
64_A bet 「賭け」
「で、マーク? おカネの分け前、どうするつもりなの?」
「まだ、あたしたち、勝ったわけじゃないわ、セス」
「やめてよ。あの娘たち1年も時間があったのに、まだ何もやってないじゃない。どうやったら負けるわけ?」
「分からないわ。でも、あの娘たち自信たっぷりな感じなんだけど」
「あの娘たち、あたしたちに強気なところを見せてるだけよ。今だあたしたちに催眠術をかけていないんだから、これからもあり得ないわ」
「そうだけど、でも……」
「催眠術を掛けられてる感じがする? っていうか、あたしはそんな気がしないから訊いてるんだけど。あたしは前と変わらず男だもの」
「分かるわ、セス。あなたを見ればわかるもの。でも、今夜、あの娘たち何かしたらどうする? あたしたちを知ってる人が全員集まるのよ? あたしたちをマヌケに見せるとしたら、これって格好の機会じゃない?」
「あなた、もう心配するのはやめたら? 今夜は1年ぶりにパパとママに会うのよ。ちょっと印象を与えたいと思ってるの」
「そういえば、あなた、黒いドレスは淫らっぽく見えるんじゃないかって心配してたわね。その気持ち、分かるわ。でも、あれを着ると、あなた最高よ。とっても」
「心配してないわ。あのドレスが似合うのは自分でも分かってる。あたしが心配しているのは、あなたのことよ。あなた、最近、カリカリしてる感じがするわ。お兄さんとして可愛い弟の心配をするのは当然でしょ?」
「あたしは、ただ、このバカげた賭けが早く終わればいいなと思ってるだけ。あの娘たちが、あたしたちに自分が女の子だとかって思わせるって、そんなのありえないのは分かってるんだけど……」
「だけど、心のどこかに引っかかってるんでしょ? あたしもそうなの。だけど、それは、無視するだけでいいんじゃない? あなたはあなたであって、変わらないわけだし、あの娘たちがあの賭けに勝つなんてありえないわけだし。そもそも、最初からバカげた話しよ。あたしたちに催眠術をかけるですって? バカみたい」
「そうよね? 超バカみたい」

56_Whats going on through his mind 「何を思ってるの?」
彼の心の中で何が起きてるのか知ることができたらいいのにと思う。彼は自分に起きたことを知ってるの? 自分がどんな人間になったか知ってるの? 知ってるに違いない。だって、どうしたら、分からないでいられるのかと思うから。でも、彼は分かってる様子を見せない。自分の体が変わったことを自分で認めることもない。どうしても、彼の頭の中はどうなってるのと、思ってしまう。
表向きには、彼は、あたしが彼の外見について「提案」をしてるだけと思ってる。どんな服を着た方が良いとか、そんな感じで。でも、彼は自分の服がずいぶん前から、ユニセックスなものではなくなってることを知ってるはずなのに。そうじゃない? パンティとかスカートとか、ドレスとか。誰でも、そういう衣類を見たら、他に考えようがないと思う。
彼のお友達はみんな、彼から離れてしまった。そうなるのも当然じゃない? だって、彼は以前の彼とは全然違う人になってしまったんだから。友達がいなくなって彼は深く傷ついたけれど、彼が友達と共有していた共通の土台がすっかり消えてしまったことは彼でも否定できないと思う。あたしは今も彼には新しいお友達ができてほしいと思い続けているし、今のような女性性を受け入れてほしいと思い続けている。彼の背中を押してあげるべきなのかもしれない。あたしから彼に新しいお友達を用意してあげる必要があるかもしれない。
そういったことについて彼の答えを知ることができたらいいと願ってる。でも、あたしはよく見もせず飛躍していたと思う。彼がこういうことすべてを実際に経験してきたことをあたしは考えなかった。普通、パンティをひとめ見たら、すぐに、のけぞって離れるはずだと思う。でも彼はおどおどした様子で、パンティを受け入れた。同じことが、身だしなみとかお化粧とか髪の毛とかでも起きた……あたしはやめることができないけど、彼も、うぶすぎて言い返さなかった。
どこまで行くのかしらと思う。今すぐ勇気をもってやめるべき? 本当にやめることをあたしは求めてるの?

56_Under my control 「あたしの支配下」
あたしは、人を操る悪い女。自分がどんな人間かについて、否定しても意味がないので、否定はしない。人を支配して、その人が普通なら避けるような状況に追い込んで、その人の周りの世界をすっかり変えてしまうと、ものすごく興奮してしまう。そんなことをすると、ちょっと狂ったこともすることになるのは分かってるけど、自分は自分だから、これでいいと思っている。
と、そこまでは言ったうえで言うけど、あたしがレイチェルとチャドが競い合うよう、ふたりを変えたことが、あたしのこれまでの短い人生でも一番大きな達成だと言っても、信じてくれるんじゃないかしら? ふたりと出会ったとき、ふたりはごく普通のカップルだった。若くて、バカで、頭の先からつま先まで愛し合ってるカップル。……ええ、ふたりのそばにいるだけでも、ムカついたわ。だから、ふたりの関係を変えてやろうと決めたの。
作り話をしようとは思わない。ふたりを変えるのは難しかったわ。ふたりの人生にこっそり忍び込んで、ふたりを競わせる。そうするために知ってる限りのあらゆる技を使わなくちゃいけなかった。まずは、ふたりにあたしを好きになってもらわなくちゃいけなかった。ふたりに、あたしを喜ばしたいと思ってもらうことも必要だった。ふたりの間の関係のすべてにおいて、あたしが中心になる必要があった。そして、半年間、頑張った結果、望み通り、あたしがふたりの間の中心になれた。それからだったわね、面白くなっていったのは。
人を操る場合、どんな場合でも、嫉妬心は強力な道具になる。一方の人にだけ好意を示すと、どんなにわずかな好意でも、もう一方の人に妬ましさの気持ちを与えることができる。すぐに、ふたりとも、あたしの小指で操れるようになっていた。ふたりとも、あたしが望むこと何でもするようになっていた。
女性をレズビアンに変えるのは楽しい。レイチェルのようなお堅い女をいちから変えるのは面白い。でも、男をレズビアンに変えることは、もっと楽しい。ましてや、その両方をするとなると……もう、どれだけ楽しいか、言い表す言葉が見つからないほど。
チャドは、あたしがレイチェルの方が気に入ってると知ると、すぐに彼はレイチェルのような姿になろうと努力し始めた。あたしが、必要な時、彼にこの道を進むように背中を押したのは確かだけど、女性化の大半は彼自身が自分で考えてやったこと。
そして、今はどうなったかって? まあ、ご覧のとおり。エロ女ふたりを完全にあたしの支配下に置いている。ふたりにさせたいと思ったこと、何でも、やらせることができる。まあ、しばらくはこれで楽しめると思うけど、あたしはサイクルがあるのを知っている。つまり、じきに、あたしはふたりに飽きちゃうだろうということ。その時はふたりを解放しなくちゃいけなくなるわね。でも、その時は、次の計画に取り掛かるつもり。
次は、ひとつの家族全員を変えちゃうつもり。それって面白そうじゃない?

56_Truth or dare 「真実か挑戦か」
「いいから、もう撮れよ、チャック。ボクはできるだけ早くこんなバカげたことから逃れたいんだよ」
「いいから。ただのジョークなんだからさ。それにお前、実際、結構イケてるぜ」
「そんなこと言われたって、嫌なことには変わりないよ。早く済ましてしまおうよ。いいね?」
「分かったよ。じゃあ、ポーズ! あの女物の服も試してみようぜ。じゃあ、シャッター押すよ!」
「こんなことするよう君に説得されたなんて、ボク、信じられないよ」
「大したことじゃないよ、ブライアン。リラックスしてさ。これが終わったら、女の子たちにも、俺たちが金儲けのためにこれをやってると分かるから」
「ああ、彼女たちが誰かに写真を見せるまではな。その後はどうなるんだよ? それに、眉毛を剃ったことについて聞かれたら、何て言ったらいいんだ? それに……」
「おいおい、頼むよ。誰も気にしないって、ハンター。『真実か挑戦か』(
参考)なんだから。この遊びでは、誰でも狂ったことをやるもんだろ? それに女の子たちに『挑戦』をさせるとき、どんなことをさせようかって考えるとワクワクしねえか?」
「チャック、彼女たち、みんなうんざりした顔をするぜ? それが分からないか?」
「もちろん、分かるよ。でも、俺はブリタニーにしたいことをさせるつもりだ。彼女が俺と一緒に寮の俺の部屋に来てくれるなら、何でもさせてやるつもりだぜ」
「ありえないな」
「それはお前が思っていること。今夜が、ブリタニーと俺が結ばれる夜だ。俺には分かる。お前たち、前に俺がこういう格好した時の彼女を見るべきだったぜ。ブリタニーは大興奮したんだ。そして……」
「ちょっと待って? 君、前にもこれをしたことがあるの? なんてこった!」
「ただの遊びだよ、ハンター。ロールプレイな。そしてブリタニーはこれにすっかりハマってる。見てれば分かるから。女の子たちみんなハマってると思うぜ。賭けてもいい。約束するよ。今夜が終わるころには、お前たち、俺に感謝しているはずだって」