新しいバーテン担当の夫が来て、ブルースと交替した。次のブルースの仕事は、二階に上がっての「シーツ・ボーイ」の仕事だった。今夜の場合、この仕事はブルースにとって楽しいものではない。
彼は、すでに二つの部屋についてシーツ交換を終え、三つ目の部屋が空くのを待って廊下に座っていた。その三つ目の部屋のドアが開いた。ブルースは素早く目を伏せ、床を見つめた。部屋から出てくるカップルのプライバシーに立ち入らないことを示すためである。彼は、そのカップルの足音が自分の方に近づいてくるのに気づき、いっそう深々と頭を下げた。その男性と女性を決して見ていないのだという姿勢が、間違いなく伝わるようにしなければならないからである。
「あら? シーツ・ボーイなの?」
リンダの声だった。リンダはいままでブルースをシーツボーイと呼んだことはなかった。相手の男の前で、このような呼ばれ方をされ、ブルースはいっそう屈辱を感じた。
「はい、奥様」
「立ちなさい」
ブルースは素早く立ちあがった。決して視線を上げないよう注意する。いったい何が起きるのだろう…ブルースには想像できなかった。
「こちらがリロイよ」
「初めまして、リロイ様」
「やあ、ブルース」
ブルースは、このクラブでの序列関係における自分の立場は十分認識してはいたが、依然として、19歳の若造に呼び捨てされることを受け入れ難く感じていた。たとえ、この若者が、ついさっきまで自分の妻を抱いていたのが明らかだとしても…
「あなたのこと、シーツ・ボーイと呼んでも構わないわよね?」 リンダが意地悪く訊いた。
「はい、もちろんです、奥様」
「よろしい。昨日の夜、あなたと話し合った例のこと、いま、ここでしてくれるかしら?リロイはもう帰らなくちゃいけないので、いま、ここでするのが一番良いようだわ。リロイのが私の中に入ってると感じられる間に、してちょうだい。私の言ってる意味が分かればの話だけど」
おい、よしてくれとブルースは思った。この若造にすることもないだろう、と。
「で?…リロイに何か言うことないの?」
「あ…はい、奥様…ございます……」
「そうねえ…」とリンダが遮った。「話しの間、あなたたち二人だけにすることにするわ。リロイ? 私、下で待ってるわね」
ブルースは、リンダとリロイが抱き合ってキスをする音を聞いた。そしてリンダが下に降りていく音も。
「それで?」 と二人っきりになるとリロイが促した。リンダに身体を擦りつけるように抱かれ、二人でねっとりとキスをした後だけに、視線を落としたブルースの目にも、リロイの巨大なペニスがズボンの中でむっくり持ち上がっているのが見えた。
「リロイ様、このクラブの会員のことについて、是非ともあなた様にお話ししたいことがございます」
「どんなことだ?」
「私たちを正式会員にしていただけるよう、是非とも、あなた様にスポンサーになっていただけないかと…」
「なんで俺がそんなことを?」
リロイはわざとすげない返事をした。もちろん、ブルースにはリロイの顔に浮かんだ意地悪そうな笑みが見えていない。
「リロイ様、私の妻のリンダは、このクラブの男性の皆様に会うまで、一度も女としての幸せを感じることもなければ、当然、与えられるべき十分な世話もされてこなかったのであります。ここに来て、ようやく、性的に本当の女になれたようなものなのです」
「ほおー」
リロイの声の調子から、まだまだ説得力が足らない、もっと言えと感じていることが分かった。
「私めに関して言えば、妻の幸せ以外なにも望んでおりません。そして、そのことはつまり、妻が、あなた様や他の男性と過ごす時間をもっと得ること、そのことなのであります…」
「要するに、俺たちに奥さんをヤリまくってもらいたい、ってことなんだろ?」
「はい、リロイ様、その通りでございます。私は、自分があなた様の身分にはないこと、決してなることもないことを存じております。あなた様みな様を非常に尊敬しておるのです。それに、ここでの自分の立場をわきまえるつもりでいることをお約束します。このようにあなた様とお話しできるだけでも、嬉しくてたまらないのでございます」
「そうか」 リロイの声は、少しは満足してる声になっていた。「お前、正しい振舞い方を知ってるようだな。まあ、お前の奥さんの場合、まんこも口もなかなか具合がいい。俺のちんぽがよく知っている。それにしても、いくら嵌めてやっても、リンダは物足りなそうだぜ。よっぽど長い間、まともなセックスをされてこなかったんじゃねえのか?」
「はい、その通りでございます。まさに、その理由から、私は妻のためにどんなことをしてでも償いをしなければならないのでございます。そして、妻の身体をあなた様に自由に使っていただけることこそ、最大の償いになるのでございます」
「じゃあ、俺たちがお前の家に行って、リンダを楽しんだり、お前抜きでリンダを連れ出したりしても、いいってことだな?」
「はい、そうでございます。お約束します。あなた様やリンダがお望みのことなら何でもいたします」
「リンダにセックスをねだってまとわりついたりしねえだろうな!」 リロイはほとんど脅迫するような口調で言った。
「ええ、決していたしません。すべて、リンダの意思に依ります。決してそのことでねだったりしないとお約束します」
「良かろう」とリロイは言った。「じゃあ、床にひざまずけよ」
ブルースはこの命令には心の準備ができていなかった。とっさのことで、どうしてよいか分からずにいた。すぐにひざまずくべきではあったが、彼の反応は遅く、黒人男からなされた命令に対して行うべき行動にはふさわしくなかった。
「…と、おっしゃいますと?…ひざまずくのですか…?」 ブルースは泣きそうな声で訊き返した。
「なんだ、おい! 言葉がわらかねえのか?」
「い、いいえ、分かります…ただ…本当に、ここで…?」
「たった今、俺を尊敬し、俺が優れていると言ったじゃねえか。それは嘘だったということか? えぇ?!」
「あ、いいえ、いいえ、違います、リロイ様! いたします、すぐに!」
「だったら、早くしろ! 今すぐ、床にひざまずくんだよ! 敬意を払う行為だ。それとも何か? リンダに、お前は誠意がなく、服従しなかったと俺から話そうか?」
「いや、お願いです、リロイ様、それだけは…」
ブルースは素早く床にひざまずいた。「私はこの通り、誠意を持って服従いたします。ご覧になっていただいてますか? この通りです。是非とも、私に敬意を払わせてください、リロイ様。お願いです」
「今度、俺が何かを命令した時、お前は、また躊躇うつもりなんじゃねえのか?」
「いいえ、滅相もございません。お約束します」
アンドリューの話 2オーケー! じゃあ、僕は子種提供者というわけだ。僕の性器から、次の進化段階に入る人類が生まれるというわけだ。まったく間違っていると思うが。ドニーの話しは、確かに、良くできているのは認める。だが、本当にドニーが話した通りだとしたら、この計画が進捗しないのも当然だ。
「二人とも、僕に話していることは、こういうことなの? つまり、君たちは、ホモ何とかの勢力を広げるために、双子家族と進化的に同じ段階にいる可能性がある男性を、ランダムに探し回っていると? それを真面目に考えているんだね?」
ディ・ディが答えた。「もちろん、真面目よ。それが私たちの人生の目的。私たちはブリーダー(繁殖すべき存在)として生きてるの」
ドニーはまた僕のペニスをいじり始めていた。二人とも僕のソレの虜になっているみたいだ。僕も、何かいじれる玩具が欲しいところだが、いつもいじっていないと気が済まないというわけではない。ああ、それにしてもドニーの手は柔らかすぎる。このタッチの仕方も絶妙だ。また、勃起し始めているのが分かる。まったく、この状況はどんどん変になっていくようだ。
ドニーが言った。「ホモ何とか…まだ、次の段階の人類に対して、名前が付けられていないの。ディ・ディ? ホモ・エレクトスという名前はどうかしら? アンドリューに敬意を払って?」
「残念ながら、その名前はもう使われているよ。それに、その名前だと何だか、エロい美容師みたいに聞こえる…
「…それはそれとして、ラスベガスあたりにいる男たちがこの話しを聞いたら、君たちは、ことをわざと難しくしようとしていると言うと思うよ」
「どういうこと?」 とディ・ディ。
「まるっきりやり方を間違っているんじゃないかと。君たちは、無作為な確率で未来につながる男性を見つけようと期待しているんだけど、そうではなくて、そういう男性の方から君たちのところに来るようにさせるべきだと思うんだ」
ドニーはまだ飲み込めなかった。「いったいどうすれば、そんなことができるの?」
「ドニー? 今は21世紀なんだ。人類は月にも到達したし、テレビにはリモコンをつけたし、それにインターネットも作りだしたんだよ。ウェブサイトを立ち上げたらどうだろう?」
「どんなサイトを? どうすれば、人に私たちのことを見つけてもらえるかしら?」とディ・ディ・
この話しなら僕の得意領域だ。
「そうだね、例えば、デート・サービスのサイトを立ち上げることが考えられる。真に賢い人々専用のデート・サービス。君たちのプロファイルに最も適合していそうな人を見つけるまで、すべての応募者にスクリーニングをかけ続けるとか。…ところで、その双子たちはいったい何人くらいいるの? こういう計画を実行できるくらいの人数がいるのかなあ?」
ドニーが答えた。「そうねえ、現時点で、少なくとも2万人は私たちの仲間がいるわ。その半分以上は出産ができる年齢で、さらに、そのおおよそ60%は結婚していないと思う」
ドニーもディ・ディも僕の虫歯を検査しようと思ったらできただろう。僕は、驚いて口を大きく開けたままになっていた。
「ジョージア州に2万人も双子の女性がいて、誰も気づいていない?!」
ドニーは頭を振った。「前にも言ったけど、全員がジョージア州にいるわけじゃないの。それに、顔も容姿もまちまちなのよ。それに、みんな、とても目立たないようにしているの。だから、意識的にそういう双子を探し回らない限り、ほとんど、存在が分からないと思う」
「ああ、そうか…。じゃあ、ドニーの言う通りだとすると、6千名ほどの女性が、デート・サービスに加わる可能性があるわけだね。これはかなり有望だ。既婚の女性はどうだろう? すでに双子の娘を生んでいるとして、もっと出産することに興味を持っているのだろうか?」
「もちろん、大半の人はそうしたいと思っているわ。何と言っても、私たちはブリーダーとして育てられたわけだし…でも、一旦、最初の双子を産んだなら、さらに産めるとは思ってもいないと思う」
僕はにっこり微笑んだ。「じゃあ、やってみよう。RSMILFサイトを立ち上げてみようか」
「何、そのRSMILFって? 何の略?」とドニーが怪訝そうに訊いた。
「真に賢いママさん、僕はあなたとヤリたい (Really Smart Mothers I’d Love to Fuck)」
ディ・ディが苦笑いした。「アンドリュー、それって最低。いったい全体、どうやったら、そんなひどい名前を思いつけるの?」
「いいかい? 舞台はインターネットなんだよ。ネットの出会い系で標準的に使われている手順に忠実に従うだけさ。応募してくる男性が君たちのプロファイルに適合する場合に限るけど、まったくの見ず知らずの人々の間に逢引する機会を設けてあげるわけだ。そして、その見返りとして、新たに子孫が得られることになると。現在、広まっているテクノロジーは活用すべきだよ。ただ、いい人がいないかと願ったり望んだりしているだけでは、何もできない」
どうやら二人は納得しかかっているようだった。
「この人類進化の話しが本当だとしてだけど、僕たちなら、それを大きく始動させることができるよ。君たちが望むタイプの男で、ちょっと女遊びをしたいなと思っている男がいたら、そいつらは簡単に見つけられる。あっそうだ、何ならメンサ(
参考)にハッキングしてもいいよ。僕ならできる。メンサの会員データを入手してもいい。思いあがった連中のことだから、マイクロソフトのアクセスあたりで、ろくにセキュリティもかけずにデータベースを作っていることだろう。まあ、旧来のやり方が好きなら、わいろを使ってデータベースを入手してもいいけど」
ドニーはショックを受けた顔をして僕を見ていた。
「思いあがっているってどういうこと? あのね、私たちもメンサの会員なの。アンドリュー? あなたも希望したら軽々と会員資格を得られると思うわ。メンサに入ったらどう?」
「僕は、僕を会員に受け入れるようなクラブには入りたくない(
参考)。お断りするよ。君たちが良ければだけど、僕は名を伏せたままでいようと思う… ともかく、真剣に考えてみよう。いま述べたことはすべて、君たち二人が妊娠したと仮定した上での推論結果なんだよ。もし、妊娠していないとしたら、すべてはご破算だ。今週は、興味深い1週間になりそうだ」
つづく