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The big city 「大都会」
「こ、こんな感じ?」 とアレックスは四つん這いになって不安げに振り返った。「こういう格好になって欲しいの?」
ミシェルは、腕を組みながらベッドから離れた。興奮で叫びだしたくなる。この子、すごく素敵! あたしが求めていたすべてを備えてる。しかも、この子ったら、自分に何が起きてるか知らないでいる。金髪で碧眼で、とても男のものとは思えないようなボディ。まさに、あたしにとって完璧と思えるパートナーを絵に描いたような存在。
それに、この子が信じられないほどウブなのも嬉しい。中西部の田舎町からここに引っ越してきたばかりからか、彼は、必死に、この大都会に馴染んでいるように見られたがってる。だけど、彼に会った人なら誰でも分かるけど、この子は、大都会でどう振る舞ったらいいかも、何を期待すべきかもほとんど知らない。それが痛々しいほどバレバレ。
そして、ミシェルは、そんな彼に大都会での交際の仕方を教えたがっている。
彼女は股間に装着したディルドを握った。「ちょっと痛いかもしれないけど、でも、一度、その痛いところを超えたら、気持ちよくなってくるから。本当よ」
「こ、これ、本当に都会の人たちがセックスするやり方なの? これってちょっと……」
「あたしを信じて」とミシェルはアレックスの言葉をさえぎって、彼に近づいた。ぷっくりした彼のお尻に両手を当て、荒々しく揉みだす。彼はびっくりして、小さな悲鳴をあげた。
「あなたのような子がセックスするときは、こういうふうにするものなの。リラックスして、あたしにされるがままになるのよ。後であたしに感謝することになるはず」
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That defining moment 「あの決定的な瞬間」
その日は、完璧な一日だったはず。あの日のデートは、何か複雑な、充分に計画を練ったデートではなかった。特に取り立てるべきことをしたわけでもなかった。いつものように、サムとあたしは一緒に過ごし、ふたり一緒にいることを楽しんでいた。それが、あたしが望めることのすべて。少なくとも表面的には。でも、本当は違う。彼が言うジョークに大笑いしたり、彼にキスを盗まれ、喜んでいた時ですら、あたしは、ほとんど、自分の秘密のことにしか意識を集中できていなかった。そして、その秘密が明るみに出たら、あたしは死んでしまうかもしれない。
「ちょっと打ち明けたいことがあるの」 あたしのアパートに着いたとき、彼から手を離して、思い切って言った。
「君が連続殺人魔だということ?」 と彼は笑った。「それとも、逃走中のギャングの一員だとか? それとも……」
「真面目な話なの」 あたしは彼の言葉をさえぎった。泣きたい衝動を感じ、あたしは後ろ向きになった。「あたしは、あなたが思ってるような人間じゃないの」
彼はあたしの腕を取り、優しく、向きを直させた。「いや、君は僕が思ってる通りの人だよ……君は賢い。君は綺麗だ。そして、僕はそんな君に恋をしてる」
あたしは彼と目を合わせることができなかった。「あなたは、そもそも、あたしのことを知らないわ」
「充分知ってるよ」 彼はあたしに近づき、あたしはそれに押されて、後ろのブロック塀の壁へと押しやられた。「僕が知りたいことは、ちゃんと知っているから」
顔を上げたら、彼の真剣な瞳が目に入った。それを見て涙が溢れてくるのを感じ、あたしは瞬きをして、涙が流れるのを防いだ。「本当のことを知ったら、多分、今のようには言わないと思う。そう言わないと分かってるの」
彼は溜息をついた。そして引き下がりながら言った。「じゃあ、話してくれ。僕はただ……」
「あたしは女じゃないの」 と囁いた。
「え? 何? 冗談を言ってるんだよね。僕は君が……」
「あたしは女として生まれなかったの」 とあたしはうつむき、コンクリートの床を見つめた。16歳の時に女性化を始めたわ。あたしはトランスジェンダーなの、サム。本当に……本当に、ごめんなさい」
彼は長い間、黙っていた。あたしは彼の顔を見る勇気がなかった。これまでも何回も見てきた、恐怖と嫌悪感で歪んだ顔。それを観たくなかった。嘘つきと呼ばれたいわけじゃないし、変人と呼ばれたいわけでもない。ただ、普通の関係を得たいだけ。
「じゃあ、証明して」と彼は言った。
「え、何んて?」 あたしは顔を上げた。彼は好奇心に満ちた顔をしていた。あたしは、彼がそのような顔をするとは予想していなかった。
「完全に女性化したところまではいっていないんだよね?」 あたしは左右に首を振って、まだ、手術を受けていないと伝えた。「じゃあ、アレを見せてみて」
「あたしをからかっているのね」
「いや、そんなつもりじゃないよ。見てみたいだけ」
あたしはどうしたらよいか分からなかった。これまでいろんな反応を経験してきたけど、好奇心というのは予想した反応にはなかったから。でも、その意味を頭の中で整理するより前に、あたしの両手は、無意識的に、ショーツの腰バンドへと這っていた。両手の指がタイトな青い生地へ掛かり、引き下げていく。そして、あたしの体の中、唯一残ってる男らしらを露わにした。あたしは息を止め、彼の反応を待った。
そして、彼は、声に出して笑い出したのだった。
あたしは彼を睨み付け、素早くショーツを元に戻した。「ひどいわ、サム。あなただけは違うと思っていたのに! あなただけは……」
「僕は君のことを笑ったんじゃないよ」と彼はあたしの言葉をさえぎった。「取るに足らない問題だから、笑ったんだ。2年くらい前に、この問題は困るかって訊かれたら、自分の彼女がおちんちんをもってるかどうかは、確かに気にしたことだと思う。だけど、今だよ? これだけ君と付き合ってきた今は、それって何の問題もないように思うけど。君の脚の間に何があるかは、どうでもいいよ。君のことを愛しているんだから」
「ど、どういうこと?」
「君を愛している」と彼は近寄ってきて、あたしを壁に押しつけてキスをした。そして、キスを解いた後、彼は言った。「そして、これからも、君を愛すると思う。君が以前、どんな人だったかは気にしない。君の脚の間にあるモノも気にしない。今の君がどんな人なのかは気にする。僕が愛してる女性がどんな人なのかは気にする。それだけだよ。付則事項はなし。但し書きもなし。ただ、愛してるかどうかだけ」
あたしは唖然としていた。長い間、唖然として彼を見つめることしかできなかった。そして、長い沈黙の後、あたしはようやく口にすることができた。「あたしもあなたを愛している」
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Soon 「もうすぐ」
「ふたりとも、その調子! いいわよ!」 あたしは、双頭ディルドをベッド面に平行に掲げながら言った。「あなたたちのどっちが、可愛いおしゃぶり娘なのか、あたしに見せてちょうだい!」
女性化したふたりとも、一切、ためらいを見せなかった。ふたりとも即座に四つん這いになった。肩に垂れる長いブロンドの髪の毛。ウブっぽい愛らしい顔のお化粧も完璧。ふたりとも、紅を塗った唇を開き、前に顔を突き出し、シリコンのおもちゃを唇で包み込んだ。早速、顔を前後に動かし始める。唾液たっぷりの湿った、吸うような音が部屋を満たす。あたしは、ふたりを見ながら、思わず笑顔になっていた。まるで、宝くじでも引き当てたような気持ち。
ふたりはあたしのためならどんなことでもする。でも、それ自体は、そんなにびっくりするようなことじゃない。男というものは……女の子の気を引くために競い合ってる場合は、特に……すごく簡単に操れるものなのだ。ちょっとだけ性的にイイことをしてあげると約束してあげるだけでいい。そうすれば、男はあたしが何を頼んでも喜んでするようになる。
「いいこと? 一番上手におしゃぶりできた方が、今夜、あたしを舐められるの」
猫なで声で言ったら、ふたりはさらに頑張り始めた。このライバル同士のふたりが、あたしを口唇愛撫する権利を競い合っている。あたしは、いっそう大きな笑顔になった。
今はこの程度だけど、もうすぐ、ふたりは今とは反対向きの姿勢になるときが来るはず。逆向きになって、このディルドをお尻に入れあうようになるはず。あたしのおもちゃで貫かれたふたりが、互いにお尻を突き上げあって、ぶつかり合うお尻がピタピタ音を立てる。そんなことを思い浮かべただけで、あたしはあそこが濡れてくる。
さらにある時点になると、ふたりは互いに愛し合うようにもなるだろう。レズビアンのシシー。完全にあたしに身を捧げたレズのシシー。でも、それはまだ先の話。もうすぐだろうけど、まだ、ふたりはそこに至る準備はできていない。だけど、そうなるのは、もうすぐ。本当に、もうすぐ。
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Scholarship 「奨学金」
「あなたがこれをしたいと言ったのよ。忘れてないと思うけど、あたしはやめるように言ったわ」 とケイリーが言った。
「覚えているよ」とケーシーは答えた。「でも、だからって、何も楽にならないよ。それに『だから言ったでしょ』って言われても、何の助けにもならない」
「あたしがやめるように言ったのは覚えてるってわけね。宿命かなんかなら別だろうけど、これって、じきに手に負えなくなるって知ってるべきだったのよ。あなたは、本物のトランスジェンダーの女性から奨学金をもらってるの。それ、気にならないの?」
「ボクを見てよ」とケーシーは髪を掻き上げた。「今はボクも立派なトランスジェンダーの女だよ。おっぱいもある。ボクのヒップは君のよりも大きいよ」
「あなたが女の子のように見えるからといって、あなたがトランスジェンダーだということにならないわ。そのカラダになることがあなたにどんな影響を与えてるのか、あたしにははっきりしないけれど、でも、トランスジェンダーになるっていうのは、身体的なことと同じくらい精神的なことでもあるんじゃない?」
「ああ、まるでヒル先生みたいなこと言ってるよ。ボクは、ただ、これを早く済ませてしまいたいだけなんだよ。できるだけ早く学位を取って、元のボクに戻りたいだけなんだよ」
「じゃあ、それって、そんなに簡単にできると思ってるわけ? これを始めて1年しか経っていないのに、あなたはあたしが想像してたよりずっと先に進んでしまってるわよ。ベストなシナリオだと、2年で終了できる。でもそれは、夏を2回、フル稼働状態で女性化を経験するならば、ってころなの。正直に言って? それだけの時間を経た後でも男に戻れると、本当に思っているの?」
「あのバカな医者のところに行く必要がなければ、そんなに悪いことにならないんじゃない? あのホルモンを摂取する必要がなければ、多分、元に戻れるんじゃ……」
「ドレスを着たり、ウィッグを被ったりするだけ。そうすれば学費を払ってもらえると?あたし、あのホルモン云々って、まさにそれを阻止するためにあるんだと確信しているわ。それに、あなたも分かってると思うけど、あれは、性変換途上のトランスジェンダー女を助けるためにあるモノなのよ」
「ああ、でも……ボクはやめないよ。今はやめない。全部が終わるまでやめるつもりはないよ」
「大学の学費を払うにも、もっと簡単な方法があるわ」
「ああ、だけど、それはボクには向いてないよ。この方法だけなんだよ、ケイリー。これがボクにとって最善策なんだし、これを台無しにするつもりはないんだよ、ボクは」