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65_Responsibility 「責任」
「ああっ。何て言っていいか分からないわ、ティファニー。あたしにここで何をしてほしいと思ってるの? 分からない」
「エリン、あんたは、何もする必要ないわよ。ただ、あんたがしたことを、あんたに見せたいと思っただけ」
「あたしがしたこと? あたし、何も……」
「お前、そこのビッチ! エリンにお前の残ってるモノを見せてあげな」
「な、何を?」
「ビッチ! あたし、言いよどんだ? そのパンティを脱げって言ってるの。脚を広げて、お前の元秘書に悪いことをした男はどうなるか、見せてやるのよ」
「あ、そこまでは……え? えぇ?! す、すっごく……」
「ちっちゃい、って言いたいのよね。分かってるわ。それに分かる? あれでも勃起してるの。最近は勃起とは言えないだろうけど、あれでも固くなってるつもりなのよ。ふにゃふにゃのときなんか、パンティを履いてたら、アレがついてるのかどうかも分からないはずよ」
「か、彼をどうするつもりなの?」
「正直、どうするかまだ自分も決めてない。あたしが考えたのはここまでだから。あんたは、これをちゃんと見なきゃだめよ。あんたは、こいつと同じ責任があるとまでは思ってないわ。でも、あんたたちふたりがこの結果に関係しているのよ。あんたはね、彼がこんな姿になってしまったことに、少なくとも部分的には、責任があると思いながら、一生過ごしていかなくちゃいけないのよ」
「これ、あたしがしたことじゃないわ……」
「あんたは、結婚している男と寝たの。あんたは、その償いをしなきゃいけないのは分かっていたはずなのに、こいつと寝た。あたしとしては、それだけでもあんたは有罪。でも、良い方に考えることね。あんたは少なくともヤリマン女になる選択肢はあったけれど、彼の場合は選択肢はゼロだったわけだから」
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65_Pussy cats 「プッシー・キャッツ」
「笑わないでよ。ボクは、前と同じく、れっきとした男なんだから」 ほとんど無駄と知りつつボクは言った。
その主張は、彼女をさらに大笑いさせることにしかならなかった。彼女の悪意なんて分かりたくもないといくら思っても、確かに理解できてしまう。なんだかんだ言っても、ボクはこうして脚を広げて座ってるんだから。ペニスは勃起しても5センチにもならないし、胸はというと、明らかに彼女のよりもずっと大きい。これで男だと言っても、一言で言って、お笑い種だ。
彼女は言った。「ごめんなさい。本当にごめんなさい。でも、ただ……何と言うか……分かるでしょ?」
確かによく分かる。本当によく分かる。ボクはずっと前からまっとうな男じゃなかった。あのバーに勤めてからはずっとそうだった。「プッシー・キャッツ」は、典型的な正統派のバーではない。そこまでは確かだ。一種、テーマ・バー(
参考)と言えて、非常に特殊な興味を持つ人々を客にするバーだった。想像できると思うけど、店のウェイトレスは全員トランスジェンダーの女性化した男性。ひとり残らずみんなとても綺麗だった。体にピッチリのタイトなショートパンツの前に見える盛り上がりがなかったら、彼女たちの生まれつきの性別が男性だなんて誰にも分からない。
ボクと彼女は、浮かれてその店に入った。大笑いできるジョークのつもりで入ったのだった。でも、そのバーに入った途端、ボクはとりこになってしまった。店にいる美しい女性たちから目を離せなくなってしまった。その初めての訪問の後も、ボクは何度も通い続け、最後には、店のオーナーである女性がボクに、テーブルの後片づけをする仕事をしてみてはと言ってきたのだった。ボクはその申し出を受け入れた。わずかな給料ではあったけれども、少なくともタダで彼女たちを見ていられるということも仕事を受けた理由だった。そして、ボクはせっせと働き続け、とうとう、カウンターの後ろで飲み物を作る仕事を任されるまで登りつめたのだった。
事態が転じ始めたのは、その頃だったと思う。もっと前から始まっていたのかもしれないけれど、ボクは気づかなかった。オーナーがボクの服装を変えるように言ってきて初めて、ボクは気づいたと思う。気がついたら、いつの間にかボクは、大事なところがかろうじて隠れる程度に小さい、スパンデックスのショーツだけの格好でいるようになっていた。そして、それから2週間もしないうちに、オーナーの求めで、(外見を完璧にするために)脚の体毛を剃り、お化粧をし、ウィッグをかぶるようになった。
もちろん、ボクの彼女はこの変化に気づいた。どうして気づかないわけがあるだろう。でも、彼女はボクと別れなかった。ボクがどんどん女性的な外見に変化していってるにも関わらず、彼女はボクと別れなかった。それに、ボクも彼女に、ボクが女性化してるなんて想像の産物だよと言い続けていた。だけど、ボクが胸を大きくし始めたら、変化を否定することはできなくなった。ボクはあのバーの女の子たちと同じになっている。それを否定することはできなくなった。
仕事を辞めるつもりだった。2週間後に辞めると通知する気持ち満々で、その日、仕事に入った。でもボクは通知をしなかった。どういういきさつだったか忘れたけど、オーナーに、客席係の仕事をするように説得されてしまった。ボクが、まさに、客席係を担当するのに必要な特質を備えていると、その特質は天性のものだと、オーナーは言っていた。そして、その言葉におだてられて、ボクはその申し出を受け入れたのだった。ああ、ボクは、どうして、そんなに盲目的だったのだろう。
予測できたことだけれど、その仕事に就く時間が長ければ長いほど、ボクはより女性的になっていった。後になってだけれども、職場でとても普通に繰り返し語られる言葉を耳にするようになった。それは、「プッシー・キャッツに来る人間には二種類の人間しかいない。ウェイトレスとセックスしたがっている人間か、セックスされるウェイトレスになりたがっている人間かのいずれかだ」という言葉だ。明らかに、ボクは後者の仲間になってしまった。