 65_An easy choice 「簡単な選択」 「行きたくないよ。もし誰かが……」とポールは言いかけた。 ロレインは高笑いした。「まるで選択できる立場にいるような言い方ね。あたしがあなたに行ってほしいと思ったら、あなたは行くことになるの」 「でも……」 「それとも、あなたとあたしの約束のこと忘れたということ? あたしが一言いえば、あなたを可愛い子犬みたいに四つん這いにさせて歩き回らせることができるのよ。忘れたの? それとも、また、外の角のところにあなたを縛り付けることにする? あなた、割と喜んでいるように見えたけど」 「君がそうしろって言うからだろ」とポールは沈んだ声で答えた。 「でも、あたしは、そんなに意地悪な女じゃないわ。新しい取引を提案してあげる」 「ど、どんな取引?」 ポールは半信半疑で訊いた。 「文句を言うのをやめること。この同窓会に喜んで出席したいと思ってるように振る舞うこと。パーティでは楽しむようにすること。誰かに、どうしてこんな服を着てるのか訊かれたら、本当のことを言うこと。つまり、自分は心の中ではシシーなのと答えること」 「もう一つの選択肢は?」 「もう一つは、あたしがあなたに強制的にそうさせることね。でも、もしあたしが酔っていなかったら、パーティが終わるころまでには、あなたは素っ裸でテーブルの上で踊るようにさせるわ。それからトイレに入って、あなたの昔のお友達全員に、おちんちんをしゃぶらせてくださいっておねだりさせることにする。それに、あなたの可愛いクリトリスがすごく小さいことを会う人みんなに見せて教えるようにもさせるわ」 「き、君を憎むよ」 「そりゃそうでしょ。でもね、これは全部、あなた自身のせいなのよ。浮気をしたのはあなたなの。あたしは、ただ、それに反応してるだけ。それで? どっちを選ぶ? 頭の空っぽな、ちんぽ狂いのシシーになる? それともあたしの言う通りに行儀よく振る舞う? あなたの選択よ」 「ぎょ、行儀よくするよ」 「よろしい。じゃあ、パンティを脱ぎなさい。あたしが気が変わったときに備えて、準備していてほしいから」 「は、はい、女王様」 ポールはそう言って、パンティを降ろし、小さなペニスを露わにした。 「ほんと、可愛らしいわね。こんなに可愛いものを隠しておくなんてもったいないわ。そう思わない?」 「でも、さっき言ったじゃないか……」 「気が変わったわ。あなた、今夜はすごく、すごく人気者になれるわよ」
 65_A questionable plan 「疑わしい計画」 「ねえ、こんなのうまくいくはずないよ。ボクたちが女だって、誰も信じないよ」 「お前って前からそういう病的ペシミストだったよな。つか、自分の姿を鏡で見たことあるのか? 俺はお前が男なのは分かってるが、そんな俺ですら自分の目を疑ってるんだぜ?俺を信じろよ。うまくいくって」 「分かったよ。確かにそうだね。ボクたちは女に見えている。体毛を剃ったりお化粧をしたりとかで……」 「ニセ胸も忘れるなよ」 「ああ。これだね。これのおかげで、ちゃんと目的通りになってるよね。役割通りの姿になってる。そして、このおかげであいつらをだませるって言えるよね。でも、その後、どうする? これでボクたちにどううまくいくのか、ボクはまだ確信できないんだけど」 「マジで言ってるのか? まず、俺たちはイジメにあわずに本物のパーティに行けるようになる。その点だけでも充分だよ。だけど、それに加えて、あのイジメ野郎たちの誰かが、女装した俺たちに惚れた場合を想像してみろよ。いや、悪くても、あいつらの誰かが俺たちとヤリたいと思ったらどうなるかでもいいや。そうなったら、ゲイだって思われることになるわけで、あいつらにとってはゲイだと思われることくらい最悪なことがないわけだろ?」 「ああ、あいつら、ホモ嫌いだからね。でも、その場合、他の男に罠をかけて、自分たちは女だと思わせた方の男たち、つまり、ボクたちはどうなるの? よくニュースになっているよね?」 「それについては心配するな。そこまではいかないから。というのも、俺は写真を撮るつもりだからさ。証拠写真があれば、あいつらからイジメられることはなくなるよ。分かるだろ、写真で脅かせばいいんだ」 「マーク、やっぱりこの計画、良くないよ」 「俺をアビーと呼べよ。キャラになり切らなくちゃだめだ」 「ああ。でも、この計画、良くないよ、アビー」 「頼むよ。ポジティブに考えるんだ。きっとうまくいく。見てれば分かるって」
 65_A predictable result 「予想できた結果」 四つん這いのままアレックスは振り向いた。「たった3分くらいでいいから。うまくいくわ。約束する」 マークはアレックスの萎えた一物を握ったまま、肩をすくめた。「どうしようもねえよ。ルールは知ってるだろ?」 アレックスはため息をついて、うなだれた。「分かってる」 「たぶん、次はうまくいくよ」とマークは立ち上がり、ズボンのチャックを降ろし始めた。「お前、勝たなくちゃいけないからな」 アレックスには、それが的外れなのは分かっていた。彼は、もう何ヶ月も勃起していないし、体の化学的変化に伴って、決して勃起できない体になっているのも分かっていた。もう、引き返すことができる地点を過ぎてしまっているのだ。 「あんたは、これをする必要ないわ」とアレックスは昔からの友人に顔を向けた。「誰にも分からないもの」 「あいつなら知ってるよ」とマークは答えた。ズボンの中から出したペニスを握り、何回か、しごいた。それは何秒もしないうちに、勢いよく勃起した。「優しくするから」 「まるで、そこが重要だって感じの言い方ね」 「あきらめることは考えたことねえのか? お前は可愛い女になったんだ。もう、男のふりするのをやめるだけで、今よりずっといい生き方ができるぞ?」 「いや、できない」 「誰もお前に文句は言わねえよ。それに……こんなことを続ける必要もなくなる。自由に自分の人生を歩いていけるんだぜ?」 「今のままでいいの。次はうまくいくわ。次は勃起できる。本当に。だから、これを早く済ましてしまいましょう。順番が来るのを待ってる男たちが、いっぱいいるから」 「でも……」 「ちゃんと自分の仕事に戻って、あたしにヤリなさいよ、マーク。これについては、これ以上、話したくないわ。これで話は終わり。今はあたしたちにできることはないんだから。あんたは男でしょ。あたしはエロ女。それがどういうことを意味するか、あんたもあたしも知っている。だから、あんたは、ここに来た目的を果たせばいいだけ」
 65_A plea for help 「助けてほしい」 「わーお、シャネル。びっくりしたよ。前よりずっと綺麗になったな」 「やめてよ、トミー」とボクは彼の言葉をさえぎった。「それにシャネルと呼ぶのもやめて。それがボクの名前じゃないのは知ってるでしょ?」 「どうかなあ」とトミーは予想した通りの返事をした。「大きなことだったんだよ。お前がカミングアウトしたんだから。それを受け入れるのはキツかったんだぜ。正直言うとな。だが俺は受け入れたし、みんなも受け入れた。なのに、お前はいまさらそんなことを言っている」 「それは全部、嘘なんだよ、トミー!」ボクは半分泣き声になっていた。パニックになっていた。「ちゃんと聞いてる? ジーナのせいだと思う。ジーナがやったと思ってる……」 「催眠術をか? そう言いたいんだろ? それとも魔法とか?」 「わ、分からないけど……でも……」 トミーは声には出さなかったけれど、笑っていた。「お前マジ? 俺、ジョークを言ったつもりだったんだけど。催眠術なんかねえよ。魔法もな。俺も何かは知らねえが。バカな冗談か何かかもな。ともかく、そんなのマジでありえねえよ。お前、本当の自分になると、オンナの体になると、こんなとんでもねえ取引をやったんだろ。なのに今になって、お前。……おい、お前、何やってんだよ?」 ボクはすでにトップを脱いでいた。上半身を露出して、体の変化の大きさを見せていた。彼がさらに何か言う前に、ボクはジーンズも脱いで、足首まで降ろしていた。さらにパンティも降ろしかけていた。そうボクのパンティ。「これ、見てよ! ほ、ほとんど、なくなっているんだ。ジーナはボクのタマまで取ってしまったんだよ、トミー! それにボ、ボクのちんぽ。これって……ああ、これって……」 トミーは両手を前に突き出して、後ずさりした。別れ話を言われてヒステリーを起こした女性を前にしたような感じだった。ボクは、兄からも同じような扱いを受けたことがある。「助けてほしいのよ。分かる? ボクのことを信じてくれる人が欲しいの。ジーナがどうやってこれをしたか知らないけど、ボクが自分のことをコントロールできていたのは、あの独身男の会が最後で、その後は……」 「それって2年前じゃねえか、シャネル。……いや、すまん、チャーリーだったな。で、2年もの間、その呪いだか何だかにかかり続けているって言ってるのか? そんなの狂ってるだろ。分かってるのか、お前?」 「わ、分かってるよ……でも本当なんだ。ボクは全部覚えてる。本当に。抵抗しようとしたけど、できなかった。自分でいようとしたんだ。でも、その間もジーナはずっとボクを先に、先にと追い立てていて。ボク自身、分からない……もう何が本当か分からないよ。ただ、助けが欲しいだけなんだよ。どうなってるのか知りたいんだ。ボクを助けてくれる?」 「俺にできることなら何でもするぜ」 ビックリした。ボクは満面の笑顔になった。「ほ、本当?」とボクは両腕を広げて彼に抱きついた。ぎこちなかったけど、心を込めて抱き着いたつもりだった。その時の安心感は言葉では言い表せない。とうとうボクのことを信じてくれる人が現れたのだから。「ああ、ありがとう! 本当にありがとう!」 「俺たちがお前を医者に連れて行くよ。何が起きてるか調べることにするから。原因が何であれ、お前をちゃんと元通りに直してやるからな」 ボクは彼から離れた。「い、医者って?」 トミーは笑っていた。「いつもの医者だよ、シャネル」とトミーはボクの両肩をがっちりと抑えた。体をよじって逃れようとしたけど無理だった。「お医者さんがお前をちゃんとしてくれるぜ。そうすれば、今日のことなど思い出すこともなくなるだろうな」
 56_A nice thought 「良い考え」 スマホを掲げ、あたしの姿が映ってる鏡に向かってシャッターを押す。鏡の中、複数回の手術と長年にわたるホルモン処置と数えきれないほど長いエクササイズの結果であるあたし自身が、あたしを見つめ返している。ベストに見える写真を得ようとシャッターを押しながら、あたしは思わず笑顔になっていた。ベストの写真を得るのに時間はかからなかった。微笑んでしまう。3回ほど押しただけで、ベストの写真が撮れた。 スマホのボタンを何度か押し、この完璧写真をメッセージに添付した。そのメッセージは「この娘があなたの帰るのを待ってるわよ」 珍しいメッセージではない。特に夫婦の間では珍しくはない。彼女が出張に出て、とても恋しくて淋しかったし、彼女も同じ気持ちなのを知っている。こういう写真は、ケア・パッケージのようなもの。家に帰れば何があるかを忘れないようにするためのもの。他のカップルも似たようなことを互いにしているものだと思っている。 でも、お腹のあたり、ぞわぞわする不安感から逃れられない。こういう写真を送る時をずっと待ち望んでいた。自分の体、自分の本当の姿に自信を持てる時が来ることを、こういうあたしを、あたしと同じくらい求めている人が現れる時が来ることを、ずっと待ち望んでいた。 でも、ぼんやりとだけど、家族や昔の友達が新しいあたしのことをどう思うだろうと思うことがある。これだけ変わってしまったので、みんな、あたしのことが分からないだろうと思う。みんなは、あたしがこの種の美しさを秘めていたとは決して思っていなかっただろう。みんなが知ってるのは昔のあたし。いつまでも童貞だとからかわれ、女の子には決して近づけない、ウジウジした内向的な男。それがみんなの知ってるあたし。 いまだにみんなあたしを笑うのだろうか? その疑問がどうしても浮かんでくる。みんな、あたしを変態だと言うのだろうか? 科学の実験台になったのだとか? この体に変化する間に耳にした何百もの様々な毒を含んだ呼び方。あたしをそう呼ぶ人はいるだろう。それは確実だ。そんなわけであたしは故郷には帰らなかった。でも、誰かがあたしを受け入れてくれるかもしれないと期待してるし、祈ってる。そんな人がいたら素敵だと思う。
 2017-12-03 A writer and an editor Hi, Mr. Brooks. I'm sorry for my appearance. I just want to take a bath before you arrive. My hair is still wet and I should not be bare-footed. If you feel uncomfortable, please let me know. I'll quickly change my wear. Well, Mr. Brooks, this is the place we prepared for you. Do you like this? In this room, through this whole weekend, you will have to complete the new book you have been working on, and I will see to it until you finish it. Of course, I will take care of all of your necessities, from stationary to clothes and foods. Everything you will need for the completion of your work. After all, it is the editor's duty to make writers complete their works. If you want something, please feel free to let me know. By the way, do you mind if I ask just one question about the novel you are working on? I'm just wondering about the development of the story in the chapter 5. In this chapter, the main character of the story John, a talented businessman, and his secretary Cherry finally make love in a hotel. I find this part is the climax of your story, because we readers have been teased about the relationship between them for such a long time. But...the description of their love making was... sorry if you feel bad...less impressive than I had expected. It's just embracing, kissing and caressing and ...when I turned the next page, looking forward to more intensive and exciting scenes, I only found their conversation in the next morning! I may say we readers want more details about their lovemaking, don't you think so? You are wondering what I am talking about, and why I had taken a bath before you arrived here, aren't you? Well...I have one simple proposal...That is...Why don't we try acting a lovemaking couple before you continue your writing? Just in order to improve the description in chapter 5, you know. If we actually experience the scene as John and Cherry, I think we can see more clearly how they behave and how they feel in their lovemaking, and it will surely contribute to your story. So, would you please be John the main character until tomorrow morning? I will be Cherry, of course. And after that, you will focus on writing, OK? Of course, it's my pleasure to help you refine your story. Maybe I will be given my own pleasure in this, as well. After all, it's the editor's duty to make writers complete their works, isn't it, Mr. Brooks? 2017-12-03 「作家と編集者」 こんにちは、ブルックス先生。こんな格好でごめんなさい。先生がいらっしゃる前にお風呂に入っておきたくて。髪はまだ濡れてるし、裸足もいけないのだろうけど。もし、この格好がご不快でしたら、おっしゃってくださいね。すぐに着替えますから。 ええ、ここが先生にご用意したお部屋です。お気に召しました? このお部屋で、この週末をかけて、いまご執筆中の新作を完成していただきます。書き上げられるまで、私がしっかりと見届けさせていただきますからね。もちろん、文具から衣類、お食事に至るまですべて、ご入用のものは私がお世話いたします。新作の完成に必要なものは何でも。何と言っても、作家先生に作品を完成していただくことが編集者の仕事ですから。何か欲しいものがありましたら、気兼ねなくおっしゃってください。 ところで、いま取り掛かっていらっしゃる小説についてひとつだけ質問があるのですが、伺ってもよろしいでしょうか? 第5章での話の展開についてなのです。この章で、主人公である有能なビジネスマンのジョンと秘書のシェリーが、ホテルでようやく結ばれますよね? ここは、先生のお話しのクライマックスだと思うんです。だって、読者はふたりの恋愛についてずっと焦らされ続けてきたのですもの。でも、ここの愛の場面が……お気を害してしまったらごめんなさい……でも、ここが思ったよりつまらなくって。ただ、抱擁して、キスをして、愛撫して……それでもっと激しくワクワクするようなシーンが来ると期待して次のページをめくったら、ふたりは翌朝、おしゃべりをしてるだけ。読者はもっと詳しい描写を求めているんじゃないかと思うんです。こんなこと言ってごめんなさい。 なんでこんなこと言ってるんだ、それに、なんで先に風呂に入ってるんだとお思いでしょうね。それについてですが……ひとつ、単純なご提案があるんです……つまり、その……ご執筆をつづける前に、あたしと先生で愛し合うカップルを演じてみるのはどうかと。第5章の描写をより良くするためだけですよ。実際にジョンとシェリーとしてシーンを経験してみたら、愛し合うふたりがどういうふうに振る舞うか、どういう気持ちになるか、もっとはっきり分かると思うんです。そうすれば、先生の小説のお役に立つのは確実ですもの。だから、明日の朝まで先生には主人公のジョンになっていただけますか? 私はもちろんシェリーになります。そして、その後はご執筆に集中していただくと。いかがでしょうか? もちろん、私としては先生のお話をより良いものにする手助けができることは、喜びですわ。もしかすると私自身も喜びをいただけると思うし。何と言っても、作家先生に作品を完成していただくことが編集者の仕事ですから。そうでしょう、ブルックス先生?
 56_A different path 「別の道」 「どういうこと?」 モーリーは、かつて自分の彼氏と思っていた人物から目を離すことができなかった。花柄のプリントドレス、長い髪、そしてハイヒールの姿で、彼とは思えなかった。だけど、最も謎だったのは彼の服装ではない。モーリーが本当に気になったところは、彼のドレスのネックラインから覗くはっきりと乳房と分かる胸の隆起だった。 ジャック、いや今はジャッキーだが、彼は体の位置を変え、モーリーにドレスの中を垣間見せた。彼は下着を履いておらず、彼の男性の器官が一瞬、見えた。それを見て、モーリーはどういうわけかある種、安心した気持ちになった。彼は身体を完全に変えたわけではないと知ったからかもしれない。 「理解できないことって何? まさか、何でも同じままでいるなんて思ってたりしてないでしょうね? モーリー、あんたはあたしを捨てたの。あたしは先に進んだだけ」 「で、でも……今のあなたは……」 「オンナ?」ジャッキーは肩をすくめた。「そういうふうに呼びたいなら、だけどね。個人的にはラベルなんかいらないって思ってるけど。女? 男? シシー? 両方? どうでもいいわ。好きに呼べば?」 「でも、何が起きたの?! 最後にあったときは、あなたは……」 「ええ、分かってるわよ」とジャッキーはモーリーの言葉をさえぎった。「それに、あんたが、何が起きたか知りたがってるのも分かってる。理解してるわ。でもねえ、あんたは全部教えてもらえる立場にないんじゃない? あんたはあたしを捨ててった。忘れないでよね。あんたは別の人生を生きることに決めた。だから、あたしも同じことをしなくちゃいけなくなったわけじゃないのよ。あんたに教えられるのは、そこまでね」 「いいえ! 違うわ! それじゃあ充分じゃない。教えてもらう権利があるわ。説明のような話でも。どんなことでも。ジャック!」 「今はジャッキーよ。……オーケー、何が起きたか知りたいのよね? いいわ。あたしは、あるカップルと出会ったの。その人たちがあたしが本当は何を望んでいるのかを悟る手助けをしてくれたわけ。あたしが望んでいたのは、誰かしっかり手綱を握ってあたしを導いてくれる人だったのよ。その人がいろんな決断をしてくれる。その人があたしに何を着るべきか、何を食べて、どういうふうに振る舞うかを教えてくれる。あたしは自分自身でどうするかを考えたり悩んだりする必要がない。あたしの代わりに、その人が考えてくれる」 「そ、それで、その人たち、あなたにこんなことをしたの?」 ジャッキーは高笑いした。「あの人たちに任せると、あたしが決断したのよ。……ええ、最初はちょっと疑っていたわ。でもね、今はすごくちゃんとしてる気持ちよ。こんなに幸せを感じることって生まれて初めて」 「でも、それって、あなたは奴隷だと言ってるのと同じじゃないの! そんなの……」とモーリーは声を荒げた。 「奴隷。召使。どうでもいいわ。あの人たちがあたしの面倒を見てくれてるわけだし。あたしも、そのお礼に、あの人たちの面倒を見てあげている。あたしたち、そういうふうにして生活しているのよ。あたしは、そういう生活をしたいの。だから、ええ、あんたがあたしに会いたがった理由は分からないけど、でも、何を考えていようと、それは実現しないわよ」 「でも……」 「じゃあね、モーリー。あんたに会って楽しかったわ」
 65_A Christmas gift 「クリスマス・プレゼント」 「やあ」とトニーは暖炉の前に立って言った。ほとんど全裸の裸身を晒している。クリスマス風のアクセサリを除いては、何も着てないも同然。真ん前にいる彼の妻は、彼よりずっと普段着と言える格好。スラックスと白いボタン・ダウンのシャツの姿だ。 「あら、あなた……とても素敵よ」と彼の妻のマンディが答えた 「バカみたいなんだけど」 トニーはそう言って、自分の横腹をさすった。それは控えめな言い方だった。手術から回復したばかりで、彼はまだ自分の新しい体の女性的な曲線に慣れていない。「ほ、本当に、これがあなたが欲していたもの?」 マンディは前に進み出た。彼女の返事は、目に浮かぶ間違いようのない淫らな気持ちで分かる。マンディは夫のトニーを抱きしめた。トニーは抱きしめられながら、1年前のクリスマスからずいぶん変わってしまったことを思わずにはいられなかった。当時不幸のどん底で、離婚の危機にあったふたりは、それぞれが抱く欲望について現実的に話し合う状況に追い立てられた。そして、マンディは、本当のところ、男性に興味がないことを告白したのだった。本当はサッフォー的な本性( 参考)を持っていて、それをそれまでの人生の大半、ひた隠しにし続けてきたのだ、と。それを聞いて、トニーは、この結婚は破滅に向かうという避けがたい結論に達したのだった。 夫婦でいたい気持ちはやまやまだったけれど、彼は心の準備としては完全に別れる気持ちでいた。どうやっても、自分はマンディが求める存在ではないのだし、認めるのはとてもつらかったものの、自分の妻を今までのような恐ろしい状況に縛り付けることなど、良心が許さなかった。だが、彼が決心を固めた頃、彼女はやり直すためのチャンスを提案したのだった。 「本当にここまでやってくれるなんて、信じられない気持ち」とマンディはいったん体を離し、彼に言った。「何と言うか、この1年間ずっと、あなたはやめるとばかり思っていた。諦めてしまうと。ホルモンとかいろいろやっている時ですら、ずっと疑っていたの。手術を受けることにした時まで、あなたはあたしと別れると思っていたわ」 トニーもそれを考えた。それも一度だけではない。髪が長くなり、むくむくと体に曲線が出てくると、自分が選んだ道は正しかったのかと悩んだ。でも、そういう疑念が生じるたびに、彼はもともとの理由を思い出した。どれだけ妻を愛しているかを思い出した。それだけでも、これを継続するのに十分だった。 「絶対に別れないわ」とトニーは言った。彼の声は彼女と同じほど女性的な声だった。「それは分かってるんじゃない?」 「ええ、今は分かってる」とマンディは彼の瞳を見つめた。そしてふたりはキスをした。マンディの舌は攻撃的にトニーの口の中に侵入し、トニーはそれを情熱的に迎え入れた。ようやくキスを解いた後、マンディは微笑み、トニーに言った。「あなたにクリスマス・プレゼントがあるの」 「これではプレゼントとして充分じゃないの?」と、トニーは自分の豊かな乳房を揉んで見せた。 マンディは笑って、体を離した。「それは、あなたへの贈り物というよりは、あたし自身への贈り物だもの」 そう言って彼女は身を屈め、赤と緑の紙でラッピングされた箱を拾い、彼に手渡した。「メリークリスマス!」 トニーはゆっくりと包み紙を剥がし、何も書いてない紙箱を露わにし、その後、ふたを開けた。そしてハッと息を飲んだ。中のモノを取り出し、彼は言った。「これをあたしに?」 マンディは笑顔になった。「最終的には、そう、あなたの中に入って、あなたのモノになるけど……」と彼からストラップオンを取り上げ、「そうするためには、あたしがそれをつけなくちゃ」と続けた。 「あ、あたしに……。それを……したいの……」 「あなたはきっと気に入るわ」とマンディは彼の胴の部分に指を這わせた。「保証するから」
 64_A bet 「賭け」 「で、マーク? おカネの分け前、どうするつもりなの?」 「まだ、あたしたち、勝ったわけじゃないわ、セス」 「やめてよ。あの娘たち1年も時間があったのに、まだ何もやってないじゃない。どうやったら負けるわけ?」 「分からないわ。でも、あの娘たち自信たっぷりな感じなんだけど」 「あの娘たち、あたしたちに強気なところを見せてるだけよ。今だあたしたちに催眠術をかけていないんだから、これからもあり得ないわ」 「そうだけど、でも……」 「催眠術を掛けられてる感じがする? っていうか、あたしはそんな気がしないから訊いてるんだけど。あたしは前と変わらず男だもの」 「分かるわ、セス。あなたを見ればわかるもの。でも、今夜、あの娘たち何かしたらどうする? あたしたちを知ってる人が全員集まるのよ? あたしたちをマヌケに見せるとしたら、これって格好の機会じゃない?」 「あなた、もう心配するのはやめたら? 今夜は1年ぶりにパパとママに会うのよ。ちょっと印象を与えたいと思ってるの」 「そういえば、あなた、黒いドレスは淫らっぽく見えるんじゃないかって心配してたわね。その気持ち、分かるわ。でも、あれを着ると、あなた最高よ。とっても」 「心配してないわ。あのドレスが似合うのは自分でも分かってる。あたしが心配しているのは、あなたのことよ。あなた、最近、カリカリしてる感じがするわ。お兄さんとして可愛い弟の心配をするのは当然でしょ?」 「あたしは、ただ、このバカげた賭けが早く終わればいいなと思ってるだけ。あの娘たちが、あたしたちに自分が女の子だとかって思わせるって、そんなのありえないのは分かってるんだけど……」 「だけど、心のどこかに引っかかってるんでしょ? あたしもそうなの。だけど、それは、無視するだけでいいんじゃない? あなたはあなたであって、変わらないわけだし、あの娘たちがあの賭けに勝つなんてありえないわけだし。そもそも、最初からバカげた話しよ。あたしたちに催眠術をかけるですって? バカみたい」 「そうよね? 超バカみたい」
 56_Whats going on through his mind 「何を思ってるの?」 彼の心の中で何が起きてるのか知ることができたらいいのにと思う。彼は自分に起きたことを知ってるの? 自分がどんな人間になったか知ってるの? 知ってるに違いない。だって、どうしたら、分からないでいられるのかと思うから。でも、彼は分かってる様子を見せない。自分の体が変わったことを自分で認めることもない。どうしても、彼の頭の中はどうなってるのと、思ってしまう。 表向きには、彼は、あたしが彼の外見について「提案」をしてるだけと思ってる。どんな服を着た方が良いとか、そんな感じで。でも、彼は自分の服がずいぶん前から、ユニセックスなものではなくなってることを知ってるはずなのに。そうじゃない? パンティとかスカートとか、ドレスとか。誰でも、そういう衣類を見たら、他に考えようがないと思う。 彼のお友達はみんな、彼から離れてしまった。そうなるのも当然じゃない? だって、彼は以前の彼とは全然違う人になってしまったんだから。友達がいなくなって彼は深く傷ついたけれど、彼が友達と共有していた共通の土台がすっかり消えてしまったことは彼でも否定できないと思う。あたしは今も彼には新しいお友達ができてほしいと思い続けているし、今のような女性性を受け入れてほしいと思い続けている。彼の背中を押してあげるべきなのかもしれない。あたしから彼に新しいお友達を用意してあげる必要があるかもしれない。 そういったことについて彼の答えを知ることができたらいいと願ってる。でも、あたしはよく見もせず飛躍していたと思う。彼がこういうことすべてを実際に経験してきたことをあたしは考えなかった。普通、パンティをひとめ見たら、すぐに、のけぞって離れるはずだと思う。でも彼はおどおどした様子で、パンティを受け入れた。同じことが、身だしなみとかお化粧とか髪の毛とかでも起きた……あたしはやめることができないけど、彼も、うぶすぎて言い返さなかった。 どこまで行くのかしらと思う。今すぐ勇気をもってやめるべき? 本当にやめることをあたしは求めてるの?
 56_Under my control 「あたしの支配下」 あたしは、人を操る悪い女。自分がどんな人間かについて、否定しても意味がないので、否定はしない。人を支配して、その人が普通なら避けるような状況に追い込んで、その人の周りの世界をすっかり変えてしまうと、ものすごく興奮してしまう。そんなことをすると、ちょっと狂ったこともすることになるのは分かってるけど、自分は自分だから、これでいいと思っている。 と、そこまでは言ったうえで言うけど、あたしがレイチェルとチャドが競い合うよう、ふたりを変えたことが、あたしのこれまでの短い人生でも一番大きな達成だと言っても、信じてくれるんじゃないかしら? ふたりと出会ったとき、ふたりはごく普通のカップルだった。若くて、バカで、頭の先からつま先まで愛し合ってるカップル。……ええ、ふたりのそばにいるだけでも、ムカついたわ。だから、ふたりの関係を変えてやろうと決めたの。 作り話をしようとは思わない。ふたりを変えるのは難しかったわ。ふたりの人生にこっそり忍び込んで、ふたりを競わせる。そうするために知ってる限りのあらゆる技を使わなくちゃいけなかった。まずは、ふたりにあたしを好きになってもらわなくちゃいけなかった。ふたりに、あたしを喜ばしたいと思ってもらうことも必要だった。ふたりの間の関係のすべてにおいて、あたしが中心になる必要があった。そして、半年間、頑張った結果、望み通り、あたしがふたりの間の中心になれた。それからだったわね、面白くなっていったのは。 人を操る場合、どんな場合でも、嫉妬心は強力な道具になる。一方の人にだけ好意を示すと、どんなにわずかな好意でも、もう一方の人に妬ましさの気持ちを与えることができる。すぐに、ふたりとも、あたしの小指で操れるようになっていた。ふたりとも、あたしが望むこと何でもするようになっていた。 女性をレズビアンに変えるのは楽しい。レイチェルのようなお堅い女をいちから変えるのは面白い。でも、男をレズビアンに変えることは、もっと楽しい。ましてや、その両方をするとなると……もう、どれだけ楽しいか、言い表す言葉が見つからないほど。 チャドは、あたしがレイチェルの方が気に入ってると知ると、すぐに彼はレイチェルのような姿になろうと努力し始めた。あたしが、必要な時、彼にこの道を進むように背中を押したのは確かだけど、女性化の大半は彼自身が自分で考えてやったこと。 そして、今はどうなったかって? まあ、ご覧のとおり。エロ女ふたりを完全にあたしの支配下に置いている。ふたりにさせたいと思ったこと、何でも、やらせることができる。まあ、しばらくはこれで楽しめると思うけど、あたしはサイクルがあるのを知っている。つまり、じきに、あたしはふたりに飽きちゃうだろうということ。その時はふたりを解放しなくちゃいけなくなるわね。でも、その時は、次の計画に取り掛かるつもり。 次は、ひとつの家族全員を変えちゃうつもり。それって面白そうじゃない?
 56_Truth or dare 「真実か挑戦か」 「いいから、もう撮れよ、チャック。ボクはできるだけ早くこんなバカげたことから逃れたいんだよ」 「いいから。ただのジョークなんだからさ。それにお前、実際、結構イケてるぜ」 「そんなこと言われたって、嫌なことには変わりないよ。早く済ましてしまおうよ。いいね?」 「分かったよ。じゃあ、ポーズ! あの女物の服も試してみようぜ。じゃあ、シャッター押すよ!」 「こんなことするよう君に説得されたなんて、ボク、信じられないよ」 「大したことじゃないよ、ブライアン。リラックスしてさ。これが終わったら、女の子たちにも、俺たちが金儲けのためにこれをやってると分かるから」 「ああ、彼女たちが誰かに写真を見せるまではな。その後はどうなるんだよ? それに、眉毛を剃ったことについて聞かれたら、何て言ったらいいんだ? それに……」 「おいおい、頼むよ。誰も気にしないって、ハンター。『真実か挑戦か』( 参考)なんだから。この遊びでは、誰でも狂ったことをやるもんだろ? それに女の子たちに『挑戦』をさせるとき、どんなことをさせようかって考えるとワクワクしねえか?」 「チャック、彼女たち、みんなうんざりした顔をするぜ? それが分からないか?」 「もちろん、分かるよ。でも、俺はブリタニーにしたいことをさせるつもりだ。彼女が俺と一緒に寮の俺の部屋に来てくれるなら、何でもさせてやるつもりだぜ」 「ありえないな」 「それはお前が思っていること。今夜が、ブリタニーと俺が結ばれる夜だ。俺には分かる。お前たち、前に俺がこういう格好した時の彼女を見るべきだったぜ。ブリタニーは大興奮したんだ。そして……」 「ちょっと待って? 君、前にもこれをしたことがあるの? なんてこった!」 「ただの遊びだよ、ハンター。ロールプレイな。そしてブリタニーはこれにすっかりハマってる。見てれば分かるから。女の子たちみんなハマってると思うぜ。賭けてもいい。約束するよ。今夜が終わるころには、お前たち、俺に感謝しているはずだって」
 56_Thin line 「薄皮一枚」 愛と憎悪の間は薄皮一枚。これは、古くからある言葉だけど、あたしにとっては、これほど真理を言い当てている言葉はない。あたしは彼を愛している。少なくとも、彼はあたしをそういう気持ちにさせてくれる。彼といるときほど、自分が人から切に求められていると感じることがない。彼があたしを見るときの顔。彼があたしに触れるときの触れ方。その他の何万もの些細な仕草。彼があたしを欲しているのが分かる。彼にとって、あたしは誘惑の絶対的極致だと分かる。あたしは彼の理想そのもの。そんな場合、人が自分は特別だと感じないわけがない。 でも、そのコインには裏面もある。あたしが今のあたしになったのは彼のせい。彼が、あたしを今のあたしに変えた。彼の求めに応じて、あたしは自分の体を彫刻するように変えていき、彼にとっての完璧な相手を作り上げてきた。それについて、あたしがどう考えていたか、同意したのかは、関係ない。考慮すらされていない。 彼は、あたしの人生の進路を変えてしまった。あたしから男性性を奪い、あってはならない形にあたしの姿を変えてしまった。その点であたしは彼を憎んでいる。これ以上ないほど憎悪している。憎悪の味を知っている。憎悪の匂いも知っている。憎悪はあたしの体幹へと染み込み、あたしの中核はそれに感染している。 でも、それでも、そのことについて感謝する気持ちになってしまう時がある。贅沢な暮らしをしているし、欲しいものはすべて手にしている。それに外の人々に対しては、あたしは彼の妻として通っている。本当のあたしを知っている人は誰もいない。嘘をついてるのは確かだけど、でもそれはあたしを保護するための嘘。 喜びもある。あるどころではなく、数えきれないほどある。あたしは、彼の導きで、肉体的な愛の行為を愛するように育てられてきた。今はその行為をいつも求めている。いつも切なく欲している。その点で、あたしは彼と同じ。その点で、あたしたちはひとつの極上の喜びを共有している。 愛。憎悪。多分、このふたつは、別々の視点から見た、同じ一つのことなのだろう。分からないけど。でも、そんなことは関係ない。あたしは今の生活から逃げられない。これがあたしの人生。どういう形にせよ、この人生を続けていく他、あたしには道がない。
 56_A new guy 「新人」 「じゃあ、あんたが新人さん? ふーん」 とボビーが言った。彼は黒いウサギ耳をつけている。他に身に着けているものはほとんどないも同然。ボビーの隣にはサムがいた。彼は細いストリング・ビキニを着ている。やはり彼も、曲線豊かな体をほとんど隠していないも同然だった。 「え、ええ…そうだと思う」とティムは答えた。握手をしようと手を出しながら言った。「ボクはティム。でも、ダイアンさんから、ここで働いてる間はダイアモンドという名前を使うべきと言われてる」 「ダイアモンド? マジで? 彼女、いつも最悪の名前を選ぶわよね」とサムが言った。「あたしはマーキュリーって名前を付けられたわ。ボビーはスパークルって名前。でも、舞台では本当の名前を使えそうな感じじゃないもんね」と彼は肩をすくめた。 「で、あんた、どうしてバンズに来ることになったの?」とボビーが訊いた。「あんたの奥さんが、可愛い秘書と逃げたとか?」 「ボ、ボクは……なんて言うか、ボクの仕事の領域では誰もボクを雇ってくれないだろうって思って、ここに来たんだ。男女差別の訴訟を起こそうとしたんだけど、どの弁護士に相談しても大笑いしてボクを彼女たちのオフィスから追い出して。男がコンピュータ・プログラマになろうなんて冗談にもほどがあるって、彼女たちみんなそう言うんだ」 「確かに、そんなプログラマ、聞いたことないわね」とボビーが言った。「それに、いい? ここではあんたはただのストリッパーなの。お客の女たちには、大学に進むために働いてるとかって言うのよ。そっちの方がよっぽど信憑性があるから」 「それに、もし女の人があなたと裏部屋に行こうとしたがったら……その意味分かるわよね?……ともかく、その場合はダイアンさんに教えること」とサムが付け加えた。「彼女、裏部屋でちゃんとあんたが安全でいられるようにしてくれるから。それにちゃんとお客の女がカネを払うよう仕切ってくれるわ」 「それって、まるで、こんなガリガリの痩せシシーとやりたいって思う人が出てくるみたいな言い方じゃない?」 とボビーが皮肉を言った。「ひとつだけアドバイス! あまり居心地よくならないこと。ここには男たちがいっぱい来ては、すぐ出て行くんだから」 ティムにはそれ以上、説得の必要がなかった。彼はずっと前から、これは一時的な解決案にすると決めていた。自立できるまでの仮の仕事と。一生、ストリッパーを続けていくつもりはないと……
 56_The ladder 「出世の階段」 「脚を上げて」とターニャが言った。エリックは言い返すこともなく、指示に従った。彼は、この職が不安定であることを知っていたし、ここまで這い上がってきた道から外れるつもりもなかった。ここまで来るのにあれだけ耐え忍んできた後だけに、なおさらだった。 エリックのアナルに、今やすっかり馴染みとなっているターニャのストラップオンがえぐりこんできた。それを受けて彼は悩まし気なヨガリ声をあげた。ターニャには、彼がこれを望んでいると思ってもらわなければならない。こういうことをすることがターニャの性的妄想のひとつなのだ。そして、そうであるがゆえに、彼は、こういう反応をしなければならないのだった。 一度ならず、エリックは、自分が本当に正しい選択をしたのだろうかと疑問に思っている。正しい道を選んできたのだろうかと。仕事の面について言えば、ターニャにこうして体を使わせていることは、疑いようがなく成功している。彼は、社内での出世の階段を、彼の動機の誰よりも早く駆け上ってきた。女体化の段階を進むたびに、昇進をしてもらった。しかし、個人的な面について言うと、自尊心が急速に朽ちていく意識に打ちひしがれていた。 彼の仕事の上での能力は関係ない。彼は数多くミスをしてきたが、すべて無視された。彼は、ターニャの求めを拒まない限り、非難から守られてきた。毎日、職場ではその立場が補強されていくばかりだったし、毎晩、家では自尊心と安定した職と自尊心の葛藤に悩まされるのだった。 もちろん、職場の誰もが、エリックはターニャが飼ってるシシーだと知っている。実際に行為をしているところを目撃した者はまだ誰もいないが、にもかかわらず、誰もが事実を知っていた。エリックも、同僚たちの意味深な目つき、薄ら笑う顔つき、それとなく聞こえるヒソヒソ声を無視できなかった。彼は、あらゆる意味で、体を売っているのである。確かに高額を受け、有力者に囲われてはいるが、娼婦であることには変わりがない。 エリックは、この状態をいつまで続けられるだろうかと思わずにはいられない。
 56_The commune 「コミューン」 「コミューンにようこそ。あたしはセス。あなたのガイドができてうれしいわ」 「あ、ハイ、セス。ボクは……」 「フェリックスよね? 知ってるわ。あなたとあなたの奥様のような新人は、そんなにいつも来るわけじゃないの。ここにいるみんな、あなたたちと知り合いになると思うわ」 「うん」 「質問があるんじゃない? あたしも初めて来たとき、そうだったもの。飛行機でオリエンテーションのビデオを見せられたけど、それでも理解できないことがたくさんあったもの。あたしが来たのは、あなたたちにここでの新しい生活に馴染みやすくなるようにするためなの。つまり、何か質問があったら、あたしができる限り答えるから安心して。何か必要なものがあったら、頑張って手に入れてあげるわ。あたしは、あなたたちのお助けのために来てるわけ」 「ということは……あなたも、ここでのことを経験してきたと?」 「もちろん、そうよ。不安になっているのは分かるわ。このコミューンは外部者にとっては恐ろしいところに見えるかもしれないもの。でも、このコミューンこそが、千年以上も前からの問題に対する最善の解決策だと理解すべきね。ちょっと訊いてもいい? ここに来たのはあなたの考え? それとも奥様の?」 「ふたりで決めたことです」 「じゃあ、奥様の考えということね。珍しいことじゃないわ。あたしたち男は、理想的な男らしさという時代遅れの考えにしがみつくよう、条件づけされているものだもの。強くて支配的に振る舞うように考えられている。ずっと前からそういうふうになっていた。でも、このコミューンでは、それに対して、こういうふうに単純な質問を問いかけるの。つまり、それで社会はどうなったのか、ってね。ここの外では犯罪率が史上最大にまでなっている。戦争はいたるところで起きている。貧困、不平等、抑圧もいっぱい。それが、世界の大半での現実。そして、その原因として責めるべきは、たったひとつ。それは、男らしさだし、その拡張として、家父長制ね。それが原因。だから、ここの創立者たちは、それを拒否しようと決めたわけ。例外なしで完璧にね。それがこのコミューン。やりたい放題の男性社会という砂漠に現れた、命の源泉となるオアシス。それがこのコミューン」 「ええ。それはパンフを読んで知っているよ。だから、ボクはここに来ることに同意したんだ」 「じゃあ、どうして? なんだか気乗りがしてなさそうなんだけど? みんな同じなの。だから、あえて訊くけど、あなたはどうしてここに来たの?」 「正直に言っていい? それはここが事実上ユートピアだからじゃないか? 生活の質も、ヘルスケアも、それに……」 「それだけでも、重要な点を示してるわね。でも、完璧さというものは、犠牲なしでは手に入らないものなの。それは、ここに来る前に知ってるわよね。あたしには、あなたがその犠牲に対応できるよう手伝う役目もあるの。まず、このコミューンでは男性は衣類を着ることが許されていないの。だから、施設に入る前に、すべての衣類を捨てなくてはいけないわよ。それから、もちろん、あなたの体も再構築する必要があるわ」 「さ、再構築?」 「変身のこと。それを格好よく言い換えた言葉よ。遺伝子治療とホルモン置換治療を組み合わせて一連の処置を受けるの。そうするとあなたの体はもっと女性的な、もっと嬉しい形に変わることになるわ。あなたは一定の体形になることが求められるでしょう。さもなければ、あなたも奥様もここから出て行ってもらうことになるでしょうね。その処置が終わったら、あなたの男らしさを示すものは脚の間にあるモノだけになるわ。あなたの立ち位置を常に意識できるように、ソコだけは残されるの。さあ、あたしについて来て。早速、処置に入るから。その後のユートピアの人生があなたを待っているわ!
 56_The betterment of men 「男性の改善」 あたしたちは男性を嫌ってるわけではない。恐れているわけでもない。世界中の問題について男性を責めているわけでもないし、女性が優れていると思ってるわけでも決してない。端的に言って、男ナシの世界を夢見ているわけではない。そんな世界は極値レベルで危険だし愚かだ。そうじゃなくて、あたしたちはより良き男性がいる世界を望んでいる。それって、高すぎる望み? 伝統的に女性的とされている性質とは? それは絵にかいたような男の中の男、極度に自己主張が激しく、際限がないほど攻撃的な性質とはとても違っている。けど、そういう性質が、今や、どの社会でも進歩のために必要になっている。そういった性質が、共感、相互理解、そして究極的には和解をはぐくむ。現代世界ではこういう性質が必須になっている。 男性の肉体的形態は、性質上、硬直的で変化せず、非常に攻撃的だ。そして、それは解剖学的形質としては劣った形質であると以前から広く学者の間では認められてきている。それとは対照的に、女性は柔らかく柔軟性に富む。年月が経るにしたがって、女性を「より美しい性」と名付けるようになったのも当然と言える。美しさという性質は、誰にでも獲得可能な性質であるから。 ペニスは、勃起すると支配のシンボルとなり、敵意を引き起こすことしかできない。でも、萎えている状態ならば、従順や受容を表す印となる。これらは望ましい性質であることは間違いない。 だから、そう、私たちは現代の男性を、より許容できる形へと変えてきた。より容認できる性質を持つよう導いてきた。そして、その結果、私たちが変えてきた分、この世界はより良き世界になっている。 男性の絶滅を求めているわけではない。私たちは、人類の進歩のために努力している。そういう進歩観の元では、男性は進化しているとみなせる。男性は、本来の立場を担うようになっているし、生来の体の形を持つようになっているし、最も良い意識を持つ存在になっている。そして、それこそ、みなさん、私たちの目的なのです。
 56_That kind of guy 「あの手の男」 「ライリー? ライリー・ピット? 本当にお前なのか?」 「あら、グレッグ。何してるの?」 「何してるのって? お前マジか? 自分を見てみろよ! なんて服着てるんだよ? それに、おい……脚、閉じろよ!」 「え、なんで? 居心地悪くなる? ひょっとして、ムラムラしてきてんの?」 「ムラムラだって? 違うよ……俺はただ……」 「落ち着いてよ。ちょっとからかってるだけだからさ。あんたはあたしのタイプじゃないわ」 「ということは、お前……ゲイになったのか?」 「バカ言わないで、ゲイなんかじゃないわよ。なに気にしてるの?」 「何も気にしてねえよ! ただ……分かるだろ? お前の服装、まるで……女だぜ。それに……」 「ガールフレンドがこういう服装が好きだから着てるのよ。あんたも、もうちょっとファッショナブルな服装したら、女の子みたいになれるわよ」 「で、でも、それって…それってお前の着る服じゃねえよ。お前が最後にジムに行ったのはいつだ? それに、お前のソレ……」 「第一に、あたしのアレをじろじろ見るのやめてくれない、グレッグ? 確かに小さいけど、トレーシーはこういうのが好きなの。それに、コレはあたしたちのセックスではあんまり重要な部分じゃなくなっているしね。それにジムなら昨日行ったわよ。ご注意、ありがとう」 「でもよ、お前の筋肉は……お前、前は俺よりずっとデカかったじゃねえか。それに、その『重要な部分』ってどういうことよ?」 「もう、何よ、これ? ぶしつけ質問10連発? 何もかも言ってほしいってわけ? いいわよ。トレーシーはあたしとする時、ストラップオンをつけるの。彼女の大きくて黒いストラップオンのおかげで、ふたりともすごく楽しんでるわ。それに筋肉なんて、誰も見たくないから、必要ないのよ」 「でも……」 「マジで言うけど、いい加減、黙ってよ。大したことじゃないんだからさ」 「で、でも…」 「あ、トレーシーが来たわ。ごめんなさいね、もう行くわ。あんたと会えて楽しかったわ。まあ、本当に楽しかったかは別だけど。ぎこちないってのが適切な言葉よね。多分、次に会ったときは一緒にショッピングか何かに行きましょう……」 「俺は……」 「じゃあね!」
 56_Sissy motivation 「シシーの動機」 あたしのようになりたいと思ってもいいのよ
 56_Sales pitch 「セールス・トーク」 「すごいわ、クララ。本当にすごい。ふたりとも知ってるの?」 「どういうこと?」 「つまり、何と言うか、ふたりとも自分が何をされたか知ってるかしら? それとも、よく分からないけど、催眠術とかをかけられているの?」 「催眠術は効かないわ。うまくいったことが一度もないの。だから、ええ、そう。ふたりとも知っているわ。もちろん」 「じゃあ、どうやってこんなふうに? 前のふたりのことは知ってたけど。もちろん、こんなふうじゃなかったもの。まったく、この気配すら感じなかったわ……」 「ハードコアのマニピュレーションよ。いい? 人間というのは、間抜けな人間ほど従順になるの。で、このふたりはというと? 最高レベルのバカだった。実際、そんなに難しくなかったわ。ほとんど抵抗もなかった」 「でも、どうやって? マークとトミーといったら……」 「花形選手? マッチョ男? それが今はあの通りの、間抜けなエロ女になってる? 何が起きたか知ってるわ。あたしが現場にいたから。というか、あたしがふたりを変えるように仕向けたの。いい? 心理学を理解すれば、そんなに難しいことじゃないのよ。すべて、条件付けの問題。ポジティブとネガティブの両方ね。良い行動をしたら快楽が得られる。悪い行動をしたら苦痛を得る結果になる…普通は心理的な苦痛ね。それを繰り返したら、最後には、ふたりとも、あたしが用意した狭い道をまっしぐらに歩き始めていたということ」 「ということは、あなたは、ふたりを自分の意思で女に変身するようにさせたってこと?」 「女じゃないわね。シシー。シーメール。あなたがふたりをどう呼びたがろうとも構わないけど、ふたりは自分を女とは思っていないわ。確かに男じゃないけど、女でもない。確かに、最初はうんざりするくらい脅かしがあったけれど」 「あなたがどんなことをしたのか知らないけど、結果は確かに素晴らしいわ。文句が言えないほど。これ、繰り返すことできる? それとも、ふたりの場合だけ可能だったということ?」 「ちゃんとした環境が整っていたら、誰でも変えられるわよ。あなたの旦那さんもね」 「それこそ、あたしが訊きたかったこと」
 56_Sacrifice 「犠牲」 「な、何と言ってよいか分からない」とグレッグは、古い見覚えのある写真を見つめた。「お前がこれを見ることはないはずだったんだが」 彼は写真を伏せてテーブルに放り、信じられなそうな顔をしている息子を見た。 デビッドは唇を噛んだ後、父に尋ねた。「これ、お父さんなの?」 グレッグは顔を背け、頭を振った。「当時は今とは違う時代だったのを理解しなければいけないよ。私は当時、今から考えると実に不思議な行動をする決心をしたんだよ。そして……」 「それで、これ、お父さんなんだね?」 グレッグは頷いた。「ずいぶん前のことだ。80年代。当時はね、ある種の人の集まりでは、男女の性区分というものは確固とした区別というより、違いの示唆程度だったんだよ。私はただ……」 「でも、どうしてこれがお父さんなの? お父さんには……その……」 「胸のインプラント。そして、私は20歳代の大半を女性として生きていたんだ」 デビッドにとって、この古い写真を見つけたときから、すべての謎が解けていくように思えた。写真を見た瞬間、これが自分の父の姿だと分かった。間違いようがなかった。だが、単に父と分かったことよりも大きかったのは、父について彼が知ってるすべてが、突然、完璧に理解できることに変わったことだった。彼の父はずっと前から特に男っぽい男性とは言えなかった。女性的な顔かたち、仕草、そして言葉使いなど、氷山の一角にすぎない。 「だけど、今はお父さんには胸の膨らみはないよね? 何が起きたの?」 「お前の母親は、私が出会った中で最も素晴らしい人だったんだよ。でも、おじいちゃん、おばあちゃんのことは知っているだろう? おじいちゃんたちはお前の母親が他の女性と関係を持つことを決して許そうとしなかったんだよ。だから私はインプラントを取り除いて、男性に戻る長い道のりを歩き始めた。でも、お前にだけに言うと、本当に男性に戻っているとは確信が持てないでいるんだ」 デビッドはこのことをどう考えてよいか分からなかった。彼はかすかに母親のことを覚えていた。彼の母親は肝臓がんで彼がたった6歳の時に亡くなっていた。デビッドの目に涙があふれてきた。 「たくさん聞きたいことがあるのは分かっているよ」とグレッグは息子の手に手を重ねた。「分かってるよ。私はお前に話すべきだった。話すつもりはあったし、いまこうして話してもいる。だけど、いつ話すかというと、いつを取っても、良い時間と言える時を見つけられなかったんだよ。いつだったら良かったのかな?」 突然、父が犠牲を払ったことの意味がデビッドの心に直撃した。「じゃあ、お父さんは、お母さんだけのために、自分のアイデンティティを捨てたということ? ど、どうして基に戻らなかったの? お母さんが……お母さんが亡くなった以上、また元の……」 グレッグは肩をすくめた。「それを考えたこともあるんだ。お前が小さかった時、そうしようとしたこともあったよ。でも、お前が大きくなるにつれて、あまり意味を見出せなくなっていってね。お前には普通の人生を歩んでほしいと思ったんだ、デビッド。そして、もしそれが私の側でちょっとだけ犠牲を払うことを意味するなら、それはそれで良いんじゃないか、とね」
 56_Resistance 「抵抗」 彼女の目に現れているのが見える。ボクに諦めてほしがっている。ボクも彼女を責めるつもりはない。ふたりとも、残酷な苦痛にどっぷり嵌っていたし、ボクもギリギリの状態になっていた。この苦痛から逃れることさえできるなら、屈服してしまいたいと思っていた。そして、そんなことを願う自分が嫌いだった。 ボクはすでに自分の人生を奪われていた。彼らはボクのまさに男らしさを奪い去っていた。差し出せるものとして他に何が残っているだろう。何もない。そうだろ? 彼女は口に入れられていた噛ませものを吐き出した。「あいつらに話すのよ。あいつらの言うことをするのよ」 ボクは拒否の唸り声をあげて返事した。でも、決意が弱ってきているのも感じていた。彼らが欲する情報を与えなければ、この拷問は終わらないことは知っていた。本当に情報をバラすことは、そんなに悪いことだろうか? 誰がボクを責められるというんだ? そう思った。 ボクと姉は、父の間違った行いのせいで誘拐されたのだった。狂信的な扇動者、レイシスト、国粋主義の男性上位主義者。それがボクたちの父だった。そして父は大統領の地位にあと一歩のところまで来ているのだった。誘拐者たちは、ボクたちに、公の場で、父の数多くの欠点を詳細に述べることだけを求めていた。 もちろん、今の姿になったボクが表に出るだけで、父にとって恥となるし、何度も同性愛者を嫌悪する発言を繰り返してきた父の虚言を露わにすることになるだろう。これはすべて、大衆の認識をそらし、父の影響力から国を守ろうとするために彼らが計算したことだった。 でもボクはこの計画でのカナメとなっていた。彼らは、ボクの口から、彼らの行動は正当だと言わせたがっていた。そして、そのための時間が切れかかっている。ボクはいつまで抵抗を続ける力を維持できるか、分からなくなっていた。
 56_Redifined 「意味の書き換え」 男らしさの意味、書き換えられる
 56_Party trick 「パーティでの愚行」 「いいえ、マジよ。誓うわ! 彼のアレに指一本触れずに、彼をイカせられるわ」 「ありえない!」 「絶対に信じないからな!」 「いま、やって見せるから待ってなさいよ。ねえ、サム! あなたの可愛いお尻をこっちに向けて! ええ、今すぐ! ほら、来なさいよ!」 「な、何……」 「ジーンズを脱いで」 「何? イヤだよ。ボクはそんなんじゃ……」 「そのくそジーンズをすぐに脱げって言ってんの! それとも何? 後で後悔させてやろうか?」 「わ、分かったよ……」 「パンティもよ。そう、それでいいわ。みんな、見える? 彼のってすっごくちっちゃいでしょ」 「どうりで、お前、こいつにパンティを履かせてるわけだ」 「それが理由のひとつなのは確かよ。ほら、サム、仰向けになって。いいこと、あたしに口答えするんじゃないわよ。さあ、始めるわよ、みんな」 「ぼ、ボクはこんなの嫌だよ、タミー。別のことできないの? ああっ! どうして、そんなことするの?」 「聞き分けのない可愛いエロ娘はスパンキングされるものなの。いいから黙ってなさい。両足を上げて。あんたのアヌスをこっちに向けて。ねえ、みんな? ここ、すごくキツイのよ。分かる? 彼が前は本物の男みたいに振る舞っていたなんて、信じられる? それじゃあ、サム……練習してきたから知ってるわよね。あんた、どれだけ我慢してられるか見てみましょう? ほーら」 「い、いやっ……やめて……お願いだから、タミー。……イヤなのに……ああっ、いいっ!」 「見た? 指はたった2本だけなのに、もう感じ始めちゃってる。あたしのストラップオンを出したら、彼、体をくねらせて身もだえするのよ。一度、それ見るべきよ、みんな。彼は3分以内にイクって賭けるわね。誰か、動画を撮ってる人いる?」
 56_Orientation 「オリエンテーション」 「ちょっと、キミ? キミが新しく来た人ね。たくさん質問したいことがあるだろうとは思うけど……」 「ここはどこ? い、いったい何が起きてるんだ? それに…まさか! あんた、男なのか?」 「かつてはね。いいから聞きなさい。これからすごく嫌なことが起きるわ。だから、前もって言っておくけど、あなた、いつの日かここから逃げ出そうとするでしょうね。いつそういう気持ちになるか分からないけど、でも、ご主人様は不親切なお方ではないの。もっと言えば……」 「ご主人様? ご主人様って誰? それに、僕が逃げ出すってどういうこと? これって……」 「最後に覚えてることってどんなことだった?」 「え、えーっと、確か……バックパッカーになってヨーロッパを旅してて、あるバーに立ち寄った。その後はちょっとぼんやりしてるなあ……」 「キミはねぇ、薬を盛られて、誘拐されて、ここに連れてこられたの」 「でも、ここはどこなんだ? それに誰が……」 「ちょっと黙って話しを聞いてもらいたいわねえ。キミへの処置が始まるまで、あまり時間がないのよ。それに、これから起きることについて何か予感してるかもしれないけど、それはそんなに怖いことでもないのよ。だから話しを聞いて。オーケー? 手短に話すわね。キミは性奴隷にするため誘拐されたの。ご主人様は収集家なの……変人の性奴隷たちのね。しかも、その奴隷たちは生まれつき他の人と変わってる人ばかりじゃないの。あたしのようにね。あたしもご主人様に体を変えられたひとり。キミの体つきからして、たぶん、ご主人様はキミにも同じことをするかもね。何か他のことをするかもしれないけど。どうなるか分からないわ。男性ホルモンをたっぷり注入させられた女たちを見たことがあるわ。バギナを作られた男たちも見た。ひとり可哀想な男がいて、その人、女体化された後、ご主人様の犬になるよう躾けられたみたい。重要なことは、これに関してキミには選択権がないということ。ご主人様は、望んだモノを必ず手に入れる人なの。キミについても、体を変えたいと思ってらっしゃるわ」 「何てことだ……」 「でも、重要な注意事項があるわ。抵抗するなということ。あらがったりしたら、ご主人様はあなたをめちゃくちゃにして他の人に売り飛ばすでしょうね。その人たち、ご主人様ほどはキミを人間的には扱わないことだけは保証できるわ。分かった?」 「あ、ああ……」 「よろしい。もうひとつ知っておかなくちゃいけないことは……特に、正気のままここにいたいと思うならだけど……これは期限付きだということ。3年以上ここにいた人は誰もいないわ。ご主人様は、誰についても最後には解放なさるの。だから、キミもいつか自由を取り戻したいと思うなら、ご主人様を喜ばすためにどんなことでもすること」 「ど、どうして……なんでその人はこんなことをしてるんだ? 何が望みなんだ?」 「ご主人様は世界で最も権力のあるお方のひとりなの。できる力があるからなさってるんじゃないかしら。さあ、後2分くらいしたら、あの人たちが入ってくるわ。忘れちゃだめよ。抵抗しないこと。言われたことをすること。あたしも手伝える時には手伝ってあげるから……」
 56_Old friends 「旧友たち」 「どうして、そんなにナーバスになっているのか分からないわ。あなたの親友の独身男の会でしょ? 当然、出席すべきよ」 「親友? 彼とは卒業した夏以来、会っていないんだよ。正直、彼に招待されてビックリしたくらいなんだよ」 「その人、ちゃんと理解していたと思うわ。あなたは、フランスで勉強する素晴らしいチャンスを手にした。その学校、毎年2人くらいしか留学生を取らないんでしょ? しかも、高校を出たての学生を対象にして。聞いたことがないほどのチャンスだった。あなたがフランスに来たのは当然だったのよ」 「分かってる。でも、2年間も友達とは会っていないんだよ。その間、何から何まで変わったし、それに……」 「あなたは以前のあなたと全然、変わってないじゃない。ちょっとスタイリッシュになっただけ」 「ま、まあ…。でも、真面目に言って、何か他の服に変えるべきと思わない? 先月買ってくれた可愛いジーンズとか、パンツでもいいけど」 「あなた、素敵よ。お友達みんな、あなたのことをうらやましがると思うわ。賭けてもいいわよ」 「ど、どうなんだろう……君はボクの友達がどんな人たちだったか覚えているよね? それにボクがどんなだったかも。もし、以前のボクが今のボクを見たら……」 「可愛いスカートだねって言うんじゃない? あたしにはあなたが分かるの。あなたは、こういう服を着るように生まれてきたようなもの。あなたもそう思っているでしょ? それに、お友達があまりに……あまりにアメリカ人すぎて、あなたの服装のセンスが分からないとしたら、まあ、その場合は、そのお友達の方の問題と言えるわね」 「でも髪の毛は? お化粧は? マニキュアはどう? 何と言うか、こういう格好をするのは、パリでは全然問題なかったけれど、ここでは、ダメだと思うんだよ。分かってると思うけど……みんなボクのことを女の格好をしてると思ってしまうよ」 「そんなのバカげてるってだけの話しよ」 「分かってるけど……」 「あなたは、他のどんな男たちよりずっと男らしいわ。それとも、あなたは、あたしが何か別の理由であなたと付き合っているとでも思ってるの? もちろん、そんなことないわ。あなたはとても素敵。もし、お友達がそのことを受け入れることがでいなかった、その場合は、そのお友達の方があなたと付き合う価値がない人ということよ」
 56_Nowhere to go 「どこにも行けない」 彼女とは別れるべきなのは分かっている。ふたりの関係が健全な関係と言えた頃からずいぶん経っている。彼女はあらゆる局面で、虐待的に振る舞い、支配的な態度をとって、ボクをけなす。さらに悪いことに、彼女は、ボクをボクが決して望んでいなかった人間へと変え、ボクにそういう人生を強いた。 確かに、そうなってしまうまでの1つひとつの段階でボクは変化に同意してきた。でも、ボクには選択肢があったわけではなかったということを理解してほしい。ボクは経済的にも精神的にも彼女にとても依存していたので、彼女と別れるとなんてとても言いだせる状態ではなかった。外の世界は恐ろしい。ボクのような人間にとっては特に。 だから、ボクはこの生活を続けている。いつか、どういう形でかは分からないけど、全部、好転していくだろうと期待しながら生きている。嘲り笑われてもじっと耐えている。男だったかつてのボクを知ってる旧友と会う時も、気まずいけれど、耐え忍んでいる。ボクは彼女が望む人間になるよう彼女に合わせ続けている。それが今のボクの生活。それがボクという人間。
 56_Not a sissy 「シシーじゃない」 ちょっと、いい? あたしは断じてシシーじゃないわ。女の子でもないし、トラップ( 参考)でもないし、あなたたちが思いつく他のどんなバカな名前でもないわ。 あたしは可愛く見えたがってるって? だから何なの? 外見にずいぶん気を遣う男ってたくさんいるでしょ? 女物の方が良い服があるってことだけよ。服装を良く見せたいと思ってどこが変なのよ。訴えたかったら訴えなさいよ。 それにあたしがホルモンを摂ってるかなんて誰が気にするって言うの? あたし、この小ぶりのおっぱいが気に入ってるわ。他の人も同じよ。 ええ、確かにあたしはおちんちんが好き。しゃぶるのが好き。それを入れられて抱かれるのが好き。まあ、何でもいいけど。だからと言ってあたしがゲイということにはならないわよ。それは単にセックスなの。セックスが好きだからって男が好きだということにはならないのよ。感情的なものでも何でもないんだから。 だから、好きにしなさい。好きなレッテルをあたしに投げつけるがいいわ。呼びたいように呼べばいい。でもあたしには真実が見えている。あたしは普通の男。他の人たちと同じなの。
 56_Misdirection 「見当違い」 チェルシーが彼の後ろに立って、親指と人差し指を2センチほど離して見せながら笑った。彼女が何を意味しているかは分かる。その証拠があたしの目の前にあるから。もちろん、チェルシーは、こういうやり方であたしの彼氏をからかっているだけ。彼氏の男性自身は、彼女がとっさに推定した大きさとほとんど変わらない。 「ねえ、あたしたち、いま君のことを話していたんだよ」と彼が言った。その声は、彼の体と同じくすっかり女性的な声だった。 「どんなこと?」 とあたしはそばのロッカーに手を伸ばしながら訊いた。あたしはロッカーを開け、服を脱ぎ始めた。 「今度の週末、プロムのためのドレスを買いに行こうって話してたの。そしたら、チェルシーったら、あたしは一番エッチっぽいドレスを買ったらいいんじゃないって言ったのよ。あたし、彼女に忘れてるんじゃない?って言ったの……」 あたしは続きを聞くのをやめた。彼を見るたび、自分が彼の女性化に加わってしまったことを思い知らされるからというのが一番の理由。あたしが始めたことではなかったけれど、あたしが共犯者であることは否定できない。そして、それを思うたび心が引き裂かれる気持ちになる。 あの賭けの前は、彼はほぼ普通の男だった。ええ、確かに彼は前から「可愛い」男子ではあったけれど、女の子っぽいということでは決してなかった。すべてはチェルシーが言いだしたこと。 でも、あたしのせいではないと思う。チェルシーが煽って自慢したことをやってしまうなんて、どうしてあたしに推測できただろう? 彼女が言ったことは、ほとんど魔法同然のことだったでしょ? 彼女が言ったことを本当にやれるなんて、あたしに知りようがなかったんじゃない? 今でも、まだ信じられずにいるくらいなんだから。 賭けそれ自体はとても単純なものだった。チェルシーは、どんな男でもゲイに変えられると主張した。あたしはタイラーがあたしのことを愛してることを確信していたので、決してあたしを裏切って他の人と付き合ったりなんかしないと思っていた。ましてや、他の男となんて。だからあたしはその賭けに乗った。そしてチェルシーは仕事を始めたのだった。 それから3年にわたって、彼女はゆっくりと彼の男らしさを侵食していき、とうとう、彼にトランスジェンダーとカミング・アウトさせるまでにしたのだった。あたしは、それは茶番だと思ったので、チェルシーにそんなことやめてって頼んだ。でも彼女は「賭けは賭けよ」と言って、あたしの頼みを聞いてくれなかった。その他にもいろいろしたけれど、彼女を説得することはできず、結果としてタイラーは完全に女性化してしまったのだった。 そして今、卒業のプロム・パーティーが迫ってくるのに伴って、もともとの賭けの話しが前面に出てこようとしている。チェルシーが何を考えているかあたしには分かる。そのパーティの後、タイラーはデート相手と寝ることになる。この2週間ほど、彼はずっと「処女を捨てる」ことばっかり話している。それに、チェルシーが、この賭けの決着がついたら、彼に施した催眠効果を解き始めることも予想できる。彼女は、彼が元の精神状態に戻った後、どんなふうに状況に反応するかを見るのが面白いと思っている。 「タイラー? そろそろいいんじゃない?」とチェルシーが言った。「もう充分長すぎるくらいやってきたから」 「ほんと? 卒業の後まで待っているのかって思ってたわ」 「いいえ。マリーには真実を教えてあげなくっちゃ」 「真実って? 何のことを言ってるの?」 とあたしは訊いた。 「事の真相って言うか……」タイラーが返事した。「催眠術みたいなのはやってないよ。こんなこと言うと、君がどう思うか分かるけど、これが本当のあたしなの。ずっと前からあたしはこうだったのよ。チェルシーはあたしがそれを悟るのを手伝ってくれただけ。彼女は全部セットしてくれたの。あなたが徐々にゆっくりとこの新しいあたしに馴染むように、事実に馴染むようにセットしてくれたのよ」 「何ですって? あたし……これって……ウソを言ってるんでしょ? チェルシーのまた別のたくらみなんでしょ? タイラー、あなた自分で何を言ってるのか分かってないのよ」 「いいえ分かってるわ。うちのお母さんに訊いてみるといいよ。あたしは、思い出せる限りずっと前から女の子の服を着てきたの。あなたをだまして悪いとは思ってるわ。でも、あなたはとても性差別的なところがあるから。普通の方法では受け入れなかっただろうから……」 「冗談を言ってるの? じゃあ、あなたはゲイということ? 本当にあなたは……もう無理……こんなことワケが分からないわ」 あたしはジムの服を急いで着て、憤然としてロッカールームを出た。彼が言ったことで理屈が通るのは分かっていた。だけど、その現実があたしにはとても恐ろしかった。
 56_Meathead 「筋肉バカ」 「ドゥード? アンドリューのこと聞いたか?」 「ああ、あいつ、トレーナーとエッチしてたって誰からか聞いたよ。あのエロっぽいブロンド女が相手かな? いつもヨガパンツ( 参考)を履いている女」 「おい、聞いてないのか? あいつを最後に見たのは、いつだった?」 「1年位前かな? 忘れたよ」 「そうか。今のアンドリューは、お前が覚えている男とは言えないかもな」 「あいつ、また大きくなったのか? 何を使ったんだ? ステロイドか? HGH( 参考)じゃないかと思うが」 「いや、そうじゃないの。確かに彼はトレーナーとヤッテるが、お前が思ってるようなことじゃないんだ。あいつは、ある逞しい男をトレーナーとして雇ったんだ。そして、そのトレーナーになった男は、彼をまったく以前とは違う男に変えると約束したんだよ。そして……」 「ちょっと待って。ということは、アンドリューはそのムキムキの男とヤッテるということか? 彼は今はゲイだと? なんてこった。俺はあいつの隣でシャワーを浴びたりしてたんだぜ」 「いや、ちょっと聞けよ。ゲイとかの話しじゃないんだ。いやゲイの話しかも。よく分からないな。でも、アンドリューは今はアンドリューという名前では通っていないんだ。彼は……アンドレアって呼ばれたがってるらしい」 「何だって? それって、つまり……」 「ああ、完全に女になってるんだ。すごい美人に。まだ、ちんぽはついているかもしれないが、おっぱいとか何から何まですっかり女だ。胸はニセ乳なのは確かだが、体の他の部分は完璧だ。俺の好みとしては少しやせ過ぎだけどな」 「あのアンドリューについて言ってるんだよな? 同じ人間について話してるんだろ? アンドリュー・テイラー? 完璧な筋肉バカの? ウェイトを持ち上げるたびに、獣みたいに吠えていたあいつが? そんなのありえないだろ?」 「いや、同じやつなんだよ。あいつなんだ。俺の友達でジムで働いているヤツがいるんだが、そいつが言うには、ジムのオーナーが、営業時間の後、ふたりがウェイトリフティングのベンチの上でヤッテたのを見つけたらしいんだ」 「それでどうなったんだ? 俺が知ってる男は……」 「俺は知らない。ただ、俺はあのトレーナーには近づかねえつもりだ。3メートル以内には近づかねえ。お前にも言ったからな」
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