。「今なら、おしゃぶりしていいぜ」 

モーリスは素早くジャマールの巨根にすがりつき、嬉しそうにおしゃぶりを始めた。

*

生活は続く。モーリスの生活はほとんど同じだった。1年から2年が過ぎ、ようやくモーリスは比較的自由に好きなところに行けるようになった。ジャマールは身銭を切り、モーリスに豊胸手術を受けさせすらした。ジャマールが経営するストリップクラブのひとつで働けるようにである。

ジャマールは、モーリスを自由にして2ヶ月ほどすると、彼はモーリスへの興味を失い、彼の一味の本部から、2ブロックほど離れたところにある小さなアパートに引っ越させた。

モーリスにしてみても、自分の人生が前より少し良くなったと認めざるを得なかった。強盗としての生活は、常に恐怖をともなった生活だった。その恐怖心は、精神を鋭くし、常に警戒感を持ち続けるために、必要なものだった。常に居所を変え、廃墟のビルから、また別の廃墟のビルへと移り住む生活だった。確かに、腕の立つ強盗として尊敬は集めていた。だが、実質的な利益はそれだけだったと言ってよい。

そんな生活に比べたら、今の生活ははるかに良いと言える。何も恐怖することはなくなった。好きなだけセックスをしてもらえるし、依然と同じく尊敬を集めてもいた(以前とは別の種類ではあるが)。男たちはモーリスのお尻を敬ってくれるし、新しい乳房も敬ってくれる。さらに、モーリスが手や、口、あるいはアヌスを使ってすることを、男たちは敬ってくれるのである。

今の生活は、前よりずっといい。

*

オマール・ベル博士は、モーリスの変身の記録をメモを取りながら再検討していた。フェロモンに対する反応をちょっと修正しなければならないだろう。被験者をちんぽ狂いにしたいとは思わない。それに、もう少し変身過程を長くさせたいと思った。彼はある合成物を分離させる作業を開始した。その合成物を取り除けば、黒人男性には作用しなくなるはずだ。

だが、まだまだしなければならない研究があるし、もう何件かテストをする必要がある。博士は、被験者に乳房を与えることも考えた。当初のプランではそうするつもりだった。だが、その可能性について考えれば考えるほど、むしろ乳房を持たせない方が、より弱い立場にすることができるのではないかと思えてくる。乳房がなければ、自分たちの存在をより自覚できるはずだ。決して、女性ではないのだと。自分たちは、決して女にはなれないが、女にきわめて近い男なのだと。

そして、ベル博士は作業に取り掛かった。

おわり


[2014/03/13] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

強盗ボーイ (2) 

出し惜しみしても意味がないので(笑) アッシュ

****


ほぼ6日がすぎた。モーリスはジャマルがどこまで計画しているか分かり始めていた。今やモーリスは以前の彼とは思えぬ姿になっていた。

彼の顔は、全体的に丸みを帯びていたし、大きな鼻は少し細くなっていたが、依然として彼の顔ではあることに変わりはない。モーリスを見たら、誰でもモーリスの顔だと気づくだろう。だが顔以外の身体の方はと言うと、こちらは大きな変化を見せていた。

かつてのしなやかな鋼のような身体は、今は、滑らかで、柔らかく、曲線に満ちた体つきになっていた。乳首はぷっくり膨らみ、勃起してることが多くなった。1センチ弱の大きさでツンと立っている。身体には筋肉の存在をうかがわせるようなトーンがほとんどなくなっていた。ウェストは本当に細くなっていたし、ヒップも膨らみ、典型的な砂時計のプロポーションになっていた。お尻も丸く膨らみ、(もし、こういうお尻をした女がいたら)実にセクシーだろうと、彼自身も認めざるを得ない。お腹も少しだけ丸みを帯びていた。

そして、かつての自慢のペニスは今は見る影もなく、たった5センチになっていた。決して勃起しない。睾丸も同様に縮小し、今は小石ほどの大きさになっていた。さらに、肌の色までも変化を見せていた。以前より色が明るくなっている。確かに今だ黒人であるのは事実だが、親のひとりは白人だと言っても通じるほどになっていた。

6日目の朝、見張りをしてる男がバッグを持って部屋に来た。男はそれを床に置き、「これを着ろ」 と言って立ち去った。

モーリスは床からバッグを拾い、ひっくり返して、中のものをベッドにぶちまけた。入っていたのはランジェリーだった。Gストリングのビキニ、ビスチェ、ガーターベルト、それにストッキング。モーリスは、こんなものを着るなら、裸でいるほうがましだと思った。

1時間後、モーリスはランジェリーを着るのを拒んだため、したたかにスパンキングをされた。見張りの男が出て行くと、モーリスはぎこちない手つきでランジェリを着始めた。馬鹿げているとは思ったが、身につけ、立ってみると自分が極めてセクシーであると、我がことながら認めざるを得なかった。しかし、歩き出した途端、その幻想は粉々に崩れた。歩き方が、依然として、男性的なのである。ある意味、自分にそういうところが残っていたと知って、モーリスは慰められた気持ちだった。

翌日、彼はまた別のバッグをよこされた。今度は、薄い黄色のベビードールのナイティと、それにマッチしたソング・パンティだった。今回はモーリスは拒否せず、すぐに着てみた。明るい側面として、この日、モーリスはどこも変化したところがなかったことがあった。

その夜、彼は不思議な夢を見た。夢の中、例の見張り役の男が彼の部屋に上半身裸で入ってきたのである。そしてモーリスはその逞しい男の肌に触れ、手を這わせ続けたのだった。夢は、彼が見張りの男に激しくセックスされるところで終わった。

モーリスは冷たい汗をかいて目が覚めた。不思議なことに、アヌスが濡れているのを感じた。こんなことは一度もなかった。

翌日、モーリスの声が変わった。もともと、声が特に低いわけではなかったが、その日以降、彼の声ははっきりと高音になったのだった。声質は、モーリスの男性性を示す最後のひとかけらだった。

*

その2日後、モーリスは部屋から連れ出され、バレエ・スタジオのように見える部屋に案内された。

「脱げ」 と見張りの大男が命じた。モーリスはためらうことなく、指示に従い、見張りの男に着ていたランジェリ(この日は薄青のセット)を渡した。

すると、ちょっとした後、レオタード姿の白人女性が入ってきた。女性にしては背が高い人だった。少なくとも185センチはありそうだと思った。ということは、小柄なモーリスに対面したら、そびえ立つように見える。

女性はモーリスの姿を頭からつま先まで観察し、その後、見張りに言った。「あなたは行ってかまいません。私で充分、扱えるから」

見張りは頷き、部屋から出た。

「あなたはオンナ男です」 彼女は、まるで議論の余地のない事実を語るような言い方で述べた。「そして、あなたはそのように振舞えるように学ばねばならない。今のあなたは、ドタドタと歩き、ゼイゼイ息をして動いてる。あなたはもっと軽やかに変える必要がありますね。優雅になるのです。さもなければ、お仕置きを受けるでしょう」

とういう次第でレッスンが始まった。この女性は決して名前を明かさず、モーリスが背中を軽く反らして立つようになるまで、執拗に彼の姿勢を直し続けた。立つときは、前腕を身体に垂直に前に出させ、手首からは力を抜かせ、だらりと下げるようにさせた。立つときは、この姿勢を取ることがデフォルトとされた。モーリスが不満を言ったり、適切な姿勢で立てなかったりすると、彼女は容赦なくステッキで彼を叩いた。

続く2週間、毎日このレッスンが続けられた。1回につきほぼ3時間のレッスンだった。そして、ようやくモーリスはこの姿勢で立つことが第二の天性となるまでに至った。そして、その後はバレエのレッスンに変わった。モーリスは優雅に動くことを学び始め、一つ一つの動きをマスターするたびに、心から満足するようになった。

このバレエのレッスンは、彼が幽閉されてる期間の最後まで続けられた。

*

ある夜のことだった。モーリスが拘束されてからほぼ1ヵ月が経っていた。彼はベッドに座り、天井を見つめていた。赤い縁飾りがついたキュートな白いボーイ・ショーツ(参考)と身体にぴっちりのキャミソール(参考)の姿だった。

ドアが開き、外から見たこともない美しい女性が入ってきた。その女性の乳房はCカップながら張りがあり、身体はスポーツ雑誌の水着特集の表紙で見たような理想形をしていた。しかも、その女性は一糸まとわぬ姿であった。

彼女は唖然としてるモーリスの隣に横たわり、彼の方を向き、脚を広げながら言った。

「ヤッテ」

モーリスは文字通り履いていたパンティを破るようにして脱ぎ、その女性の脚の間に割り込んだ。ただ、ひとつだけ問題があった。彼の小さなペニスは全然勃起しようとしなかったこと。

「どうしたの? あなた、女の子、好きじゃないの?」

モーリスは焦りながら、小さなペニスを引っぱり、しごいてみたが、無駄だった。ふにゃふにゃのままなのだ。あまりの情けなさに、彼は目に涙を浮かべた。

「泣かないで。そこについてるものを使わなきゃ、楽しめないと言うわけじゃないでしょ? ねえ、私が教えてあげる…」

と、その女性は前屈みになり、彼の柔らかいままのペニスと小さな睾丸を一緒に口に含んだ。そして、モーリスは彼女の指がアヌスの縁に触れるのを感じた。次の瞬間、その指はするりと中に入ってきた。モーリスがこれを予期していなかったのは確かだった! 彼女はモーリスの陰部を口から出し、彼を見上げて言った。

「これ、気持ちいい?」

「うん、いいッ!」 モーリスは息も絶え絶えに答えた。

指でアヌスをいじられながら、モーリスはのけぞり、時々ああーん、ああーんと女の子のような喘ぎ声を上げた。そして彼は射精したのだった。自分自身のつるつる肌のお腹に白濁をまき散らす。彼女が一度も彼のペニスに触れなかったにもかかわらず。

そして、その美しい女は無言のまま立ちあがり、部屋から出ていった。

*

翌朝、モーリスはドレッサーの中に大きな黒いディルドがあるのに気づいた。彼はそれを無視しようとしたが、実際は、何度もそれに気を惹かれ続けた。

その日のダンス教室は、ゴージャスな若い女性が担当だった。彼女はモーリスと同じくほとんど全裸に近い姿で彼の指導に当たり、教えたダンスも、決してバレエとは言えない踊りだった。むしろストリッパーのダンスに近いと言えた。

その翌日には、さらにもう2名、全裸に近い女性たちが加わった。モーリスは、裸同然の美しい女性たちに囲まれていたにもかかわらず、まったく興奮しなかった。

その日以降、モーリスはバレエではなく、かわりに、お尻の振り方を覚えることになった。

*

次の日の夜、彼はとうとうディルドの誘惑に負けてしまった。もし指1本で射精できたとしたら、あのディルドを使ったら、どんなに気持ちいいことだろう? モーリスは誘惑に負け、ドレッサーからディルドを出した。非常にリアルな形をしていて、シャフトに沿ってごつごつと血管が浮き出ていた。

モーリスはベッドに仰向けになり、脚を大きく広げた(ストレッチングをしていて、良かった!)。ディルドを手に握り、もう一方の手をアヌスに伸ばし、指で探った。そこはすでに濡れていた。興奮しつつ、彼は何も考えずにディルドを押し込んだ。痛みに思わず叫び声を上げそうになった。だが、緊張がほぐれるにつれ、ゆっくりと出し入れの動きを始めると、その痛みはみるみる快感へと変わっていった。もう一方の手で大きな乳首を触り、優しくマッサージした。

それを始めて1分かそこらで、モーリスは絶頂に達した。こんなに激しい絶頂は始めてだった。身体全体がぶるぶると震えた。オーガズムに達したのもあっという間だったけれど、それから回復するのもあっという間だった。回復するとすぐに彼は再び同じことを始めた。その夜、モーリスはずっとこれを続けた。何十回イッタか、分からない。

*

翌朝、彼は目を覚まし、驚いた。誰かが部屋にテレビを運び入れたらしい! 早速テレビをつけたが、がっかりした。どのチャンネルも同じものを放送していたからである。全裸の、非常に逞しい黒人が腰を回転させ、巨大なペニスをぶるんぶるん振りまわしてる動画だった。モーリスはほとんど反射的に勃起した。この数ヶ月の間で、初めての勃起だった。

*

日々がめまぐるしく過ぎ去った。毎日レッスンが続けられた。日中はダンスのレッスンを、夜はディルド遊びで埋まった(テレビで男性ダンサーを見ながらするのが普通である)。過ぎた時間は何週間かもしれないし、何カ月かもしれない。モーリスには分からなくなっていた。

そしてある夜、ディルドを使った最初の夜以来、彼が想像し続けていたことが起きたのだった。

モーリスは裸でベッドにごろごろし、アヌスをただぼんやりといじっていた。するとドアが開いたのだった。顔をあげてドアの方を見たら、例の見張り役の男が入ってきたのだった。

男はドアを締め、言った。「こっちに来い」

モーリスは言われた通りにした。何も考えずに腰を振って歩き、男に近づいた。

「床にひざまずけ」

モーリスは再び言われた通りにした。

「ズボンのチャックを降ろせ」 これにも従った。

「俺のちんぽを握れ」 モーリスは言われた通りにした。

「しゃぶるんだ」 と見張りは命じ、モーリスは従った。

最初、モーリスはテクニックはほとんどなってなかった。ただ怪物ペニスを口に入れ、頭を上下に振るだけだった。仕事を終えるのに数分かかったが、見張りは最後には射精をし、モーリスの喉奥に精を流し込んだ。

「感謝の言葉を言え」と見張りは言い、モーリスは「ありがとうございました」と言った。そして見張りは、ぴちゃぴちゃ音を立てて精液を味わうモーリスをそのままに、部屋を出ていった。

それ以来、これは毎晩行われるようになった。モーリスのテクニックは上達し、すぐに、ポルノのスターのようにフェラができるようになった。あの見張り役の男は、おしゃぶりしながら睾丸をいじると喜ぶらしいと彼は学習した。

*


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強盗ボーイ (1) 

「強盗ボーイ」 Stick Up Boy by Nikki J
http://omarbelluniverse.blogspot.jp/2011/03/stick-up-boy.html

モーリスは目立たないバンの中から、ドラッグの売人たちの様子を注意深く見つめていた。黒人の若者たちが、後でどうなるか結果も気にせずヤクを売っている(年齢的には、たとえ捕まっても本当の刑務所には行かずに済む年齢だ)。実際、彼らの世界では、捕まる可能性はまったくなかった。警察は、街のこの地域に立ち入ろうとすることなどめったになかったし、入ってきたとしても、ドラッグを扱う地元の帝王たちから賄賂を受け取るためだけなのだ。ここでは法律は完全に無力なのであり、あのガキどもはそれを知っている。

モーリスは監視を続け、間もなく、あのガキどもがカネを隠してる場所を掴んだ。動く時が来た。車を出し、角を曲がった。バンを止め、目立たぬように降りた。防弾チョッキの上に長いトレンチコートを羽織り、銃身の短いショットガンを持った。彼は大きい男ではない。160センチほどだし、体重も60キロ弱。だが、武器の使い方は心得ている。加えて、誰もが、モーリスを怒らせたら、彼は何のためらいもなく銃を使うと知っていた。彼の評判は、持ってるショットガンと同じく、重要な武器となっていた。

角を曲がった。売人たちは、あたりを警戒することすらしてなかった。誰も自分たちに近寄ろうとする者などいないと思いこみ、安心しきっていたのだろう。彼らがモーリスに気づいた時には、すでに売人3人の真後ろに来ていた。すでに遅すぎだ。モーリスはすでにショットガンの銃口を彼らに突き付けていた。

「俺がここに来た理由は分かってるな?」 ガキのひとりが頷いた。「じゃあ、それを渡せ」

金の隠し場所に近いところにいたガキは、躊躇わず、すぐに茶色の紙袋を掴み、モーリスに放り投げた。モーリスは器用に袋をキャッチした。

「ありがとよ」

モーリスは逃げながら声をかけ、角を曲がり、バンに向かった。

*

ジャマルは怒り狂った。

「あの野郎、ぶっ殺す!」

こぶしでテーブルを叩き、周りにいる手下たちをじろりと見た。

「あいつは、もう1年近く、俺たちのカネを盗んできてるんだ。なのに、お前たち、あいつを見つけられねえって言うのか?」

屈強そうな黒人たちのひとりが何か言いかけたが、ジャマルは遮った。

「モーリスを生きたまま俺のところに連れてきたら、誰でも50万ドルやる!」

男たちがいっせいに溜息を漏らした。

「来週中に連れてきたら、もう10万ドル上積みだ。俺の言葉をみんなに広めろ!」

ジャマルはそう言って部屋から出て、ドアをバタンと閉めた。

*

ジャマルの言葉が広まるのに1日かかった。ある暴漢グループがモーリスをジャマルのところに連れてくるまで、もう2日かかった。モーリスはしたたかに殴られていたが、まだ生きていた。顔は膨れ上がり、傷だらけで、立っていることすらままならない様子だ。

連れてきた悪党どもにカネを払った後、ジャマルは手下に命じ、モーリスを地下室に連れてかせ、衣服を剥いで裸にさせた。手下たちは彼を椅子に縛り付け、そのまま暗い地下室に放置した。

モーリスが放置されていた2日後、ようやくジャマルが彼の前に姿を現した。

「モーリス、俺はこの何日か、お前をどうするか考えてきた。やろうと思えばいつでもお前を殺せる。だが、それじゃあ、充分じゃねえんだ。拷問もできるが、俺は、人の爪を剥がしたりするのを見るのは好きじゃねえ…」

ジャマルは半殺し状態の強盗男の周りをぐるぐる回りながら話し続けた。

「…お前にどう償ってもらえるか、ずっと考え続けた。他のやつらに、俺たちに手を出すとどうなるか知らせる方法だ。お前と同じ種類の連中に、どんな類のことをすれば一番効き目があるか? どうすれば、こんなことが二度と起こらないようにできるか?…」

ジャマルはしゃがみ込み、モーリスと同じ目の高さになった。そして手を出し、彼の顔を上向かせ、しっかり視線を合わせた。

「…それで、俺がどうすることにしたか、分かるか? 俺はベッドでふたりの綺麗なエロ女と寝ている時に思いついたことだ。もし、モーリスをメス豚に変えられたら、どうだろうってな。俺に手を出した男は、一生、本物の男たちのためのオンナ男として生きることになると、皆に知らせるのだ…」

ジャマルはモーリスの頭を離した。モーリスはがっくりうなだれた。

「…そこで俺は何本か電話をした。今の時代、どこまで可能になってるか知るためにな。そして、ある男を見つけたんだよ。オマール・ベル博士というやつだ。そいつは、まさに俺が求めてることをする薬を開発したと言ってる。だが、かなりカネもかかるとも言っていた…」

ジャマルはそこで沈黙した。そしてしばらく後、また話しを始めた。

「…分かると思うが、俺は今は億万長者となっている。ああ、本当だよ。この町を仕切って、もう10年になる。ベル博士の要求には、その気になれば、簡単に応じることができる。そいつは、その薬のテストをしたがっていた。何か他のことを計画してるんだろう。だが、そいつの計画なんか俺には関係ねえ。あいつは俺にその薬を売ると言った…」

「というわけで、明日、お前を別の都市に移動する。そして、そこでお前はエロいオンナ男のメス豚として人生を始めるのだ」

そう言ってジャマルは、意識が混濁したままのモーリスを後に、地下室の階段を登り、出て行った。

*

モーリスは不思議な感覚に目を覚ました。…柔らかな毛布? ジャマルから何らかの懲罰を与えられたのはぼんやりと覚えている。それに、どこかに移動されたことも。かなりの時間、窓のないバンの中で揺られていたのを思い出した。

目を開けると、そこはピンクだらけだった。柔らかい毛布はパステルカラーのピンク。ピンクの毛布は、素っ裸のままの彼の、コーヒー色の肌と鋭いコントラストをなしていた。部屋を見回し、まるで10代の娘の部屋のようなところにいるのを知った。壁には、上半身裸のラッパーたちのポスターがたくさん貼られていた。モーリスは両脚を振るようにして、ベッドから降り、立ち上がった。部屋全体もピンクで白の縁取りがされている。ドアを開けてみようと試したが、びくともしなかった。部屋の一角には、大きな全身鏡が立てかけてあった。

奇妙な懲罰だ、とモーリスは思った。しかし、他に何もすることがないので、彼はまたベッドに戻り、眠りに落ちた。

*

それから何時間も経ったか、あるいはたった数分だったかもしれない。時間を知る方法がなかった。ともあれ、ドアのノブが回る音を聞き、彼はすぐさま目を覚ました。

ドアが勢い良く開き、モーリスはそこに飛びかかった。後の祭りだが、これは間違った判断だった。というのも、入ってきた男は、モーリスよりはるかに巨体の男だったからである。体重は100キロはゆうに超え、身長も2メートル近くある、漆黒の肌の筋肉の塊だった。モーリスはまるで子供のように、この男に簡単にあしらわれた。

「今みたいなことはもうなしだぞ、オンナ男」

モーリスは男の腕の中、自由になろうともがいたが無理だった。男はモーリスをベッドへと運び、腰を降ろし、自分の太ももの上にうつ伏せにさせた。そして、彼の尻を叩き始めた。

「良い」 ピシャリ! 「子は」 ピシャリ! 「歯向かわ」 ピシャリ! 「ない!」 ピシャリ!

スパンキングは2分ほど続き、モーリスは目に涙が溢れてくるのを感じた。痛みから来る涙ではなかった。苦痛なら対処できる。その涙は屈辱感からだった。男はスパンキングを終えると、裸のモーリスをベッドに放り投げた。モーリスは泣きながら男を睨みつけ、身体をボールのように丸め、できるだけ小さくなろうとした。

「お前に食い物を持ってきた。そのまま動くなよ」

大男はそう言い、ドアの向こうに消え、そして、サラダとコップ一杯の水を乗せた小さなトレーを持って戻ってきた。

「聞きたいことがあるだろうが、お前に聞く権利はない。お前の主から文書が来てる。それを読むが、お前はそれに従わなければならない」 と大男は1枚の紙を取り出し、読み始めた。

「お前の処置は成功した。お前に何が起きるか、詳細には省くが、今後2ヶ月ほどで、お前への懲罰が全面的に始まるとだけ言えば充分だろう。これからのトレーニングに最大の努力を払うよう期待する。そうしなかったら、俺は極めて不満足になるだろう」

大男は顔を上げて、言った。「ジャマルとサインしてある」

男はドアを出ながら言った。「食え。30分したら食器を片づけに戻ってくる。…それから、トイレを使いたくなったら…」 とドアの近くのボタンを指差し、「こいつを押せ。誰かがお前を案内するはずだ」

そしてドアが閉じられた。

モーリスは飢えていた。襲いかかるようにサラダに突進し、食べ始めた。量は子供の食い物程度しかなかった。30分後、先の男が戻ってきた。この時も、モーリスは脱出を図った。そして結果は、先の時より酷いことになり、男は再び彼にスパンキングを行った。

*

2時間ほどした後、モーリスは我慢できなくなり、ボタンを押した。小便をしたくなったのだ。先の大男がドアを開けたが、今回はモーリスは脱出しようとはしなかった。

男に連れられて廊下を進んだ。かなり豪華な家らしい。長い廊下の先にトイレが見えた。モーリスは急いでトイレに入り、ドアを閉めた。

「ドアは開けたままだ」 と大男は手でドアを押さえた。「それに、オンナ男は立って小便をするものじゃない。座ってするものだ」

モーリスはまたスパンキングをされるのは御免だったので、言われた通りに座ってやった。用を済ますと、大男がトイレットペーパーを出した。

「小便を終えたら、拭くのも忘れるな」

これにもモーリスは従った。また廊下を進み、ピンク色の部屋に戻ると、お尻を軽く叩かれるのを感じた。

「いい娘だ」

大男は笑顔で言った。

*

翌日は、特に変わったことは起きず、同じパターンをたどった。だが、ここに来て3日目になり、モーリスはある変化に気づいた。体毛がなくなっているのである。正確には、ペニスの上部に細い線となった陰毛は残っていたが、他の体毛はなくなっていた。モーリスは、特にすることがなかったので、どうしても、この体毛の喪失について考えこんでしまうのだった。これから先、どんなことが待ち構えているのだろう?

答えは翌朝、出てきた。ペニスが目に見えて小さくなっていたのだ。前は勃起したら23センチ(柔らかい時は15センチ)だったが、今は、柔らかくて10センチ、ここに閉じ込められてから一度も勃起していない。

もうひとつ、はっきり言えることは、乳首が前より敏感になっていたことだ。多分、少し大きくなってもいるだろう。モーリスは、自分を憎む理由が充分ある男に、完全に支配されてることに、恐怖した。

さらに翌日、彼のペニスはさらに縮小していた。濃い目の色の乳首が成長しているのは間違いなく、乳輪は直径3センチになろうとしていたし、乳首は6ミリくらい突き立っていた。

モーリスは鏡をを見て、身体が縮小していることに気づいた。少なくとも上半身は小さくなっている。日を追うごとに、かつての筋肉は消えて行った。下半身についても変化が起きていた。お尻が前より大きくなり、丸みを帯びていたし、ヒップが広がったか、あるいは、ウェストが細くなったのか、あるいはその両方が起きているように見えた。

その夜、明日は何も変化が起きなければいいのにと願いながら、眠りについた。寝ながら何度もうなされた。

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[2014/03/13] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)